丁稚雀《マスター》リライスの繁盛記   作:ゆっくりいんⅡ

4 / 7
 時系列は割と滅茶苦茶です。閑話挟むタイミングを間違えたので……
 
 
「なあリライス、何故あの蛇に私は懐かれていると思う? 先程も温泉を共にしたんだが」
「惚れられるようなことでもしたんじゃないですかチュン」
「縁起でもないこと言うな!? 身に覚えのないことで貞操の危機とか冗談じゃないわ!」


第三・五羽 勝てばいいんだよ、勝てば

「ごめんくださいなー」

「! 先輩、お客様です! 焦らず騒がず、気配を消して向かいましょう!」

「アサシンか清姫の真似事でもしてるのかチュン、マシュ」

「呼びましたか旦那様(マスター)!?」

「読んだけど呼んでねえチュン」

「つまり私を求める声は確かだったのですね! 好き!!!(溢れる想い)」

「うん、いつも通りで安心だチュン」

 とりあえず、清姫には丁重に別仕事へ戻ってもらい、入口へと向かう。

「あら、こんにちはマシュ! 素敵なところで働いているのね! 頭に可愛らしい子も乗せて!」

「ふうん、これが東洋のホテルなのね。マシュも可愛い相棒を連れて行く良さが分かったのかしら」

(マリーさんとアナスタシアさんの珍しいコンビです! あと先輩がナチュラルにマスコット扱いですね!)

(もうペット枠でも文句言わないチュン)

(大丈夫です、私がかい、面倒を見ます!)

(今飼うって言いそうになってなかったかチュン)

 などと念話で会話(コント)しつつ。

「いらっしゃいませチュン、マリーにアナスタシア。お荷物預かりしますチュン」

「まあ、もしかしてマスターなの!? 随分愛らしい姿になっているのね!」

「それ普段は可愛くないって言われてるのかチュン」

「そんなことないわ、いつものあなたも大変魅力的よ」

「ストレートに褒められて赤面しそうチュン」

「先輩、顔色が変わっていませんが」

「雀だからしゃーなしチュン。……ところでカドック、両手に華だチュンね」

「茨みたいに絡みついてくる類だけどな……というかリライス、その姿は魔術か何かか?」

「んなわけねえチュン、所長のやらかしで呪いのとばっちり受けた結果だチュン」

「……お前も大変だな」

「いつぞやの特異点で、魔法少女にされた時よりはマシだチュン」

「……」

 黙っちゃうカドック君、そこまでか。ちなみになった本人曰く、「羞恥心で死ぬかと思った。あと映像に残したドクターは絶対許さない、殴るために復活しろ」とのこと。

「それにしても、異聞帯で拾い上げた時から変わらないしけっ面が、一段と暗くなってるチュンね。マリー側のお供達がいないからチュン?」

「ほっとけ、顔は元々だ。この天然皇女二人を同時に相手するのは想像以上に大変なんだぞ……荷物だってバカみたいに多いし」

「馬車一台くらいはあるチュンね」

「先輩、これ重いです!?」

「頑張れチュン後輩。ほらケルト組、あとついでに所長。お客様の荷物を運ぶチュン」

「ついでで私にも命令するな! 貴様の上官だからな!? あと私は頭脳労働担当だ!」

「んなこと言ってるから痩せないんだチュン」

「極寒の雪山で放置されたら、脂肪(蓄え)が無ければ死ぬわ! だから敢えて貯蓄してるんだ!」

「異聞帯以外で放置された経験あるのかチュン……?」

 結構壮絶な人生を送っているらしい。お陰で周囲の目線が生温かいものになり、「ヤメロォそんな目で私を見るな!?」と、叫ぶ羽目になるゴルドルフ所長だった。

 

 

「あら、ここってもしかしてお大尽部屋(スイートルーム)?」

「そうだチュン、折角なのでご招待したチュン。客間は別チュンが」

「いつの間に解放したんでちゅか、リライス……」

「露天風呂解放してる時に平行でやってたですチュン。今は遊技場と第二厨房、あとエステルームもやってるですチュン」

「……お前様、やっぱり宮大工か何かじゃないのでちか?」

「ただの凡百マスターですチュン」

 紅女将が疑惑の視線を向けるが、そんなもの気にするキャラではないマスターリライス(雀)。「お前のような凡百がいてたまるか……」と後ろから怨嗟込みのセリフも聞こえるが、華麗にスルー。

「じゃあここでゲイシャさんを呼んだり、あれよこれよなシュチニクリンなことが出来るのかしら!?」

「割と俗っぽいなこの皇女!?」

「王族だって一皮剥けば人間ですチュン。あと、当館ではそういうのは受け付けてないですチュン、京都行けチュン」

「( ´・ω・`)ソンナー」

「当たり前だろ、何を期待していたんだお前は……」

「でも、いい景色ねココは! 風光明媚とはこういうのを言うのかしら!」

「……それもそうね。あら?」

「ウッキー、ウキキ」

「あら、可愛いおサルさんね!」

「東洋のサルは人懐っこいと聞いたけど、本当のようね。ふふ、こっちにいらっしゃいな」

「おいアナスタシア、ここは神代に近い旅館だぞ? 不用意にちかづ」

 べしゃ

「「「「「「あ」」」」」」

「……」

 忠告は遅かった。アナスタシアの綺麗な白肌に、泥団子がぶつけられてしまう。

 ウキキー! と喜ぶサルたちに向け、彼女は真顔のまま泥を払い、

「あ、アナスタシア、落ち着いて、ね? おサルさんは私がきつーく、注意しておくから?」

「先輩、いつもニコニコにじり寄るマリーさんが慌てています……!?」

「神話生物みたいに言うなチュンマ――」

 ガシッ

「チュン?」

 ニギニギ

「あー柔肌チュン」

 グイッ

「グエッチュン」

「せいっ!!」

「チューーン!?」

「「「「「「投げたあ!!?」」」」」」

 綺麗なアンダースローで投じられたリライス(雀)は、泥をぶつけた魔猿に一直線で跳んでいき、

「ウキーキ、ゴゲアアアアァァァァァ!!?」

 きりもみ回転をしながら吹っ飛び、カメラに映せない顔でピクピクしていた。

「な、なんという威力……! しかしマスターが強化されてるとはいえ、アンダースローであの威力は一体」

「宝石を使ったのよ」

「モッタイナーイ!? そして大人げなーい!? というか問答無用で宝石飲み込ませたのか君!?」

「アナスタシア、もう充分でしょ!? その子雀の姿だけどマスターなのよ!?」

「大丈夫よ、宝石で肉体強化したから」

「先輩、ご無事ですかー!?」

「あービックリしたチュン」

「なんと!? 無傷とは驚きですが無事で何よりです! さあ今度は離れないよう、私の胸の中に」

 スイー

「え」

 パシッ

「あ、これ無限ループかチュン」

「無限じゃないわリライス、あのサル達を全滅させたら終わりよ」

「あと何回だチュンそれ……『重力』か何かの魔術なんだろうけど、当たり前のように抜け出せないチュン」

「受けた屈辱は億倍にして返すのが我が家の家訓。自慢じゃないけど私、姉に雪球をぶつけられた時は石をつめて投げ返したわ」

「本当に自慢することじゃないネそれ!?」

「カドック、アナスタシアを止めて!?」

「無理だってマリー王妃、ああなったアイツを止められるなら、僕が方法を知りたいよ……」

 その後、魔猿達が全滅するまでリライスは投げ付けられました。

「……見かけによらず、やんちゃなお嬢さんでち。綺麗なおべべが乱れて台無ちでちよ。

 そしてリライス、お前様やたらと頑丈でちね……」

「自分でもビックリですチュン」

 

 

 その日の夜。

「……なあリライス、何で布団が三つ並べられてるんだ?」

「え、カドック一緒に寝るってアナスタシアから聞いたチュンよ?」

「そんなこと言ってない!? お前も少しは疑問に持てよ!?」

「夜這いだの同衾だのされてるから、今更だチュン」

「お前に期待した僕が馬鹿だったよ! これ以上心労を増やさないでくれ!」

 この後滅茶苦茶交渉した(カドックが)。なお、皇女にからかわれていただけな模様。

 

 

 

「いえーーーーい、みんな見てるー? 一番荊珂ちゃん、歌いまーす!」

 恋はドラクル♪

「……妙に再現度高いチュンね、モノマネの才能あるんじゃないかチュン」

「うふふ、案外酔って才能が開花したかもしれませんわね?」

「暗殺者としてはありなのかチュンねあれ。ところでアン」

「はい? 何ですかマスター?」

「何で私、膝の上に乗せられてるチュン?」

「いやーだって、マスターがこんな可愛らしい姿になってるなんて、愛でるしかないですよね?」

「おーフワッフワだ、本当に雀なんだねマスター」

「撫でるなチュン抱き寄せるなチュン、私はぬいぐるみじゃないチュン、丁重に扱うチュン」

「でも、悪い気はしないのでは?」

「それとこれとは話が別チュン」

「こしょこしょ」

「チュン!? 羽根の付け根をくすぐるなチュン!?」

「ここがいいんですのー?」

「よくねえチュン無理矢理抑えつけるなチュン!? 清姫ー、助けてチュン!」

「お呼びですか旦那様(マスター)! 不埒者は燃えなさい!」

「ちょ、清姫さんさっき芸に使った火龍を向けないでください!?」

「あぶ、あつ!? 宿が燃えるよ!?」

 この後無事に救出されてめっちゃモフモフされた、清姫に。

 

 

「翁を代表して一芸仕る。呪腕、首を出せい!!」

「やっぱりこうなったかー!? 初代様ー、その一芸は場が冷めてしまいまする!」

「呪腕さん、ここは任せるチュン」

「り、リライス殿?」

「何用か、契約者」

「じいじ、こういうのはどうチュン」(こしょこしょ)

「……承知した。では契約者リライス、

 

 

 首を出せい!!」

 スパン

 

「しょ、初代様ーーーーーーー!!?」

「せ、せんぱーーーーーーい!?」

「……」

 後に残るは、首のない(マスター)の死体、

「ふ、紙一重だったチュン」

 ……ではなく、リライスが限界まで顔を伏せて見えないようにしていただけである。

「「「「「「おおーーー!!!」」」」」」パチパチパチパチ

 会場からは万雷の喝采、もとい拍手。青褪めてるハサン勢とマシュの元に戻ってくるリライス。

「あれ、マシュとハサンの皆にはウケが悪かったチュンね?」

「ウケとか以前に心臓に悪いですよ先輩!?」

「そうですぞリライス殿!? 私など首と心臓と肝が吹き飛ぶかと思いましたぞ!?」

「ほう。神託を望むか、呪腕の」

「そそそそんなことはありません初代様!」

 この後ゴルドルフ所長にめっちゃ怒られた。

「所長に説教されるとか、一生の不覚ですチュン」

「どういう意味だ貴様!? 私は常識的かつ当然のことを言ってるまでだ!!」

「魔術師が『常識的』とか『当然』なんて、世も末ですチュンね」

「末どころか終わりかけてるわ!」

「所長、その返しは笑えないです!」

 

 

 料理人が足りないと言われたので。

「行くぞオリジナル、レシピの貯蔵は十分か」

「上等ですよオラァ! 生意気キャットなんか私の調理力でチョチョイのチョイです!」

「いやどう考えてもキャットが上チュン」

「キャットでちね」

「私もキャットさんです」

「ちょっと、紅先生だけじゃなくマスターまで!? ま、マシュさんはそんなことでないですよね!?」

「私はお二方どちらの料理も素晴らしいと思います!」

「気を遣われてるぅ! しかも清姫さんが反応してないから嘘じゃないとか逆に辛いー!」

「大丈夫です玉藻さん、今はキャットさんが上でも、研鑽を積めばいつかは越えられます! 私と一緒に頑張りましょう!」

「うわーん、巴さんそれトドメですーチクショー!!」

「あ、玉藻さん!? わ、私何か言ってしまいましたか」

「純真さと事実でノックダウンされましたと私は思います、ますたぁ」

「天然恐るべしチュン」

「お前様の腕は分かったでち、よろしくでち」

「なんと、紅女将の教えを直々に受けられるとは何たる幸運! 感謝するぞご主人!」

「しかもちゃっかり認められてるチュン、キャット」

 

 

おまけ

「着いたのだわ。ここがあの女のホテルね」

「……というかここが地獄なの!? 施設も充実しててサービス満点とか、勝ち目ないじゃない!?」

「こ、ここはあの子と約束した以上、冥界に来てもガッカリしないようしっかりリサーチを」

「いつしたんだチュンそんな約束。あとここ地獄じゃなくて迷い家だチュン、冥界の一歩手前だチュン」

「わひゃあ!? りりりリライス、いつからそこに――え、リライスの魂を持った雀……?」

「ようこそチュンエレちゃん、この格好は故あって」

「か、可愛いのだわー……」ナデナデ

「聞けチュン」

 

 




後書き
 アナスタシアの泥団子(Verリライス):猿達はライフが0になる。
 巴様は天然鬼、間違いな――
「作者様、その投稿遅れ(二枚舌)は許しまちぇん!」
 え、女将様ちょっとま――ビチュン!?


 ……


『感想・評価・誤字訂正お待ちしてます。遅れてスイマセンデシタ』

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。