元はぐれ・現D08基地のHK417ちゃん   作:ムメイ

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兄への第一回カチコミはこれで終了です。


Day27 お買い物の終わり

――――――――――――

 

 

ふぅ、思わぬ兄の一面を見れた気がする。

でもごめんね、私はもう女の子になって元に戻れないの…

それにしても…言ってなかった私の趣味もちゃんと把握してたかー…黙ってたのに…

もうこの身体じゃ自転車に乗ってどうこうは出来ないし…過去のものになっちゃったなぁ…

前の名残はもうゲームくらい?

 

さてと、そろそろお料理に入ろう!

日持ちがする上に面倒くさがりでも食べるだろう…カレーだ。

後始末の仕方さえ教えておけばOK…だと信じたい。

 

「お台所借りるよ」

「怪我すんなよ」

「心配してくれるのー?やっさしー♪」

「あのバカの彼女かなんかだろ、用が済んだらさっさと出ていけよ」

 

彼女ちゃうわ!まったく…ロリコンじゃないし。

このボロアパートの台所は低くて助かるーギリギリ手が届く。

さてと…兄の3食分を作ろう…時間はまだまだあるし…弱火で煮込めるかな?

 

作る献立は普通のカレー、作る手間は掛からなくて大量に作れるお手軽料理。

後片付けは面倒くさいけど…食器洗いくらいはするよね…最悪紙皿用意したら良いか…

勝手知ったるキッチンなので私が迷うことはない。あんまり使わなかったけど…覚えてるものは覚えてる。

ガスが止められてるってこともない、普通にガスコンロが使える…良いことだね。

じゃあ調理開始、まな板に並べるのはカレーの彩り担当のお野菜。

ニンジン、じゃがいも、玉ねぎにピーマンを刻む。サイズは一口大、これは私の好み。

玉ねぎに関しては細かく刻むんだけど…刻んだらお鍋に放り込む。

無駄におっきい鍋があったんだ…ってこれホコリが積もってるー…洗わなくちゃ。

っと無駄なことが挟まったけど…これでよし。

じゃあお野菜を煮込んでいくの、しんなり柔らかくなるまでグツグツと

 

「何作ってるんだ?」

「カレー、ヒキニートも好んで食べる料理でしょ?」

「……」

 

兄がゲームを止めて私の方を見ていた。飯よりゲームが大事な兄らしからぬ動きだなぁ。

私が不思議そうに振り向いたらなんだか変な顔。何考えてるのかな?

少なくとも兄がこういうのを嫌ってる感じは無かった。

カレーメシを好んで食べてたし。

 

「いやさ、弟の彼女に言うのも変かもしれないけどよ…お前、なんか弟に似てるな」

「え…?」

「その表情とかなんつーのかな…口うるさいのとかよ…気に掛け方が弟そっくりなんだよ…」

 

喉の奥まで私の正体について…こみ上がってくる。

でも、言えない…今の私はこの人の弟ではない、417なんだ。

もう…戻れないけど…

 

「なぁ、弟は何処に行ったんだ…知ってるか?」

「……心配してんじゃねぇよ気持ちわりぃな、ヒキニートのくせによぉ就職活動してから言えや」

「…」

「なんて、弟くんなら言ったかな…」

 

……さようなら、(わたし)。もう二度と出ることはないね。

兄に背を向けて料理再開…兄のなんとも言えない視線が耐えれない…

久しぶりに吐き気がこみ上げてくる…

 

背中からはまたゲームの音が聞こえ始めた。

 

 

 

「はい、カレー出来上がったよ」

「おう…」

「また遊びに来て勝手にお料理していくから…それじゃあね」

「おい…チョット待て」

 

出来上がったカレーを押し付けてさっさと皆と合流しようと思ったのに。

呼び止められて肩まで掴まれた…何?ヒキニートなのに。

 

「お前さ、幸せ?」

「……まぁ、幸せかな?」

「そうか…まぁ、また来いよ……――――――――――――からよ」

「……次は就活しててよね、ヒキニート」

 

飛び出した…気がついたらタクシーに乗ってて…ボロボロと私は泣いていた。

 

 

――――――――――――

 

 

「用事はもう終わった?」

「45お姉ちゃん…うん、終わった」

「そ、じゃあ帰るわよ~416が心配してうるさいし~」

 

タクシーを降りたら45お姉ちゃんが待ち構えてた。

ちょっと泣いてたけど見逃してくれてたのかな…?何時ものように笑って…何事もなかった様に歩き出した。

私もその後をついて……いや、隣に立ってぎゅっと手を握った。

 

「417?どーしたの?」

「…んー…今、幸せだなって…思っただけ」

「ふぅん?」

 

45お姉ちゃんはクシャ…と私の頭を撫でてくれた。私、本当に幸せだなぁ。

血の繋がりなんて無いけど、本当に…幸せいっぱいだ…えへへ♪

何をしに行ってたかとか何があったかとか45お姉ちゃんは深く聞いてこなかった。

私が言いたくないの察してくれたみたい。

なによりお姉ちゃんが大暴走不可避な事だし…人間の男の家に行ってたなんて言ったらね…

 

「おまたせーさ~帰りましょ」

「お待たせっ」

「スッキリした?」

「……うん」

「そっかー♪なら良かったんじゃない?」

 

ハンヴィーの後部座席に乗り込んで…45お姉ちゃんはナビゲーターシートに。

変わらずお姉ちゃんが運転席に座っていた…ミラーで私のこと確認してから何か言いたげだけど…なーに?

 

「言い忘れてたけど417~目元の化粧が残念になってるわよ~」

「ぴゃっ!?おーうのぉぉぉぉぉ!!」

「417うるさいよ…」

 

ポーチからコンパクトミラーを出すと…私の目元のアイラインが涙で崩れてた。

最悪…泣いた時に崩れたんだ…まぁ良いや、一度拭き取ってから…もう落とそうかな?

お兄ちゃんに見られることもあり得るし…整えよう…

 

ハンヴィーの中はお買い物した食料品で満杯だった。

何週間分買ったのよ…というか良くそんなお金が…私以上に貰ってるのかな?

チョコレートバーそんなに買ったのは誰だよ…帰りの途中で溶けないかなー

…買ったの9お姉ちゃんだね?めっちゃニッコニコでかぶりついてるもん。45お姉ちゃんにも渡してるし。

 

「417も食べる?」

「いや、良いです…」

「美味しいのにー」

 

見てるだけでお腹いっぱいです…

 

 

――――――――――――D08基地工廠・夜

 

 

「ただいまー」

「おかえり嬢ちゃん達、買い物は楽しめたかい?」

「はい、ハンヴィー借りましたよ…キーお返しします」

「おう」

 

今日は私達が出ていくって事でメンテナンス班だったりは残っていた。

帰ってきた私達を出迎えてくれたのは主任だ。外で煙草を吹かしていた。

健康に悪いんだけどなー…まぁ良いけど…

お姉ちゃんもさっさと離れたし…おーお姉ちゃんの顔が顰めっ面だー

 

「兵士ではないけどあんな物に頼って自己管理がなってないわ…」

「あははは……大目に見よ?」

 

ダミー人形総出で荷物を担ぎ込んで私達はゆっくり休もう。

第1部隊と第2部隊…そして第3部隊のハンヴィーはまだ帰ってきてない。

 

余談だけど第3部隊はゲーセン巡りしてたらしい。

ショッピングに行ってた私達とは大違いだったよ。

主に引っ張っていったのはスコーピオン、音ゲーで相当目立っていた。

太鼓の達人で鬼フルコンボ決めて観衆を作ってたのをM14が撮影して送ってきてた。

おい、女子らしいことしろよ…と思ったら普通にカフェでデザート食べてたり…よくわかんないな…

さては適当にフラフラとしてただけでは…?

 

さてと…お裁縫のデータディスクのインストールだ。セルフインストール出来るかなー…

出来なかったらお姉ちゃんに頼ろう。

簡単3ステップだった、やったぜ。

 

 

――――――――――――D08基地司令室・夜

 

 

お兄ちゃんはまだ帰ってきてなかった。どんな買い物に行ったのかな…

まさか夜の如何わしいお店に行ったり…?う、うーん…まさかなぁ…

ソファーに座ってうんうん唸ってもお兄ちゃんは戻ってこない。

……おや?お兄ちゃんが何時も座ってる椅子にあるのは…?

 

お兄ちゃんのG&Kの制服の上着だ…!右を見る、誰も居ない…左も誰も居ない。

出入り口である扉も誰の気配もない!よし…よし…

そーっと…恐る恐るお兄ちゃんの上着を取って…羽織る。

ぁやばい…めっちゃくちゃ包まれてる感がする…お兄ちゃんのニオイだ。

ちょっと袖を通してもいいよね…だぼだぼだーうひょぉー…

くんくん…お兄ちゃんのニオイ、いい…♪

 

「みーちゃった…♪」

「にやにやー♪」

 

ぴゃっ!?UMP姉妹、どうしてここに…!

というか…しまった、くんかくんかしてたのを見られた…!はうぅ…

お兄ちゃんにバレたらドン引きされるよぉ…

 

「撮った」

「ナイス45姉」

「まったぁ!!」

 

慌てて脱いでたら45お姉ちゃんの端末のカメラが火を吹いた。

背もたれに引っ掛けてからダッシュで45お姉ちゃんを追いかける。

くそ、SMG型は早い!おまけに余分なウェイトも無いから全力疾走出来るって…くそぅ!

これで私が諦めると思わないでよ!レッツゴーダミー、45お姉ちゃん狩りの時間よ!!

 

であえであえー!!ひっ捕らえろぉ!!

くそ、見失った…草の根かき分けてでも探すんだよぉ!!

あのナイチチを逃したら私の乙女としてのアレやそれやが崩れるのぉ!

 

 

結局ダミー全員45姉に返り討ちにあってた。私も鼻を曲げられて沈んだ。

胸の事なんて思ってただけで口にしてないんだけど…何でバレたの?

結局くんかくんかしてるデータはばら撒かれた…私無事死亡のお知らせ。

 

 

――――――――――――D08基地第3部隊兵舎・夜

 

 

いったーい…まだ鼻が痛む…

あれだけドタバタしたのにお兄ちゃんはまだ帰ってきてない…どこで油売ってるのかなぁ…

スコーピオン達は食堂でお酒飲んで大騒ぎ中。

というか大体の人形が今日買ってきた嗜好品持って食堂で騒いでる。

私はそういうのは買ってないし…ベッドの上に猫ちゃんぬいぐるみ並べて横になっていた。

 

脳裏に過るのは夕暮れの嘗ての家、兄の言葉。

なにか察したような目と沈黙…悲しそうな表情。

 

「また、来いよ…かぁ」

 

『また来いよ……()()()()()()()()()()()からよ』

ばーか、私はもう弟じゃないっての…

もう、私は417…女になっちゃって、一人の男に惹かれてるんだよ。

貴方の弟には…もう戻れないの…

 

 

417の枕はすこし濡れていた。

 

 

 

――――――――――――内地のとあるアパート・深夜

 

 

「いつか帰ってくると思ってたさ…」

 

男は呟く、誰に聞かせるでもなく独り言を呟く。

主を失い時間が止まった部屋の中で…

 

「はは…あんな姿になって帰ってくるなんてな……」

 

夕暮れ頃に訪れた来訪者の姿を瞼の裏に浮かべながら天を仰ぐ。

どうしてそうなったかは知らない。もう行方不明となって何週間も経った。

しかし…幸せにしている。嵐のようにやって来ては帰っていった()()

少女が作ったカレーは美味かった。実に男好みだった。

 

「次、いつ帰ってくるんだろうな…あのバカ…」

 

疲れたように物事を忘れるようにゲームをしていた男に久しく浮かばなかった笑みがそこにはあった。




なんつーか、家族って姿が変わっても分かるって思うんだ。
悪しからず想っていた家族ならね。




あと今日の昼の更新はねーぞ。わりぃな。

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