D08地区、G&K社が統治している自治区の一つである。
そしてそんなD08地区の治安維持を司っているのはD08基地になる。
しかしながらこのD08基地は専ら別な側面の方が強く出て……
「見てください、指揮官にゃんこです!にゃんこ!!」
「エージェント……待ってよー、子犬も見つけたからって私に抱っこさせて先に行かないでよ」
「黙りなさい、まだまだあの森には可愛らしい小動物がたっくさん居るんですから連れてきますよ!!」
「えぇー……」
「暇そうにしているウロボロスも連れてきなさい、ハリー!!」
「いや、あの飼うかどうかは」
「え……?」
「あ、はい。飼いますから第一宿舎のペットブースに入れといで……」
「ご理解ありがとうございます、では……んーよしよしかわいいですね~♪」
そう、G&Kとは一般的には敵対関係にある鉄血の人形が我が物顔で闊歩しているのである。
今日は朝から散歩に出ると言ったエージェントとデストロイヤーが道端で拾ったのだろう子猫と子犬を抱えて帰ってきていた。
最早この鉄血人形にこの基地から離れるという思考は残っていないのだろうか?
少なくともこの基地に存在しているドリーマーには一切残っていないだろう。
エージェントも最早怪しい、すっかりお料理と猫と犬とダイナゲートで満たされている。
デストロイヤーもすっかり指揮官に骨抜きにされていて離れる気はサラサラないだろう。
本来ならば拘束して然りの敵対関係にあるはずなのに厚遇を受けているのだ。
毎日好きなだけ遊んで好きなだけ食べて何か手伝えば感謝を述べられる。
鉄血工造に所属していた際はどうであっただろうか?
人間は居ない、全て抹殺されオートメーション化してしまった工場内。
繰り返し命じられ時に破壊され戻ってはまた殺戮に駆り出されていくばかり。
楽しみなんてものは存在しない。人間に近いAIを持つ彼女たちにそれは窮屈ではなかっただろうか?
エルダーブレインという存在が何であるか、それはともかくとして……
「やっぱ、女の子は笑顔で居るのが一番だよなぁ」
笑顔咲き乱れるその様子が一番である。これは他の基地にも言えることだ。
奇行に面食らいがちではあるが指揮官の目から見てもこの鉄血人形が基地に加わってから喧騒は大きくなっていくばかり。
騒ぎもそれ相応に多くあるが出会ったばかりの時や資料で見ていた固い表情を見続ける事に比べればちょうどいい対価だ。
「まてエージェント!私には積みゲー消化という任務が!!」
「引きこもりはいけません、ウロボロスは運動しなさい」
「やーい言われてやんのー」
「お腹に脂肪がくっついてない?」
「ふっ……くっついているのは無論このおっぱいに他ならん」
「おい、そこのウロボロス詳しく!!おっぱーい!!」
「ぎゃぁっ!?し、指揮官やめっ……あっあっ……」
……D08基地は今日も平常運行である。
――――――――――――
「幸せ……」
時は少し流れてD08基地第一宿舎女子寮は共有スペース。
ウロボロスが指揮官による洗礼を受けた後必死になって逃げ出しエージェントとデストロイヤーに煽られながらも猫と子犬を集めてきた後だった。
子猫は見事なまでにミックスらしく様々な毛色の猫がずらり5匹。
元々拾われていた猫も含めて現在6匹になる。まだ名前は無い。
子犬の方もデストロイヤーが抱えて連れて帰ってきてから追加で7匹となる。
犬種は恐らくではあるがコーギーになる。短足で小型犬に分類される物だ。
ミニチュアダックスフンド等にも似ているが振りまく愛嬌というのはどちらも甲乙つけがたい。
これまた保護されていた子犬も含めると10匹に登る。元々居た犬種はサモエドと思われる。
喧嘩などにはならずそれぞれ食って寝て元気に成長中である。
さてそんな可愛らしい殺人毛玉が囲っているのは何を隠そうエージェントである。
我先にと膝の上に登ったり肩によじ登ったりと子猫は大はしゃぎ。
子犬の方は座っているエージェントの足元で寝転がっていて身体を擦り寄せている。
「あの犬も猫もエージェントにまっしぐらだったよね」
「そうだな、私に抱えられてもしつこくエージェントの方を向いていたな」
「そうねー……」
キャラが思いっきり崩壊させてかわいがっているエージェントを見つめるデストロイヤー、ガイア、ウロボロス。
なおその膝の上にはそれぞれサモエドが寝ている。
「はーい今日の餌の時間よ……ってアンタ達も居たの?」
「WA2000、その餌は?」
「市販のカリカリよ、あとはこれにミルクを混ぜて柔らかくして食べさせるのよ」
「飲水の補給もあるわよ、骨抜きエージェント?」
「更に更にトリミングも~♪」
飼育されている猫や犬の世話に指揮官の嫁の一部であるWA2000とHK416、HK417の三人が入ってきた。
それぞれやることは分かれているのだが……餌やり水やりトリミング。
両方共にやってやらなければいけないことだ。餌は言わずもがな、水も言わずもがな。
トリミングもかなり重要である。季節の変わり目は抜け毛がある。
その抜け毛をしっかりと処理してやらないといけないのだ。
所謂夏毛、冬毛というものだ。これをブラッシングしてから処理してやらないと毛玉まみれになる。
「私にもさせなさい、早く」
「はいはい、やり方覚えてね?」
代理人はかなり早く覚えてすっかり猫に集られていた。
――――――――――――
すこし時は遡りドリーマーのアトリエ。
今日も呑気に予定を組み立ててから実験をしようかとしていたところだ。
研究用のリクライニングチェアをぎぃこぎぃこと軋ませながら唇を尖らせていた。
さて、何を研究をしてやろうかと思想を巡らせていたのだ。
もちろんエージェントのオーダーである猫耳や犬耳については設計しているのだが……
「ん?何かしら……はい、ドリーマーよぉ?」
胸元にしまいこんでいる端末を引っ張り出してから耳に当てる。
通話の様だ、通話先はこの基地の諜報部の人形だが……さて何を話すのか。
製造機械にカタカタとデータを打ち込みながら聞いていたのだ。
最初に作るのは猫耳モジュールで試作してから自分で試着してみようかとしていたわけだ。
「ハァ!?」
しかしながらそれは驚愕に変わる。思いっきりデータの入力ミスを行ってしまう位には。
今臨床実験をしているナノマシンの開発計画元の指揮官がヤったというのだ。
いや、ソレだけなら別に驚くことは無い。レズでもそういう事はする。
驚いたのは番の人形がどういう訳だか生えてマジでヤッたみたいだ。
それも避妊もせずにドップドップと出したみたいだというのだ。
「嘘でしょ、じゃああ待ちなさい、アーキテクトに連絡するから切るわよ!!」
もうそれからドリーマーは大慌てでまた別基地の鉄血人形、アーキテクトに連絡する。
それも血相変えて開発、設計中のモノを取り消ししてから呼び出すのは……
「ちょっとアーキテクト!?アンタの指揮官がヤったって本当!?しかも避妊もせずに!!」
もう計画が一気に変わってしまった。本当は一ヶ月、二ヶ月くらいで完成させるつもりだった。
もしも出来てしまったら早急に完成させてしまわなければいけない。
そう、あの小さな身体で人形であれば別に問題は無いのかもしれない。
しかしながらあの指揮官は人間でかなりの虚弱体質で体力があまり無い。
「ほらもう計画を前倒しするわよ!!もう私も別アプローチで開発していくからアンタはアンタで開発してデータ送ってきなさいよ!!臨床実験は任せておきなさい!!じゃあね!!!」
返事を待たずしてそのまま端末を切ってから胸の谷間に収納する。
「もう!!!ふざけんじゃないわよ!!!!」
ドリーマーらしからぬ切羽詰まった顔で必死に機械にデータを打ち込んでいく。
さらに言えば片手でイントゥルーダーを呼び出し実験台を呼び出す。
また今日もアトリエに哀れなモルモットが召喚されるというのか。
「ダーリン!後でいっぱい私を褒めなさいよ、良いわね!?」
「え、え?」
「お願い!」
「お、おう……後でお菓子の差し入れ持っていく、頑張れよ」
好いている指揮官に応援されてから気合十分、胸いっぱい。
ドリーマーは気合を入れてから開発に乗り出す。
そう、ドリーマー側で設計計画したナノマシンの開発に乗り出す。
「大至急の呼び出しって何?」
「よぉし来たなイントゥルーダーァ!!!開発だ、手伝うんだよ!!!」
今日もD08基地は騒がしく過ぎていく……
「ドリーマー!犬耳、猫耳はどうしました!?」
「ちょっと黙ってろォ!!」
「あ?」
「あぁん?」
「「ぶっ殺すぞこら!!」」
「アトリエが壊れるわよ……」
ハイエンドのどつきあいで被害が出る前にそっとアウトしましょう。
もうこうするしか無かった。
僕悪くないもん