Masked Rider in NANOHA   作:MRZ

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先入観こそが守護騎士達となのは達の争いを生んだ最大の理由。なのでそれを持たない者達がいればこうなれるんです、このキャラ達は。


少女達の決意と生まれる絆

「次元漂流者か……」

「あ、それシャマルさん達も言ってました。俺もそうなんじゃないかって」

 

 あの後、五代と翔一が同じ世界から来たと分かり、シグナム達もクウガの力を見た以上それからは逃げられないと悟ったのか大人しくなのは達に事情を話す事になった。というのも、翔一が言ったはやてちゃんという言葉を五代が覚えていたからだ。

 そして、幸か不幸か五代が世話になっているのは月村家。そこの住人である月村すずかとはやては最近知り合った知人だったのだ。はやての名をすずかから聞いていた五代がその事を翔一に確認し、シグナム達は完全に諦める事となった。

 

 現状へ至った原因にはシグナム達が翔一に管理局の存在を知らせず、それに対しての対応を指示しておかなかったのもある。そしてフェイト達を追って姿を見せたクロノを交えて簡単な説明が始まったという訳だった。

 

「それで翔一君達はその子を助けるために……」

「はい。でも、はやてちゃんは何も知らないんです! 俺達だけが内緒で……」

 

 五代の声に翔一はそう答えて俯いた。その拳は悔しさと無力感からかきつく握られている。シグナム達は翔一の言葉に何も言わないが、否定しないという事はそういう事なのだろう。そう誰もが考え、悲痛な表情を浮かべた。

 何の罪もない少女が死ななければならない。だが、それを避けるためには誰かを犠牲にしなければならない。それを聞いて五代は心が痛かった。

 

 それは、形や状況さえ違えども、以前彼が未確認を倒してきたのと同じだったからだ。みんなの笑顔のために。そう思い拳を振るい続けた五代。しかし、それは裏を返せば自分達のために未確認を犠牲にしていたとも言える。

 無論彼らは殺戮を目的としていたので、厳密に言えば生きるためではなく楽しむためにしていたのだと五代も知っている。だがした事だけを見れば自分も大差ないのではないか。そんな思いが五代に生まれる。

 

 一方、翔一も改めて蒐集行為について考えていた。具体的には聞いていなかったが、クロノの説明によればリンカーコアと呼ばれるある意味での心臓を狙う行為。しかも、下手をすれば蒐集対象は死んでしまうとの事。

 それを聞き、翔一は自責の念に駆られていた。何故もっとちゃんと聞かなかったのか。どうしてはやてが禁止した理由を考えなかったのか。はやてのためにとした事がかえってはやてを苦しめるのではないか。そんな事を思い、翔一は告げた。

 

「何とか……何とか誰にも迷惑を掛けずに蒐集する事は出来ないんですか!?」

 

 その叫びに誰もが悔しげな表情をみせた。特にシグナム達は一際だ。何せそれは彼らが真っ先に思った事だったのだから。

 

「そんな方法があるはず」

「いえ、あります」

 

 翔一の言葉に反応したシグナム。それを遮る形で反論したのはユーノだった。ユーノは語る。手分けしてリンカーコアを持つ生物から蒐集すれば、おそらく時間は掛かるが誰にも迷惑を掛ける事無く蒐集出来ると。

 それでははやての体がもたないかもしれないと渋るシグナム達へ、ならばとユーノは最後にこう言った。その表情に決意の色を宿して。

 

「魔導師からなら蒐集量は多いんですよね? じゃあ、死なない程度に加減出来るなら……僕からも蒐集してください」

 

 その言葉に全員が驚いた。そして、その意図を理解したなのはが意を決して小さく頷いた。どうしてヴィータが自分を狙ったのか。その理由を考えればこの申し出ははやての命を助ける事に必ず役に立つはずだと思って。

 

「私も構わないです。やってください」

「本気で言っているのか?!」

 

 流石にシグナムもなのはまで言い出した事に黙っていられなかった。そして、その流れは止まらずにもう一人の魔法少女の心も動かす。

 

「私も協力します」

「フェイトっ?!」

 

 フェイトまでが二人に同調し、アルフが本気かとばかりに目を見開いた。三人は口々に告げる。確かに蒐集行為はいけない事だ。でも、それでしか助けられない命があるなら助けたいと。

 嘘を言っている顔にも見えないし、何よりもなのはを襲ったヴィータの目を見た五代が言い切ったのだ。したくない事をしている目だった、と。なら絶対にはやてが悲しむような結果にはしないはず。そう三人は強く信じて覚悟を決めたのだ。

 

 三人の決意を聞いて困惑したのはシグナム達だ。先程まで戦っていた相手。しかも管理局に関わっているフェイトさえ、蒐集してもいいと言い出すのは想像出来ない事だった。

 

(本気でこの三人は蒐集を? ……主のため、か。私達がしていた事を許すと、そう言うのか……)

(こいつら……本当にはやてのために? 死んじまうかも知れないって、それを分かってて言ってるんだよな……)

 

 シグナムとヴィータはなのは達が見も知らないはやてのために見せた決意に感じ入る。特になのはに限ればいきなり襲われたにも関わらずにだ。そう考え、二人は余計に表情を歪める。今までの固定概念で動き過ぎていたと。

 話せばきっとなのはは蒐集に協力してくれていた。もしかすればその後も原生生物からの蒐集を手伝ってくれたかもしれない。特になのはを襲ったヴィータはその最初に話を聞かせてと言われた事を思い出し、一人申し訳なく思っていた。

 

(長い間蒐集行為をしてきたけどこんな事は初めてよ。そう、か……私達はとんでもない勘違いをしていたのかもね。はやてちゃんという前例がいたんだもの。もっと物事を違った目で見るべきだったわ)

(蒐集を禁止する主に出会ったかと思えば、主のために蒐集してくれという者と出会う、か。今回は本当に変わった事ばかりだ)

 

 シャマルとザフィーラはその言葉に心を揺さぶられていた。これまで蒐集行為は忌み嫌われてきた。故にどんな理由があろうと許されないと思い込んでいたのだ。しかし違ったと、そう二人は感じていた。誰かを助けるためならば手を貸してくれる者もいるのだと知ったのだから。

 

 そして翔一と五代もまた、そんななのは達に心打たれていた。見知らずの相手のために危険を承知で自分の命を賭ける。危険性は低いと分かっていても中々出来る事ではない。しかもなのは達はまだ子供。

 だから二人は思うのだ。自分に出来る事はなにかないのか。子供達だけでなく大人の自分も何かしなければと。クウガとアギトである二人。その力を何かの役に立てる事は出来ないか。その一念から二人は同時に口を開いた。

 

「「あの、何か出来る事はないですか?」」

 

 当然その言葉がキレイに重なる。それに全員が一瞬呆然となり、そして揃って笑い出した。そこに先程まであった緊迫感や焦燥感がすっかり消えてしまったのだ。そんな笑い合うなのは達を見て、五代と翔一は互いに顔を見合わせ笑い合う。

 そう、分かり合えるのだ、と。話が出来るのなら必ず分かり合える。そう改めて感じて二人も笑う。その笑い声が夜空に響く。敵も味方もない。ただ同じ思いを共有する者として、全員が笑い合う光景がそこにあった……

 

 

 

 ジェイルラボ 温水洗浄室。そこにウーノからチンクまでのナンバーズが揃っていた。そう、揃っているのだ。稼働している五人全員が。

 

「それで……どう? 感想は」

「う~ん、悪くはないわね。でも、あれが本当に強いとは思えないけど」

 

 ウーノの言葉に反応したのはナンバー2ことドゥーエだ。聖王教会への潜入任務を終え、彼女は宣言通りラボへ一旦帰還した。それもつい先程だ。そして真司と初対面をし、その感想がそれ。それには他の四人も強い反論はない。しかし、何か気に障ったのかトーレがまず口火を切る。

 

「確かに真司は見た目からは分からないが強いぞ。それはこれまでのデータが証明している」

「それにぃ、シンちゃんってばチンクちゃんやトーレ姉様を相手に加減までしてるみたいなんですぅ」

「悔しいがクアットロの言う通りだ。まだ手合せ自体は多くはないが、私達は未だにあいつの底が見えん」

 

 トーレに続きクアットロとチンクもその意見を受け入れつつ、やんわりと反論を述べた。それを聞いてドゥーエはおかしそうに笑う。

 

「貴方達、随分とあの男に肩入れするのね?」

「ち、違う! 私は素直に思った事をだな……」

「そうだ。真司の力は底知れん。ドクターすら、まだ解析出来た事は少ないのだ」

 

 慌てるように答えるチンクと冷静だがどこか照れくさいのか顔が赤いトーレ。クアットロはそんな二人を見てニヤニヤと笑みを浮かべ、ウーノは微笑むようにそれを見る。四人の反応を眺めたドゥーエは満足そうに頷いた。

 そして湯船から上がるとそのまま脱衣所へ向かって歩き出す。ドゥーエはその手を脱衣所へのドアへかけたところで何かを思いついたのか、湯船で語らう四人へ振り向くと小悪魔的な笑みを浮かべて告げる。

 

「なら、私があの男の力を出させてあげるわ」

 

 その言葉に四人の会話が止まる。トーレがいち早く立ち直って何かを言おうとするも、その時には既にそこにドゥーエの姿はなかった……。

 

 

 

 その頃、真司はジェイルと共に残りのナンバーズが入っている調整ポッドの前にいた。だが、その様子は落ち着かない。それもそのはず。ナンバーズは全員女性でポッドの中に裸で入っているため、先程から真司はどこを見ていればいいのか分からず挙動不審なのだ。

 

 そんな真司とは対照的に、ジェイルは何の躊躇いもなく調整を行なっていた。現在集中的に行なっているのはナンバー6ことセインとナンバー10ことディエチ。真司との模擬戦を繰り返し、トーレとチンクが提案したのは遠距離戦での龍騎の能力を測ろうというものだった。

 近距離や中距離では未だに龍騎に勝機を見出せない二人。だからこそ遠距離主体に戦える姉妹なら新しいデータが取れるかもしれないと言われ、現在ジェイルはその二人の調整に余念がない。ちなみにセインは真司の「いや、姉妹ならちゃんと順番に出してあげようよ」の言葉から調整している。

 

「……で、ドゥーエの印象はどうかね?」

「へ? っ?! あ、ああ、やっぱ美人だよな。ウーノさんやトーレもそうだけど、ドゥーエさんも綺麗だよ。モデルとか出来るな、あの人」

 

 視線を床に向け、思考を裸から脱却させようとしていた真司。だが、ジェイルの声に視線を上げると再び目に入るのは女性の裸体。それで急いで視線を逸らし、今度は天井へとそれを向ける。

 ジェイルはそんな真司に気付かず、その答えに可笑しそうに笑う。真司は知らない。ウーノからクアットロまではジェイルの遺伝子を基にして創られた存在だと。

 

 真司は、ナンバーズの事をジェイルからこう聞いている。複雑な事情から止むを得ず創る事になった人工生命体だと。そして、その開発責任者がジェイルであり、スポンサーはこの世界の治安維持組織だと教えられていた。

 最初は人工生命体に否定的だった真司だったが、生まれてくる命に罪はないとジェイルに言われ、その考えを改めた。だからこそナンバーズを人間として彼は認識している。実は彼はそれを聞く前から既に人間としか思っていなかったので今更ではあったが。

 

「モデル、ね。まぁ、ドゥーエのISを使えば確かにそれは一番簡単かもしれないねぇ」

「ISかぁ。ドゥーエさんのって何なんだ?」

「ライアーズ・マスク。ま、簡単に言えば変装だよ。誰にも何にも分からない完璧な……ね」

 

 その言葉を聞いて真司は素直に感心した。そしてまるでスパイ映画みたいだと言って笑う。その言葉にジェイルは面白そうに「本当にスパイをしてるんだ」と答えたのはちょっとした気まぐれだったのかもしれない。

 その言葉に真司は驚き、その表情を不思議そうにした。その顔が何を聞きたいかを理解しジェイルは言い切る。ドゥーエがどこに潜入していたのかヒントと共に、そこへ彼が抱いている印象を。

 

「何、偉そうな事ばかり言って、何も世界を変えようとしない連中だよ。宗教絡みだから余計にね」

「へぇ、こっちにも宗教とかあるんだ。で、どんな神様祭ってんの?」

「神様? ……ああ、君の世界では架空の神を祭ってるのか。こちらでは『聖王』と呼ばれた実在の人物を祭ってるのさ」

 

 ジェイルの話を聞いた真司は驚きながらも納得していた。キリスト教はまさにそれだったからだ。古に実在した人物を崇める宗教。本当はキリスト教にも神が存在しそれを崇めているのだが、真司にとって大切なのは自分の知るものと共通点があったという認識だけ。

 

 そして、その聖王がどんな存在かを聞き、真司は素直に感心した。争いが絶えなかった時代を平和にしようと尽力した王。それは、真司がライダーバトルに参加したのと似ていたからだ。

 誰かを殺す事を肯定したくない。だがそれをしなければ多くの人が死んでしまうという矛盾。それを感じながらも戦ったであろう聖王に真司は共感を覚えた。

 

 そんな真司の反応にジェイルは内心呆れながらも嘘偽り無く聖王伝説を語る。その間も手は調整を続けているところが実に彼らしい。

 

「……で、古代ベルカは戦乱から解放されたのさ」

「凄いな、聖王って。あっ! もしかして、今も子孫とか」

「残念ながら初代聖王の子孫はいないよ。ま、その遺物が教会には残されているがね」

 

 どこか興奮したような真司の言葉を遮ってジェイルがピシャリと言い切った。それに真司はどこか肩を落とす。もしいるのならジャーナリストとして是非取材してみたかったのだろう。その姿がどこか滑稽だったからか、ジェイルがつい不用意な事を呟いた。

 

「でも、いつか会えるかもしれないけどね」

「うっそ?! どうして!?」

「あ、いや……! 教えて欲しかったら、龍騎のもう一つの姿を見せてくれ」

「えぇ……でもなぁ……会えるかも、だしな……」

 

 ジェイルの提案に真司が明らかに表情を曇らせる。真司がサバイブを見せるのに躊躇う理由は一つ。そう、直感的に感じ取っているのだ。それは誰かに見せびらかすものではないと。仮面ライダーの力がどれ程危険で恐ろしいものかを理解しているのもある。

 そしてジェイルは悪人ではないが科学者。サバイブを何かに応用しようとして大事になりかねないと真司は思っていた。何よりも龍騎の力は”守るための力”と思っているからこそ、真司はおいそれと使う訳にはいかないと考えている。

 

 トーレ達との手合わせは、本人達が希望し、真司も元の世界に帰った時に勘が鈍っていないようにするのも兼ねてしているだけなのだから。

 

 そんな真司の渋る声にジェイルは計画を話してしまおうかとも考えていた。だが、それをした場合、下手をすれば真司を敵に回しかねないと思って口を噤む事にした。

 龍騎のもう一つの姿。それにも興味は尽きないが、それよりも計画の障害は出来る限り少ない方がいい。そう思い、ジェイルは真司と友好的な関係を築こうとしていたのだ。そう、まだこの頃は。

 

 後に彼は知る。いつしかそれが計算ではなく、本心からの思いになっていた事を。

 

「……そうか。さて、もう少ししたらディエチとセインもロール―――目覚める事が出来るよ」

 

 ロールアウト。その言葉を言おうとした瞬間、真司の鋭い視線がジェイルを刺した。それにジェイルが軽く笑みさえ浮かべて言い直す。創造物ではなく人としての表現へと。

 

「ディエチって……十番目って意味だっけ? で、セインが……」

「六番目よ、真司君」

「おや? どうしたんだいドゥーエ。ウーノ達と久しぶりに会って、会話を楽しんでると思ったんだが?」

 

 真司の言葉に答えたのはジェイルではなくドゥーエだった。そして、どこか不思議そうなジェイルから視線を外し真司へと視線を向ける。その雰囲気がどこかからかう時のクアットロに似ていて、真司は若干嫌そうな表情を浮かべた。そして、その予感は現実のものとなる。何故なら―――。

 

「お願いがあるのよ、真司君。私と戦ってくれないかしら?」

 

 ドゥーエはまるで、お出かけしましょ、とでも言うように笑顔でそう告げてきたのだから……。


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