元はぐれ・現D08基地のHK417ちゃん   作:ムメイ

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潜入描写むずいぞこれ


Day36 眠れない夜

――――――――――――

 

 

この鉄血基地の防衛施設は3つだ。レーダー施設、対空機銃制御施設、通信施設。

そして指令所がぽつんと鎮座していてその他の施設は人形の兵舎だったり見張り台だったり。

弾薬や爆薬の置かれた倉庫…長距離移動用のジープが止まっている車庫だったり。

基地の内容はG&Kとそう変わりない…ただ妙なのはヘリポートはあるのにヘリが無い…奴らは使わないのか?

416姉が真っ先に向かったのは倉庫だ。そこから爆薬を拝借するつもりなんだろう。廃棄されたらたまらないけどね…

 

パスッ…パスッ…

「5…6…」

 

スコープの先では次々に木偶人形が倒れていく。地面には損傷箇所からあふれる血じみたオイルが広がる。

バイザーが破損して中の表情が見える。無表情で…気持ちが悪い。

あぁ、奴らに感情なんて上等な物は搭載されてないんだろう…命令に沿って動き人間を殺す。

本当に、ただそれだけの存在なんだろう…情けをかける事なんて無い…殺せ、殺せ。

 

発見…ターゲット周囲に敵なし

パスッ…パスッ…

「7…8…」

 

鉄血の基地と化した敷地内に血色の華が咲く。

 

ザッ…

『こちら416、レーダーの無力化及び爆薬設置に成功…次に通信設備を破壊に行くわ』

「了解、援護する…施設周辺の掃除は終わってる」

『了解』

 

無線越しに姉の声と一緒にクリアリング…周囲に敵影無し。現状バレてはない…

正面でドンパチやってくれてるお陰だね…警備が手薄だからバレてない…

施設から飛び出た姉とG11の背中を視認…隣の施設に飛び込んでいった。

周囲に敵影無し…指令所の方はどうなってる?ちょっと見てみよう。

 

「……わぉ」

 

潜入とはどうした?スモークばりばり炊いてますやん…不審な煙に困惑ってエラーを吐いてる様子だけど。

オロオロしてばかりで…間抜けね。この距離、いただいた。

 

パスッ

「9…」

 

と言うか警戒というのが疎かだ…おろおろと左右を向いてばかりで動こうとしていない…

身を伏せるなり物陰に隠れるなり何かアクションを起こすべきなのに…所詮はって所ね。

指令所の方ではもう潜入が割れてるみたいだけど…大丈夫なのかしら…?

いや…各人形に警戒が促されてる…動きが変わった。ツーマンセルの真似事からしっかりしたツーマンセルに変わっている。

これは迂闊に射殺も出来ないかな…下手したら私がバレる…

ふぅ…立地的に密林内からの狙撃が出来ないのが痛いなぁ…CQBなんてシチュエーション無かったものだから…

ゲームと違って被弾はそのままパフォーマンス低下につながる…死に直結してくる。

安易な凸スナなんて出来ない、リスキー過ぎる…室内戦での取り回しは現状最悪を極めているからMk-23が最後の生命線になる…

私が潜伏してる施設にクソ人形が入ってきたら被害は免れないかなぁ…

 

ザッ

『通信設備に爆薬設置…対空機銃のコントロールルームを破壊しに行くわ』

『こちらG11狙撃地点に到達、支援するよー』

「了解…狙撃地点を変えるわ」

『了解、無理はしないでね?』

 

地点転換の時間だ…その前に…高台の見張り人形を…

 

パスッ…

「10…」

 

 

ザッ

『指令所占拠~後は適当に爆破しちゃっても良いわよ~』

『それそれー♪』

 

指令所の防衛メカも活動停止…人形も指示系統が停止して大混乱ね。

 

施設の窓から飛び降りてから改めて周りを確認…人形の姿はなし…

外周に沿って慎重に移動していけば…最初の狙撃に使った施設に似た宿舎のようなモノが立ち並ぶ。

私が目指すのは近場にあった見張り台その上から狙撃しようと考えたのだが…

もうちょっと正面寄りの施設に潜入して狙撃したほうが良いかな?

 

NVゴーグルを下ろしてからMk-23を引き抜き潜入…今回は私一人だ…油断できない。

この中に居るのが装甲型だったら最悪だけどね…Mk-23じゃ弾かれる。

扉を開け中を伺う、敵影らしきものは見えない…飛び込み構えるが敵影なし。

カッティングパイで確認しながら二階を確保に向かう…敵影無し…

 

二階の室内はクイックピークで確認…こちらももぬけの殻だ。

ふぅ、警戒したけどアンブッシュは無さそうだ…さてと…狙撃の的はどこかしら?

NVゴーグルを上げて417を構え、二脚を立ててからスコープを覗く。

慌ただしく動く人形が何体も施設から飛び出してきている。異常事態にようやく気づいたか。

416姉は完全ステルスやってたのね…やるぅ。

 

ザッ

「こちら417、連中異常事態ってようやく理解したみたいよ、警戒に飛び出てきてる」

『了解…45のヤツ早いのよ…』

『あら、416が遅すぎるだけよ~♪』

「ともかく、支援するから…G11もOK?」

『はいはーい』

 

作戦も大詰めだ、後はキレイに爆破して撤退しておしまい…

もうこうなれば多くの的を撃ち殺しておこう…

わーい楽ちーん、こんなの電子ゲームみたいね、ふふん。

 

とと、集団で各施設から飛び出しちゃって…良いのかしら?

もうバレてるようなものだし良いよね?グレネードの出番ね。

二脚を折りたたみ、角度を付けてからグレネードの引き金を引く。

ポンっと間抜けな音がしてから榴弾が発射され…

 

「どっかーんってね…纏まって動くからよ、間抜け」

 

地上に1輪の華が咲いて散った。

 

ザッ

『設置完了、撤退準備』

『じゃあ潜入したルート遡って帰るわよ~』

『遅れたら置いていっちゃうからね?』

『あーもう面倒だなぁ…417~あとでおぶって』

『タイマー開始…30秒後に爆破するわ』

 

よし、私も撤退しよう…さーて帰ったらうんっと褒めてもらうの。

 

 

――――――――――――

 

 

撤収しようと通信を切って振り向いた時だった。

2体の人形が入ってきた…すぐさま構えて撃ったが…向こうも反応速度だけは良い。

当然無傷とは行かず反射的に動いたから軽傷で済んだが…左腕をやられた。

痛い痛い痛い…痛覚を即座に切って弾頭を取り出す…くそ、疑似血液が止まらないなぁ…

バックパックの中に止血帯と包帯はあったっけか…

……人間から人形になってこんなのもぱっぱっと出来るようになって…ほんと、遠くに来ちゃったな。

 

あーくそ、さっきので私の位置完全にバレたかな…?

死角になってた部分から入ってきたのか…?あーくそ…クリアリングが不足していた?

 

「ごめん、しくじった」

『あら?』

「追跡撒くからちょっと遅れるかも」

 

命懸けのかくれんぼの開始ね。奴らの思考ロジックなんて単純だから撒くのはそう難しくないはず…

慌てるな、私はまだ生きている…囲まれたってまだまだ殺れる。

左腕が鈍くなったから何だって言うのよ…これくらい丁度いいハンデよ。

 

窓からクイックピーク…わらわらと銃声を聞きつけてやって来てる…逃走経路は…いや、待てよ…

グレネードの残りは9発…施設はかなり脆い…逃走経路が無いなら作れば良い…

ぎこちなくグレネードの再装填をしてから挨拶代わりに群衆に叩き込む。

仲間の犠牲など気にも留めないでこちらにまっすぐ突っ込んでくる…

 

「うぁっ…」

 

駄目か、もうこっちの居場所は完全にバレた…窓から構えて撃つのはもう無理だな…

クイックピークしてもすぐに撃たれる…もう駄目だこりゃ…室内でのCQB戦になるか…その前に逃げるかよ。

もちろん後者を選ぶんだけど。逃走経路は今バカスカ撃たれてる窓と入ってきた扉…他には多分ない。

じゃあ、どうするかって言ったら…二階の壁に穴を開けてそこから飛び降り。

マスターキーはグレネードってね!でもタイミングは…

 

 

「けほっ…空いた空いた…逃げるわよ…!」

 

首尾よく設備が爆発していく、それに合わせて窓の反対側の壁に大穴をこじ開けた。

クイックピークはもう無理だけど銃撃が止んでる辺りから想像して爆発音に全員振り向いてるか…

飛び降りてからよーく様子を伺う…影から慎重に…

 

「居ない…よし…」

 

さっさとこんな所トンズラするに決まってるでしょ。

ピッキングで開けられたフェンスはまだ開いてる筈…そこから…

 

「うひゃぁっ!?」

 

頭上を弾丸が通り過ぎていった、やばい見つかった!?全速力で逃げるんだよぉ!!

ひんっ、服が破けていくぅー!やーだー!!

 

今度は狙撃!?髪がいくらか持っていかれた!あーもうヤダー!!

 

 

――――――――――――

 

 

「この、バカ妹!どれだけ心配したと思ってるの!!」

「すいませんでした…」

「謝らないくていい…もう、無理だと思ったら助けを求めなさいよ…」

 

何とか密林に逃げ込めて難を逃れた。無線も叩き切ってたからお姉ちゃんが青ざめてて無線機に怒鳴り散らしてた。

ボロッボロになった私を見て駆け寄って抱きしめたと思ったらゲンコツ貰った…すごく痛い。

置いていくなんて言ってたくせに45姉も待っててくれて9姉は笑顔で拳振り抜いてる…やだなぁ怖いなぁ…

ホッとした反面安心して腰が抜けちゃって…へたりこんじゃった…あ、左手エラーダウンしてらぁ…

 

「417~♪」

「な、なにかな9お姉ちゃん…」

「心配したんだからねー…これからは家族だ」

「へぶっ!?」

 

私の頬に9姉の心配ファミリーパンチが炸裂した、私はそのまま気絶した…

 

 

――――――――――――D08基地司令室・朝

 

 

「で、その損傷か」

「はい…」

 

ズタッボロにされた私を見て指揮官は痛ましくこっちを見ていた。

羽織っている上着はボロ布になってるしブラもちょっと破損して危うい状態に。

スカートなんて穴開きでパンツ丸見え…痛ましいのは左腕の怪我…だらんと垂れ下がっている。

あとは9姉のファミリーパンチの跡か…

 

『妹が出来て嬉しかったのに…失うなんて事はしたくないわ…生きていて良かったわ…本当に』

 

416姉には帰りのヘリの中でめっちゃ泣かれたし45姉にも無茶は厳禁よ?と釘を差された。

あとやっぱり私の性格か慌てるとボロが出る…ペースを崩されると駄目っていうのが弱点だなーって自己診断。

こればっかりは人間の時と変わらない、慌ててないつもりでも慌ててる…

 

「とにかく生きて帰ってきてくれて良かった…工廠には連絡が行っている、すぐに修理を受けてくれ」

「了解…」

 

メインフレームの修繕って結構時間がかかるらしいけど…あーあ、メンテナンスのお兄ちゃんに怒られるかなー?

朝から大忙しにしちゃってごめんねー…

 

はー…生きてるって…良いね…




多分最初で最後の戦闘での417ピンチ回でした。
というか工作ってこんなんだっけ…?


*追記*
誤字報告ありがとうございます

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