元はぐれ・現D08基地のHK417ちゃん   作:ムメイ

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真面目に訓練


Day53 訓練

――――――――――――D08基地シューティングレンジ

 

 

集中しろ、簡単な事だ…私は人形、人間と違ってすぐに上達できるんだ。

目を閉じて右手を開いては閉じてを繰り返し右股に吊り下げたMk-23を撫でる。

カウントが始まる…目を開いて前方を睨む。引き抜く動作を確認する。

 

パンッパンッ

 

カウントゼロ、立つ的に対して最速でMk-23を引き抜き頭を狙い撃つ。

クイックドロウでの殺傷の習熟訓練だ。きっちり頭に二発叩き込んでやるが…

んー…正直これでは微妙だな…ヘッドには当たっているが一発目がかなりギリギリのラインだ。

 

私の得物であるHK417はとてもではないが室内戦や遭遇戦では取り回しに困る。

そうなると取り回しの良好で致命傷を与えるに至るMk-23で戦闘する必要がある。

今までおざなりにしていた訓練を今しているのだが…芳しくない。

訓練でこれだから咄嗟の状況下ではもっと命中精度は悪い。

一発目で頭のど真ん中に当てれるくらいにならないと…あぁくそぅ…

システムの支援が無ければ私はこんな物か…やれやれだ。

こんなんだからあの夜に負傷する事になったんだよ。

構え方が悪いのか…それとも引き抜き動作に問題があるのか…

修正しながら見ていかないとな…もう一度同じ様にクイックドロウだ。

 

同じ的に対して狙うのは首だ。頭よりも的のサイズは小さくなる。

左右のブレは許されず上下のブレもあまり許されない。ここを的確に当てれるようになれば…

 

パンッ

 

一発放った弾丸は的の首ギリギリを掠めて行った。ダメだ。これでは自分が撃ち殺されている。

思わず歯ぎしりしてしまう。何がいけないんだろうか?

引き抜いてから構えてみる…肩肘は変に張っている事もない。射撃フォームは悪くないはずだが…

このまま撃ってみても狙った場所にすっ飛んでいく…引き抜き動作はどうだ?

一度ホルスターに収めてから引き抜く…構える…微妙に右にズレている?

 

「やってるわね」

「お姉ちゃん…んー、今問題が発覚した所」

「そう、ならそれを克服することね」

 

私の癖になっているのだろうか…矯正しなくては。

引き抜き構える…やはり微妙に右にズレている…

 

パンッ

 

試しに撃ってみてもやはり右に逸れている…リコイル吸収時にも変な方向に出るから余計にずれるんだ。

うーん…原因はわかったがコレをどう矯正していこうか…

 

「握り方がなってないわね…」

「お、お姉ちゃん?」

「完璧な射撃フォームはこう」

 

おおう、お姉ちゃんが背後から私の姿勢を矯正しに来た…

この姿勢をメモリーして…引き抜き後に取れるように動作修正…

ホルスターに収めてから再び引き抜いて構える…おぉ、ズレが無くなっている。

 

「そもそもアンタは狙撃兵な訳だからこんなのは覚えなくても良いはずだけど?」

「護身の為だよ…あの夜みたいに不意を突かれる様な事はもちろんだけどCQB戦で足手まといになるつもりはないから」

「そう、なら勝手にしなさい」

 

つっけんどんにお姉ちゃんは言ってから私から離れて射撃訓練を開始した…

私生活は残念っぷりが激しいけど、こういう事にはストイックだからね…

じゃ、私はこれでどれだけ的当て出来るようになるか…試すか。

的を取り換えてからまたカウントから始める…今度は大丈夫なはずだ。

 

パンッパンッ

 

カウントゼロ、ホルスターからMk-23を引き抜いてからすぐさま構え、トリガーを引く。

乾いた火薬の炸裂音が響く。私の狙った通りに弾丸は真っすぐ飛んでいく。

誤差数ミリで脳天ど真ん中に穴が2つ空いている…よし、これで良いな。

お姉ちゃんには後でお礼言わないとね…えへへ♪

 

ついでだから417でももうちょっと射撃してみようかな?

今回は狙撃じゃなくてフルオート射撃でどこまで精度を保てるか…

20インチバレルでのCQB戦を想定して…レッツゴー!

 

 

ごめん、人形ボディでもこんな暴れ馬で精密射撃はできません。

 

 

――――――――――――D08基地キルハウス訓練場

 

 

シチュエーションをCQB戦とするならばこの訓練場以外にありえますかね?

室内戦を想定したキルハウスが鎮座しているのですからこれを使わない手はない。

電子制御が組み込まれてペイント弾がヘッドや心臓に着弾したら引っ込むタイプの的がランダムに配置される。

更に一般的な鉄血人形が接敵から反撃に移るまでのレスポンスタイムを反映していて設定さえしてしまえばエリア侵入から排除までに時間が掛かれば即終了とする事も可能。

お姉ちゃんの記録を見てみるが…単騎でも制圧していっている…的確にヘッドを一発で撃ち抜いてだ。

基本的に使うクリアリングのテクニックは私が知っているものばかりだけど…精度が違うのかな?

いや違うんだ、データの積み重ねが違う…私の想定する動きとお姉ちゃんの動きは剥離している。

これが効率化された人形の動き…流れるように的が引っ込んでいく…

 

クイックピークで状況確認、4体確認…飛び出し2体を沈黙させてそのまま遮蔽物に身を隠してから銃だけ出して的当て…

この間掛かったのはたったの3秒…接敵から反撃に移る秒数は2…弾幕に晒される前に安全を確保して一方的に潰している…

私なら?一匹一匹慎重に潰してる…こんな大胆なことは出来ない。

その間に残りが反応して弾幕を張ることだろう…うーむ…となると私的には詰みになる。

うーむ…私でも出来る所までやってみよう…為せば成るが私のモットー!

 

訓練終了条件は制限時間と的が全部引っ込む事と接敵後指定秒数経過内に仕留めきれない場合。

クイックピークでは接敵判定にならないからそれで如何に状況確認するかが重要になってくる。

今回設定したのは反撃に移行して弾幕を張るに至る秒数…3だ。

奴らの簡単なロジックでも反撃というものは簡単に出来る。ただ撃ってきた相手を見つけてトリガーを引くだけ。

レスポンスタイムとしては上等でしょ、I.O.Pの人形の腕の見せ所よ。

 

スペアマグは2本、慣れた我が半身417を担いでキルハウスのスタート地点に立つ。

セミオートRF用のメニューということで的の数はARに比べて抑えめ…出来るはず。

無機質な電子音でカウントダウンが始まる。一歩踏み入れればそこから戦場だ。

気を引き締めて行こう…即落ちなんて無様は晒せないぞ。

カウントゼロ、扉が開け放たれる。意気揚々と飛び込まず先ずはクイックピークで状況確認。

的は無し、入り口はクリアか…取り回しは悪いが構えて進んでいく。

残り時間は長くはない、慎重に迅速に的確に敵を排除する。

第1セクションは問題なし、第2セクションはどうだ…?おっと的が2個かほぼ対角に配置されていて一個は照準を置けば良いだろう。

残り一匹は即座に反転してから撃ち抜かなくちゃ…エントリー!

 

ダンッダンッ

 

大きく飛び込みながらエントリー後右に配置されている的を撃ち抜いてリコイルを利用して反転撃ち抜く。

ん、上手く行った2体までなら対応可能だね。次だ…状況確認、的は2…固まっている。

飛び出すまでもなくリーンインしてからそのまま撃ち抜けばOKだね。

 

ダンッダンッ

 

一人のみのキルハウスに7.62ミリ弾の銃声が響いていく。

私の初のキルハウスのスコアは最終セクションでゲームオーバーで終わった。

RF人形用メニューだが最終セクションは容赦なく4体の的が出てくる。

私の処理能力では後1体が殺せなかった。無念…

でも417を振り回してのCQBも出来なくはない事がこれで分かった。

今度はツーマンセルでの潜入訓練とかできたらしてみたいけど…

いや、一人でイメージトレーニングだけでも出来るか…

最悪お姉ちゃんの戦術データを読んで反芻するだけでも違ってくる。

RFとARでは立ち回りは全然違ってくるけど事CQB戦や潜入戦では差は無いに等しい。

 

「あれ?417じゃない何をしてたのかしら~?」

「ん、45姉…CQB訓練だよ」

「一人で~?」

「うん、一人で」

 

暇を持て余したんだろう45姉が訓練場の方に遊びに来ていた。

訓練をしていたと言うとコンソールでデータを呼び出して私の動きを見始めた。

感心するでもなく何でも無くただじーっと画面を見ている。

 

「根本から言っていい?」

「ん、どうぞ」

「417の持ってる長物でCQB戦する方が間違ってるわ、そもそも417は狙撃メインのRF人形でしょ?」

「いや、でもねしておいて損は無いでしょ」

「それより狙撃の腕を磨きなさいよ」

「うぐふ…」

 

悪いことじゃないけどねーと付け加えて45姉は私の頭を撫でていった…

狙撃の腕を上げろって言ってもここのシューティングレンジでは交戦距離が狭いしなぁ…的を小さくしたらいいのか?

それともなにか別な訓練方法を考え出して…ん?これは…そうだ、コイツを使おう…

転がっていた空き缶…これを見て私はある訓練方法を考えついた。缶蹴り狙撃訓練じゃ…!

 

やることは簡単、全力人形パワーで缶を蹴り飛ばして空中を高速移動する空き缶を撃ち抜く。

これが出来るようになればどんな標的も…よっしゃぁやったるぞー!

っとリフレッシュ目的でコーラを1缶開けよう…コイツを的にしちまえ。

 

 

――――――――――――D08基地シューティングレンジ外

 

 

さて、やりますか…缶蹴りなんて何時以来だろう?

訓練用のペイント弾を装填して準備バッチシレッツゴーじゃすてぃーん!

 

「そぉい!!」

 

唸れ私の黄金の右足空高く空き缶が舞い上がる、豪速球だぜ。

すかさず膝立ちで417を構えてスコープを覗く…見えた!

 

ダンッダンッ

 

当たったかな…?軌道がちょっと変わったと思うけど…落着したヘリパッドに拾いに行くか。

連続してやれないのは残念だけど散らかすわけにも行かないしね。

あとヒット確認しないと…んー…この辺に落ちたと思うんだけど…

お、あったあった…どれどれ極彩色になってるかなー?

んー…残念掠ってるけどクリーンヒットじゃない。もっかい!

今度はど真ん中ぶち当ててやるぅ!私はやるぞぉ!

 

「お、何だ何だ?」

「417ちゃんが缶蹴りしてるっぽいぜ」

 

「どっせぇい!!」

 

外野はどうでもいい、それより訓練なの。一度蹴って変形した缶をまた蹴り飛ばして空高く舞い上がらされて…

膝立ちで構えてスコープを覗き…標的を収めてからトリガーを引く。

お、今度はきっちり当たったかな…手応えありだぞー

 

「見たか?」

「あぁ…納得のブルンバスト…」

「カメラに撮っていたぜ」

「「ナイスだぞ」」

「へぇ、その映像を見せてもらえないかしら?」

「げぇっ416(セコム)!」

 

ん、ど真ん中だ…よし、これをもっと早く的確に…

およ?外野が居た気がするけど…どこに行ったんだろう?

まぁいいや、この缶が使えなくなるまでこの方法で鍛え上げよう。

私はまだまだ強くなるんだー!




キルハウスの下りは妄想、空き缶は某アニメからインスパイア。


追記

毎度誤字指摘どうもです。ありがたや…

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