「昨晩は準備に手間取ってご挨拶がまだでしたわね、わたくしはカラビーナ・アハトウントノインツィヒ・クルツ、よろしくお願いいたします」
「トカレフです、よろしくおねがいしますね」
「M950A、まぁよろしく」
「軽く占ったんですけどこの基地の未来は明るいよ」
「ハロー♪RFBだよ、マシン操作なら任せてね」
医療チームとして配属されることになった五人が今日は挨拶回りに来ていた。
まぁみんなカタログの姿からは一部が逸脱してでっかくなってたりする。
ここに配属されるにあたってはもうこういう仕様にするっていうのが暗黙の了解になってるっぽい。
まぁ体のいいプロパガンダ的な所だろうか。
I.O.Pの新規プロジェクトの紹介のモデルケースとしてウチは使われるんだろうな。
まぁお金は大量に貰えるし色々と幸せを享受しているから良いけどね。
「一応医療用のプログラムをインストールしていますが蓄積はまだまだですのでご留意を」
「まったく、なんで妊娠なんてしたがるんだか……」
「ともかくサポートは任せてくださいね」
戦術人形としての最低限のプログラムを入れ込みながら専門的な診察、診断、オペ。
その他の医療行為に関わるプログラムをインストールしている。
ではその経験はどうかと言えば……残念ながら培われていない。
実施経験は無く知識に物を言わせるしか無いのが現状の医療チームだ。
ただもしもの負傷者が出た場合の初期対応、医療機関への橋渡しには大活躍だ。
適切な処置が出来る出来ないは生死に直結してくる。私達戦術人形にインストールされているのは……
本当に簡単な止血の方法でしかないからそれ以上のことは行えない。
憶測でやって余計に悪化させてしまっても不味い……
「勿論そちらの御婦人二人の担当もさせていただきますわ」
「別基地の先生もいるんだけどね」
「そちらの先生ともお話させていただきますわ」
「できればその時に色々聞けたら良いね!」
医療チームはそれぞれやる気十分、胸を張って自分の仕事を全うしようとしている。
この医療チームも育ってきたらこの基地はさらに安泰なんだろうなぁ。
「では、その先生とのカルテデータの共有を致しますので失礼しますわ」
「それじゃあ、皆さん行きますよ」
一通りの挨拶が終わった医療チームはそのまま初日の仕事をしに兵舎を出ていった。
「基地に産婦人科医が出来たね」
「うむ……これで安心か」
――――――――――――
夜中にちまちまと縫っていたダーリンの夏服が仕上がったので着てもらおうかなと思って司令室に顔を出した時だった。
データルームがえらく騒がしく怒号が飛び交っていてP7のガチギレが聞こえてくる。
ダーリンの姿も無いし副官であるMk23がちょこんと座ってるだけだ。
「ダーリンは?」
「データルームの方に行ってるわ」
「……何があったの?」
「またハッキングを受けてるみたいよ」
しょうがないからダーリンの椅子に座ってみてから聞いてみる。
するとまぁまたハッキングを受けてからデータサーバーが攻撃されているらしい。
で諜報部の連中が必死こいて防衛をしているみたいだけど……この分だと向こうがまた一枚上手か。
縫い上がった夏服を背もたれにかけてからデータルームの方へとちょっと顔を覗かせる。
扉を開いた瞬間に飛び出してきたのは……
「なんでS09P基地に攻撃される必要がある!!あの基地にハッカーが居るなんて聞いてないわ!!」
「知らない!良いからデータ保護急いで!!」
「P基地からのハッキングで間違いないんだな?」
「あークソッ!!!最終防壁食い破られた!!」
うわーお、阿鼻叫喚の地獄絵図がそこにはあった。
スゴイことに全員キーボードじゃなくて首裏のコネクタできっちり電脳に直接外部演算装置ぶっ刺してやってる。
本気で相手をしているんだけどこれがかなり格闘しているけど防戦一方っぽい。
「一矢報いますわ……よ?」
「あら……」
せめて一矢報いてやろうとPPKが相手のPCを特定して逆ハックをかけようとした所だ。
ハッキングの手が止まりすっぱ抜かれていた個人データの数々が返却されていた。
これに全員顔を合わせて困惑気味。ダーリンも腕組みして事の次第を見ている。
他の人形も一様にモニターの方を見ているけど揃って脱力して突っ伏した。
「「「「「なんなのよー……」」」」」
「取り敢えずあっちの基地に連絡してくる」
「指揮官、膝枕をして……」
「FALかスプリングフィールドあたりに頼んでこい……っと417?」
ピリピリした空気が霧散して全員突っ伏した所ダーリンが若干怒りを滲ませながら席を立った。
どうやら件のハッカーはP基地に居るらしい。アリババって言ったっけ?
ダーリンが取り敢えず文句をつけるっぽいけど……
「なんでもないなんでもない、ダーリンにちょっとプレゼントしたかっただけだから」
「お、おう……お、あれ?」
「サイズは多分大丈夫かなって思うけど良かったら後で着てみて」
「へへ、ありがとよ」
「ん……どういたしまして」
「ダーリン、わたくしにもキス♪」
ダーリンのキスとかもかなりサマになってきた。
あとMk23と毎朝のおっぱい揉みスキンシップも最近再開しちゃったなぁ。
私が抜けてほかのお嫁連中のも揉むけどそれでも物足りなくなっちゃってきてるのかも。
――――――――――――
P基地の副官が通信に出たんだけど最初はかなり普通に世間話をしていたんだ。
だけどダーリンがいい笑顔でこう言ってから空気が一変した。
「所で、そちらの基地にアリババとメジェドってコンビいませんかねぇ?いやーウチの諜報部がちょっかい掛けられてるんですわ。えぇえぇ、そりゃもう今日も大騒ぎですよ」
語尾が露骨なくらいに荒くなっていてキレてますよって言うのを相手に叩きつけている。
思わず私が抑えて抑えてってジェスチャーするけどダーリンこれが止まらない。
「なんのつもりかは知らんのですがねぇ、仮にも交友もってる基地にハッキング仕掛けるのはどういう事か詳しくご説明願いたい」
「あーもう!ダーリンは一度落ち着いて!」
「へぶしっ!?」
「ハッキングしたなら理由を説明してください、訓練とかならちゃんと予告はしてくださいね、お願いします」
通信端末を優しく置くとダーリンに向かい合って……両頬手を添える。
黙らせるのにビンタしたのはごめんだけど許して?
「いい、向こうだってなんの意図もなしにそういう事はしないでしょ」
「そうだと信じたいが」
「あのユノちゃんの基地なんだから信じよ?」
「……そうだな」
「指揮官、新しい情報よ。確認しておいて」
「……アリババ名義のデータか」
「向こうは取り敢えず試したかっただけみたいね、不定期にハッキングを仕掛けるから楽しみにしておけって」
「フン、ならまぁ今度そのハッカーコンビに一発ちょっとセクハラでもしてやろうか」
「「ダーリン?」」
「アッハイ」
「手が寂しいなら私のを揉むか?」
ここ最近の近況データとI.O.Pの動きに関するデータが記されていた。
I.O.P内部に関してはまだまだハッキングの手が回って無く困っていた所らしい。
大体はやっぱりと言うか私達が関わっている実験のデータが殆ど。
今は早熟計画の実行データとかの収集に精を出していて……結果は乏しいらしい。
で、今は10ヶ月を5ヶ月に押え込むのが精一杯として計画を打ち切り。
他の人形による人類再生計画はまだまだ走り出したって所だろうね。
そしてグローザお前はしれっとダーリンを誘おうとしてるんじゃない。
しばき倒すぞコラ、しばくぞ。
――――――――――――
「で、これは何だ?」
「データ転送されてきたアレ」
「アレとは?」
「アーちゃんうさぎ」
速達で送られてきたのがDVDデータで……これがまた強烈なヤツ。
みらくるファクトリー、ドリーマーが絶対に反応するだろうヤツ。
「ドリーマー!」
「なぁに、私の事を呼んだかしら?」
「これ、ドリーマー宛じゃないか?」
「はぁ?アーちゃんうさぎぃ?どこのバカが送りつけたかよ~くわかる一文ねぇ」
軽く映像データの解析をしたんだろうけど一発で送り主のデータを割り出している。
で、ドリーマーが出てきた所が問題なんだけど?お前どこから出てきた?
コイツ屋根裏のパネルを外して出てきたぞ。
「飛び降りて登場したら絶対に指揮官の視線を奪えるでしょ?」
「視線を奪ってどうするのかなー?」
「面白そうじゃない!!」
ドヤ顔でおっぱい揺らしながら言うセリフかね?このドリーマー策略とかよりいたずら好きなだけに見えてくる。
で、このドリーマーがこの基地に居着いてから期を見計らったかのように送りつけられたみらくるファクトリー。
さて今回はどんな商品を作ったのやら……ヴィオラと一緒に音楽鑑賞でもしようかとしてた所だったけど。
まぁこの際ちょっと一緒に見てみようかと思ってドリーマーとディスプレイを眺める。
「『みらくるふぁくとり~』のマスコット『アーちゃんうさぎ』だよ、いえーい、ドリーマー見てる~?」
「素晴らしくアホらしい姿ね。あのポンコツAIらしいと思うわ」
「でも今回はユノちゃんが居ないね」
「そうだな……そして持っているのは何だ?武器か?」
「あーら、私に対抗したつもりねぇ?お可愛いこと」
画面の向こうに見えたのはもう私とヴィオラにとっては見慣れたアーキテクトの姿。
片手にはリボルバーライフルらしき物が担がれていて今回の紹介するものだろうって思う。
ドリーマーがお遊び半分で作ったレーザーライフルに対抗してると思われる。
「へぇ……良いじゃない、あのポンコツに出来ることが私に出来ないと思わないで」
映像内では発射音ほぼ無しで速射可能で命中後は崩落させる……ってこれコーラップスモドキじゃない?
そして挑発ともとれる今回のみらくるファクトリーにドリーマーが開発者魂を掻き立てられたらしい。
「イチから私の工房を作らせてもらうわよぉ、あの倉庫の片隅で良いから」
「とんでもないのが目覚めたんじゃない……?」
「奇遇だな、私もそう思う……」
そしてこっちのおっぱいドリーマーちゃんがアトリエを持つことに。
アーキテクトとの競争が勃発するかもねー