丁稚雀《マスター》リライスの繁盛記   作:ゆっくりいんⅡ

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「竹取の翁……小次郎曰く『かぐや姫の物語上、翁は宝を持っているはずがない』、チュンか。まあ伝説通りだった試しなんてほぼないけど……気にはなるチュンね。
 それに、女将さんと話してた翁の気配……どうも嫌な予感というか、悪意を感じるチュンね」
「先輩、五つの宝が揃いましたね! これで竹取の翁さんに渡せば……」
「解決する……で済めばいいけどチュン。フィン、ちょっと相談があるチュン」
「ん? なんだいマスター、逢引の誘いならいつでも歓迎だが」
「寝言はせめて元に戻ってから言えチュン、雀口説くとかどんだけだチュン。
 で、これからなんだけどチュン……」





第五羽 虚言の代償は

「約束の日になりましたな、紅殿。ではまず負債の利息分である1000億QP、耳を揃えて払っていただきましょうか」

「……申し訳ありまちぇん、竹取の翁様。今この宿にそれだけの支払いは出来ないでち。約束通り閻魔亭はお渡ししまチュ、そしてあちしはどうなってもいいので、雀達に手は……」

「そういう訳にはいきませんな、こちらは散々待たされたのですから。女将と閻魔亭だけではとても足りませぬ故、雀達も――」

「その話、ちょーっと待って欲しいチュン」

「……? どなたですかな?」

「私は今この宿でお世話になっているリライスと申すものですチュン。こちらは仲間のサーヴァント……英霊のみんなですチュン、お見知りおきを。

 話は以前聞かせてもらいましたチュン、竹取の翁様。五百年前に『五つの宝』をなくされたんですチュンね?」

「……リライス、どこでそれを聞いたでちか?」

 フィンの肩に乗っているリライスを驚いた顔で見る紅女将だが、敢えてそれに答えることはしない。真っ直ぐに、目の前の翁へ視線を向けている。

「……ええ、その通り。だからこそ閻魔亭に責を負ってもらうため、心苦しいですが宝を見つけるまで負債という形で譲歩したのです」

(心苦しい……ね)

 仮面越しで表情は見えないが、後ろに控える清姫の反応から、おおよそ見えてくるリライス。が、それは今追求するところではない。

「それでしたらお喜びください、翁殿。我々がリライス主導の下、五つの宝を用意いたしましたとも!」

「!? そ、そんなこともしてたのでちか!?」

「……ほう、それはそれは、事実なら大変喜ばしいことですな。しかし、私が求めているのは『姫との思い出が詰まった』五つの宝でしてな。代わりのものでは申し訳ありませんが、納得できませんなあ」

「……っ」

 翁からの言葉に、マシュが顔を歪ませる。自分達の努力は無駄だった、そう言われているような気がしたからだ。

(……二つ目)

 一方、リライスは静かに心の中で『何か』を数えながら、フィンに会話を任せて成り行きを見守る。

「ええ、ええ、そうでしょうとも。麗しきかぐや姫との思い出が詰まった宝、そこには余人では計りきれない価値が詰まっていましょう。私も麗しき妻との大切な日々を覚えているがゆえ、痛いほどそのお気持ちは分かりますとも。

 なので、我々が用意した宝は(・・・・・・・・・・・)貴公の宝を取り戻すためのものです(・・・・・・・・・・・・・・・・)

「……何? それは、どういうことですかな?」

「簡単に言えば、触媒ですよ。五百年前に失われた宝と同様のもの、そして同じ状況(・・・・)を作り出してしまえば――未だ神秘が色濃く残る閻魔亭、試してみる価値はあると思いませんかな?」

「! ま、まさか――」

「さて、参りましょうかご老体、女将殿。失ったものを取り戻しに」

(……そして、茶番劇の終わりに、ね)

 

 

「こ、ここは……!」

「……まさかこの『鳳の間』も再建していたとは、驚いたでち」

「場所こそ無くなっていたチュンが、設計図には書いてあったのでその通り『再現』しましたチュン」

 場所は移り、リライス達が最後に再建した客間、『鳳の間』。ここは当時、竹取の翁が宿泊していた部屋であり。『事件当時の状況』を完璧に再現している。

 内装は他の客間と大きな差はない。違うのは部屋の隅にある巾着袋であり、恐らくこれが翁の荷物だろう。

「五百年前のあの時と全く同じ光景……で、ではこの中には――」

「ええ、求めてやまなかった『五つの宝』が入っているでしょう。お喜びください翁殿、貴方の願いはようやく叶いますとも」

「……」

 無駄に爽やかイケメンスマイルでフィンが促すも、翁は額から汗を流すだけで、何故か動く様子はない。

「おや、如何なされました? 念願の姫との思い出の品がその手に戻ってくるのですよ? 何を躊躇することがありましょうか?」

「……ええい、開ける! 開ければいいのだろう!」

 そうして『何故か』、破れかぶれな叫び声をあげて袋を開け――、

「ハ……ハハハハハハハ!!」

 中身を確認した翁は、人を小馬鹿にした笑い声を上げ、フィンの方に振り返る。袋に入った、『リライス達が用意した五つの宝』を見せびらかして。

「なぁにが『五つの宝』を取り戻しただ、笑わせおって! そんなもの、|最初から用意していないのだから入っている訳がないだろう《・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・》!」

「……竹取の翁様。それは、どういうことでちか?」

「――あっ」

「……案外あっさりと白状したチュンね。この後の舌戦くらいは予想してたチュンが」

 紅女将の詰問に、やらかした声を上げる竹取の翁。完全に白状してるのと同じ状況に、リライスは呆れの溜息を吐いた。

「ち、ちが、これは、そう、違うものなのでつい、妙なことを口走ってしまったのです。そうでしょう、猿長者殿? あなたも確かに、宝があるのを見ていたのですから」

「ええ、そうですとも。この眼で確かに――」

「嘘、ですわね」

「……!」

(……三つ目)

「……清姫に嘘は通じないチュンよ」

「ぐ、何を根拠に」

「では、宝がどんなものか仰っていただけますかな? 形状、年数、入手した経緯、姫との思い出。それほど大事になさっていたものなら、簡単に語れるでしょう?」

「う、ぐ……」

「もう積んでいるチュンよ、竹取の翁。フィンやキャスター達の見立てで、お前と猿長者が共犯――いや、同一者による狂言だっていうのは分かってたから、後は自白待ちだったチュン。猿蟹合戦の怨霊」

「!?」

「つまり、今までの盗難事件は全て嘘……?」

「……それは、本当でちか猿長者様、翁様。何故、こんなことを……」

「……」

 猿長者と竹取の翁は俯き、何も口にしない。と思ったら急に顔を上げ、

「……ああああああぁぁぁぁクソ、クソ、クソがあぁ!! もう少しで馬鹿な女将と雀どもを陥れられたっていうのに、ガキの遊びにマジで邪魔しやがってえ!! 腹が立つったらありゃしねえ!!」

 一頻り豹変したように喚き上げてから猿長者と竹取の翁は一つとなり、部屋から逃亡――

「ところがぎっちょん、そう簡単には逃がさないんですよねえ。『水天日光天照八野鎮石』!!」

 玉藻が宝具名を告げると、鳳の間はたちまち異界の結界と化した。無論相手を害する訳ではなく、逃がさないためのもの。貼り続ける限り、猿長者に逃げ道はない。

「て、てめえ!!」

「マスター、よろしいですね?」

「うん、出番だチュン清姫。

 令呪を持って命じる」

 

 

『嘘つきを、焼き払え』

 

 

 冷徹な声で告げると、清姫の身体が炎の大蛇――嘘つき絶対焼き殺すガールとなる。

『承りました、マスター。これより逃げようとした大嘘付きを捕らえます。

 『転身火傷三昧』!!』

 大蛇がとぐろを巻き、猿長者を包み燃え上がる。逃がさないと、一遍の隙間もない状態で。

「ぐぎゃああああああぁぁぁぁ!?」

 息も出来ぬまま全身が焼き尽くされ、絶叫を上げる猿長者。玉藻の宝具、令呪のバックアップが合わさり、炎は絶えることなく嘘つきを焼き続ける。

「アッチ、アッチアッチ!? マスター、勢いの余り尻尾に飛び火したのですが!?」

「いや自分でどうにかしろチュン」

「そんな殺生な!?」

「いやそんなことより、このままだと猿長者様が死んでしまうでちよ!?」

 などと話していたら、清姫の龍化は解かれ、結界も消えてなくなる。後に残るは、ウェルダンに焼き上がった猿が一匹、ピクピク動いているので辛うじて生きているようだ。

マスター(旦那様)、お望み通り灰化一歩手前で止めておきました♪」

「おー、えらいえらい。(言ってないのに伝わっているあたり)流石清姫チュンね」

「そんなストレートに褒めるなんて……好き!!」(歓喜)

 虫の息な猿長者の前で、いつもの寸劇を始める二人がいる中、他の者達が状況に追いつけないでいると、

「虎ぁ、蛇ぃ……! 何ボサッとしてる、一つに戻れぇ……! 早くしろ、死んじまうだろうがぁ……!」

「……」

「……まあ、そうなるわよねえ。ごめんね、紅ちゃん」

 掠れ声で猿長者が二人を呼び寄せ、その存在が徐々に薄まっていき、

「――なんて、させると思ったチュン? エミヤ!」

 リライスが声を上げると、どこからか銃弾と化した歪な形状の剣――メディアの宝具、破壊すべき全ての符(ルールブレイカー)が三人の肩に突き刺さる。

「ぐがぁ……!」

「ぐっ……!」

「いったぁ!? なによ、こ、れ……!?」

「おい、何してるんだノロマぁ……そんな短刀一本、刺さったところでどうってことないだろうがぁ……!」

「まあ、威力はたいしたことないチュンね。その代わり、お前らの繋がりは断たせてもらった(・・・・・・・・・・・・・・・・)チュンが」

「!? そんな、デタラメこかしやが」

「え、やだ、どういうことこれ!? 戻れないんだけど!? それどころかこれ……」

「……縁が、切れ、た……?」

「そーいうことだチュン。これでお前らは三位一体――猿、虎、蛇の要素から鵺かチュンね?――から、バラバラの個体になったチュンね」

「……大した戦略眼だな、マスター。糧としている力を得るために奉納殿へ逃亡する相手を結界の中に閉じ込め、『感謝の気持ち』の加護を絶った中で相手に攻撃。そして共犯者であり同一対の二人が合体する前に繋がりを絶ち、完封状態にする、か。

 ……ここまでピタリと嵌るとは、魔術師としてはともかく一流の策士を名乗ってもいいんじゃないか?」

「買い被りだチュン、重ねた推論がたまたま当たった結果、上手くいっただけだチュン。エルメロイ先生ならもっと確実に封殺するチュン」

 後ろから表れたエミヤ(オルタ)の賞賛にそう返しながら、

「さて、チェックメイトかチュンね。女将さん、後の沙汰は任せていいですチュンか?」

「……リライス、後で話を聞かせて欲しいでちよ」

「もちろん、喜んでチュン」

 その言葉に紅女将は頷くと、瀕死の猿長者に近付き、

「……猿長者様、沙汰は追って伝えるでち。ですがその前に一つ、聞きたいでち。何故、こんなことをしたのでちか? 弁明があるなら、聞くでち」

「…………」

 女将の言葉に顔を上げ、しばし無言で見上げた後、

「は……ははは、ぎゃははははははは!!」

 掠れた、しかし確かな嘲りをこめて開き直りの笑い声を上げる猿長者。

「どうして、どうしてだってえ? そんなもん簡単だろうが……楽しいからだよ! 

 コロッと騙されて苦悩する女将、必死に盛り立てようとする雀ども、寂れていくお宿! こんなどうしようもなく絶望していく姿なんてよお――見ていてこれ以上なく滑稽で、笑えるだろお!!?」

 狂ったように笑い続ける猿長者。彼は言う、お前が追い詰めらていく姿は、最高に笑えたと。

「……あい分かりまちた。では、己の非を認め、尚且つ弁明も必要ないと?」

「ハッ、騙されてた側が言うことでもねえよなあ!? ああ惜しかった、惜しかったぜ! こいつらさえ現れなければ、俺様の計画は完璧――」

「……つまんないチュンね、お前」

「……あ? オイコラ雀モドキ、何て言った?」

 殺意を向ける相手に全く怯むことなく、雀の顔でも分かるつまらなそうな瞳を向けるリライス。彼女は怯むことなく、言葉を続ける。

「つまんない、って言ったのよ。主義も思想もなく、ただ相手が苦しめばいいという自己満足。方法も稚拙で、失敗すれば他人を罵倒し、自分のせいだと微塵も思わない。

 ……新宿やセイレムで『悪人』は見てきたけど、お前はあいつ等の足元にも及ばないチュン。やってることなんて、『悪人の猿真似』がいいところね」

「猿真似だと……テメエこのクソガキ!? ふざけるな、ふざけんじゃねえぞ!」

「リライス、そこまでにするでち! ……猿長者、沙汰は追って地獄で伝える。与えた分の苦しみだけで済むと思わぬ方がいいぞ」

「オイ待てふざけるな、訂正しろ! 俺が、俺のやったことが人間程度の猿真似だと!? そんなことが……!」

「……聞いてるかも怪しいでちね。色々言いたいことはありまチュが……これにて」

「一件落着、チュンね」

「いや先輩、私何も分かってないんですが!?」

 この後詰め寄る後輩に滅茶苦茶説明した。

 

 

「では女将さん、お世話になりましたチュン」

「こちらこそ、何から何まで助けられて頭が上がらないでち。来年も是非当閻魔亭をご利用くださいでち」

「最後は完全にリライスの独壇場だったな……とはいえよくやった! あとは帰るだけだが……」

「……所長。カルデアに連絡は取ったんですチュン?」

「……あっ。ちょ、ちょっと待っておれ! 通信機、通信機……」

「……しっかりしてくださいチュン」

「ええいうるさい急かすな!」

(言えない、森の中で通信機を落としたなどと……!)

「チュン? 通信機ってこれのことチュン」

「何? まさか拾ってくれたのか!?」

「ゴルドルフ新所長? まさか落としていたのですか!?」

「あ」

「……何で隠してるんだチュン所長」

「落し物したらキチンと受付に伝えて欲しいですチュン、子供じゃないんだからチュン」

「す、雀に諭される二十九歳の冬だった……!」

『もしもし、もしもーし! やっと連絡着きました、何があったんですか!?』

「あーシオン、所長が通信機を落とすっていうしょうもないミスをやらかしたチュン。詳しいことは帰ってから話すチュン」

『おや、その声はリライス……雀!?』

「もうその反応飽きたチュン、はよレイシフトしてくれチュン」

『大変気になる事態なんですが、まあいいでしょう。時間なのでレイシフトを行いますよー!』

 そうして、カルデアの面々が光に包まれ、閻魔亭従業員一同に見送られながら消えていく――

「……チュン?」

「……リライス、何でお前様だけ残ってるのでち?」

「あー……もしかして、雀の姿になってレイシフトの適正数値が変わったのかもしれないチュンね」

「てきせーすうち?」

「女将さんに分かりやすく言うと、本人確認の手形渡されて違う奴じゃねえか! って言われて追い返される感じですチュン」

「……お前様も最後まで大変でちね。とりあえず、迎えが来るまでゆっくりするでち」

「お世話になりまチュ……チュン? 女将さん、お客様ですチュン」

「ごめんください。こちらに私が物資とともに送った猿達が来ていると思ったのですが……」

「! ま、さか……リライス、ちょっと待ってるでち!」

 その後の話は、敢えてここでは語らず。ただ最後に、女将さんの願いは成就したとだけ言っておこう。

 数日後、大慌てのマシュと清姫に迎えられて何とか帰れました。なお、その間に無事人間の姿に戻れたそうな。

 え、レイシフトならすぐに実行できるだろ? あんな大掛かりな装置がホイホイ使えるわけないだろ!(多分)

 

 

 そして帰還してシオンからの第一声。

「お帰りなさいリライス。とりあえず異常がないか(非常に興味深いので)、解剖(検査)してもいいですか?」

「不穏なものをバリバリ感じるんで近寄らないで貰えますか」

 この後滅茶苦茶丸め込んで、メディカルチェックは別の人にやってもらった。

 

 

おまけ

「あ、そうだ女将さん。五つの宝はそちらに差し上げます。閻魔亭の復興資金にするなり、飾るなり好きにしちゃってください」

「チュ!? いやお前様、こんな高価なものポンと渡していいんでちか!?」

「まあ確かに神秘的にも単純な貴金属としてもすごい価値ですけど……持ってるとこいつらが厄ネタを引っ張ってくる気がするんで」

「何か実感のある言葉でちね……」

「体験済みです」(白目)

 話し合いの結果、来年に来た際の宿泊費前払いということで落ち着いた。

 

 

 




後書き
 はい、というわけで雀の御宿繁盛記、これにて終了でございます。途中ぐだったりラストがまさかの戦闘なしでしたが、如何でしたでしょうか?
 ちなみに今回先読みできたのはリライス曰く、「いつもは攻められる側だけど、今回は準備が出来たから戦闘になる前に終わらせられた」とのことです。ウチのカルデアマスターは純真さを代償に悪知恵を身につけているようです()
 それでは、この話はここまでで。その内Fate関連の話もまた書くかもしれません。さーて、これで心置きなく大奥イベントを(謎の銃声)
 ……嘘です放置してる別作品の更新やっていきます! 特に緋で始まってアで終わるやつを!
 ではでは最後に、ここまで付き合っていただいた皆さん、大分完結まで時間がかかってしまいましたが、読んでいただきありがとうございました!
 

おまけのおまけ 今回の大奥イベントについて
「初めましてリライス様、私殺生院――」
「帰れクソ尼and大淫婦、何重もの意味でお呼びじゃないから」
「先輩!?」
「まあ、そのような酷い言葉をいきなりぶつけるなんて……私、悲しみの余り滾ってしまいます」
「Fu○k」


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