Masked Rider in NANOHA   作:MRZ

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チラリと見えるディケイドの影。これがまさか伏線みたいになってしまうとは……(汗


深まる絆、深まる謎

「……いいでしょう。ですが、闇の書は大変危険なロストロギアです。蒐集を完了した際、起きる事については……」

「承知している。その時は我々も手を貸し、事態の収拾に努める」

「それに四百ページを超えれば管制人格も覚醒します」

「なら、その人にも手伝ってもらえば暴走も何とか出来るかも!」

「みんなで頑張りましょう! ですね!」

 

 リンディの結論にシグナムがはっきりと断言し、シャマルが補足するように告げる。それを聞いた翔一が希望が見えたというように続き、最後に五代がサムズアップで締め括った。

 

 あの後、リンディ達管理局所属のアースラクルーにも五代を始めなのは達による事情説明があり、大体の事情を把握したリンディは全員に対し驚愕の事実を話した。それは、蒐集を終えた闇の書が恐ろしい災害を引き起こすという事実。

 

 それを聞いてシグナム達は驚愕しながらもどこかで納得していた。どうして自分達が蒐集を終えた時の事を覚えていなかったのかを理解したからだ。そして、その事をリンディに告げるとその場に微かに動揺が生まれた。闇の書の一部であるシグナム達が忘れていたという事実。それが持つ意味を考えたのだ。

 

 そして、蒐集行為をなのは達から行いたいとの申し出にリンディは難色を示した。だがなのは達の強い意志とシグナム達の決して死なせはしないとの言葉と眼差しに折れ、まずはなのはが蒐集される事となった。

 身体面での安全を考慮したリンディがなのはへ今日はアースラで泊まる事を提案し、それを聞いた五代がすずかと泊まりがけで遊ぶとの約束をなのはが言い忘れていたと高町家へ連絡する事で万全を喫する。

 

 それと平行し、リンディ達は闇の書自体を詳しく調べる必要があると思い無限書庫での調査を決断。ただ専門チームを組んで年単位で探さねばならない場所であるため、クロノは難色を示す。それを聞いたユーノがそれなら自分が役に立てるかもと言い出し、クロノと共にその場から無限書庫へと向かった。

 その場に残された者達は、五代達が撃退した仮面の男に備える事や魔法生物からの蒐集活動をどうするかなどを話し合う事で話を纏め、転送魔法でアースラへと向かう。その胸にそれぞれ様々なな想いを抱いて……

 

 

 

 

 

 アースラにある医務室。そこになのはとシャマルの姿があった。なのはは恰好を入院着とでもいうような物へ着替えてベッドへ横たわっている。シャマルはその横で椅子に座っていた。そして、リンディの指示か室内には二人以外誰もいない。

 それが自分達へ不信感を抱かせないための措置と知りつつ、シャマルはリンディの判断に好感を抱いた。管理局の人間でありながら守護騎士をここまで信頼しようとする事。それがはやてのためにと動いていた自分達への共感だと思い、決して裏切る訳にはいかないとの気持ちを強くさせるのだから。

 

(伊達に次元航行艦の艦長をしている訳じゃないって事ね。でも、今は感謝しましょう。寛大な処置をしてくれる局員に出会えた事を)

「じゃあやるわね、なのはちゃん」

「はい」

 

 シャマルが静かに闇の書へなのはのリンカーコアを蒐集させる。その行為の辛さになのはは耐える。その表情は痛みに苦しむように歪んでいた。それを悲痛な表情で見つめるシャマル。だからだろうか、ページが十五程埋まったところで蒐集を中止したのだ。

 不意に感じていた負担が消え、どこか違和感を抱きつつなのはは視線を横へと動かす。そこには顔を伏せているシャマルがいた。それがどこか泣いているように見えてなのはは不思議に思って小首を傾げた。

 

「……もう、終わりですか?」

「ええ、これ以上は……今の私には出来ない……っ!」

(そうよ! はやてちゃんと同い年の子から蒐集してるだけでも心が痛いのに、それを限界ギリギリまでなんて出来る訳ないっ!)

 

 シャマルの消え入るような声からなのはは何かを察し、シャマルの手に自分の手を重ねた。それに驚くように顔を上げるシャマル。そんなシャマルになのはは微笑みを浮かべて告げた。

 

「シャマルさんの気持ち、伝わりましたから。だから、そんな顔しないでください。私まで……悲しくなっちゃうから」

「あっ……ああ……」

 

 なのはの言葉がはやての言葉に聞こえ、シャマルは込み上げてくる感情を抑える事が出来なくなり始めていた。自分達がしようとしていた事。それはこんなにも優しい少女へ大人でも堪える辛さを味あわせる事だったのだと、そうシャマルは痛感して目をきつく閉じる。

 

「シャマルさん……?」

「ごめんね! ごめんね、なのはちゃん! ……ありがとうっ!」

「シャマルさん。だから、そんな顔されると私も泣いちゃうから……」

 

 零れる涙を拭う事もせずシャマルは泣いた。泣きながらなのはの体を優しく抱きしめる。それになのはも抱き締め返しながらもつられるように涙を流した。互いの気持ちを思いやる二人。しばらく医務室に二人のすすり泣く声が響く。こうしてなのはとシャマルは一足早く強い絆を築きつつあった。

 

 その頃、フェイト達は今後の事を食堂で話し合っていた。フェイトの隣にアルフが座り、向かいにはシグナムにヴィータ、そしてザフィーラがいた。五代と翔一は二人だけで話したい事があると言ってこの場にはいない。

 緩衝材と成り得る者を欠いた両者はその視線は険しいものの、それは敵意や怒りではなく困難が予想される今後にそれぞれが思いを抱いての事。たしかに若干の警戒心のようなものはあるかもしれないが、少なくてもはやてを助けたいとの気持ちは同じだと思っていたのだから。

 

「まず、私とヴィータさんとアルフでAチーム」

「別に呼び捨てでいいし、敬語もなくていい」

「あ、うん。分かりま……分かった」

 

 ヴィータのどこか呆れるような声にフェイトは意外そうな表情を浮かべて頷いた。それを同じような表情でシグナムとアルフが見つめている。気難しいと思っていたヴィータが真っ先に相手へ気遣い無用と言い出したのはそれだけの印象を持っていたのだ。

 

「んだよ?」

「いや……意外だなぁ~って」

「私もだ。認めたという事か……?」

 

 シグナムの言葉にヴィータは顔を背けて一言悪いかと告げる。その仕草にフェイトは一瞬驚くも、すぐに微笑ましいものを感じてか笑みを浮かべて頷いた。

 

「ありがとう、ヴィータ」

「礼はいいから、さっさと決める事だけ決めようぜ。はやてが寝てる間が一番動き易いんだ」

「そうだな。では、私とザフィーラはBチームか?」

「あー、翔一って奴も一緒だよ。雄介って奴はシャマル……だっけ? それと二人で行動だってさ」

 

 アルフの言葉にフェイト以外の三人が疑問を感じたのか怪訝な顔を見せる。それにフェイトが笑みを浮かべて答えた。

 五代の変身するクウガはアギトよりもフォームチェンジによる汎用性が高い。それを五代から聞いたリンディが戦闘能力的には問題ないと判断したのだ。それに、なのはが回復すれば彼女がそこに合流するので特に心配はいらないともフェイトは語った。

 

 その説明を聞き三人も納得していた。よくよく考えてみれば、どのチームもバランス良く配置されていると理解したのだ。おそらくリンディの決定だろうが、その人選も流石だと三人は思った。

 

(高町を襲撃したヴィータをテスタロッサ達に組ませるのは当然として……)

(翔一をシグナムとザフィーラに組ませるのは、翔一があたしらの中で一番信頼出来るからだな)

(そして、シャマルは現在あの少女と共に過ごしている。その間を取り持つにはあの男が適任、か……)

 

 それぞれがリンディ采配の意図を考え感心する中、フェイトはただ友人であるなのはの心配をしていた。蒐集によって死ぬ事はないが、それでもしばらく魔法は使えない。その間、自分が頑張らないといけない。そう思い、フェイトは誓う。

 

(なのは、ゆっくり休んでて。その間、私が頑張るから)

 

 

 

 

 

 同じ頃、五代と翔一はアースラの休憩所で自分達の話をし合っていてある事に気付き出していた。そう、自分達のいた時間が違うと。それは二人へどこか分かりかけていた共通点への疑問を感じさせる事となる。てっきり変身能力を持つ同じ時代の人間だからだと、そう思っていたのだ。

 

「翔一君、今何って言った?」

「その、未確認が出なくなって二年間何してたんですかって」

「えっと、未確認が出なくなって二年も経ってないよ。だってまだ2001年だもん」

 

 その言葉に翔一が驚く。そして自分は2004年から来た事を告げた。それに今度は五代が驚く番だ。こうしてある程度簡単な事情を説明し合い、五代と翔一は二人して頭を悩ませる。どうしてこうなったのか。その理由を考えるために。

 五代は最初アマダムのせいだと思っていた。だが、アマダムを持たない翔一がこの世界へ来ていて尚且つ自分よりも早い段階で海鳴にいた。では、どうして自分がここに来てしまったのだろう。その理由は一体何だと、そんな風に考えていた。

 

(桜子さんがいれば何か分かったかな?)

 

 思い出すのは未確認との戦いを知識面で支えてくれた女性。彼女の知恵があれば現状も少しは変わったかもと五代は考える。

 

 一方翔一はクウガもアギトの一種だと考えていた。だから五代も海鳴へ呼ばれたに違いないと思っていたのだ。だがそれはどうも違うらしいと翔一も悟った。五代の説明にあったクウガになったキッカケはとてもではないが彼とは違い過ぎるために。

 

(こんな時、先生なら何かいいアドバイスくれるかな?)

 

 思い出すのは彼が長い間世話になった恩人でもある美杉教授。彼は五代にとっての桜子と同じく、翔一にとっては自分を支えてくれた者の一人。その人生論や何気ない一言は、翔一の大きな助けになっていた事もあるのだ。

 

「「う~ん……」」

 

 二人して思うのは同じ事。そして揃ったように唸りを上げ、それに気付いて笑い出す。やがて五代は翔一へ右手を向けてサムズアップ。それに翔一はどこか不思議そうに視線を送った。

 

「大丈夫! きっと何とかなるよ。リンディさん達も協力してくれるし、シグナムさん達もいるし」

「そうですね。で、五代さん……気になってたんですけど、それ何です?」

「これ? サムズアップって言って、古代ローマで納得出来る、満足出来る事をした人に送られる仕草。俺、これが似合う人になりたくってさ」

「そうなんですか……」

「ま、色々大変だと思うし、辛い事もあるだろうけど……さ」

 

 五代はそう言って、もう一度翔一に対してサムズアップする。それを見て、翔一も同じように五代へ返した。

 

「でも大丈夫! だってアギトがいるんだし」

「はい! 絶対大丈夫です! クウガがいますから」

 

 互いに笑顔を見せあい、断言する二人。そして、その視線に宿る希望を感じ取り、更に笑みを深くする。二人の仮面ライダー。その優しき心が完全に繋がり合った瞬間だった。それが意味するのは絶対勝利。いかな悪が現れようと人類に負けはないという事なのだから。

 だが今はそれを誰も知らない。当の本人達さえもそれを気付かない。彼らはまだ仮面ライダーの本当の意味を知らないのだ。二人が本当の意味で仮面ライダーとなった時、それがこの召喚の一つの理由を明らかにする事となる……。

 

 

 

 ジェイルラボにある訓練場。そこに二人の人物がいた。

 

「さ、行くわよ真司君」

「……へ~い」

 

 準備万端といった感じのドゥーエに対し、龍騎はやる気の欠片もなく声を返す。それをトーレが聞いていれば怒鳴っただろう。チンクなら呆れながら注意しただろう。だが、ドゥーエは何も言わず無言で走り出した。その手にしたピアッシングネイルを光らせ、龍騎へと突き立てようと。

 それを見た龍騎は慌てるでもなくデッキから一枚のカードを引き抜いた。そしてそれをドラグバイザーへと挿入する。するとその瞬間、男性らしき機械音声が響く。

 

”GUARD VENT”

 

 龍騎の手に一枚の盾が出現したのを見て、ドゥーエはその狙いを体ではなく顔へと変えた。それには若干龍騎も慌てるものの、即座にかわして距離を取る。だが、そうはさせじとドゥーエが走る。その爪先を突き立てんと龍騎へと迫ったのだ。

 正直早く終わらせたい龍騎は、そこまでするドゥーエを見ていっそわざと負けるかとも考え出していた。すると、そんな龍騎の思考を読んだのかドゥーエが先んじてこう告げた。

 

「もしわざと負けたりしたらトーレが煩いわよ?」

「げっ!」

 

 脳裏に浮かぶトーレの怒り顔。そして、そのまま説教までされる自分を想像し、龍騎は一瞬身体を震えさせる。その瞬間を狙い、ドゥーエは爪を勢いよく突き出し―――

 

「よっと」

 

 龍騎の手にした盾に弾き飛ばされた。防具である盾を攻撃に使った事に一瞬思考が止まるドゥーエだったが、すぐに気を取り直すと龍騎から離れる。だが、飛ばされたピアッシングネイルを取りに行くような事はしない。それに龍騎が軽く驚いた。

 

「取りに行かないのかよ?」

「あら、行ったら何かする気だったでしょ?」

「……バレてるか」

 

 龍騎の手にしているのはストライクベント。そう、ドゥーエがピアッシングネイルを回収しに行ったところにドラゴンストライクを決めようと考えていたのだ。

 

 その龍騎の行動をドゥーエは内心で誉めていた。単なるお人好しではなく、戦い慣れをしていると感じたからだ。先程の盾を使った攻撃もそう。

 どこかで防御にしか使わないと思っているものを攻撃に転用し、相手の思考を乱す。その僅かな隙を突ければ完璧なのだろうが、龍騎はそこまで戦闘の達人という訳ではないのだろうとドゥーエは読んでいた。

 

(でも、厄介だわ。確かにこれはトーレでも手を焼くはずよ)

 

 ドゥーエは知らない。先程の盾を使った攻撃の後、龍騎が敢えて何もしなかったのを。その気になればそこでドゥーエを倒せた事を。だが、それを龍騎がしなかったのには理由がある。

 

(トーレもチンクちゃんも気の済むまでやらないと納得しないんだよなぁ。ドゥーエさんが同じとは思えないけど、不意打ちで倒してもう一回とか言われても嫌だし……)

 

 そういう理由で龍騎は早期の決着を避けた。意外と考えてないようで考え、それが裏目に出る龍騎だった。

 

 結局勝負は龍騎の勝利で終わりを告げた。武器を失ったドゥーエに勝ち目があるはずもなく、元々戦闘用ではない彼女では限界があったのだ。

 そして決着が着いた時、どこか清々していたドゥーエに真司はこう言った。

 

「ドゥーエさんはさ、戦いに向いてないからこれから気をつけてよ」

「……どういう事?」

「いや、スパイとかってさ時々襲われる事もあるし、ドゥーエさん女性だから。もし戦いになりそうだったら無理しないで隙を見て逃げて」

 

 真司はそう心から心配して言った。それをドゥーエは笑い飛ばし、そんな事はないから大丈夫と告げた。そして、ドゥーエはそのまま真司に背を向けて歩き出す。その背中を見つめ、真司はもう一度大声で告げる。

 

「絶対に無理しちゃ駄目だからな!」

 

 その言葉を内心鬱陶しく思いながら、ドゥーエはひらひらと手を振った。何故かその真司の言葉を記憶の片隅に留めて。そして、翌日彼女は管理局への潜入任務へと向かった。彼女がこの時の真司の言葉を思い出し、窮地を逃れる事になるのはこれからかなり先の話……。


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