残姉ちゃんは申し訳無いがキャンセルだ!
――――――――――――D08基地仮設兵舎・朝
「で、お姉ちゃんはなんで私の所に…?」
「料理を教えて」
「理由を聞いても良い?」
「私は完璧なのよ?料理も出来なかったら笑いものだわ」
朝からお姉ちゃんが私の所に来ていた。待ってよ化粧中なんですけど…
まぁ順当にお姉ちゃんが焦る頃と思っていたよ。料理のりの字も知らなそうだったし…
戦闘と業務一辺倒で女子力は見た目以外壊滅的だもんね…
「ぎゃんっ!?」
こ、コイツ…私の心を読んだか…ナチュラルに読心すんなぁ…ゲンコツ貰った、痛たたた…
「暴力反対~…」
「で、教えてくれる?」
「ゲンコツしなかったらすんなり…」
「417が失礼な事考えるからよ」
「はいはい…そういう事にしておきますー」
最近読まれてなかったから油断したけど…元が同じ人形だからすぐに割れるわ…
逆もまた然りだけどね…私はなんとなーくお姉ちゃんの考えは分かる。
建前は完璧な~って何時ものだけど…実際はお兄ちゃんへのアピールポイント稼ぎでしょ。
まぁ確証は無いしそういう事にしておいて料理沼に引きずり込もう。
どこから教え込もうかな~?見たこともないって感じだし…
「じゃあお化粧終わったら…」
「待って」
「んー?」
「その化粧も教えてくれないかしら?」
「ウッソだろお前…」
お姉ちゃんが完全に私と同じ道辿ってません?あ、ふーん…(察し)
まぁ良いや…お姉ちゃん化粧なしでも全然キレイだしやっぱりここはナチュラルにしましょ。
化粧水はこれで…チークは薄っすら乗せていきましょ、アイラインとかお揃いにしても良いよね?
「取り敢えずナチュラルメイクでいーい?」
「えぇ、よろしく…」
「じゃ失礼して…」
私のメイクは終わったし次は私のメイク道具でお姉ちゃんのメイクじゃーい!
鏡をずーっと持ってもらって見てもらいながら化粧を施していく。
こうしてみると私達肌が白すぎるんだよね…もうちょっと血色が良くても良いよね。
シミひとつ無い真っ白って言うのも良いけどね…儚い印象を与えちゃうからねー…何でか知らないけど。
チークを乗せたらうん、ちょっと人間味が増してとっつきやすい印象かな?アイラインを引けばキレイなお姉ちゃんがよりキレイに…
目がパッチリした印象になっていいぞ~…とガン見してるからこれじゃダメだな…
「片目閉じてー」
がっつりガン見してるお姉ちゃんがこわーい…片目閉じてももう片方の目が瞳孔ガン開きなんですもの…
いや、貪欲なのは良いことなんだけどね…怖いわ。ルージュを塗ってる時とかもガン見してるし…
「じゃじゃーん」
「…ふぅん、まぁ悪くはないかしら?」
「だいぶ印象変わったと思うよ?」
「そうかしら…明日の朝もそれ貸しなさいよ」
「はいはーい」
うわーこんな所までデジャヴ…明日お休みだから買いに行ってねー?
まぁ一人で出来るかどうか横で見てあげるわ。これじゃどっちが姉か分かったもんじゃないわ…
げ ん
こ つ
「くすん…」
私の頭はそんなにポンポンぶっ叩いて良い代物じゃないよー?
――――――――――――D08基地キッチン・朝
朝のキッチンは調理班が忙しなく動いている。何時もの風景だ。
そんなキッチンに新しい風でーす、メイド服に身を包んだお姉ちゃんの乱入だ。
コック長にちょっとお願いして一角を貸してもらう…お姉ちゃんに料理を1から教えるからね…
今日はお手伝いできないと思ってほしい…うん…
元人間で料理を少し知ってた私と違ってお姉ちゃんは完全に人形で料理の事なんてぜんっぜん知らないし…データ渡してはいおしまい…ってすると何しでかすか…
人形の中には英国面丸出しな人形も居るらしいしね…何でもかんでもゼリー寄せしたら料理なんて言うんじゃねーぞ。
あとスターゲイジーパイは個人的に料理と呼ぶか迷う一品…見た目がエグいんねや。
それはそれとして…料理クソザコなお姉ちゃんにしてもらうのは…ずばり、卵焼きでございます。
朝に嬉しいメニューですからね、それに簡単な加熱調理だ。ささっとしてもらいましょう?
まずはデモンストレーションで私がお料理するんだけどね…
手順は簡単、生卵を割って溶いてそれからちょっと調味料を入れて味を整えて…それからフライパンで焼く。
焼いてる最中に折を見て巻かないといけないけどこれは慣れだしね…まぁお姉ちゃんの場合は焼く時間を秒単位でカウントしてるだろうし…
強火でさーっとやればすぐに練習できますよ、ええ。何度失敗するかはお姉ちゃんのセンス次第。
「はい、お姉ちゃん…やってみ?」
「こんな簡単なことなのね…ふふ、見てなさい」
簡単?いやいや…まぁ口で説明せずにやってみせただけだからどこまで理解できるか…
生卵を掴んで…それから…ぁー勢いよく叩きつけすぎたね?ぐしゃっと行ったよぐしゃっと…
「お姉ちゃん…?」
「一体…何が…悪かったというの…」
「力入れすぎ、この殻にヒビが入る程度に…だよ?」
人形パワーに物を言わせたパワープレイをやらかしてくれたよ…正直やると思った。
…卵の割り方真似しなくて良いよ、片手で割るのは大変だよー?あ、今何入れた?塩?ぉーぅ…まぁ味付けとしては良いのかな?
何だかんだ一発目から片手割出来るのはスゴイと思うよ?何だよパワーコントロール上手いじゃん…
溶き卵にする手際はお見事、見ただけでも十分だね…最初のパワープレイは一体…
「あーやっぱりそこ難しいか」
「くっ…」
「お姉ちゃん、ちょっと失礼するよ」
フライ返しで私と同じ様に巻こうとして失敗してる…誰もが通る道だから仕方ない。
ちょっと手を取ってから私がかる~く返してみてから…っておいこれまだ火が通りきってなーい!!
半熟は美味しいけどね…そりゃ難しいわけだよ…
「うーん…出来なくはないけど、さっきのタイミングはまだ早かったかな?」
「そうなの…?」
「そうだよ。まだ火が通りきってないよ…いわゆる半熟って所…美味しいんだけどね」
焦がしてもアレだったけど…まぁ次だ次、練習あるのみだよ。
一品加えるってことで頑張ってるんだからあと30回は練習できるから、ファイトだよ。
だから割り方…あー今度は殻が手から滑ってるじゃーん!!
――――――――――――D08基地食堂・朝
「お疲れ、お姉ちゃん」
「料理って難しいのね…」
「何も知らなかった状態から短時間であそこまで出来るようになったのは驚異的だと思うよ?」
無事32個の卵焼きを焼き上げたのだけど…まぁ出来はちょっと波がありすぎるかなぁ。
でも最後の方はパーフェクト、コツ覚えるの早すぎない?
まぁ出来上がったのがあれだし…名誉のために私がやらかしたって事にしてるけどね。
完璧主義者のお姉ちゃんからしたら失敗したのが出回るのは耐え難いことだろうし…
私は名誉なんて別に…って所だし。
「失敗したってマジ?」
「俺らのメンテが不十分だったか…?」
「かもしれねーな…」
おぉっと変な所に飛び火しちゃったぞー?どうしよう…事情を説明するとお姉ちゃんがアレだし…
かと言ってこのままだとまた…いや、リハビリついでだったって言えばOKか?
実際最後の方はパーフェクトなんだし…うぐぐぐ…心苦しい。
お昼も頑張るみたいな事言ってたけど…それよりこっそり練習できるほうが良いでしょ…
あの兵舎が完成するまで待ってなって…料理を触りでも知っただけでも大きな一歩なんだから。
…次教えるのは無難な野菜炒めにしますか。焼き物で練習したほうが良い。
「………」
おーぅお姉ちゃんがすごーく悔しそうな顔してるぅ…ダメだったか。
めっちゃ歯噛みしてギリギリ…禁句言われた時と同じような反応だぞー?
「まぁまぁ…お姉ちゃんはまだルーキーなんだから…」
「417…特訓に付き合ってもらうわよ」
「はひ…」
G11はどこかにいなーい!?こういう時の宥めつかせるのはG11とかの役目じゃなーい!?
お昼もおやつ時も夕方もこれ拘束されるパターンじゃないですかやだー!
あと私の教え方は取り敢えずやって見せてやらせてダメな所を指摘する仕方だからなぁ…
完璧主義者なお姉ちゃんには合わないのかも…教え方変えた方が良いよね…
うーん…どう教えたほうがお姉ちゃんに合うのやら…普通にコック長に教えてもらっても…いや、教え方同じだったか。
「416と417が面白いことを」
「してると聞いてー♪」
げぇっ、事態を拗らせるUMP姉妹がやって来た…というかお料理のこと話してないよね?どこで嗅ぎつけた。
まさかお姉ちゃんと同じく盗聴器どっかに仕掛けてたりする?
あ、こっちに目が合った…意味深にニコぉっと笑った…あ、ふーん(察し)
「笑いに来たの?」
「いやー?丁度おやつを作ろうかなーって思ってたから」
「アップルパイを一緒に作らない?」
「…作れるの?」
「「もちろーん♪」」
おーや、思わぬ伏兵でしたね。この姉妹もお菓子は作れると?それもアップルパイ…
おやつの一品としては十分だね。練習にもなると思うし…あと気心の知れた仲に教えてもらうのはまだ良いんじゃない?
その時のキッチンは貸切状態だし人目を気にする事は無いしねー
「じゃ、おやつ作りで特訓しよ?」
「…そうね」
「うわ、すっごく不服そう」
「お料理は楽しくしないとダメだよー♪」
お料理の道は一日にしてならず…あ?私?細かいこたぁ良いのよ。
――――――――――――D08基地キッチン・昼下がり
「という訳でー♪」
「アップルパイをー」
「作っていきましょー」
「「「おー♪」」」
「……おー」
不機嫌ありありとしたお姉ちゃんを他所に私とUMP姉妹はとにかく楽しくお料理することにしました。
私はお姉ちゃんにつきっきりで…UMP姉妹はデモンストレーションだね。
先ずはパイ生地を作っていくんだけど…薄力粉と強力粉をボウルに入れて泡立て器で混ぜ込む。いわゆる粉ふるいって奴だね。
この工程が終われば次はキンキンに冷えたバターを出す。まぁ冷蔵保存されてるからこれをカットしてボウルの中へ。
そして木べらで細かくしていく…練るんじゃないよ。
「どうしてこうも面倒が多いのよ…」
「あははは…あ、そこまででOK…次は水を入れて引き続き混ぜる」
まぁ生地づくりは寝かせる段階があるから時間がたっぷりかかる。面倒は多いけど出来上がったら美味しいから…ねっ。
混ぜ終えた生地は整形して冷蔵庫へポイ、一時間くらいかかるんだ。
「は?一時間も待つの?」
「マジだよー」
「じゃ、その間に今朝の失敗談を聞かせてもらいましょうか~」
「どんどんぱふぱふー♪」
おいやめろ、お姉ちゃんのメンタルが死ぬ。あと私も死ねる。
結局こうやってわーわー騒ぎながらのお菓子作りは何だかんだ成功で終わりました。
お姉ちゃんもアップルパイの作り方はしっかり覚えたみたいだし…少しづつレパートリー増やしていこうね。
やべぇ外出届出してなーい!って夜に慌てたのはナイショ
きっとだけどUMP姉妹は何だかんだ女死力高いと思う。
416は今から女子力上げていってもらう。あと姉妹でお料理とかしてもらいたい。