――――――――――――D08基地共有スペース・朝
貴重な基地の全休日の朝、シャツとジーンズに着替えて共有スペースに出てくると何か騒がしかった。
何事かと思うけど一人がギャーギャー騒いでるだけみたいだから事件性は無いんだろう。
今日は出かける予定もないし私は私の休日を堪能するだけだ。
いや、久しぶりにロードバイクで駆け回るのも良いかな?
寝て過ごすのも魅力的ではあるけど折角の休みに好きな事をしないで終わるっていうのもなんだかなぁ。
G11の部屋を覗いたけどまぁ予想通りの寝て過ごすつもりなんだろうね。
G28はお買い物に出かけるらしい、まぁ小物を買うくらいだろうね。
お姉ちゃんは何してるんだろう…朝から姿が見えないんだけど。
いや、まさか騒いでいるのがお姉ちゃんってオチは無いよね…?
そ の ま さ か で し た 。
ゲームスペースで騒がしく怒鳴り散らしながらゲームに興じていたのは我が姉であった。
アーケードゲーム筐体の中でも異色を放つLeft4Deadの筐体に齧りついていた。
本来のL4DのプラットフォームはPCなのだがこの基地にPCは無い。
その代りにあったのがアーケードエディションと言われるL4Dだった。
PC版の劣化コピーなんて散々ぶっ叩かれた物だけどそもそものL4Dが良作だからね…
というかコレも半世紀前の代物なのによくあったものだよ…I.O.Pが一枚噛んでるのかな?
「あぁあぁああああああ!!なんでARがM16なのよこのクソゲー!!」
お姉ちゃんの怒りの殆どはこれに尽きる。M16という存在に対してえらく食いつく。
もっぱらゲーム内で担いでいるのはAK47だ…発射レートは若干劣るが単発火力に秀でるARって味付け。
あ、ちなみにL4Dはいわゆるゾンビゲーに分類されるFPSになる。
大量に出てくるゾンビを撃ち殺す一人称視点での銃撃戦ゲームだ。
人間の頃に一時期ドハマリしたゲームでガチ勢入りしたこともあるゲームだ…懐かしいな。
筐体は一個だけじゃなくてご丁寧に2人分用意されている…これはアレだね?乱入しろって事じゃな?
「よう、お姉ちゃん…楽しそうじゃん混ぜろよ」
「417?」
返事を待たずに隣の筐体に座ってスタートボタンを叩く。操作法はもう直感的に分かる。
筐体に据え付けられているものはモニターとスピーカー、ジョイスティックにマウスと言うPCを踏襲してるものだ。
ただし操作ボタンが圧倒的に足りてないのはご愛嬌、右クリックでゾンビを殴れるんだけどこれにアイテムを拾うのも紐付けられているっていうね。
途中参加したけどお姉ちゃんがプレイしているのはまだまだ序盤も良いところ。
ようやくSMGから上位武器がPOPする面に入ったって所…ガンショップでARのラインナップを見てキレてたんだろうね。
じゃあその前に騒いでいたのは…多分特殊感染者の露骨なプレイヤー狙いにキレてたな?
「ふはははは、かなり離れていたけどハンター殴りなんてお茶の子さいさいよ」
このゲームで重要なのは行動不能にならないことだ。
特殊感染者って言うのは複数体居て普通のゾンビと違って特徴が存在する。
飛びかかり抑え込んで殺すか殺されるまで弄ぶハンター。
飛びかかり倒れるまで頭上に乗って行動を阻害してくるジョッキー。
長い舌で絡め取り引きずって締め上げるスモーカー。
異常発達した片腕を盾に突っ込んできて捕まえたらひたすら叩きつけるチャージャー。
特殊な胆汁というゲロを吐いてきて視界を悪くする上集中砲火させるブーマー。
酸性の唾を吐いてくるスピッター。そして筋骨隆々異常発達したタンク。
タンクはあまり出てこないけどそれ以外の特殊感染者は結構な速度でPOPするから適時処理していかないといけない。
特に速攻処理しないといけないのはハンター、ジョッキー、スモーカー、チャージャーの4体。
こいつらがまぁ捕まったら行動不能になるからね…飛びかかってくるハンターを殴るのは一応上級テクに分類される。
慣れてしまえば片手間に殴り落としてそのまま処理出来るようになるけどね。
「あーもうまた…どこから湧いて出てくるのよ!!」
「はいはいお疲れ様ー」
お姉ちゃんがスモーカーに捕まった所を殴って救出、そのまま舌の伸びた先を辿って本体を撃ち殺す。
FPS初心者のお姉ちゃんは取り敢えず慣れようね、このゲームの雰囲気にも操作感覚にも。
普通のFPSとは違ってかなりカジュアルな挙動だから慣れたら楽しいよー
初心者にありがちなフルオート射撃しても暴れないのは素晴らしいと思う。
まぁお姉ちゃんは初心者でも現役の戦術人形だから指切りはちゃんとしてるしクリアリングもしっかりしてる。
「え、何このBGM?」
「あータンクだねーいわゆるボスが出てきたんだよ」
「何よあのデカいゴリラは!」
「取り敢えず鉛玉をプレゼントしてあげようねー」
想定外の敵の出現にお姉ちゃんが珍しく取り乱してるな。
M16ショックもあって荒れ放題なお姉ちゃんも珍しいしちょっと見てたい…
おっとチャージャーが湧いたな…このゲームは音が結構重要である。
特殊感染者が湧くと特定の音階の音が鳴るそれで判別も可能である。
あと定期的に特殊感染者は鳴くからそれでも判別は可能だけどね。
そしてやれると気持ちがいい…突撃チャージャーHS殴り。
傍から見たら突進してくるチャージャーを一発で殴り殺したみたいになるからスカッとするんだよね。
なお失敗したら行動不能になるからかなりリスキーなワザである。
「突進が来なかった?」
「あ、もう処理したからOKだよー」
「ゴリラも処理したわ」
「チェックポイント近いから走っちゃおうか」
このゲーム意外と時間を食うのだ。早めのゲーム進行を心がけないと平気で30分位食われる。かなりの時間泥棒なのだ。
それにしてもお姉ちゃんがこの手のゲームに興味を示すとは驚きである。
よく見たら筐体の横に軽食が散らかっている…おい、まさかね…
「ねぇお姉ちゃん…朝食は?」
「もう食べたわよ」
「その隣に散らかってるチョコレートバーなんて言ったら怒るよ」
「……」
「おい、お姉ちゃん?」
もしかしなくても生活力クソザコ疑惑が浮上したぞ。
目をそらして誤魔化そうとするなよちゃんと妹の目を見てよ、お姉ちゃん?
「お姉ちゃん…」
「な、何かしら417?」
「ゲームの前に一緒に食事作ろっか♪」
「そ、そうね…」
「拒否ったら電源ぶっこ抜いてたからな」
お姉ちゃんの首根っこひっ捕まえてキッチンスペースに引きずっていく。
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「よくそんなズボラな事して完璧なんて言えるね、えぇ?」
「そんな事ないわよ、手軽に済ませるのも」
「あぁ?何いってんだ女子力壊滅お姉ちゃん」
「ぐはっ」
「そんなんじゃお兄ちゃんにも幻滅されるぞ、おらシャキッとして料理すっぞおらぁん」
「ぐふっ」
半ギレの私の口撃にお姉ちゃんが若干涙目になった所でエプロン装備させてお料理開始じゃい。
まぁ手軽に済ませるのも良いけどね、ズボラと手軽は違いますぅ。
この分だと部屋もそのうち汚部屋になりかねないな…家事を叩き込むか。
この姉多分だけど教えてもらってない=知らないになってるな?
まぁ戦術人形として生まれたなら家事の事なんて二の次だろうし知らなくても当然かぁ?
だがこの姉は完璧を自称しているんだ…そう、完璧なんだ…そんなの許されると思ってか!
「手軽にサンドイッチ作るよ最低でもちょっとは手を加えようね…」
「わかったわよ…」
今回作るサンドイッチは超ズボラでも作れる手抜き飯だよ。
作り方は簡単、出来合いの食パンに野菜を適当に乗せてマヨネーズで味付け、そして半分に折って出来上がり。
簡単3ステップだよ、これで美味い飯が食えるんだから良いだろ?
私が人間の頃によく使っていたズボラ飯だ。最低でもこれくらいはしようぜ。
ここで女子力を発揮させようと思ったらちょっと洒落てアボカドとかサーモンをトッピングするのかな?
「あ、G36そこのゴミは片付けないで、この残姉ちゃんに片付けさせるからー!」
「わかりました…残姉ちゃん?」
「ちょっと!?声が大きいわよ…」
「面白そうな」
「気配を」
「感じ取ったのでー☆」
うわ、UMP姉妹とG28が飛び出してきた。G28テメーは買い物に出ていくんじゃないのかなー?
珍しくしょげているお姉ちゃんを見て面白いのを発見したとばかりにUMP姉妹がからかい始めた。
「朝から騒いでると思ったらしょげちゃって~なにがあったのかしら~?」
「残姉ちゃんなんて言われてしょげちゃった感じ?ねぇねぇ♪」
「完璧な人形なのにずいぶんと…ぶふーww」
「あんたらねぇ…ぶっ殺す!」
「あーあ…後片付けどうするんだよ」
私をほっぽりだして3人相手に追いかけっ子を始めたお姉ちゃん。
因みに食事は相当早く掻き込んで飲み下している…早食いは完璧だなオイ。
私はゆっくり食べたいからちまちま食べてるけど…あーあ家具を張り倒して片付け範囲が広がっていく。
私はブチギレないけど…私より怒らせたら怖いのがキレるよー?
「あらあら♪朝から元気いっぱいね…そんなに遊びたかったら外でやれぇー!!ぶるぁぁぁあああああぃ!!」
あーあ、この基地きっての戦闘狂がキレた。言わずもがなFALである。
動きのキレがすごいな…逃亡を図る45姉にドロップキック、その反動でさらに9姉に飛びかかり張り倒し…
パワープレイでお姉ちゃんにはノーザンライトボム、G28はぶるぁが効いたのか竦み上がって固まってるし…
「ごくん…ふぅ、取り敢えずUMP姉妹は私室に放り込むか」
お姉ちゃんは水でもぶっかけて起こしてから片付けさせよう。
掃除というものを叩き込まなくちゃいけない…
私室をちらっと見たらすでに軽食の食べた後のゴミが散らかっていた…やっぱりこの姉生活力が死んでる…!
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ちょっと教えたらすぐに片付けなんてお茶の子さいさいと言った様子で片付け始めた。
それでようやく完璧なんだよ、このポンコツ姉…
ただ文句言いながらするのはいただけねぇなぁ…元はと言えばおめーが散らかしたんだろうがっ!
「いった…何するのよ!」
「文句言ってばっかりで自分でやったことだろうがや、ちゃんとケツを持てや」
「417?ちょっと言動が」
「あ"ぁん?」
「な、なんでもないわ…」
普段てめーはG11に厳しいこと言ってんだろうが、自分がされる覚悟はあったんだろうなぁ?
妹は鬼おこだよ!この姉の残姉ちゃんっぷりになぁ!!
あまりのおこっぷりに昔が少し舞い戻ってきたよどちくしょう!
「兎も角…これで生活力は良いよね?あの汚部屋をお兄ちゃんに見られたら引かれてたからね?」
「もう良いでしょ…」
「完璧なんて言うんだからその辺も完璧にね」
私の目が黒い内は許さへんで。
この基地以外の416はきっと完璧だから(震え声)
こんな扱いですが弊基地では結婚している人形なんですよね…