主なきノラネコたちの家   作:もちごめさん

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偽名がややこしいですが、『フェル』がピトーで、『ウタ』が黒歌です。よろしくお願いします。
もふもふ尻尾に顔うずめて死にたい。

20/9/08 本文を修正しました。


六話

 一度肉体が融解して再構成されるような、そんな転移の感覚が去った後、目を開くと、ボクは何の変哲もない小部屋の中に立っていた。

 

 小さな倉か何かなのだろうか。漆喰の壁に囲まれた薄闇の中を恐る恐るで見回すと、そこには所狭しと木箱が積み重ねられていた。見慣れぬ家財道具やら美術品やらの雑多な中身はことごとく埃をかぶっており、長らく掃除すらされていないようだった。

 

 空気がいがらっぽいこと以外、特筆しておかしな空間ではないようだ。しいて言えば少しだけ気温と湿度が高いような気もするが、それはどちらかといえば異変ではなく、きちんと目的地に到着した証であるのだろう。聞くに、目的地は地形の関係でフェーン現象というものが起こりやすく、この時期は不快指数が上がる傾向にあるという。

 

 と考えれば間違いなく、ボクたちは京都と呼ばれる都市に転移できたようであった。

 

「あー疲れた。随分と小汚いとこに出たねぇ」

 

 腹の底に居座っていた緊張感が緩み、小さく息を吐く。一刻も早く京都に赴くべきと決めた瞬間から今に至るまで、どうしても警戒心を振り払えなかったのだ。

 

 三十分前のその時、曹操をいたぶるボクがいたのはアメリカの端っこだった。通常の移動手段では、京都にたどり着くまで何十時間もかかってしまう。それでは到底『一刻も早く』というわけにいかず、となれば当然、通常の移動手段ではない方法、転移魔法陣の利用を選択せざるを得なかった。

 

 しかし、それを自力で発動させることは不可能であったのだ。ボクもクロカも京都に飛ぶための魔法陣など知らず、もし知っていたとしても、魔法を使えない人間の『フェル』と『ウタ』がそれをするわけにはいかない。転移を実行するためにそれ専門のハンターたち、いわゆる運び屋を頼るのは当然だろう。

 

 それが、消えなかった警戒心の原因だ。

 

 依頼され、ボクたちを転移させるためにやってきた魔法使いのハンターは、よりにもよって中々に因縁深い奴だった。

 

 一年以上も前のこととはいえ、全く気取られることなくボクたちをネテロの下まで強制転移させた張本人、【絶霧(ディメンション・ロスト)】の持ち主であるゲオルグだったのだ。

 

 奴ほどの腕前があれば、魔法陣に何かしら不可視の細工を施すことくらい造作もないだろうし、そうでなくても神滅具(ロンギヌス)である【絶霧(ディメンション・ロスト)】は、対象者を任意の場所に転移させる能力を持っている。例えば依頼の遂行と見せかけ、次元の狭間なんかの、生物が生存できない環境にいきなり放り出すことだって十分に可能だろう。

 奴にそんなことをする利点も悪意も無いとわかってはいるが、一度そう考えてしまえば疑念はもう消えようがない。奴の仕事を信用こそすれ、信頼できるはずもないボクは、一挙手一投足にまで気を張り詰めさせ、見張り、確かめたとしても、不信を貫かないわけにいかなかった。正確に転移が為されたという実証を得るまでは。

 

 そうやって常に万一の事態を意識し続けた結果、たまりにたまった心労を、ボクは今、ようやくため息に変えて吐き出すことが叶ったのだった。

 

 しかし長時間の緊張によって疲労した心身を慰めるためには、それだけでは不十分だったようだ。一段落もつかの間、ボクの不安はさらなる安堵を求めて背後を振り返っていた。

 

 ゲオルグにかかりっきりであった三十分の間もその気配だけは感じていたが、それでは少々実感が足りない。早い話がクロカの顔を見たくなったのだ。

 

 繋いでいた手を引き、最近ようやく舌に馴染んだその偽名を、ボクは呼んだ。

 

「ウタ、転移は平気だった?身体、おかしなとこはない?」

 

 しかし、ウタ、クロカの頭は、ボクのそれとは別個の心配でいっぱいになっているようだった。

 

「………」

 

 隠しきれない不安で顔色を青く変え、俯き気味に床に落とした視線の先には、恐らくシロネの姿が映っているのだろう。心ここにあらずといった無反応は、ウタを自分のことだとわからないくらいに余裕を消し飛ばされてしまっていた。

 

 彼女の元気な姿を見たかったわけではあるが、しょうがない。そして無理もない。シロネが攫われたという突如届いた事件の一報は、彼女にとってそれほど重大なものだった。

 不吉を感じて携帯を取り上げねば、もっと酷いことになっていたかもしれない。その内容は当時のクロカにとって許容量を大きく超えていた。

 

 心を癒している最中だというのに、不意を突いて耳に入ってしまったその情報。ショックを受けてしまうことはもちろんわかる。

 

(わかるけど――)

 

 ………。

 

 馴染みの仲介人曰く、事件が起きたのは五時間ほど前のことらしい。

 

 シロネは数人の連れと共に、京都に旅行に来ていたそうだ。最初の数日は特に何事もなく過ごしていたそうだが、最終日の今日、もうそろそろ帰ろうかと土産物屋に立ち寄った際にそれは起きたという。連れたちがほんの少しだけ目を離した隙、唐突に忽然と、シロネが姿を消したのだ。

 

 時間にして一分もなかったらしいが、その僅かな間、土産の菓子を物色していたシロネは何の前触れもなく、まるで初めからそこに存在しなかったかのようにしていなくなってしまったらしい。気付いた連れたちはもちろんすぐに周囲を探した。が、すでに姿は影も形もなく、手掛かり一つ見つけられない。やがて手に負えぬと悟り、九尾の狐と呼ばれる妖怪の八坂という人物を尋ね、助けを乞うたそうだ。『攫われた』と主張して。

 

 下手人を見たわけでもなく、客観的に見れば失踪とするべき案件ではあるが、それを覆してしまうほど連れが頑固だったのだろう。京都を縄張りにする妖怪たちの長に何を思い、神隠し的失踪を何と称したのかは知らないが、ともかくそのおかげで何かがこじれ、本来は内輪で解決されるはずだった案件がハンター協会にまで浮上してきたのである。

 

 そう、依頼主はシロネの連れではなく、乞われた当の本人である八坂なのだ。

 

 シロネとの接点があるとは思えない八坂から、至急の捜索依頼としてもたらされたその情報。混在する面倒事があからさまに臭っているが、しかし言うまでもなく、クロカにとって大切な人が巻き込まれた事件を放っておくわけにはいかない。

 

 そう考えると、連れの行為にはむしろ感謝すべきなのだろうか。大本の原因であることを考えればマイナスの域を出ないが、それでも知らぬままでいるよりは百倍マシだ。

 

 後は少しばかりタイミングを見計らって怒鳴り込んでくれれば、最低限、連れに対する悪感情は持たずに済んだかもしれない。何故、曹操を弄んでいる最中に連絡が来てしまったのだろうか。

 

 おかげで不本意が、ボクに先んじてクロカの肩に手を置いてしまっていた。

 

「まあそう心配するな、ウタ。日本は治安がいい。そう血生臭いことにはならないさ」

 

 曹操が、いつも通りの飄然とした調子で慰めの言葉を口にしていた。

 

 少し前まで腫れ上がっていた顔は、すっかり元の端正に戻っている。もちろんボクの【人形修理者(ドクターブライス)】によるものだ。治したくはなかったが、あのままでは色々と支障が出る。仕方がない。

 

 仕方がないが、奴の慰撫でクロカの瞳に光が戻ったことも合わさって、もやもやとした気持ちは抑えようがなかった。小さいがはっきりとした声で返事を返すクロカにどうにも説明のつかない感情を抱えつつ、ボクは天井にぼやいた。

 

「どうせならボクに直接依頼してくれればよかったのに……」

 

「指名依頼なんぞ、無名のフェルとウタに来るわけがないだろう。それに八坂殿は『プロハンター』をご所望だ」

 

 そういう正論は求めていない。

 

 睨めつけると、曹操はいっそ忌々しいくらいの仕草で肩をすくめていた。

 

 憂さ晴らしのつもりか。だがしかし、奴の言う通りではある。ボクもクロカも『プロハンター』の証たる『ハンターライセンス』を持っていない。めんどくさかったのもあるが、今までは必要がなかったのだ。

 

 大抵の仕事にはパリストンの名前だけで充分であったし、難易度も回数も、それほど難しいものを請け負う気は端からなかった。

 つまりボクたちは、プロハンターを条件とした八坂の依頼を唯一受けられた曹操に、助手として連れてきてもらった立場であるのだ。が、それの感謝もたった今掻き消えた。やっぱりアイツは好きになれそうにない。

 

 めんどくささによる後悔を噛みしめながら、ボクはため息を吐いた。

 

「……次のハンター試験って、いつだっけ」

 

「半年後、年始だ。今年のにも誘っただろう?せめてそれくらい記憶していてほしいものだな」

 

 そうだっけ?と半分むくれて首を捻るボク。クロカは歪に微笑んだ。

 

「そうよ。興味ないって、そっぽ向いてたじゃない」

 

 沈んだ気分を無理矢理持ち上げ、絞り出したような声だった。

 

 我に返ったとはいえ、やはり普段の調子ではいられないのだろう。それでも平静を取り繕おうとする努力は、むしろ痛々しく見える。

 

 少しばかり考えて、ボクはすぐそばの木箱に腰かけると、なるべく朗らかな声音で言った。

 

「じゃあ今度、二人で取りに行こうか、ハンターライセンス。少なくとも、コイツにでかい顔されずに済むくらいの効力はあるみたいだし」

 

「おいおい、酷い言いようだな」

 

 曹操は懐より取り出した地図に視線を落とした。その片手間、不動の声調で会話を続ける。

 

「だがまあ、受験に関してはぜひともどうぞ、だな。一般人が入れるようなところでは、本気の立ち合いなどとてもできん」

 

「よく言うにゃ。ボクに一発も当てられないくせに」

 

「難関と言われるが、お前たちにはあくびが出るほど簡単だろう。五年前の俺でも合格できたからな。必要なのは時間だけだ」

 

 ガン無視を決める曹操。ボクとクロカの目が合い、そしてまた、形だけの笑みが浮き上がった。

 

「ええ、そうね……」

 

 短い言葉の感情にはどうやら変化がない。ボクの思惑は、やっぱり成立していないようだった。

 

 ――わからない。

 

 あっという間に途切れてしまった会話。しかし間もなく、曹操が声を張り上げた。

 

「どうするにせよ、今のリーダーは俺だ。フェル、不満だろうが何だろうが、任務達成のためには従ってもらうぞ?」

 

 その手が伸び、唯一の板張りである引き戸を開けた。木材が擦れる耳障りな音で重々しく闇が晴れ、飛び込んでくる中天の眩さに目を細める。

 

 憎たらしいその後光を背で受ける曹操は、これまた憎たらしいあのクソジジイそっくりに、厭らしく頬を上げていた。

 

「ウタもな。この面子で妖怪のお嬢さん一人くらい、見つけられないわけがない。だから、そんなに辛気臭い顔をするな。心象まで悪くなる」

 

 クロカの思いつめた表情がのたまう奴を捉え、同時、羞恥と憤怒で赤く染まった。

 

「俺の彼女になりたいんだろう?ならもっと気丈でいてもらわないとな」

 

「なっ!?あ、あんた……!!」

 

 一瞬にして生気が溢れ、クロカから陰鬱が吹き飛んだ。赤面させた二つの感情は、どうやら憤怒が打ち勝ったらしく、引かれた足が曹操に向けて一歩踏み出す。

 

 が、爆笑の直前で踏み止まったような顔の曹操は、それよりも早く框を潜った。日の下に逃げ出す奴にクロカはわなわな震え、握り締めた拳と一緒に胸の内のそれを解き放った。

 

「あいつ、今度は私もぶん殴るわ……」

 

 怒りのまま、しかし吹っ切れた彼女が、後に続いて倉を出る。

 

 わからぬうちに、解決してしまった。

 

 やっぱりだ。

 

 後姿を見つめるボクは帽子を目深にかぶり直し、二人を追った。

 

 

 

 

 

 じりじり照り付ける太陽は曹操以上に嫌いだ。長く浴びると気分が悪くなる体質は、自分に流れる悪魔の血を強く意識させられる。

 

 なるべく日陰を歩いてみるが、あまり意味はないようだ。石畳の照り返しが顔を焼き、目に突き刺さってボクの視界をちかちかと瞬かせていた。

 

 そして何より暑い。行く道は大通りでもないのに人であふれ、立ち並ぶ古風な店々を中心に息苦しいほどの熱気が立ち込めている。夏の本番はまだまだ先らしいが、それでも十分すぎるほど蒸し暑かった。

 

 うだるような不快感は刻一刻と増している。前を行く曹操とクロカはそれほどでもないのか、一つしかない地図を奪い合って、何やら元気に舌戦を繰り広げていた。

 

 仲間外れにされているようで落ち着かないが、しかしもうその輪に入っていけるような元気は残っていない。八坂に指定された料理屋は近いそうだから、まあ別にいいだろう。一人だけの灼熱地獄も、もうちょっとの辛抱だ。

 

(けど、ちょっとだけ休んでもいいよね……)

 

 輪から離れて五メートルほど。九割ほど人ごみに隠れてしまった背を見送って、ボクはちょうどよく店先に現れたベンチにどっかりと腰を下ろした。

 

「あっつい……」

 

 顔を手で扇ぐ。温風しかやってこないが、それでも少しだけ気は休まった。眼前を行き交う人間たちが空気をかき混ぜ、ボクが纏った運動の熱を攫ってゆく。

 

 ただ歩くだけで空気に流れを作り出せるほど、その数は多かった。男も女も子供も、人種も、或いは種族さえも様々だ。

 

 世界有数の観光地に集う彼ら彼女ら。それを相手に商売をする者たち。音も匂いも騒がしくてせわしないが、けれども鬱陶しいとは感じない。『賑やか』、なのだろう。

 不快指数が高かろうが忌々しい日の下だろうが、この光景は見ていて苦にならなず、飽きない。

 

 人間社会の転変は、冥界でのそれと比べるべくもないだろう。クロカが人の世の生活を欲したわけも、今ならよくわかる。静寂はつまらない。

 

 人の流れをぼーっと眺めながら、ボクは茹った脳味噌でそんなことを考え始めた。背もたれにのしかかるようにして、後ろを振り返る。

 

 クロカが好みそうな、着物の呉服店。ショーウィンドウの向こうに佇む大型の姿見には、ちょうどよくボクの姿が映っていた。

 

 ボクの、『フェル』としての装束。これもその象徴だ。

 

 クロカと違ってしまうことができない耳と尻尾を隠すための、ゆったりとした装い。キャスケット帽なる帽子と、踝まである、なんかへんてこな名前のズボン。長袖のジャケットにも何か名前があったような気がするが、忘れた。

 

 作り物の小指と細工が施された、四本指のボク専用の革手袋や、ブーツにインナーまで、人間にはない身体特徴を隠すために必要だったこれら。選んだのはすべてクロカだ。

 

 実用性のみを考えるなら、もっと快適な物が他にいくらでもあるだろう。帽子は耳が蒸れるし、ジャケットもズボンもひらひらして鬱陶しい。そして暑い。

 

 なのに何故、クロカはこのような不合理を求めたのか。そのほうが似合うからだ。

 

 客観的にそれを認識することはまだ難しいが、同じく変装したクロカを見ればその心情は察せられる。

 

 眼鏡をかけ、洋装に着替えただけだというのに、彼女はいつもよりあか抜けた雰囲気に見えた。見知った格好が少し変わっただけで、それは新鮮で好ましい。着飾るというその行為は、確かに無意味なものではないのだろう。

 

 世の人間が高々布切れに手間をかける理由も、段々とわかるようになってきた。観光地が賑わう理由も、旅行へ行く理由も、喧噪を求める理由も。ボクの異常な価値観(キメラアント)は、この一年で知った『普通』に近づきつつある。

 

 だが、

 

(わからない)

 

 価値観がいくら『普通』ににじり寄っても、それはクロカまで届かなかった。

 

 ――何故

 

 シロネこそが、クロカの『闇』を解き放ったのではないのか。

 

 クロカを傷つけ、捨てて、苦しめたはずなのに、何故そこまで、キミはシロネを案じているのだ。

 

 どうしてもわからない。

 

 案じていることがわかっても、理解ができない。どうしてそう思っているのかわからない。

 

 自分の身に置き換えても、仮定して想像してみても、結論は変わらなかった。

 

 『妹』という称号は、そんな理屈を軽く捻じ曲げてしまうほど強力なものなのか。何度裏切られても関係ないくらい、『家族』という存在は大きいのだろうか。

 

 一年経っても、それだけがどうしてもわからなかった。わからないから、それを慰める方法もわからない。曹操の言葉の何がクロカを呼び戻したのか、それすらもわからない。

 

 ボクは視線を通りに戻した。行き交う人間たちの中には当然家族連れも多くいる。

 

 いっそ試してみようかと思ったことも、一度や二度ではない。例えば向かいの店で楽しげに笑い合う姉妹の片方を攫い、操ってもう片方を殺させたらどうなるのだろうか。死の直前、幼子たちはどんな顔をするのだろう。

 

 恐らくそれに意味はない。驚愕だろうが怒りだろうが慈しみだろうが、どうしてそのような表情を作るに至ったかなんて……心の中身は、頭を開いてもわかりはしない。

 

 けど、もしかしたらという思いは捨てきれなかった。知らなければ、試してみなければ、そもそも理解などできるはずもない。認識のとっかかりを体験しなければ、それに手を掛けることすら不可能だ。

 

「………」

 

 ベンチが軋み、腰を上げたボクはまっすぐ前に歩き出した。左右から流れ来る人々をするすると躱して横断し、対岸の店までたどり着く。

 

 姉妹が、影に気付いて同時に振り向いた。もしかしたら双子なのかもしれない。よく似た幼い顔でキョトンとボクの目を見つめ、売り物の玩具を両手に首を傾げる。

 

 手が伸びた。滑らかに、ごく自然に。

 

 ――。

 

 そして姉妹たちを通り過ぎ、陳列されたその玩具を手に取った。

 

 針付きの木槌と赤い球が紐で結びつけられたそれ。名も知らない木製玩具を手にしたボクは、呆然とこっちを凝視する店員らしき人間に、それを振って見せた。

 

「ねえ、コレいくら?」

 

「……え?あ、はい!せ、千円になります!」

 

 そんなものなのか、とシンプルな見た目を一瞥してから、がま口財布を引っ張り出す。がちゃがちゃやって日本紙幣を見つけ出し、差し出した千円札が受け取られるのを見届けると、ボクは踵を返して店を出た。

 一瞬遅れて「あ、ありがとうございました」という口上と三人分の視線を背中で受け止め、雑踏の中を歩き出す。

 

 しばらく行くと、二股の曲がり角が現れた。右の道には変わらず喧騒が続き、人でごった返している。だというのに、誰一人として左の道に進もうとはしない。まるでその道を認識できていないかのように、誰も彼もが左の道を避けていた。

 

 ボクは躊躇わず、そっちに踏み込んだ。ずっ、と、水の膜でも通り抜けたような感覚。どこか遠く、というよりは別の次元から見られているような視線を感じたが、気にせず先に進んだ。

 

 すぐにクロカと曹操を見つけた。人気のない通りで唯一気配を感じる立派な建物。普段は見ることがない異国情緒あふれる造りのその前で佇んでいた彼女らは、ボクに気付くとそろって手を振った。

 

「あ、やっと来た。何かあったの?」

 

「うん。ちょっとお買い物」

 

 クロカの出迎えに笑顔を作ると、ボクはポケットから謎の玩具を取り出した。

 

「ねえウタ。コレってなんていうの?」

 

「え?あら、けん玉じゃない。懐かしい……っていうか、お買い物ってけん玉?しかも知らずに買ったの?」

 

「うんまあ、ちょっと興味が湧いて……で、どうやって使うの?」

 

「ええっと……」

 

 と、胡乱げに呟き、クロカはけん玉を受け取った。先端の針から赤い球を外し、木槌部分に巻きつけられた紐を解きにかかる。

 

 ああそれは解くものなのか、と眺めているとその半ば、曹操の制止がかかった。

 

「おい、二人とも遊ぶのは後にしてくれ。人払いの結界を抜けたのは向こうもとうに気付いている。あまり待たせるわけにはいかないだろう」

 

 呆れかえった眼と声が、ボクらに向いていた。親指で店の入り口、目的地の料理屋を示して迫っている。

 

(また余計な正論を……)

 

 憮然とした顔にまたもやもやを抱えてしまうも反論材料などはなく、ボクとクロカは顔を見合わせ、引き戸を開けた曹操に続いた。

 

 戸が吐き出したガラガラという騒音。向こう側には着物姿の女性がいた。何かしらの妖怪なのだろう。頭には大きな三角耳が付いていて、腰のあたりからはボクらのものより数段毛量の多い尻尾が生えている。

 

 そんな人物が、ボクらを認めると礼儀正しく頭を下げた。

 

「お待ちしておりました。ハンターの方々ですね?」

 

「ええ。遅れてしまって申し訳ない」

 

 曹操がにやけ顔で微笑んでいる。できることなら今すぐにでも殴り倒したい。

 

「いえ、無理を言ってお呼び立てしたのは私どもですので……我が主の下までご案内いたします。こちらへどうぞ」

 

 驚くほどの無表情で無感情に断ると、そいつはボクらに背を向けた。ピカピカに磨かれた板間を音もなく歩き始める。言われるまま続こうとして、その直前、クロカの手に止められた。

 

「靴、脱がなきゃだめよ」

 

「あ、そっか。日本だと店でも土足は駄目なんだっけ」

 

「どのお店でも、ってわけじゃないけど、ここって高級料亭だから」

 

「料金の多寡で履物の有無まで決まる。にゃるほど」

 

 新たな知識を記憶領域に仕入れつつ、ボクとクロカと、ついでに曹操は、玄関の石畳から木材のフローリングに上がった。

 

 導かれ、左右にいくつも引き戸が並ぶ廊下をしばらく歩くと、清澄な雰囲気の綺麗な庭に出た。

 

 膝ほどもない手すりを隔て、廊下に沿うように続く小さな庭園。引かれた白砂が流水のような模様を描き、青々とした草木の合間を流れている。向こうで見るような彩はなく地味ではあるが、しかしそれ故の神聖さ、懐かしさのような気配を、ボクはその光景に感じた。

 

 静かで、何もいないあの場所。生まれ故郷。

 

 妙な感慨を抱きながらも進み、庭と接すると、差し込んできた日が肌を刺す。

 

 刺激を受けて、今度は嗅覚がそれを捉えた。

 

 空気に漂う何やらおいしそうな匂い。微かなそれについ鼻をひくつかせ、堪能してしまう。

 

 ……恐らく料理の匂いだろう。甘さや芳ばしさ、様々な芳香がボクの食欲中枢を刺激している。

 

 ボクは隣を歩くクロカにこっそり耳打ちした。

 

「この仕事終わったらさ、ここの料理食べて帰らない?依頼料も入るわけだし」

 

 ゆっくりと振り向いたクロカの笑みは、やっぱり微妙に歪んでいた。

 

「そう、ね。あっちじゃ毎日バーガーばっかりだったものね」

 

 いつものはじけるような笑顔が懐かしい。ボクが言う言葉は、どうしてクロカにこんな顔をさせてしまうのだろう。

 

 なかなか去ろうとしない自己嫌悪を堪えて微笑を返す。陰り始める場の空気。ふとその暗雲に、曹操が首を突き入れた。

 

「いい案だな。俺も一度京料理を食べてみたいと思っていたんだ」

 

 お呼びでない奴の割り込みは、ボクとクロカの機嫌を容易く降下させた。降下しすぎて声すら出ないくらいに。

 

 なんでコイツと一緒に食事なんてしなきゃならない。色々と掛け違っている今日のボクたちではあるが、こればかりは共通認識であったようだ。

 

 無言の重圧に、さしもの曹操の陽気も気圧された。にやけ顔が引きつり、少しだけ後退る。それでも最低限の愛想笑いは残しながら、奴は再度口を開いた。

 

「……あのね、傷つく上に返しに困るから、せめて無言はやめてくれよ」

 

 肩を揺らした直後だった。

 

 店中に轟くほどの大声が、向かう先から響き渡った。

 

「――ならばどうするというのです!!」

 

 いきなりのことにクロカの背が跳ねた。だけでなく、ボクたちの足音と囁き声くらいしかなかった静寂を突如貫いた男の声は、一定の調子を保つ案内役の歩みすら止めてしまった。

 

 空気もろとも皆の注意を引き抜いてしまったそれに、曹操も表情を引き締めた。立ち止まる案内役に尋ねる。

 

「どうやら取り込み中のようだが?」

 

「……いえ、すぐにお連れしろと、申し付けられておりますので」

 

 ほんの僅かに感情が滲んだ言葉を自分に言い聞かせるように並べると、案内役は小さく深呼吸をしてから歩みを再開した。

 

 突き当りの角を曲がると、そこは案外近かった。すぐそばに優美な庭園があるというのに、それを眺めることもできない奥まった日陰の一室。

 

 紙を張った扉、確か障子というのだったか。ボクはなるべく思考せぬように気を付けながら、案内役がその向こうの誰かに訪いを告げるのを見つめていた。

 

「八坂様、例の方々がお見えになりました」

 

 障子に映る大きな影は、どうやらこっちを振り向いたようだった。

 

「おお、待ちわびたぞ。お通しせよ」

 

 案内役は目を伏せると、横にずれて障子を開けた。するりと滑り、見渡せた部屋の中。影の主であった八坂が、正座したままボクたちを手招きしていた。

 

「よう来られた、お三方。さ、こちらへ」

 

「初めまして八坂殿。なにやら会談の最中であるようだが、よかったのですか?」

 

 にやけ顔とも違う完全なビジネススマイルを纏いながら、曹操は会釈して、勧められた座布団に腰を下ろした。靴下越しに畳の感触を味わいながら、クロカとボクも後に続く。

 

 正方形の座卓の一辺を三人で占領すると、ボクは首を曲げて意識的に正面から目を逸らす。視線の先の八坂が、妖艶な微笑を曹操に返した。

 

「よかったも何も、むしろそう、ぐっとたいみんぐ、じゃな。ちょうどよかった」

 

 着物姿のクロカを彷彿とさせるような恰好をしていた。

 

 盛大に着崩し、はだけた胸元は、下手をすればクロカ以上の大迫力だ。テレビで知ったことだが、普通、ここは大きければ大きいほど男に対して高い特攻能力を持つらしい。京都を治める九尾の狐の本領に、曹操も仮面をかぶらざるを得なかったのだろう。後でからかってやる。

 

 頭には、案内役と似た形の大きな耳。尻尾も同じく似ていたが、その本数は九尾の名の通り九本もある。ボクは一本、クロカは二本。それを大きく超える九本は、もちろん数段毛量が多い。

 空気を孕んでふかふかになっているものが、彼女の背後に九本だ。広がったそれだけで、人一人分もの面積を埋め尽くしている。そこから面を圧すように放たれる妖力の力強さと膨大さは、俗に神獣とも呼ばれる九尾の狐が噂に違わぬ強者であることが伺い知れた。

 

 それだけの危機感に意識を向けていても、座卓に座するそいつらを完全に忘れ去ることはできなかった。轟いた大声から燻っていた憎悪は、身動ぎの気配一つで簡単に思考をこじ開けた。

 

 冥界にいるはずのシロネが、連れと一緒に旅行で京都にやってきた。

 

 わかってはいたことだ。だが気配を一瞬でも感じてしまえば、知らぬふりを続けることなどできなかった。

 

 ボクたちの正面にいる二匹と、八坂の正面にいる一匹。三匹はすべて、ボクがこの世で最も憎い畜生共、悪魔だった。

 

「……八坂殿、この三人は、いったい何者です?」

 

 八坂の正面、ボクに最も近い位置にいる一匹が、汚らしく鳴いた。

 

「見たところ、妖怪ではなく人間のようですが……」

 

「つい今しがた言うたじゃろう?沖田殿。妾が呼んだ折衷案、ハンターじゃ」

 

 顔なんて見る気もしないが、聞く限り、男はどうやらボクとクロカの正体に気付いてはいないらしい。パリストンの【ありきたりな微笑(ビジネスライク)】とクロカの仙術による気配の隠蔽はうまく機能しているようだ。

 

 殺したいのに殺せないジレンマを心の中での嘲笑で発散しつつ、ボクは悪魔共から眼を背け続ける。

 

 八坂がにこやかに言った。

 

「おや、どうやら沖田殿は信じておらんようじゃな。彼が若すぎるからじゃろうか?ならば安心なされよ。妾とてただ闇雲な人選をしたわけではない。彼はこの若さですでに様々な功績をあげておるのよ。主らの身近で言えば……単独でのS級はぐれ悪魔討伐、とかの。調べた限りでは強力な神器(セイクリッド・ギア)も所持しているらしいぞ?どのようなものかはわからなんだが……のう曹操殿、一つ教えてはくれぬか?」

 

「さすがにそれはご容赦願いますよ、八坂殿。しかし、私をそのように評価していただけるとは思っていませんでした。光栄の至りです」

 

 曹操と八坂の間に形式的な朗笑が流れた。至近距離で悪魔の鳴き声を聞くよりはずっとましだが、曹操のそれも癇に障ることに違いはない。平静を保つことに苦心するボクは、この二人の会話を右から左に聞き流していた。

 

「光栄ついでにもう一つ尋ねてもよいか?人数の指定もせなんだし、文句があるわけではないのじゃが……主が連れてきたその二人はどのようなお人なのじゃ?どうにも見覚えがない」

 

「ああ、それも説明せねばなりませんね。実はこの二人、厳密にはハンターではありません。ハンターライセンスを持たない、所謂アマチュアハンターというやつです」

 

「ほう、あまちゅあ……」

 

「大きな事件にも関わってきませんでしたから、情報も少なかったのでしょう。ですが目立っていなかっただけで、二人ともプロにも劣らぬ実力者です。

 プロハンターになるための試験、というものが存在するのですが、つい今しがたもそれについて二人に話していたのですよ。お前たちなら簡単に合格できるだろう、と。それに関しては、私の命を賭けてもいいくらいです」

 

「ほうほう、曹操殿がそこまで言うなら、そうなのじゃろうな。よかったのう沖田殿。これで白音の安全は確約されたようなものじゃ」

 

「ええ、ご安心ください。二人の能力は特に人探しに有用ですので」

 

 ……やっぱり右から左は不可能であったようだ。もしやわざとやっているのか。言葉の節々に挟まれる曹操の上から目線。苛立ちの悪化を抑えられそうにない。

 

 それでも何とか自制せねばと、ボクは座卓にもたれて息を吐いた。肘をつき、革手袋の手で頭にたまった苛立ちの熱を冷ます。

 

 そうやってもたらされた僅かな冷気に意識を移し替えようとした。その時だった。

 

 耳をつんざく甲高い声が、意識の奥に沈みかけた苛立ちを引き上げた。

 

「つ、つまり、あなた達は白音を助けてくれるってこと、なの……?」

 

 視界の端、反対側の席から身を乗り出して、赤髪の幼体が必死の形相でそう訊いた。

 

「ん?まあ、そういう依頼ですからね」

 

「な、なら――」

 

 と、興奮した赤髪は鼻息荒く、座卓を乗り越える勢いで手を伸ばしてきた。対角線にいる曹操ではなく、正面のボクめがけて。

 

 苛立ちを通り越し、虫唾が走る。

 

 叩き落とした。

 

「触らないでくれる?」

 

 憎悪と殺意と嫌悪感。すべてをその一言に押し込めた。

 

 途端、血の気が引いた赤髪が恐怖に慄き、弾かれたように手を引いた。右隣の男から鋭い殺気が突き刺さるが、しかしそれに応える前に、また曹操が邪魔をした。

 

「いや、申し訳ない。そいつは少々、人嫌いならぬ悪魔嫌いをこじらせていまして……失礼ですが、言葉の通じぬ獣とでも思って放っておいていただければと思います。そこな……あー、悪魔のお嬢さん?」

 

 普段であれば半殺しにするレベルの侮辱すら、気にもならなかった。決して見せてはいけない悪意が、心の内に渦巻いている。

 

 ここで手を出せばすべてが無駄になる。クロカの望みが破綻してしまう。そう思うことで何とかギリギリ踏み止まり、出かかったどす黒い思いを呑み下した。対面に座するもう一匹、なぜか堕天使の気配が混じった黒髪と、それに抱き着き震える赤髪を、せめてもの激情を込めてボクは凝視し続ける。

 

 思考停止状態。冷や汗混じりの笑みを曹操に向けられてからたっぷり三秒を要し、頭の歯車を一ミリだけ動かすこと叶った赤髪は、震える声でさえずった。

 

「リ、リアス……リアス・グレモリー、よ……この子は、私の女王(クイーン)の、姫島朱乃。あっちがお兄様……魔王サーゼクス様の騎士(ナイト)、沖田総司……あ、あなた、は……?」

 

 すでに出ている名前に気付けるほどではなかったが、半泣きになんとか言い切った。曹操がわざとらしく驚いたふうな顔をする。

 

「これは、まさか魔王殿のご息女であるとは思いもよりませんでした……名乗りが遅れて重ね重ね申し訳ない。私は曹操という者です。この二人が……」

 

「……ウタ、です」

 

「……フェル」

 

 無視してやりたいのは山々であったが、仕方なくクロカに続く。視界外で怒りの気配を増していく男の悪魔が、その心情を隠そうともせず、唸り声をあげた。

 

「それで、八坂殿。この者たちが折衷案とは、どういう意味なのです?私が何度も申し上げた嘆願は、その意味すら伝わっていなかったのですか……?」

 

 漂う不機嫌な気配にも一切の変化なく微笑みながら、八坂が柔らかな声音で言った。

 

「ちゃあんと伝わっておるよ。我ら妖怪の手では不安なのじゃろう?じゃから代わりに、ハンターを呼んで探してもらおうと――」

 

「何が代わりですか!!」

 

 ばん、と座卓が揺れ、置かれたグラスが倒れた。零れた中身が上に広がる。

 

「信用できるわけがないでしょう!?たかが人間に何ができるというのです!!ましてや依頼主が貴女では……それに、このような眼をする者がいるんだ!!その悪意を白音に向けない保証はどこにもない!!」

 

「……!!」

 

 瞬間、理性が飛んだ。栓が外れて黒が漏れ出る。殺意が、ボクの身体を動かした。

 

 だがそれもすぐに止まった。袖口に触れるクロカの手。その感触に意思が留められ、ボクの腕はそこより先に進むことはなかった。

 

 クロカの青ざめた表情を目にしながら、ボクは少し早口の曹操を意識した。

 

「心配はごもっともです。ですがその必要はありません。平時ならともかく、仕事に私情は持ち込みませんよ。こいつも承知の上でここに来ていますので。なあ、フェル?」

 

「……うん」

 

 形だけの生返事。曹操の笑顔が引きつるも、八坂による瞬時の助け舟で元に戻る。

 

「というか、種族的には妖怪ではなかったかの?その白音という娘は」

 

「おや、そうなのですか?ならばなおのこと心配ご無用ですね」

 

 白々しい会話だ。二人だけで示し合わせたかのようなやり取りは、またしても轟音を鳴り響かせた。

 

「だからその言葉が信用できないと言っている!!第一、我々が求めているのは戦力ではなく許可だ!!我々悪魔の手で、京都の町を探す許可が欲しいだけです!!話を逸らさないでいただきたい!!」

 

「逸らしてなどおらんよ、沖田殿」

 

 鼓膜をビリビリ震わせる畜生の声に答えた八坂は、その表情を一変させ、冴え冴えとした冷光を向けていた。暴風のように吹き付ける圧力を放ち、続ける。

 

「その話は飽きるほどしたじゃろう。答えもしかりじゃ。一編たりとも変わらん。妾は京を治める者として、そのような要求に応えるわけにはいかぬ。絶対にじゃ。

 我らを信用できぬというなら、それでもよい。じゃがな小童、妖怪にも誇りというものがある。あまり、我らを愚弄してくれるな」

 

 最後に一際強く威圧の重低音を打ち鳴らすと、八坂は反論を許す前に腰を上げた。見下ろし、淡々と告げる。

 

「妾ができる譲歩はここまでじゃ。これも受け入れられぬと言うなら、白音のことなど忘れて主らの世界に帰るとよい。許可証の期限はもう切れておるのじゃろう?止めはせん」

 

「そ、そんな……」

 

 赤髪が呆然と鳴いた。すると八坂は一転して優しげな微笑に戻り、それを幼体二匹に向ける。

 

「どうであれ白音は見つけ出す。安心なされよ悪魔の姫君。ただ、もう主らにできることは何もない、というだけのことじゃ」

 

 黒髪共々ポカンと開口する赤髪を見届けると、八坂は次いでボクたちを見やり、半身振り返って障子の引手に手を掛けた。

 

「そうと決まればじゃ、ハンターの方々。依頼の詳細を説明しよう。妾についてきておくれ」

 

 曹操に眼を向けると、気付いた奴が咎めるような視線を返して立ち上がった。想像通りこじれていたが、どうやら依頼主に従うらしい。ボクも胡坐を解き、腰を上げると、正面でボクに怯える幼体を、なぜか見つめて動かないクロカの肩をゆすって起こし、部屋を出ようとした。

 

 しかし寸前、障子の向こうに消えようとする八坂の姿を、男の声が引き留めた。

 

「随分、頑なですね、八坂殿。我々の信頼関係は、そこまで希薄なものでしたか?」

 

 見もせずに、八坂の冷ややかな声色が、侮蔑を含んで凛と響く。

 

「あのような大勢で押しかけられれば、頑なにもなろう。ましてやお主ではな」

 

 言うと、八坂は少しだけ足早に歩き始めた。

 

 彼女には恐らく聞こえなかっただろう。というか、最後尾のボクにしか聞こえなかったはずだ。それほど微かな、ごく小さいつぶやきだった。

 

「大勢……?」

 

 怒りの類ではなく疑問の色。ボクは部屋を出て、廊下を戻る皆の後に続いた。




八坂殿の口調わっかんねぇ…語尾に「にゃん」付けない黒歌と腰の低い曹操もそうですが、キャラ崩壊してないかすごく不安…
なので感想ください。
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