「バレンタインデーだね」
「あぁ、バレンタインデーだな」
「お兄ちゃん」
「んー?」
「こんなに食べ切れる?」
「ちょっと無理」
「ですよねー」
人形達のボイコットで一日無理クソ休みになった基地。日付は2月14日。
指揮官の机の上にはどっさりとチョコレートが積まれていて見ているだけで胸焼けがしてくる。
どうしてこうなった?そりゃ勿論今日が恋する乙女の聖戦の日だからだよ。
バレンタインデーと言ったら恋人や大事に想っている人に贈り物をする日だ。
何時からかその常識が歪められて好きな人にチョコレートを贈る日なんて事になっている。
元を正せばキリスト教の話をすることになるんだけどね。私は無神教だから知らない。
だがしかし、残念ながらお兄ちゃんがこうなるのはもう私は知っていた。
時間は遡り前日になる。キッチンに大挙して指揮官Loveな人形が押し寄せ占拠した。
勿論その中には私も居たんだけど…作る側では無く作り方を教える側としてだ。
料理下手とは言わないがイロハが分かっていない人形に泣きつかれたからだ。
鬱陶しいと一蹴しても良かったんだけど…変なのお兄ちゃんに渡されても困るんだよ。
ということで私、スプリングフィールド、FALが教師として教鞭を執る事になった。
UMP姉妹は面倒臭いからってパスしたしお姉ちゃんは自分ひとりでするって言って宿舎のキッチンに篭った。
まぁあの小さなキッチンに何人も籠もることは出来ないので…食堂のキッチンを借りた!借りたんだ!
男には分からない乙女の聖戦なんだよ、少しの間目を瞑っていてね。
ここでこのチョコ作りに参加した人形を紹介しよう。
ツンデレ一強、別に指揮官のためなんかじゃないんだからね!WA2000!
家庭的ではありますけどチョコ作りより編み物が得意なんです…G36C!
ツンデレちゃうわ!天然やらかすおっぱいちゃん、MicroUzi!
ダーリンのハートはわたくしの物!誰が呼んだかサキュバス、Mk23!
指揮官のハートを狙い撃つのは私よ!私の妹分G28!
以上の5体を3体でティーチングした訳で…さーこれが大変なことになった…
それぞれ作りたいと言うチョコレートは異なっていてこれが面倒臭い。
全員そろってハート型のチョコレートって言ったら楽だったんだけど…
わーちゃんは手作りトリュフチョコを所望してG36Cは小分けのチョコ詰め。
Uziはベタなでっかいハート型、Mk23はチョコチップクッキー…G28は生チョコ。
因みにスプリングフィールドはチョコケーキ、FALはチョコタルトと来た。
重いぞ、これはお兄ちゃんの胃には重いんじゃないか?私はそう訝しむ。
という訳で私はチョコやお菓子からは離れよう…編み物で手袋を贈ろうと思った。
因みにチョコを贈ろうと思ったらG28とモロ被りでした。生チョコ美味しいじゃん?
普段から作っているクッキーや作ろうと思っていた生チョコとかの兼ね合いから私がMk23とG28の顧問を請け負った。
Mk23は聞き分け良いから問題ないんだけど…G28がねー…自分勝手というか…
レシピ通りに作ればいいのにアレンジを加えようとするタイプのメシマズちゃんフラグビンビンだった。
止めなかったらとんでもないのをぶち込んでチョコを台無しにしそうだったのは書き加えておく。
本当は洋酒をと思ったけどチョコと生クリームだけで精一杯だったので断念。
あとFALから止められた、味見で酔っ払ったら知らないわよってね。
どんな酔い方するか教えてくれても良いんじゃない?
目を離すと何をしでかすか分からないG28に付いて適時Mk23に指示を出していたんだ。
案の定G28は香りが良いからと香水を混ぜようとしたりスパイスを入れようとしたり…
どこから用意したって言うような物を次々に混ぜようとして疲れた…
テンションに任せてあれこれ入れようとしてる疑惑が持たれるけどそれはまた今度。
ブチギレた私がバカな妹にアームロック仕掛けて黙らせた後さっさとMk23に手ほどきしたのさ。
あれこれ勝手にしないで言われた通りにしてくれるから助かったよ。
ただ効率化を図って手順を端折るな、美味しいクッキーが焼けないぞーとなったなぁ。
手順自体は簡単、バターを溶かしながら混ぜてクリーム状にしていき…溶き卵と砂糖を混ぜる。
その次に薄力粉を混ぜて…今回はチョコなのでココアパウダーを混ぜる。
練上がった生地にチョコチップを混ぜ込んで寝かせる。ちゃっちゃと教えてしまえばあとはなんとかなった。
元々女子力高めなMk23に問題は無かったんだ。コレを機にお菓子作りしよ?
で、問題児の我が妹…生チョコづくりなんだが…
カカオ豆から作るとかほざき出した時はど突き回したんだけど…そんな時間は無い!
諦めて既存のチョコレートから作ろうねー…って事で使用するのは市販ミルクチョコレートと生クリームだ。
手順自体は簡単明解で…チョコレートを細かく刻んであっつあつに熱した生クリームと混ぜ合わせていく。
んでもって出来上がったペーストを型に流し込んで…冷やしてからナイフで切り分ける!
オーブンシートなんかを敷いていたら取り出すのがとっても楽なんだ。
あとはカカオパウダーをふりかけたりしたら見た目もGood♪
溶かす段階はゆっくりとダマにならないようにしないと行けないんだけどね…
まぁここは出来なかったとしても美味しいチョコにはなるからOKさ。
殆ど私が横から口を出したから間違ったことはさせてないし味見もさせてるから変な味には仕上がっていない。
少なくともお兄ちゃんが食べて気分悪くするような要素は無い。
余談だけどスプリングフィールドが顧問を務めたわーちゃんは見事に焦がして苦笑いを誘った。
作った本人は得意げにしていたけど…味見をしてからギャン泣き。
なんでそうなったかって?そりゃプライドの塊なわーちゃんだよ?
教えてもらうまでもなく出来るわよって強がってこっちの見よう見まねで溶かしていってやらかした。
その間スプリングフィールドは何時でも駆けつけれるように隣でケーキ作ってた。
しかもまさかのホールケーキ…お兄ちゃん一人にどれだけ食わせるつもりなんだか…
実物みたお兄ちゃんの反応?うわぁ…って言ってた。
まぁそんな大騒動があったわけで…今のこのチョコラッシュになっている。
編み上がった手袋はお兄ちゃんに渡したけど…私もチョコを渡したほうが良かったかな?と思ったり。
私の好意については気づいてくれてるかなー…とは思ってるけどね。
ich liebe dich Kommandant by 417なんて編んじゃったけど…読めるかなー?
「お兄ちゃん」
「んー?」
「一日じゃなくてもいいからちゃんと食べてあげてね?」
「善処する…417も一緒に食べてくれね?」
「ん、わかった」
恋敵の想いを噛み砕くのは忍びないけど…お兄ちゃんのお誘いを蹴るなんて選択肢は私には無いんだよ。
「こういう甘ったるいのを食べる時はウィスキーとかどう?」
「お前は絶対に飲むなよ!」
「分かってますって」
だから酔った私はどうなるんだ?教えてくれよお兄ちゃん…
調理中の事や一番わーちゃんが頑張ってた事やら話しながら…バレンタインデーの昼下がりはこうして幕を開けた。
スプリングフィールドがコーヒー片手に乱入してきたから二人っきりとはいかなかったけどね…チッ…
所でお姉ちゃんを見てないんだけど誰か知らない?
「そういやあのデカい箱は何だったんだろうか…」
「んー?」
「いや、俺の部屋にデカい箱があったんだよ…」
まさかねぇ…自分がプレゼントだ…なんてことをしてないよね?
一番ぶっ飛んだ行動をしてる姉が居るらしい。