「前線でまたトラップが作動したわ」
「えーまたー?」
「うぇ、あの触手は思い出させないでよー」
SOPがこれでもかってくらいに嫌そうな顔を浮かべる。
そう、このSOPがこの基地所属になった発端とも言えるあのトラップにまた何かが引っかかったみたいだ。
雑魚鉄血兵はその通過だけを報告するだけだが……別の人型の何かだったら問答無用で捕らえる。
D08所属じゃなくて前線側から逃げてくるなんてのは限られるしね。
最前線から逃げてきたグリフィン所属の人形だったらご愁傷様。
鉄血の新型人形だったら……まぁ基本的には鹵獲してからI.O.P送りになるけど……
「………」
まぁヴィオラって前例もあるから一概にI.O.P送りにもできないんだよね。
こっちに寝返ったり無害化出来無さそうなら問答無用でI.O.P送りでもいいけど。
そこで反省してくれたなら助け出してやってもいいかなーって感じだけどね。
結局采配を決めるのはこの基地の長であるダーリンになるけど。
「ダーリン?」
「ん、いや……まぁ取り敢えず57達PEACE MAKER隊に回収させよう」
「そうだね、それからじゃないと始まらないね」
まぁ何をするにしてもその引っかかったのが何かにもよるし……お昼以降になるか。
「案外鉄血のハイエンドが引っかかっていたりしてな……」
「いやいやまっさかー」
「わからんぞ……案外5-6でボッコボコにされたデストロイヤーが逃げてきてたり……」
「5-6?」
「なんでもない」
ヴィオラは何かしら情報を持ってるみたいだけど抽象的な喩えにもならない。
メモリーエリアは完全に対ハッキングのセキュリティファイヤーウォールによって遮断されている。
だから漁れる記憶領域っていうのはかなり限られている。その中にもその情報は入っていたけど……
よくわからない上に何故か言語がここの言語ではなくヤーパンの言語だったというのが報告に挙げられている。
まぁハイエンドが引っかかっていたならそれはそれだ。こっちに害意を無くせばここの持ち人形にしちゃえば良いんだし。
S09P基地のアーキテクトみたいに協力関係っていう風にしたらそれはそれでいいじゃん?
人類に危害を加えるから今は敵対関係にあるだけでそうじゃないなら別にやり合う事はない。
むしろ私達と同じでそれぞれの人生を歩んでさ、幸せを手にしたら良いじゃん。
――――――――――――
前線から戻ってきたカルカノ姉が抱えて居たのは……鉄血ハイエンドモデルのドリーマーだ。
しっかりと拘束具を取り付けられている上に猿轡を噛まされていてガッチガチに拘束されている。
見る限りではかなりボロボロにされていて最前線で戦闘した後何とか逃げてきたって感じかな?
しかし危機的状況であっても余裕たっぷりそうな表情を崩してない辺りは強者と見るべきか。
ただヴィオラを視認するとこれはこれは酷い顔を浮かべる。信じられない物を見た顔だ。
「んむぐぅぅぅうううう!!???んふふふぇふぃは~~~~~!!!?」
「なんだ、クソ芋砂か」
「んんふふぇふふぇぇ!?」
ヴィオラの辛辣な一言にドリーマーがかなり取り乱して喚き出した。
それも信じられない様な目で見てから見た目相応に喚き散らしている。
「はーい、ドリーマーさんはこれから尋問しますから暴れないでくださいね、すぐに済みますから!」
縛り上げているドリーマーはすごい勢いで暴れているけどカルカノ姉が担ぎ上げて営倉に連れて行った。
勿論抱えているカルカノ姉の鋼の握力には敵わないで抜け出せないでいる。
ただ尋問かぁ、何をするつもりだろうか。ダーリンの考えは後で聞くとして……
私はお昼にしてこようかな、今日のお昼ご飯はなんだろうか?
「あ、ダーリン♪」
「主人か、今日は誰の口移しをご所望か?」
「いや、普通に喰わせて?」
「「なるほど、あーんか」」
背後が更にやかましくなったけど私とヴィオラは無視してからさっさと食堂へと向かった。
今日の献立は何だろうか?加工肉とかは避けろって言われたし……
最悪私達だけ別メニューかもしれないなぁ……匂い的には今日はイタリアンだな。
カルカノ姉妹がリクエストを挙げていたし今日はそういう事なんだろう。
「そういえばダーリンのお母様はイタリア系だよね」
「そうだな」
「ふむ、やはりイタリアンが家庭の味になるのか?」
「いや、親父に合わせて日本料理が殆どだったな」
「へぇ、だからヤーパン料理がクリティカルなんだ」
「私に言った毎日味噌汁を作ってくれという言葉も納得だな」
ヴィオラが語るにはヤーパン流のプロポーズの言葉らしい。
毎日手料理を食べる。つまり同じ屋根の下で住み生活を共にする。
粋とも言えるけど男女共に料理とか普通にする時代だから廃れていったらしい。
――――――――――――
「どうやってあのポンコツを落としたは知らないけれど、私はそう簡単には行かないわよ?」
尋問というか軽い問答のつもりだけどドリーマーは尋問役の45姉に余裕がある顔を浮かべている。
ポンコツとはデストロイヤーの事を指すらしくヴィオラ自身が口にしていた。
本来のAIはもっと短絡的で幼稚でよくやられるらしい。
404小隊ってのと会えたらG11辺りに聞けば返答で必ずやられ役と返ってくると言った。
404小隊ってのは知らないけどG&Kのデータベースにアクセスしてみても撃破記録が多く残されている。
「そう、まぁこっちもそんなつもりも無いけど、守ってる地域もあるからアンタを放置できないのよ」
「私をここで殺すつもり?残念ねAIのバックアップはされているから無駄よ」
「それは承知してるから言うけど、アンタ個人として人間に敵対しないなら別に保護するわよ?」
「お人形遊びがしたくて捕まえたいのかしら?お生憎様その手には」
と暖簾に腕押しみたいにドリーマーは情報をあまり吐かず人類への敵対行動も辞めそうにない。
と思ってた所だった。尋問に使われている営倉からとんでもない音が聞こえてくる。
くきゅるるるるる……
45姉がすごくニンマリとした顔を浮かべている。
それに対峙するドリーマーはこれまた羞恥に顔を真赤にしてプルプル震えている。
後ろ手に縛り上げられた身体ではあんまり身動き出来ないのだけど必死に顔を見られまいとしているのが涙ぐましい。
これを見ていたダーリンが一つ案が浮かんだらしくちょっと席を外した。
「へぇ~鉄血のハイエンドもおなかの虫は鳴いちゃうんだ~?」
「……黙れ、虫ケラ如きに私の」
「あーはいはい、ちょっと待って……ふぅーん?なるほど、いい案ね♪」
「武器さえあればお前なんて……」
「カリカリしないの、お腹もっと鳴いちゃうわよ?」
くきゅぅ~……
また情けない腹の虫が鳴ってドリーマーは黙ったヴィオラがイジられてむくれてる時に似てるな。
と、そんな剣呑な空気から一転してゆるい雰囲気が流れ出した営倉に良い匂いが漂ってくる。
ダーリンとデザートを楽しんでいたはずのヴィオラが揃ってやってきた。
ヴィオラもなかなかいい笑顔浮かべていてこれはドリーマーイジメをするつもりなんだろう。
「45、俺だ、入るぞ」
「あら、指揮官とヴィオラ」
「ふん、芋砂の次は腹ペコとはな」
「デストロイヤー!貴様ァ!!」
同胞と思われるヴィオラがこっちについているのが気に入らないのだろう食ってかかろうとしていた。
しかしそこは45姉が華麗に抑えつけて黙らせている。
また剣呑な雰囲気になりかけたが……ダーリンが持っている物がまた空気を変える。
持っているのはそう、私特製で一晩じっくり寝かせていたシチューだ。
しっかりと旨味を吸い込んで美味しいこと間違いなしの一品なんだけど……
「なぁドリーマー、一つ取引だ」
「応じないわよ」
「まぁまぁ……鉄血の配給って美味しいか?」
「……」
「G&Kの配給も不味いんだわ、でもな……ここの基地は違うんだよ」
「……(くきゅるるるるる)くっ!」
眼の前にある美味しい匂いを漂わせるシチューに腹を刺激されたかまた鳴る。
殺す対象である人間に聞かれたのが屈辱なのだろうか歯噛みしている。
「D08地区の人間には危害を加えなかったら毎日おいしい料理を約束するぞ」
「……フン、どうせ不味いに決まってるでしょ」
「はい、あーんしてみ?」
「主人、毒を恐れているのかもしれん……私が一口」
「あぁそれもそうか……」
と言ってからシチューは一端サイドに置かれているテーブルに置いて……
ダーリンが一口含み……ヴィオラの顎を持つとそのまま口移しで食わせたー!
ヴィオラの顔が幸せに蕩けて行くのが目の前で繰り広げられる。
これにはドリーマーも口をあんぐり開けて更には顔を赤くしていく。
「ふぅ……ごちそうさまだ」
「ま、この通り毒は無いから安心しろ、はいあーんな?」
「……あっづっ!!!????」
あぁ熱々のシチューを放り込まれたのか。多分エネルギー不足で低体温なドリーマーには熱すぎる。
もんどり打って椅子をガタガタ言わせた。なお後頭部は45姉のおっぱいによって受け止められていた。
「美味いだろ?」
「ふじゃけるんじゃないわよぉ!!」
「しょうがないな……ほれ、ふーふーしてみ?」
「ふー……あむ……うそ、美味しすぎ……?」
「ここで一つ、鉄血で食ってただろう配給を思い出してみ?」
「………」
「もう一度条件を言うよ、D08地区の人間に手を出さなかったら毎日こんな飯を保証するしお前を保護する」
ドリーマーのプライドが許さないのか……しかし生殺与奪はこちらが握り……
さらには強い欲求になっているだろう食欲と強く結びつきがある味覚を掌握された。
「……背に腹は変えれないわね」
「お、マジ?じゃあ暫くは監視付きになるけどD08基地内で自由に生活してくれや」
「このクソ人間め」
「配給飯が良いか、ドリーマー嬢?」
「いえ、滅相もございません」
パワーバランスが完全にダーリンが上になった瞬間だった。
一応の保証のためにと16Lab……ペルシカの息がかかったテクニカルスタッフがこっちにくるらしい。
それまでは監視付きでドリーマーを保護する事に。
「所でそっちのデストロイヤーだけど、お腹大きいじゃない」
「ん?妊娠してるからな、主人との子だ……ふふふ……」
「………デストロイヤーが……女の顔をしてる……ですって……?」
ドリーマーも大概面白い顔してないかな?
「じゃ、仮住まいになる兵舎に案内するから、拘束解いて……45姉良い?」
「私はOKよ、9!」
「あいあいさー♪」
UMP姉妹の息ぴったりな連携で監視していたけどドリーマーは逃げ出そうとする気配はなかった。
もうあんなニュルニュルの拘束はイヤよと言った。
あれ慣れると結構気持ちいいんだけどねー……解せぬ。
クソ芋砂堕ちろ!堕ちたな……
鉄血配給とかゲロマズだと思うの。
だからさ、こう……飯テロしてやったら案外コロッと行くんじゃね?と。
あとデストロちゃんが堕ちてたらねぇ。