――――――――――――D08基地キッチン・朝
「セツブン?」
「そう、節分…ヤーパンの季節行事」
早朝から私はある料理を作っていた…恵方巻きという物だ。
道具がないのでキッチンペーパーで代用してるけど…出来るかなー?
養殖物だが海産物はまだまだ現役だ…本物の海?やつはコーラップスの餌食にされたよ…
まぁそんなこんなでライスと海苔をベースにキクラゲ、厚焼き玉子などを巻いていく。
シンプルながら楽しめる料理だね。ヤーパンの食文化はシンプルだ。
海苔にはミネラル分が多く含まれているし…これに味付けをしておけば立派な調味料代わりになる。
爪楊枝で細かく穴を開けておくとパリッとした食感も出て良し。このテクはコック長に教えてもらった。
ライスはヤーパンの主食、私達の文化で言うパンと同じだ…ヤーパン人のエネルギーの元らしい。
祖にヤーパンを持つ人が多いこの基地でもそれは同じだ。私も好き。
さて、ヤーパンの季節行事の節分だけど…お兄ちゃんに教わってから知ったの。
言葉の意味は季節の分け目らしい。ヤーパンには四季があって春夏秋冬が巡り巡る。
春には桜、夏は花火、秋は月、冬は雪…季節によって自然を楽しむのがヤーパンらしい…
節分は冬と春の合間の行事らしい…邪を払い、福を寄せる…縁起物っていうらしいけど…
鬼っていうオーガに豆をぶつけて追い払って福を司る神を家に招き入れる…らしい。
無神教者の私にはよくわからないものだけどねー…縁起担ぎには良いかなって。
恵方巻きは何だって?その福の神様にあやかって食べるんだって。
無病息災、商売繁盛…そういった願いを込めてるらしいけど…
一説によってはまぁ…アレを咥えてるっていうイメージで始めたとか…なんとか…
シンプルだけど人数分用意するのは手間だなぁー…
「うわ、崩れた…これは私の分にしよっと…」
巻くのが結構難しい…本来の道具でも難しいらしい…
形が崩れた恵方巻きは除けておいて…ささっと作り上げちゃおう…
そう言えば旧正月って言うのもあった気がする…爆竹祭りらしいけど。
お祝い事でとにかく爆竹や花火でどんちゃん騒ぐらしい…お兄ちゃんも馴染みは無いらしいけど。
一部の職員が動いてたなぁ…今朝I.O.Pから大量に荷物が届いていたし…
何かあるのかも…私を変に巻き込まなかったら良いけど…
「マフィンが焼き上がりました。お一ついかが?」
「食べるー♪」
スプリングフィールドのマフィンだヤッター♪
――――――――――――D08基地司令室・朝
その頃司令室にはこの基地きってのバカ男が集まっていた。
「ですから指揮官殿、この流れに乗るべきです!」
「そうですよ、I.O.Pもノッてくれたんですから!」
「いや、でもねぇ…」
メンテナンス班の若い衆と指揮官が顔突き合わせてあーだこーだと言い合っていた…
否、メンテナンス班が一方的に説得を試みているのであった。
展開されている資料に乗っているのは…チャイナドレス…そう、旧正月にかこつけて全人形チャイナドレスを着せようとしているのだ。
自分達の給料で支払ってI.O.Pに発注をかけたのだ…バカである。
しかし着せるに当たって指揮官の協力が不可欠である…指揮官に好意的な人形は少なくない。
指揮官が頼み込めば最終的に折れると踏んでメンテナンス班は己の欲求の為だけに頭を下げていた…バカである。
「指揮官には欲はないのですか!?」
「まさか…アナタは…ホモなのですか!?」
「そんな、信じていたのに…!」
「あァァァんまりだァァアァ!!」
「いや、ホモじゃないし欲はあるけど…」
「では何故!?」
「いや…嫌がるかもしれないじゃん…」
「ヘタレか!!」
「上司だし部下との適正な距離っていうか…ヘタレちゃうわ」
指揮官は全員そうすることに難色を示していた。確かに見目麗しい人形がチャイナドレスを着たらさぞ良い光景になるだろう。
だがしかし、セクハラはしてもガチで嫌がることはしたくないがモットーの指揮官。
パワーハラスメントに当たりそうな事なので相当嫌そうな顔である。
ホモではない、健全な男として人形に一定の感情を抱くことはある…
「とにかく、説得なら君たちがしなさい…」
「くそっ!玉砕覚悟だ、行くぞオメーら!!」
「「「おう!」」」
仲の良いバカ4人衆は揃って兵舎の方へと突っ走っていった。
残された指揮官は大きくため息を吐いて副官に目をやった。
「やっと仕事できる…Mk23、書類くれー」
「ダーリン」
「あー?」
「わたくしはチャイナドレス着ても良いのよ?ダーリンが喜ぶなら♪」
「なん…だと…?」
――――――――――――D08基地キッチン・昼
「で?私も着ろって話?」
「そうです!残りは417ちゃんだけなんだ!」
「頼むよおっぱいちゃん、あのセクシーチャイナを着てくれ!!」
「一生のお願いだ、頼む!」
「一生軽いね…いや、良いよ?」
「女神か…ありがたやありがたや」
「ただし、お昼が終わってからだよ?」
お昼のお手伝い中で私はメイド服に身を包んでいた。今日はフレンチメイドね。
メンテナンスのお兄ちゃん達がカウンターに頭擦りつけてお願いしてくるものだから何事?って思ったら…くっだらない。
んー…でもお姉ちゃんとお揃いになれるのは良いねー♪
あ、でも体のラインがバッチリ出るし45お姉ちゃんが微妙そうな顔しないかなー…
よく見たらお兄ちゃん達揃って鼻が赤いな、地雷踏んだでしょ…
はぁーぁ…チャイナ服着たら絶対私がとばっちり食らうじゃん…なんてことしてくれたんだ…
まぁいいや…了承した手前着ましょう…馬鹿騒ぎされても迷惑だし。
「ついでにおっぱいを」
「あ"?」
「何でもないです…」
全く…面白みのないジョークを言うね…その目線だけで満足してなよ。
メンテナンス班のお兄ちゃんの目に映る私はゴミを見るような顔をしていた。
「おっぱいちゃんに睨まれるのもイイ…」
「キモ…」
「はっふん」
うわ、もう近寄らんとこ…これは危ない人間ですわ、あー鳥肌立つ…人形だから立たないけど。
相変わらずダミーに手を出しかけたので鉄拳制裁を加えたのを加筆しておくね。
遺言は「前が見えねぇ」だったかな。死んでないけど。
とにかくお昼は何時も通りに過ぎていった…ダミーの暴走には困っちゃうなー
――――――――――――D08基地食堂・夕方
「おー…これは壮観だな…」
「「「「我らに一片の悔い無し」」」」
「まぁ貴方達にしてはイイセンスなんじゃない?」
「フン…指揮官がどうしてもって言うから仕方なくよ!?勘違いしないでよね」
「なんか落ち着かないわね…気晴らしにぶっ放したいわ…」
「やめましょうよ…折角のお洒落なんですから」
第1部隊の面々がチャイナドレス着てやって来た。行事だからってお兄ちゃんも食堂に来ていた。
FALは腕に何か布を引っ掛けている…あれお洒落なのかな…?私の付け袖みたいな感じ?鮮やかな赤だ。
わーちゃんはオーソドックスなチャイナドレス、シックな黒が良いね。手に持ってる扇子も良い。
スペクトラはどういう訳か森林迷彩色なの、I.O.Pテクニカルスタッフから戦闘狂なのがバレてるのかな?
ステンは可愛らしいピンクのドレス…袖のデザインは私のと同じだ。
というか殆どオーソドックスなチャイナドレスじゃん…私みたいに尖ったのは無いの?
FALのチャイナドレスが若干胸にスリットがあってセクシーな位じゃない?おいI.O.Pどうした。
なんで私みたいな尖ったのを寄越さない、どうしたんだI.O.Pのくそったれ変態共。
「じゃじゃーん!」
「これはちょっと…恥ずかしいですけどね」
「ダーリン♪わたくし似合ってる?」
「指揮官のためとかじゃないんだから」
Uzi、アンタだけが私の仲間だ…何あの露出度マシマシなミニチャイナ…脇腹と胸元がスリットいっぱいで超セクシー…
ダボ袖仲間はステンとM14…おい他ぁ!!全部スタンダードじゃねーか!私にも寄越せ!!
「殺す…I.O.P絶対に殺す…」
「とか言って結構ノリノリで着替えたくせに~」
「指揮官の名前出されたら目の色変わったのにねー」
「寝たい…」
「んあぁっ!?45アンタねぇ!!殺す!!」
「キレたキレたwおーこわいこわいw」
お姉ちゃんはFALと同タイプかー…胸元が眩しいね…
45お姉ちゃん、あんまり手をワキワキさせないで、怖いよ…あ、お姉ちゃんの鷲掴みにした…
おーぉー…お姉ちゃんがキレた…殺す宣言して追っかけ回し始めた…
「「がんばれ~…はっ?」」
G11と私が被って言ってた…どっちに向かってのがんばれ~なのかな?
まぁ二人の脚力と持久力変わんないし…デッドウェイトが少ない45お姉ちゃんが有利かな?
その後第2部隊が戻ってきて全員勢揃いしてから恵方巻きを頬張った。
メンテナンス班の皆が喚いてたけどしーらない。
太巻きってでかすぎない…これを一気とか…顎関節外れるかと思った…ふぅ。
どうでもいいけど戦闘に参加してない人形2体分の修理資材が消費されました。
過激な喧嘩ダメゼッタイ。
416のチャイナスキンとか来ませんかね?
あと恵方巻きをグイグイ突っ込ませたいぜ…