元はぐれ・現D08基地のHK417ちゃん   作:ムメイ

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パンピから人形に変わって何ヶ月?まぁこんなのも慣れるよね。


Day80 慣れ

――――――――――――D08前線

 

 

んー…的当ても飽きてきたわね…ちょっとスリリングな事もしてみたいわね。

私ばっかり動いてても他の人形の経験にならないし…考えものよね。

まぁ私が動かなくても戦線的には問題はない筈だし…お兄ちゃんに打診してもいいかなぁ。

私はちょっと行動阻害の為のサプレッションに留めておいてキルは他に譲るってやり方。

まぁサプレッションが人形に適応されてるか知らないけどさ。人間に近いからあるんじゃない?

それか私だけペイント弾に換装してセンサー類を狙撃してやるってやり方。

まぁあれよね。私は大分最適化が進んでるからあとはのんびりでいいでしょ?

支援攻撃ばっかりでいいじゃん?その方が皆の経験になるし。

 

「あ、敵発見」

「マジマジ!?やったぁ突撃ぃ!!」

「派手に燃やすわよー!!」

「ちょっと待ちなさいってばぁ…もう」

「今回は私支援に徹するから、M14が好きにやっちゃいなよ」

「了解!本気出しちゃおっかなー?」

 

なんて思ってたら敵がわらわら出てきたもんだから…ま、試しにやってみましょ?

双眼鏡を下ろしてから417を担いでセレクターをセミにもっていく。

初弾装填済み、後は狙う場所は…奴らの武装だ。私がやるのは無力化。

まぁ人間相手とかなら足とか撃ち抜けばそれでどうにかなるんだけど…

膝とか撃ち抜かれたら動けなくなるよ。痛みもスゴイし物理的にも這いつくばることになるし。

大体の人間の精神性だとその時点で戦意を喪失して動けなくなるよねー

 

ダンッダンッ

 

ほい、まずは一体、武装を持った腕を吹っ飛ばす。おーおー血がドッパドパ出てらっしゃる。

推定稼働時間は残り20分だけど…まぁその前に撃ち殺されるから変わんないか。

すぐに死ぬかじわじわ死ぬかの差しかない。あはは、慌ててる慌ててる。

 

「見えたー?」

『一匹武装ロストしてるねー、やるぅ』

「こういうので支援するからよろしく」

 

さてと、撃ち込む弾は多くなるし…支援ってだけの縛りも偶には良いね。

そーれそれ、もっと惑え惑え…あははは、泣き叫んでみせなよ。私をもっと楽しませて?

おもちゃはおもちゃらしく楽しませなさいよ。ほらほらほら。

 

「うわぁ…417がすごい顔してる…」

 

M14が何か言ったけど聞こえないなぁ。両腕失った人形が逃げようとしてる…

逃がすかよ…お前はここで死ぬんだ。足を撃ち抜いて地面に縫い付ける。

藻掻くか?抗うか?でもそんなのは無意味だよ…お前はここで死ぬ…

ん、スコーピオン達が接敵、おー容赦なく焼夷手榴弾を投げ込んだな。

あっはっは見なよ見なよ!火だるまになってもがいてるあっはっはっは!!

 

「あー…傑作だこと…くふふふ…」

 

 

――――――――――――

 

 

それにしても鉄屑の死体はグロいねー…いやぁ鉛弾をありったけぶち込まれた死体とかやばいよ?

生体部品がそこら中に散らばって人工血液とオイルが撒き散るんだよ?

まぁ言っちゃえばミンチですよミンチ。なんてこと無い森林地帯のど真ん中に赤い花が咲くんだよ。

ヘッド一発で沈んでるのはそうでもないけどさ。焼夷手榴弾で焼け死んだのは活動終了しても燃え続けてたし…

処理しなかったら炭になるまであのまま燃え続けてたんじゃないかなー?まぁ周囲に燃え移るだけの木は無かったと思うし…

正直死体処理しなくても良かったんじゃないかと思うけどさ。

 

「それにしても417さー」

「なにー?」

「最初みたいに嫌悪感示さなくなったね」

「んー…まぁ慣れたからかなー?」

 

実際私も今回の出撃で意識してなかったけど撃ち殺すことに全く躊躇いがなくなってる。

死体を直視しても嫌悪感を催すこともなくなった。もう見慣れてしまった。

これが私の日常の一幕みたいなものだしね。戦場に身を置く上で慣れないと死ねるじゃん?

ここに来てから最初の方なんて必死だったけど撃ち殺すのに躊躇いがあった。

無論無意識下の話なんだけどさ。即死するような所を避けてた節がある。

無残に爆ぜた死体を見てた時は吐き気を催してたし…しばらく気分悪くて迷惑かけたっけ?

今じゃあれを肴にお酒を嗜めるんじゃないかなって位に慣れたよ。

人間の精神性の良いところだね。ほら、どんな環境でも長く居たら慣れるってやつ。

人形だとそういうのはどうかわからないけどさ。そもそも最初から嫌悪しないか。

どっかの小隊には嬉々として解体を楽しむ猟奇的な趣味をお持ちな人形も居るらしい。

それに比べたら私はまだマシだと思う。即死じゃ勿体無いって思っちゃうけどさ。

 

「あーしかし笑えたなぁ…鉄屑が命乞いみたいな事したよね」

「あーあれねー」

「人間相手なら効果的な行動らしいわよ」

「実際に命乞いしている相手に撃ち込むのを躊躇う兵士は多かったらしいわ」

 

行動不能になった鉄屑はまるで人間みたく命乞いをしてきたんだ。

頭を振って残った手足で逃げるように這い回ってから…傑作だったなぁ。

確かに人間だったら躊躇うだろうし嬉々として撃ち殺す精神を持ってないと病んじゃうだろうね。

特に私達みたいな女の子の人形相手だったらさ…ふふ…

あ、もしかして私達戦術人形が女の子ばっかりな理由ってそういう所にあるのかな?

人間相手に戦う時に被弾が少ないとか…致命的な損傷が少ないとか…

致命的な損傷につながる箇所が人間そのままとかって言う所もさ。

本当に効率的に殺す機械であれば人間の形を模さなくても良い。

致命打になるような箇所は一箇所に固めてそこを強固に覆えば良い。

わざわざ人間に近づけているって事はそういう事だろうよ。あぁ開発者ってえぐーい。

 

「まぁ良いや、次敵が見えたらまた支援に徹するからよろしくー」

「はいはーい」

 

さてと、警備任務に戻りましょ?双眼鏡の向こうにまた鉄屑が居たら良いのになぁ…

 

 

――――――――――――D08基地兵舎共有スペース・昼

 

 

ふぅ、出撃終わりから食堂のお手伝いを終えて小休止。ペットブースから最近猫ちゃんが脱走するようになったけどまぁ兵舎内ならOK何じゃない?

メイド服姿でのんびりしてるとトコトコ歩いてきてから私の膝の上にノリたそうにするの。

足元をウロウロしてから身体をスリスリしてさ。にゃぁなんて鳴いて。

私が無視してるとそのままよじ登ってくるから大人しく抱っこするんですけど。

うーんこの手のひらサイズですよ。愛くるしい…流石愛玩動物…

 

「ほれほれ、ここが気持ちいいのかなー?」

 

頭の上や喉を撫でてやるとゴロゴロ喉を鳴らして目を細める。

でも撫ですぎると嫌がって噛んでくるから程々に…うん、可愛いなぁ…

傍らにはだーちゃんがスリープモードで静かに寝てるし…平和な午後だな。

後はお姉ちゃんとかが居たら良いんだけど…まぁお姉ちゃんは今出撃中だからなぁ。

 

「417ー…なにしてんの?」

「のんびりしてるの、だーちゃん起きるから静かにね?」

 

この基地での慌ただしいお手伝いの毎日にも慣れたなぁ。

ふぅ、3ヶ月くらい前まではぜんっぜん考えられないライフスタイルだよ。

えーっと朝はその日にもよるけど10時位に起き出して身支度してーのスーツ着て…

それから各会社説明会やら就職面接やらに行って…

アルバイトで日銭稼いでからヘロヘロになって家に帰っていたんだよなぁ。

アルバイトすら無い時は食費を切り詰めてたし…余裕ってのはなかったな。

だからこそあの時はぐーたらで引きこもってばかりの兄が憎ったらしかったんだけどさ。

 

「417ー?」

 

今では毎日硝煙にまみれて人間に近いのを撃ち殺して…それから帰ってきて色んなお手伝い。

食事を作ったりお菓子作ったりお掃除したり…農業したりさ。

毎日忙しく動いては平和だなーって実感しながら眠るの。最近だと誰かしらに抱きついて寝てるし。

お姉ちゃんだったり…今となりに居るG28だったり…誰も居ない時はだーちゃん抱いて眠る。

欲を言っちゃえばお兄ちゃんに抱きついて抱かれて眠りたいけど…

 

「……てい」

「ふにゃぁ!?」

 

おぉぅ!?いきなりおっぱいをぐにゅっと鷲掴みにされた感触が!?

横を見ればにや~っとした顔のG28が居て手は真っ直ぐ私のおっぱいに…

いや、なに掴んで揉んでるんだよ…離しなさい。

 

「いて…もうぼーっとしてるから良いかなーって」

「よくねーよ」

 

ちょっと猫ちゃん担いで猫パンチさせてやった。威力はないけどな。

 

 

――――――――――――D08基地司令室・夜

 

 

「なるほど、分かった…何かまた変化があったら言ってくれ」

「はい、彼女のマインドマップは複雑で研究しがいがありますからね」

 

データ化された資料を読み進めていく…各人形のメンタルモデルに関する報告だ。

大体の人形はそう問題になるストレスを抱えていないのだが…

1つの人形はかなり変動が激しくさながら人間のように揺れ動いている。

HK417、この基地が抱えているイレギュラー個体である彼女だ。

複雑化したそのAIはコピーが不可能とされバックアップが作成されていない。

私生活でのストレスや戦場でのストレスによって歪んでいっては矯正されていき形作られていっている。

かなり歪なメンタルモデルを持っている…事実配属当初と現在はかなり纏っている雰囲気が違う。

 

「しかし妙だなぁ…人形なのに慣れていってるようにも見える」

 

人形に搭載されているのは疑似感情モジュールだ。あくまでもプログラムされたもの。

工場出荷時から環境によって学んでいき進化していく物だが…ここまで人間臭いのは稀だ。

それこそ稼働から何十年と経ったみたいに思える様なものだ。

第2世代戦術人形が世に登場してからそう年数は経っていない。

ましてや彼女の元となったHK416型の戦術人形はかなり高価であり世に出回る事は非常に稀。

隣のD07地区がようやく手に入れたと自慢していたのがいい例だ。

 

「まぁ気にしてもしょうがねぇ…問題になればそのときに対応するだけだし…」

 

問題の早期発見の為にI.O.Pテクニカルスタッフに依頼してこうしてマインドマップの監視を行っている。

可視化された彼女たちの心の機微に目を通してはコーヒーを啜り目を細める。

 

「できりゃ…戦いなんぞさせたくないんだがなぁ…」

 

優しい指揮官は叶わない願いを口にしては天を仰ぎ大きく溜息を吐く。

何時になっても前線に少女を送り出して自分は安全な所で構えている…

この今の体制に慣れていない。自分は何をしているんだという念に駆られてしまう。

表面上でも、その言葉が本当かどうか分からん好意を向けてくる相手を…

 

「よし、仕事だ仕事だ」

「「「「しっきっかーん!!」」」」

「どわぁー!?」

 

417のダミーはそんなマインドマップと関係なく無邪気に指揮官に飛びついてはじゃれつく。

自らのダイナマイトボディを惜しげなく押し付けては…笑顔をみせて

 

「一緒に寝よ?」

「それともカフェでおやつ?」

「膝枕!」

「おっぱいまくらすりゅ?」

「お前ら仕事の邪魔をするな!本体はさっさと回収にこーい!!」

『ごめーん!お兄ちゃん!!すぐに回収に向かいまーす!!』

 

今日も司令室はドッタンバッタンと賑やかであった。




メンタルケアも考える上司の鏡。
でも初手セクハラのクソ上司。

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