工廠で生産できるものは限りがある。それは各基地言えることだ。
独自に機材を導入すればそれはまた変わってくるけれども技術者が居なければ始まらない。
そんな技術者は大抵I.O.Pか鉄血に行っているし他のまた別な人形制作会社に行ってるだろう。
そうでもない場合?大方アングラの違法業者として名を馳せるのかもしれない。
ちなみに人形市場では大っぴらに出回らないのでブラックマーケットや……
それこそ格安だったりする風俗店なんかはそんなアングラ業者の人形だったりする。
D08地区のスラムにも何体か確認されているらしく性病の元だから逐次回収分解処理が行われている。
そもそもスラムで開業している風俗店なんて非公認だったりするからなぁ。
あまり利用しないようにとは言っても数少ない楽しみのために皆行くんだろう。
男っていうのは欲望には絶対に逆らえない生き物だもん。ダーリンが異常だっただけ。
「で、ドリーマーは何してるの?」
「オーダーの武器を設計しているのよ」
気分がそうさせるのかドリーマーはアトリエに籠もりこれまた自分で作ったんだろう眼鏡を掛けて設計図を引いていた。
で、さらに言えば人形の設計図らしきものもあってからドリーマーの技術量を物語る。
この基地が保有する技術力っていうものがほぼほぼドリーマーに集約されつつある気がする。
S09P基地の技術力の大半をアーキテクトが握っているのと変わりないね。
アングラながらその技術力は恐らくI.O.Pの主任クラスと同等だろうね。
で、そんなドリーマーが今設計しているのは本部住まいのスィストラの担ぐ武器。
一度やってきた後頼まれたものだからダーリン直々に頭を下げた。
兎に角要項として押さえるのはエネルギー兵器である事とスナイパーモデルであること。
それ以外は一切の制限が持たれてはいない。コストも開発期間も一切なにも。
つまりドリーマーが思うがままにひたすら開発に勤しむことが許される。
「代理人の予備個体の子よねぇ?」
「そうらしいよ」
「そうねぇ……なら許容できる重量もある程度決まってくるわね」
唇にトントンと叩きながら思案しているドリーマーは少し思考を巡らせているみたいだ。
「既存のスナイパーライフルのデザインじゃセンスが無いわよねぇ……」
「そもそもエネルギー兵器ってそんなに簡単に作れるの?」
「もちろんよぉ、私のアトリエをちゃんと設営したんだからあのポンコツで作り上げた以上に楽に高クオリティな物を保証するわ」
「それなら良いけど……あ、おやつは何が良い?」
「そうねぇ……417のおっぱいミルクプリンとかできる?」
「……考えておく」
半分ケタケタ笑いながら言ってきたことだからそこまで本気じゃないとおもうけど。
おっぱいプリンなんて物があったなんてのは聞いたことがあったような気がするけど……
――――――――――――
しかしあのスィストラは非戦闘員であったはずだけど必要に迫られるって感じじゃなかったと思うけど。
何が戦闘への備えに駆り立てるのか私やヴィオラみたいに狙われる可能性は少ない筈。
「417~かまってー」
「ん?G28、どーしたの?」
「久し振りに膝枕してー」
「あーはいはい、最近ずっとダーリンにかかりっきりだったもんね」
どうしたものかと考えていたけど隣にG28が腰掛けてきた。
最近のところずっとドタバタしていた上にダーリンにかかりっきり。
だいたいの事をお姉ちゃんで満足させてた節がある。
で、今日は私が暇そうにしているのを見て近寄ってきたって感じかな。
お腹もけっこうぽっこりと出てきてから私の膝枕を堪能するのは今くらいか。
これ以上は大きくなりすぎて私もきついだろうし……そもそもだけど膝枕のためのスペースが無くなるな。
「ん!?今動いた!」
「うん、ふふ……G28の事もわかってるのかもね」
「ならいいなー……赤ちゃんかぁ」
「G28も赤ちゃん欲しかったり?」
「ちょっとだけ、お姉ちゃんだけじゃなくて私だって特別で完璧な人形なんだから」
「そっか……なら良い人を探さないとね」
「そこはお姉ちゃん達の子を」
「……はい?」
ちょっと意味わかんない事を言った気がする。私かお姉ちゃんの子供?
それを更に言えばG28が身ごもって産みたいと申した?
「もしもし、Kar?ちょっと」
「待って待って私は本気だよ!!」
『なんですの?今P基地のPPShさんとの会議中ですのよ?』
「いやね、G28が私かお姉ちゃんの子供を身ごもりたいとか寝ぼけたことを」
『出来ますわよ?』
「……はい?」
『ですから、理論上では可能ですわ。人工卵子の技術もあるのですから人工精子の技術もございますわ』
あーたしかに、卵子ができるならその対になる技術も自ずと出来上がるものか。
では私の遺伝子データとなるものを埋め込んだ精子を受精させれば……?
『無論、現在は人間同士での妊娠に使われる技術ですわ、人形間の事はまだ実験段階ですらなっていませんのでご安心を』
「だよね、あーびっくりした……」
「ちぇっ、なら指揮官を襲ってやる……間接的にお姉ちゃん達と同じ遺伝子の子を持つんだもーん」
『妊娠計画は慎重にお願いしますわよ?』
シスコンである上にダーリンにまで好意があるのかな?
――――――――――――
「おっぱいプリンじゃないじゃない」
「お前ふざけてると没収するぞ」
「アッハイ、すいませんでした」
ドリーマーのご要望どおりに私のミルクで作ったミルクプリンを提供してやった。
おっぱいプリンほどにデッカイのは用意してあげた。満足だろ?
土下座したドリーマーはさておいて開発コンソールをちょっと覗く。
書き上がったと思うブループリントが表示されていて何やら機械がせっせと動いている。
何かの華と蔓をモチーフにした流線型のフォルムと高額スコープモジュールが取り付けられている。
「取り敢えずの試作品、幾つか制作して気に入ったものを持たせるつもりよ」
「これも十分なんじゃない?」
「全然、こんなの軽い試運転ついでよ」
幾つも機敏に動いているロボットアームが溶接したり掘削したりしてる。
さらには細かなパーツを取り付けたりと組み上げていっている。
私がこのアトリエから一端離れてからプリンを作るのにそんなに時間を要していない。
つまりかなりの短時間で設計から制作まで0からやったわけだ。
「この私、ドリーマーがアーキテクトに遅れをとるなんてねぇ……許せないのよ」
「ほっぺたについてるよ」
「あら、ありがとう」
キメ顔で言った所だったけどほっぺたにミルクプリンの欠片が。
可愛らしい事になったけどほったらかしにしたら可愛そうだし……
私がちょっと拭き取ってあげると意外な事に素直に感謝してきた。
「出来上がったわね……射程と連射性、エネルギー効率のバランス取りにした高エネルギー重粒子発射ライフルね」
「こんなデザインにしたのは?」
「私の趣味よぉ」
出来上がったライフルは適度な厚みがあるけど所謂アサルトライフルのスケール。
ブループリント通りでかなり流線型で形どられていて側面には鉄血の刻印とドリーマーの趣味と思われるゴシック調のエングレーブ。
ちょっと洒落た杖みたいにも見える。ほぼ側面からせり出たカバーによってグリップが隠れてたりする。
なお、スコープに見えたのは光学マルチカメラ。効き目に掛けるタイプのスカウターに投映される。
セレクターの他にスコープ倍率の切り替えも存在している。
シングル、3バースト、オートの3モードが選択可能、等倍~12倍望遠まで選択可能。
正直この試作品だけでも十分過ぎる気がする。
「ま、これはノーブル・スタインとでも名付けておきましょう」
他にも幾つかの試作品が生産されていき一番の汎用性を持つノーブル・スタイン。
一発の火力に全振りして大型のジェネレーターと大掛かりな排熱機関が搭載されたメテオライト。
レーザーライフル版のアガトラム……そして火力盛りのムーンライト。
「じゃ、G&K本社に送りつければいいのね?」
「スィストラ宛てでね」
「じゃよろしく」
「私が持っていくの!?」
――――――――――――
「……行ったわね、さてこのお人形ちゃんを作ったは良いけど」
417を体よく追い出したドリーマーは一つスモーク状態になっていた製造チャンバーの前に立つ。
人形等を制作するためのチャンバーになるのだがその中に浮かぶのは……
「スパイ人形のUMP40ちゃん、気分が乗ったから再建してあげたんだけど……」
顔立ちにUMPシリーズに似た物を持つロストナンバー、UMP40。
UMPシリーズはI.O.Pにより制作されている?その一番最初の人形はどうだ?
I.O.Pも開発したと思っている一人形に過ぎなかった。
生産段階ではつけられてなかったはずの左目の傷が刻まれた状態で後の量産型は登録された。
そう、オリジナルとも言えるファーストロットのデータはI.O.Pには存在していない。
正式にはプロトタイプは生産後試験運用ご回収分解、終了させたとなっている。
詰まりは廃番となる。UMP45、UMP9の2体は正式に生産され……UMP40はプロトタイプ試験運用中に例のあの……
蝶事件の最中、戦闘に巻き込まれロストしたために廃番となった……筈だった。
その実際はUMPシリーズは鉄血によって創り出されたI.O.Pの情報を集めるためのスパイ人形でしかなかった。
つまり鉄血であるドリーマーならばそのファーストロットのデータも持ち合わせている……筈だった。
「AIデータが消されているわね……UMPシリーズのAIなんて同じだったはずなのに」
魂とも言えるAIのデータがドリーマーの電脳内にも無かった。
「ま、仕方ないわねぇ……もしかしたら戻ればあるかもしれないけれど」
思い浮かぶのは鉄血工造本社のデータサーバ内。
しかしドリーマーはまた別の個体として生産されてバックアップから復活している。
今戻ったとして初期化された上一度分解整備されるのが落ちである。
そうなればこの美味しい食事も楽しい文明というものも味わえない。
「やーね、ちょっとデータルームにちょっかいかけに行きましょ♪」
すべてのコンソールにロックをかけてからチャンバーすべてをスモーク状態にしてアトリエを出る。
ドリーマーは行き詰まった、無いものはしょうがない。
ではリフレッシュ代わりに真面目に働いている諜報部の人形にちょっかいをかけに出掛けたのだ。
「もしくは指揮官かぁ……あの童貞臭い男達をからかって遊びましょうか」
――――――――――――
「はーい、今日も良い身体してるじゃない、ポンコツちゃん?」
「あらあら、邪魔をしにきただけなら早々に帰ってくれないかしら?」
DSRにセクハラをかましつつスクリーンを覗くドリーマー。
手慰み代わりにDSRの余りある巨乳を揉みしだいていた所だった。
その目が見開かれていく。
「これよ」
「……?」
「ちょっとこのデータコピー取れる?いや、取るわ」
「勝手なことは」
「許す許さないじゃないのよ、わかった?」
ドリーマーのアトリエで一つの奇跡とも、一つの冒涜とも言える事が行われようとしていた。
僕はね、死別も良いけど……
この世界ではできるだけ笑顔を増やしたいんだ……とても柔らかいヒマワリのような笑顔をね
UMP40を出すのが冒涜と、404小隊の45に対する壮大な喧嘩を売る行為と知っても……
僕は45と一緒に笑顔で過ごしてほしいんだ。
人形ってさ。被造物じゃん。
自分が本当は鉄血側で生産されスパイとして送り込まれたと思っててもさ……
実際は裏つながりというか内通者を通じて生産されたダブルスパイって事を考えたのさ。
生産されないのはソフトとハードがそれぞれ別だから。
そう、考えたんだよ……また独自解釈になるけどね