元はぐれ・現D08基地のHK417ちゃん   作:ムメイ

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そもそも正常なんて尺度は誰が保証する?


Day181 所詮世の中異常だらけ

「何これ?」

「対戦車兵器だな」

「カール・グスタフとは……」

 

厳重に梱包された物が朝に届いたかと思えば……中身が超危険だった。

よくテロリストが使う使い古された単発装填の対戦車兵器を思い浮かべてみよう。

ロケットランチャーの代名詞とも言えるRPG-7を思い浮かべるだろう。

じゃあコイツはなんだ?無反動砲って言う分類の対戦車砲なんだけど……

 

「これ、簡易的な電磁加速器付きね、所謂レールキャノン」

 

普通の無反動砲って言ったら装填している弾頭に込められた燃料によるブーストですっ飛んでいく。

所謂ロケット砲ってやつね、ヤーパン風に言ったら噴進式だっけか?

残念ながら込める弾は安価な物が多く誘導などは特にない。

本当に真っすぐ進んで爆発するロケットをぶっ放すものだ。

無反動砲とは名乗っているけどやっぱりいくらかの反動は来る。

そもそも重たくて担ぐのに一苦労するって人も居るだろう。

で、この送りつけられたものだけど……これはそれに何をトチ狂ったか電磁加速を加えた。

 

「人間じゃとてもじゃないけど担げないんじゃないかしらね?」

「電磁加速を用いる発想は狂ってるし……そもそも携行武器にレールガンって」

「正直重たくなりすぎて携行には不向きね」

「携行する弾頭各種に電磁加速用の高出力バッテリー……」

「それこそアンツギアが必要ね、システム全体でどれだけ重量いくのかしらねぇ?」

「そもそも戦車戦でこれを引っ張り出す可能性よりも……」

「普通にType10を引っ張り出したほうが安全かもしれないわね」

 

対戦車兵器が有効的な場面というのはかなり限られてくる。

現代において全く出番がないって訳じゃない。

E.L.I.D等のコーラップス汚染体と戦闘する際の初期対応として用いる。

撃ち合いに発展する汚染体も確認されているらしく……手っ取り早い排除はこれに限る。

あと私が懸念するのは余りの初速の速さに信管が誤作動を起こして自爆しないか。

 

「技術的には面白いから私預かりで良いかしらぁ?」

「どうぞどうぞ」

「ありがとう、ダーリン……ふふ、これだから人間ってのは面白いのよ」

 

ドリーマーが取り敢えず回収していったけど……日の目を見る事があるんだろうか?

 

「それより一応お前たちも基地待機の防衛対象だが……武器メンテ怠るなよ」

「大丈夫よ、私は完璧よ」

「とか言って最初の一週間はひどい出来だったじゃない」

「そういうFALだって416の事を言えるの?」

 

ぎゃいぎゃい言い出すけど私からしたら全員同じだけどね。

結局ゲーゲー吐いてから半身に浴びせかけてヒヤヒヤしてたじゃんよ。

 

 

――――――――――――

 

 

警備に当たる人形が増えた一方……正直ココ最近めちゃくちゃ平和で増員したのが意味がないような……

聞く所によればあっちこっちでいざこざがあったりするみたいだけど……

なんかここのスラム街でも騒ぎが起きてるっぽいんだけど通報を受けて駆けつけた自治部隊いわく誤報だって結論が出る。

 

「SuperSASSです、指揮官今良いですか?」

「ん、ご苦労、おうおう入ってくれー」

「失礼します!」

 

戦車部隊の一員でありType10の砲手を務めるSuperSASSだ。

戦車の調子を診るついでに無線で街やら本部等と交信していたみたい。

あと距離は近いけどここの諜報部とのやり取りとかね。

いざって時に繋がらなくて孤立したりしたら大変だもの。

 

「ダ……指揮官の知っている基地はどれだけあるでしょうか?」

「ん?そりゃ……A01からS09まで名目上は知ってるけれどなぁ」

「最近だけど……417と同じでイレギュラーな人形が確認されているケースがあります」

「ヴィオラってケースもあるし救助にむかったAR分類の417だって居たもんね」

「その記録を見た時は私も驚きましたね」

 

戦闘音を聞いたのと荒っぽい映像データでしか確認されてないけどね。

所謂計画中止で凍結処理されていたはずの人形が動き出している。

AK15、対E.L.I.D戦闘用にと開発された軍用戦術人形。

I.O.Pとして一歩踏み込んだ性能を持つ人形だ。ガードが固く初戦投入の記録しか出てこない。

ちなみに軍用ではあるけどおっぱいは大きい方。まぁ用途は多分……

Cfa CM901、用途不明、戦術人形の新規モデルとして製作中不備が見つかり計画凍結。

試作段階の一体のみが保管されていたがそれがマスターキー無しに起動しているのが確認されている。

ASST処理を行った時点でI.O.Pの方へと暗号化された通信が飛んでいくみたいだ。

ただ真っ先に飛んでいくのはASST処理ナンバーと種類に限定される。

報告があがったのがつい最近で正直な所情報は少ない。

無いものはいくら突っついても出てこないものだもん。

Mk.18、AR小隊の隊長の補佐役として後から計画された人形。

少々性格に難がありレズ気質がありその行動に抑制がかけられているとのこと。

ただ鉄血による酷い拷問からメンタルモデルに深刻なダメージを受け修復。

その後の様子は打って変わって大人しくなってしまった……とか。

HKM27IAR……私からすれば遠縁の姉とも言うべき存在か。

詳細は不明、E.L.I.Dらしき怪物との戦闘が確認されているが詳細はデータが無い。

まだ他にも16Lab製のテストモデルがいくつかあるらしいからねぇ……

 

「マスターキーも無しに動くってのは流石に問題だよなぁ」

「でもチェックした所内部的にタイマーなども設定できずどう操作しても工場内で初回セットアップ……」

「最終品質チェック後のマスターキー認証がなければ普通は起動することはない……」

「余計にソイツらが異常な訳で……狙われたりしねぇだろうな」

「ダーリン、そういうのは私も怖くなるからやめよ……?」

 

考えないわけじゃないけど……私も端から見たらかなり良い実験材料でしかなさそうなんだよね。

私の素体が置かれていたのはもちろんダミーとしてあるまじきエラーロットであるけど……

AIをちょっと調整してやれば使えないことはなかったわけだ。

PMCとしては安価で最高品質の人形が買えてI.O.Pからしてみれば不良在庫が一つ減る。

そんな訳で最前線に置いたは良いけどセットアップ前に前線が押し込まれ今のD08に……

実はあの目覚めた倉庫は前任のD08基地指揮官の基地だったらしい。

リスク分散主義で基地本部の他に離した場所に倉庫などを点在させていたから私のボディは難を逃れていた。

ホント、奇妙なめぐり合わせだけど……おかげで今はダーリンの隣で笑ってられるんだよね……

 

 

――――――――――――

 

 

さて、銃のメンテナンスって言っても私達に出来ることは限られてる。

所謂フィールドストリッピング、分解洗浄くらいだよ。

流石に内部構造に傷が入っていてなんて事になったら手の施しようがない。

何よりリンクしている私達にフィードバックが返ってきてね……

 

「で、何で俺が射撃させられてんの?」

「だって、私に触れて良いのはダーリンだけだもん」

「鉄のボディじゃなくてその最近また実ってきてるおっぱいが」

「乱暴に扱っちゃ……いやだよ?」

 

ちょっと倒錯した感じがするんだけど……HK417の20インチモデルってのが私の半身だ。

私って言う人形を深く深く触っていいって言えるのはダーリンだけ。

分解整備してみたは良いんだけど……私は身重で射撃なんて出来やしない。

ダミーを使う案も出たけどダミー達はなんだかドリーマーが引っ張っていった。

で、仕方ないからって事でダーリンに撃たせてるの。

ダーリンの射撃の腕前っていうのを見てみたかったし……何より……

 

「私を乱暴に扱っても壊れないけど……」

 

今ダーリンが握ってるのは私の身体みたいなもの……ぎゅっと握り込んでいるグリップは腰。

かなりトップヘビーな私のカスタムで立射は酷だからバイポッドを立てて撃ってもらうんだけど……

想像するならばワンちゃんみたいな格好で腰をぎゅっと握られてるようなモノだ。

人間の姿をしていて柔らかい私と違い銃のHK417は鋼鉄の乙女。

やっぱりちょっと乱暴に扱っちゃっている。

マグチェンジの動作で奥まで刺さっているかの確認に叩きこんでいるけど……

そう、私が今連想しているのは全部ぜーんぶ夜でのダーリンとのベッドの上での銃撃戦の事……!

でもマジな所すごく乱暴に扱われると私達人形にもフィードバックされちゃうの。

ASST済みの銃が破損した場合……稼働状況によっては気絶もあり得る。

精密機械でもあるからそもそも乱雑に扱えば射撃能力が落ちちゃうしね。

 

「しかしこれトップヘビーだな……げっジャムった……」

「んにゅぁっ……」

「ん?」

「な、なんでもない……よ?」

 

が、ガチで油断してた……というかここでジャムっちゃう?

ジャムった薬莢を排出しようとしてチャージングハンドル引っ張られたままガッツンガッツンしちゃ……

 

「ふんっ」

「~~~っっ……」

 

た、耐えるんだ私……あ、でもこのフィードバックやばい、ハマりそう……

 

 

――――――――――――

 

 

なんか私の電脳リソースの一部がダミーに持っていかれてる。

あーうん、私の過去に関する記憶エミュレートが行われてる。

って事はダミーの連中酒を煽ったか……それとも飲まされたか?

 

「どりー……まぁ?」

「うっひゃっひゃっひゃっひゃwwwww相手の顔、顔見てみwwwww」

「なーによアーちゃん……素直に褒めてるんじゃない、スゴイわぁ……輻射波動機構の義手なんて、偉いわぁ~」

 

またアトリエでなにかやったんだろうと来てみればなにこの状況。

ダミー3体はぶっ倒れているし起きてる……まぁ過去の私とも言うべきか。

エミュレートされてる男の私がゲラゲラと笑い転げている。

そして機械を弄っているドリーマーは赤ら顔でモニターに映るアーキテクトをベッタ褒め。

酒でも飲んだのかと思うけど酒瓶や酒精の匂いがしない。

となると考えられるのドリーマー自身がなにか……

 

「ヒック……あ~おねえちゃん~」

「うわ、なんだ……デストロイヤー?」

「もぉー聞いてよ~またドリーマーが変なプログラムをね~……ヒック……」

 

酔っ払うプログラムでも組んだのか?あまりにもバカらしいけど……

妊婦組の中にお酒のあの浮かれる感じを味わいたいとぼやくのが居るんだよね。

これが意外なことにG36Cだったりするんだよね。

FALもお酒好きだけど赤ちゃんの為にってすっぱり後腐れなく断ってるんだ。

G36Cの場合は戦闘時のあのキレッキレな所の反動みたいなのも感じれるけどね。

自分の弱みというか……スキだらけ所を信頼を置く皆の前で見せたいのかも。

 

「や、アーキテクト……ごめんね、またこっちのがバカやらかしちゃったみたいで……」

「ほら、アーちゃん、ドリーマーおねえちゃんからのあつーいべーぜぶぅっ!?」

 

通信先のアーキテクトに一言ごめんなさいってだけ言ってモニターにキスまでしようとするドリーマーをキーボードに叩きつけてから通信を切る。

で、これがなにかキーをぶっ叩いたらしい……機械が動き出す。

 

「ぶっひゃっひゃ……おろ?なんぞコレ」

「ドリーマー?あれは?」

「アーちゃんデストロちゃんちゅっちゅぅ~……」

 

その日ダミーと私の演算リソースが一気に喰われてオーバークロック一歩手前まで行った。

 

「で、オイラって人格の人形が出来上がったわけよ、よろぴー」

 

私の奥底にずっと残っていた男の側面がまた、世に産まれた……

容姿はドリーマーとデストロイヤーの間の子って感じ、でもやっぱりD仕様。

素体名はジャッジ、そのボディはI.O.Pのと鉄血技術のミックスだから中々エグい性能持ち。

どうせならと男性ボディをって提案しようとしてハッとなったんだ。

……拝啓、あの世のパパ、ママ……娘となって数ヶ月、幸せいっぱいですが

貰った大事な身体はもう、思い出すことができなくなってます。

こんな、娘を……どうか許してください……




速報:オイラ復活

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