主なきノラネコたちの家   作:もちごめさん

23 / 70
誤字報告をいただく度に一々お礼を言うのも鬱陶しいかなと思ったので、全部まとめて最終話に『ありがとうございました。(いまさら)』って書く天丼を目論んでいましたが、話数が十六まで膨れ上がった挙句に本文書ききるのに九ヵ月もかかってしまったので、今度からはちゃんとまめにお礼を言うことにします。
今までの誤字報告ありがとうございました。(いまさら)

そもそも誤字は私のほうでなくすべきなんですけどね。中々ね。


十六話

 胸に染み出る赤色と共に、釣り人男の命は静寂に紛れて消え去った。

 

 生気が薄れ、気配が溶ける。奴の『気』が人としての形を失い、散り、還っていくその一部始終。ぽたぽた、と、引きちぎられた肩から滴る水音だけが反響する中で、私もピトーもシルバも、立ち尽くして見守っていた。

 

 曹操の邪炎を逃れた『念魚』たちも皆、それに引かれるように崩れて消え、空っぽの身体だけが取り残される。シルバは、そんな静まり返った地下鉄トンネルに歩を進めた。その歩みに対して、足音はほぼ無音と言っていいほど小さい。

 私と似たり寄ったりの負傷具合である奴は、やがて瓦礫に背を乗せ事切れる死体の間近までたどり着き、衰えることのない冷え冷えとした眼光で見下ろした。少しばかり眺めると僅かにかがみ、地に落ちた死体の手に赤黒く染まった包みを落とす。もう動きを止めてしまったその中身は、奴が一瞬のうちに抜き取ってしまった、釣り人男の心臓だ。

 

 シルバは無感情とも思えるくらいに淡々と、それをやり終えた。立ち上がるとその途端、ピトーの大仰なため息が、水音に取って代わって響き渡った。

 

「あーあ、ホントに死んじゃった。やになるにゃあ、これで三回連続のお預けだよ。ねえ、曹操?オマエも、酷いと思うでしょ?」

 

 振り返り、曹操の息を凍りつかせる。戦意の薄れた苛立ちとはいえ、今のあいつにはスルーしきれないほどの圧だったのだろう。感じる気配だけでビビっている姿が想像できる。

 

 最近ではとんと見ることがなくなったその醜態を内心で笑いつつ、私も続いて振り返った。ギシギシ痛む身体を押して、言ってやる。

 

「別に、わざわざシルバまで助けなくてよかったじゃない。しかもおかげで、また『気』切れ寸前だし。あんたバカじゃない?」

 

「……シルバ氏に、任せるのが、一番安全で、確実だと、思っただけだ……。なんといっても、殺しのプロ、なんだからな……」

 

 私の声に頭を一振りし、荒い息で顔を上げる曹操。座り込んで両足を投げ出し、天井にぽっかり空いた大穴を仰ぐ。

 

 息を整えようと深呼吸する奴は、私が痛みに苦心して身体をもそっちへ向けると、さらなる物言いを飛ばしてきた。

 

「死にかけの黒歌が、返り討ちに合うよりはましだろう?」

 

 我慢できなかった私の一声は、どうやら奴にいつも通りの調子を取り戻すだけの余裕を与えてしまったようだ。

 

 汗に汚れたその顔が私を見て、唇の端を持ち上げる。戦闘で昂った精神は当然その苛立ちに抗しきれず、つい痛みを忘れて前に出た。

 

「返り討ちになんてされるわけないでしょ!ていうか、死にかけはむしろそっちじゃない!」

 

「俺の『オーラ』残量のことを言っているなら、お前が思うほど余裕がないわけじゃない。もう一度くらいなら、あれも撃てるくらいには残っているさ。肉体へのダメージ量でも言わずもがなだろう?両腕ともやられているみたいじゃないか」

 

「べ、別に右腕はともかく、左腕は折られただけだしすぐに治――いッ!」

 

 走った痛みに、私の理性は昂りから解放された。口に出しながらも、半ば自身が骨折していることを忘れていたのだ。おかげで虚勢が容赦なく腕を振り回し、傷口を広げてしまった。

 

 ついさっき曹操をバカ呼ばわりした自分への恥ずかしさも相俟って、うめき声をあげながら蹲ることとなってしまった私のことは、きっと痛みのせいで身を折ったように見えていることだろう。その実七割は羞恥のせいだったが、傍らから聞こえるピトーの気遣わしげな声色を無視はできない。

 

「大丈夫?あんまり痛いなら、今ここで直そうか?」

 

「あ、ああ、えっと……」

 

 なんて無駄な間投詞を並べつつ、私は無理矢理顔を上げた。顔に残った熱に抗い、続きを喉から押し出そうとする。

 

 ピトーのあの能力、【人形修理者(ドクターブライス)】は、フェルで使っても問題ない。しかしそれはそれとして、使用している間ピトーが他の能力を使えなくなる、という能力の『制約』が存在する以上、この場での治療は少しばかり危険なのではないだろうか。

 

 そういう意味合いの台詞を組み上げるため、頭の中を切り替えようとしていた。

 

 だがやっぱり、舌の上に乗る前に、図々しくもあいつが邪魔をした。

 

「やめておいた方がいいな。倒せたのは、そこの一人だけなんだろう?こんなところで隙を晒すことはないさ」

 

 会話に化けるはずだったほぼすべてを、先んじて奪われた私。周囲をきょろきょろ見やって宣った曹操に、犯意があったかどうかは定かでないが、しかし怨みは晴らさねばならない。

 

 私はできうる限りの威圧を、視線に乗せてぶつけてやった。

 

「もう!うっさいわよ曹操!今の今まで気絶してたくせに、勝手に仕切るんじゃないわよ!」

 

「おいおい、お前がそれを言うのか。いったいどこの誰の、俺は失神する羽目になったのか、もう忘れてしまったのか?被害者たる俺は、はっきりと憶えているんだがな?」

 

 いつも通りのニヤニヤ笑いの中に、一滴だけ垂らされた怒気。その感情に、あの時の気まずさを思い出してしまう。

 

 うぐ、と、興奮が冷めて喉が詰まった。

 

「それだって、元を正せばオマエのアレが原因。黒い炎の神器(セイクリッド・ギア)を連発したから、簡単に落ちちゃったわけじゃない?どうしてあんなにバカみたいに『気』を消耗するのかな。アイツの言う通り、もうちょっと体力でも鍛えていれば、あんな欠陥能力でも――」

 

「その欠陥能力がなければ死んでいただろう?二人ともな」

 

 ピトーの援護も無慈悲に潰され、二人そろって曹操から顔をそむけた。あからさまが漂うため息に、なぜこんな大きな顔をされなければならないのか、と憤り、私があの能力を制御できなかったからか、と自爆する。せめてそのひ弱を揶揄してやるべく、私は意を決して立ち上がろうとした。

 

 が、またしてもだ。

 

「まあ、そんなことはともかくとしてだな、ウタ、さっきから妙に調子が出ないというか、気分が悪いんだが……仙術で何とかならないか?」

 

 またしても横槍が入る。痛む身体では奴の頭の回転に追いつけず、懸命に対する意義を奪われてしまう。軽口を差し込む間と一緒に、申し訳ないとかそういう遠慮も消え去ってしまった。

 

 ひっぱたくなりしてまた失神させてやろうか、などと割と真剣に悩みつつ、ピトーの手を借り腰を上げる。神経を駆ける電気信号の余韻を息を吐いて受け流してから、内心で『しったことか』と言ってやった。

 

「『気』が身体に馴染んでないんでしょ。他人のを無理矢理突っ込まれたんだから、当たり前じゃない。酔い止めの薬でも飲んでおけば?」

 

「……薬が、効くものかな。『オーラ』が……ああいや、『気』が原因の症状に」

 

「効くわよ。切れたらまた気持ち悪くなるだろうけど。……っていうか前から気になってたけど、『オーラ』か『気』か、呼び方どっちかに統一しなさいよ。ややこしいったらないわ」

 

「さて、どっちからツッコめばいいかな。お前にこの吐き気を治す気がないってことか、それとも呼び方の違いをいちいち気にするめんどくさい性格のことか」

 

「もういいからあんた黙ってなさいよ」

 

 一を放てば二を返る。三で応戦してやるのもやぶさかではなかったが、それは諦め投げ捨てた。

 

 奴と同じように機会を封殺してやる気に、私はなれなかったからだ。

 

 視線の先、曹操の背後で、もじもじと何やら言いたげにしていた白音が、与えられた間隙にすかさず幼い声色を差し込んだ。

 

「あ、あの……う、ウタ、さま……『気』ってことはもしかして、わたし、曹操さんに何か間違ってしまったんでしょうか……?」

 

 悲壮感が滲んで、私の中に入り込んだ。鼻の上の眼鏡を押し上げようとして、とっくに粉微塵になっていることを思い出し、眼を逸らす。

 

「別に……言ったでしょ?間違いも何もないわよ。一人一人『気』の波長は違うんだから……それを完全一致させてから流し込めなんて高難易度、さすがに求めてないわ。死ぬわけでもないし、ほっといたらそのうち馴染むわよ」

 

「そう、ですか……じゃあ、その……わ、私はちゃんと、仙術を、使えたんですか……?」

 

「……そう言ってるじゃない。まあ、初歩の初歩でしかないけど――」

 

 と、図らずも曹操の杞憂を解いてしまった私の口は、不意な制止の手によって遮られた。ピトーの緊張に何事かとすぐさま意識を向けて見れば、私も同様、警戒心を取り戻さざるを得なかった。

 

 『気』の意識が向く先を振り返れば、静かな戦意に燃えるシルバと眼が合った。

 死体の前で半身だけ振り向き、私とピトーを睥睨している。自然体に見えるその体勢だが、何かきっかけがあれば瞬きの間もなく暗殺者と化すことができるだろう。感じる『気』は、既にその準備を終えているようだった。

 

 殺意とまでは行かずとも、注意の眼を向けられている睨み合い。ピトーはゆっくりと慎重に構えを解きながら、呟くように言った。

 

「……ボクらにまだ、何か用事?」

 

「……いや」

 

 シルバの顔から、ほんの少しだけ険が取れたような気がした。

 

「残りの二人を、()りに行くだけだ」

 

 顔を背け、死体を避けて歩き出す。傷だらけのその背中に、曹操が叫んだ。

 

「シルバ氏、さすがにその身体で一人は無茶でしょう。敵の能力だってわからない。だろう?ウタ?」

 

「まあ……女のほうはそうね。拳銃使いってことくらい」

 

 張られた声に思わず反応してしまい、やむを得ず答える。微かに白音の動揺を感じたが、呑み込んで続けた。

 

「でもイケメンのほうは、一つだけわかってるわよ。あの転移能力。『制約』とかはわからないけど、白音を十メートルくらい先に瞬間移動させてた。でも……」

 

 あの能力に感じた言葉にしにくい奇妙は、未だにその理由を解明できていない。

 

 戦い、特に念能力に於いて、未知とは脅威だ。知らぬ間に条件を満たしてしまい、気付いたころには詰んでいる、なんていうこともざらにある。仙術であればそういった危険のほとんどを防ぐことはできるが、だからといってよくわからない奇妙をそのまま忘れ、捨て置くなんていう気にはなれなかった。

 

 そういう意味合いで言い淀んだ私だったのだが、曹操がそんなことを知る由もなく、私の憂慮から少々外れた解釈が、整い始めた呼吸の後に語られた。

 

「それ一つしか能力を持っていない、なんてわけはないだろうな。……サンペーといったか、そいつと同じ程度の力量なら、もう三つか四つは別の能力を持っていてもおかしくない。俺みたいに神器(セイクリッド・ギア)持ちであるかもしれないし、あるいは魔法使いという可能性もある。奴らが逃げたのなら、当然追跡も警戒するはずだ。今動くには、さすがに状況が悪すぎると思いますよ」

 

 必死になって知り合いを説得する曹操。神器(セイクリッド・ギア)持ちかどうかはともかく、魔法使いの線はまあありえないだろうと呆れていると、その内心のため息を、いつの間にか敵意を解いたピトーが代弁した。

 

「今更じゃない?そんなの。事前に得られる情報なんてたかが知れてるし、縛られすぎるのだって危ない。戦いながら推察するものだと思うけど。――っていうかさ」

 

 振り返り、呆れ眼を向ける。

 

「ボクらには関係なくない?アイツがどうなろうと」

 

「まあ、そうよね」

 

 言い方がちょっと辛辣だけど。と心の中で付け加え、顔をしかめる曹操を見る。

 

 そもそもシルバの行動を止める権利だって、私たちは有していない。命令できるとすれば、依頼主である沖田総司のみだろう。この剛毅な仕事人は、情だけでは動いてくれないのだ。

 

 そんな奴に何を働きかけようが、時間の無駄だ。だから、

 

「好きにさせてあげればいいじゃない。私たちだって戦える状態じゃないし」

 

 諦めてくれるように言葉を繋げた。

 

「それに、絶対負けるって決まったわけでもないじゃない?『念魚』にボッコボコにされちゃっても生き残るくらいには強いんだから、もしかしたら言った通りに二人とも……」

 

 しかし、諭すためのそれは半ばで途絶えた。舌を動かす意識が、眼前のそれに移ってしまったからだ。

 

 最も後方。呆然とする九重のさらに後ろ。濃密な妖力を振りまく陣から、その凛とした声が響いた。

 

「殺してもらっては、困るのじゃよ、ウタ殿。それに、シルバ=ゾルディック」

 

 転移で現れた八坂は、シルバを睨みつけながらそう告げた。

 

 ピトー曰くのダメージはどうやらほとんど回復してしまったらしく、その堂々たる宣告は妖怪の統領としての風格に満ち溢れている。シルバの足さえ止めてしまったほどだ。

 加えて、未だに輝く転移陣は次々と武装した妖怪たちを吐き出していた。精鋭ぞろいの援軍たちは、この状況にて緊張はすれども頼もしく、陣を繋げる要の役割を果たした九重に、私は心の中で労いを言った。

 

 その直後、八人目の兵隊が姿を現した、すぐ後だった。

 

 歓迎されざる気配が陣から飛び出し、兵隊たちの間をすり抜けた。

 

 魔王の眷属であり、リアス・グレモリーの付き人でもある沖田は、座り込む身内二人を見つけるや否や、駆け寄って傍に跪いた。

 

「リアス!白音!……無事でよかった……!」

 

 真隣で、ピトーの邪気が膨れ上がる。

 

 安堵に息を吐く間もなく、沖田は二人を背に庇った。恥知らずにも鬼の形相でピトーを睨みつけ、何も下がっていない腰元に手を伸ばす。ここに来るにあたって取り上げられたのだろうが、それすら忘れているらしい。

 ピトーの放つ憎悪が激しい故だろう。兵隊たちはおろか、シルバも曹操も、八坂に突進して泣きじゃくる九重の声すらも呑まれ、その皆が身体を固くしていた。

 

 そんな悪念を一直線に向けられた沖田が、鯉口を切るような動作をした、次の瞬間、

 

「やめよ」

 

 八坂の鋭く重い一声が空気を切り裂き、鳴り響いて断ち切った。

 

「もうこれ以上の面倒はごめんじゃ。沖田、早うせい」

 

 向けられた沖田はちらりと八坂の方を振り向き、すぐに首を戻した。意識だけは油断なくピトーを捉えつつも、目線が私たちの背後、たぶんサンペーの死体を見据える。

 

 じっと目玉に映しながら、小さなささやき声のようなものを口にした。

 

「白音、あなたを攫った犯人が、人間の……あそこに倒れている念能力者だったというのは、本当ですか……?」

 

「……え?」

 

 沖田の疑念など知る由もない白音は、質問に呆然と首を傾げる。そして続く沖田の硬い口調に、びくりと震えた。

 

「リアス様もです。いつの間にかいなくなられたこと、これも咎人三人の内のどいつかの仕業だと聞きましたが、朱乃によれば……。本当の所は、どうなのです……?」

 

「お……沖田、あなたまさか……まだ曹操たちを疑っているの……?」

 

「疑って……?」

 

 白音は理解と共に悲鳴の息を吸い、沖田の羽織に縋りついた。

 

「ち、違いますっ!ウタさまは……フェルさまも曹操さんも、私たちを守ってくれたんです!」

 

「そうよ!悪いのは全部そこの、『幻影旅団』なんていう者たちよ!曹操たちは、敵なんかじゃないわ……!」

 

 その単語に、とうとう意識もが死体へ向けられた。

 

「『幻影旅団』……」

 

 口の中で繰り返された声が、微かに聞こえた。しばらく考え込むようなそぶりを見せた沖田の眼は、やがてほど近くのシルバを映し、はっきりと声を押し出す。

 

「シルバ=ゾルディック、貴方への暗殺依頼を取り消します。咎人共の追跡も、もう結構です」

 

「……了解」

 

 短く答えた、と思えばすぐさま、その姿が掻き消える。天井に空いた穴に飛んだのだ。子供三人と兵隊のいくらかを驚かせた奴の気配は、地上の暗闇に紛れ、消えた。

 

 余韻も何もあったものではない唐突な別れ。寂しいだとかは欠片も思わないが、幾らか言ってやりたいことも残っていたために、少しだけ残念に思った。

 

 とはいえそういう無駄話は、居残っていてもまともに応じてはくれなかっただろう。そう思うことにして、私はその大穴を見上げていた。

 

 たぶん、シルバが跳躍で足を掛けたのだろう。蹴られた穴の壁が今更のように崩れ、僅かな土塊が零れ落ちる。崩落はもうずいぶん前に収まり、今は車なんかの振動にふるい落とされた土埃ばかりが降っていたため、その塊は見え辛くとも目立っていた。だから目についた。

 

 その土砂が、ふと緩やかに落下速度を下げ、やがて空中で静止した。

 

 徐々に時間が反転していくかのようだった。ビデオを巻き戻しているみたいに、宙に留まった土砂が穴の縁に戻っていく。

 

 さらには、足元に振動。崩れ落ちた天井の瓦礫や土砂が浮かび上がり、昇って穴を埋め戻している。たぶん、地上でも同じことが起こっているのだろう。

 

 八坂の膨大な妖力が、半径十メートル近くもある大穴の瓦礫や土砂を覆っていた。

 

「ふう。やれやれ、戦いには間に合わなんだが、ひとまずは、じゃな。それにしてもフェル殿、随分と派手に壊してくれたものじゃのう?」

 

 あっという間に大穴は塞がった。痕跡の一つも残すことなく、そこで崩落があったことなど信じられないくらい、きれいに天井が修復されている。

 

 額を拭うと、八坂は親切にも狐火で光源を作り、妖しげな笑みをピトーに向けた。

 

「隠蔽工作で話をでっちあげ、その上電車まで止めることになったわけじゃが……はて、これはどこに請求すればよいのじゃろうな?」

 

「……別に、もみ消してくれなんてボクは頼んじゃいないけどね。大っぴらにしても、むしろ拍が付くから」

 

「ほほ、付きはしても悪目立ちじゃろうて。それに、少なくとも普通の人間には言い訳が必要じゃ。『念』も我らの存在も、普通の人間に知られるには都合が悪いでな」

 

 憎悪を燃やすピトーから、内容だけの軽口。九重を抱き上げる八坂は、呆れたふうに微笑み、続けた。

 

「ま、街の面倒は五大宗家の連中にでも押し付けてやるとするかの。まんまと札を奪われよったのは、あ奴らであることじゃしな。なんにせよ、無事で何よりじゃ、フェル殿。それにウタ殿、曹操殿も」

 

「ええまあ――」

 

 と、曹操が外向きの調子でなにやら言いかける。それ以降が続かなかったのは、沖田の警戒心が、ひりつくくらいにますます増して割り込んだからだった。

 

「本当に、あの大穴は貴様が開けたものだったのか……?神器(セイクリッド・ギア)や、妖怪の力ではなく……?」

 

 睨みあうピトーは、怒りのあまりに声までもを震わせて言った。

 

「さっきから、訊いてばっかり。畜生には考える頭もないってわけ」

 

 張り詰める、二人の間。もう数秒続いていれば、たぶんピトーの手が出ていただろう。

 

 そうなれば……すこぶる面倒な事態に陥るに違いない。故に私はピトーの前に踏み出し、代わりに胸の内を露にしてやった。

 

「間違いなくフェルの念だけど、それがどうだっていうわけ?また何か、難癖でも付けてくれるの?……救いようがないわね、お姫様の証言があっても。私たちを殺したくて仕方ないって感じ」

 

「な、なんで沖田さまが……ウタさまを殺したいだなんて……」

 

 白音の混乱と疑問に、リアス・グレモリーは表情を歪め、背ける。ピトーが、声色を平淡に答えた。

 

「シルバ=ゾルディック、さっきの暗殺者を使って、ボクたちを殺そうとしてたんだよ、ソレはさ。おかげでここまで拗れた。なければウタも、あと曹操も、もうちょっとマシなダメージで済んだんだけどね」

 

「……本当、なんですか……?」

 

 振れる眼を向けられた沖田は、見向きもしない。ほんの僅かに眉根を寄せて、あからさまに行儀よく頭を下げた。

 

「それについては、確かに下策だったと思っている。結果的に、白音やリアス様の救出をも妨害してしまった。申し訳ない」

 

「ふん、結局それなわけ。謝る気もないなんて、図々しいことこの上ないわね。私たちを殺そうとしたことについては、ノーコメントなの?」

 

 ピトーの声が、冷たく響いた。

 

「別にいいよ。どう見られようが」

 

 訊くまでもないことだ。その内心の、何もかも。互いの反目はもうどうしようもないところまで張り詰め、ほんの少しのきっかけで弾けるくらいに震えていた。

 

「どうせ自分の手じゃ何もできない腰抜けなんだから。口だけだね、魔王の眷属なんていったって」

 

「貴様ッ……!」

 

 挑発に沖田が殺気立つ。ピトーの憎悪とぶつかり、生じた圧が、おびただしい量の邪気を周囲に撒き散らした。皆が、その影響下に晒される。

 

 うっすらと冷や汗が浮いた。が、

 

「やめよと、そう申したじゃろう、両者とも」

 

 すぐに八坂の威厳が負なる空気を押し流した。兵隊を押しのけ、歩み出てピトーに尋ねる。

 

「そのようなことよりも、じゃ、フェル殿。残り二人の賊はどうなった。倒したのか、それとも逃げたのか」

 

 ピトーは不満げに目を細め、答えた。

 

「黒いリーダーの方は逃げたよ、こっちのトンネルにね。けど女はわからない。廃工場から出て以来、一回も見てないから」

 

「……主ら、聞いたな?駅を塞いでおる者らに通達せよ。必要ならば応援も出せ。地上は、ひとまず駅周辺に集中させるのじゃ。ほれ、行け」

 

 手を指揮棒に振られた兵隊たちは、はっと我に返って一斉に動き始めた。半分が転移陣で消え、見る限りでは最も強そうな二人がトンネルの奥に消えていった。残りの数人は若干浮足立ちながらも八坂の背後に控えている。

 

 それを一瞥して、はぁ、とため息を吐き、八坂は沖田へ向かって言った。

 

「『幻影旅団』、じゃったか。用意周到な上にかなりの使い手じゃから、生かしておける保証はないが、捕縛できたならそちらにも連絡を入れよう。……リアス殿に白音の無事も見届けた。もう十分じゃろう?」

 

「……ええ」

 

 呟くように返し、構えで落とされた腰を持ち上げる沖田。刺すような眼と殺気はそのままに、八坂を見る。

 

 そしてそのまま、告げられた。

 

「沖田総司、貴殿を京への不法侵入の咎にて拘束する」

 

 静かで重い八坂の宣告が、トンネル内を跳ね返る。ぐわんぐわんと何度も鼓膜を揺らすその音に、縋りつく子供二人は呆然と口を開けていた。

 

 たぶん、八坂の転移陣に紛れて現れたために、その可能性を考えもしなかったのだろう。

 

 実際のところはともかく、二人にとって沖田は立派な身内だ。奴の主の妹と、そのお気に入り。当然気に掛けるだろうし、二人は奴の善性の面ばかりを見ているに違いない。リアス・グレモリーの、度の過ぎた動揺だってそのせいだ。

 二人の印象では、沖田総司は紛れもない善人。そんな人物がいきなり罪在りとされ、しかも拘束という明白な扱い示されれば、子供の頭で処理しきれなくなるのも当然だろう。

 

 あるいは沖田が無抵抗無反応だったことも関係しているかもしれない。現実と理解が結びつかないリアス・グレモリーは、残った兵隊たちが沖田から二人を遠ざけ、周りを固めていく様子を眼にする頃になってようやく、我に返って騒ぎ始めた。

 

「ま、待ってください八坂様!そんな、いきなり……!」

 

「いきなり、というわけでもないのじゃよ、姫君」

 

 八坂と沖田との間で右往左往するリアス・グレモリーの混乱を、八坂は至極冷静に受け流す。瞼を閉じ、貫禄たっぷりに間を置いてから、見やって続ける。

 

「それに、許可証なくして京への侵入はまかりならんと、何度も言うておるじゃろう。にもかかわらず、こ奴はそれを見事に破ってくれたのじゃ。やむを得まい」

 

「なら……なら、私も同罪のはずです!私も、許可証を持たずに京都に入りました!」

 

「入ったのではない、連れ攫われたのじゃ。白音もな、京へ無理矢理連れ込まれたそなたらを、妾が見つけ、保護しておった。責があるとすれば、その『幻影旅団』なる連中じゃろう」

 

「……でも、沖田は私たちを心配して来てくれただけなんです!『幻影旅団』みたいに悪いことは……ほ、本人はしていません!それに……」

 

 ぷつりと途切れ、何かを考えこむように視線が下がる。じっと一点、どこか遠くを照準する眼差しの奥で思索を巡らすリアス・グレモリーは数秒後、またしても唐突に顔を上げ、興奮に見張った目でまくしたてた。

 

「沖田は八坂様の転移魔法陣を通ってここに来ましたよね?八坂様も妖怪の皆さんも、沖田に驚いているようには見えませんでした。つまり、気付いていたってことなんじゃないですか?気付いていたうえで通したということは、それは八坂様の許可があったということと、同じなんじゃないでしょうか!」

 

 想うが故の鋭さに、ちょっとだけ感心した。甘やかされた貴族のお嬢様にしては、それなり。

 

 だがまあ、私でなくとも感心を得た程度では何も変わらない。どれだけ正論で言いくるめられようが、八坂もそれだけは曲げないだろう。

 

 想像通り、見破った背後で八坂から苦い顔を引き出すことには成功したものの、その静かな口調は崩れることなく、歴然と子供に諭した。

 

「……もし妾の許しがあったとしても、それは何の意味もないことじゃ。決まりは、妾の一存で変えてよいものではない。

 沖田は自らの足で侵入した。どんな理由であろうと、その事実がすべてなのじゃ。故に――」

 

 視界から、諦めようとしない我が儘姫を外し、おとなしく佇む沖田に向かって告げた。

 

「沖田総司、貴殿を退去強制のうえ、永久的許可証発行禁止処分とする。今後一切、京に立ち入ることはまかりならん」

 

 つまり出禁。迷惑行為を働いた客に対しては当然の罰則だ。永久、というのも、悪魔の寿命を考えればおかしくはない。

 

 だが、八坂が治めているのはキャバクラではなく、いわば一つの国なのだ。しかも人外の世での話。単身で街一つを滅ぼせるような輩がざらにいる超常の種族が相手では、その脅威度もまるで異なる。だからこそ八坂は、極刑もありうるのだと言ったはずだ。

 

 なのになぜ、と、私が不満を呈する前に、同じことをピトーが問うた。

 

「罰が軽すぎない?見せしめはちゃんとやらないと、変な奴らが調子に乗るよ?」

 

「……致し方あるまい。姫君の言う通り、本人が害をなしたわけではないのじゃ。決まりに則り、判断せねばならん。それに……背後の眼もある」

 

 ため息に混ぜ、最後に呟く。

 

 言われてみればその通り。いくら悪魔勢力が弱体化しているとはいえ、八坂の率いる京都の妖怪たちは、所詮一都市の小規模組織だ。強く出られるはずがない。

 

 沖田もそのことは弁えていたのだろう。ただやはり、リアス・グレモリーはそうでもないようで、頭を回し続ける彼女には呟き声も聞こえず、まだ必死に言い募っていた。

 

「永久的なんて……そんなの酷すぎます!害がないってわかっているなら、罪はもう少し軽くてもいいんじゃないですか?!もう京都の侍との交流会にも行けないなんて……そんなの、私、あまりにも可哀そうで……」

 

「いえあの、リアス様、それは……ともかく、納得はしていませんが理解はしているので、収めてください」

 

 一瞬動揺の焦りを見せてから、沖田はまた鹿爪らしい表情に戻る。横で八坂が「侍の交流……?」と訝しげに眉を顰める姿にすぐさま崩されながら、しかしなんとか立て直し、三度目の真面目顔を八坂に向けた。

 

「八坂殿、処分には従いましょう。抵抗する気もありません。代わりに一つ、頼みを聞いてはもらえませんか」

 

「……申してみよ」

 

 八坂の小脇を通り、汚物でも見るような視線が、それを指す。

 

 サンペーの死体に、奴は冷たく吐きかけた。

 

「あの死体を、私たちに引き渡していただきたい。そうしていただけるなら、こちらもこれ以上は口出ししないことをお約束しますが」

 

「ふん、何を言うかと思えば……。死体など、どうするつもりじゃ」

 

「……何か情報を、得られるかもしれませんから」

 

「情報、のお……」

 

 不遜極まりない沖田の物言いに、八坂ならずピトーまでもが舌打ちを堪えるような顔をする。たぶんその意は、横取りするな、だろう。八坂にならばともかく、私たちの存在ごと消したがっているような奴に持っていかれるのは、私だって腹立たしい。

 

 そんな私たちにも構わず、じっと八坂を見つめ続ける奴は、とうとう不信を隠そうともせずに並べたてた。

 

「できすぎているように思えて仕方ないのです。『幻影旅団』のようなA級賞金首が、この日偶然京都に滞在していて、偶然観光する私たちを発見し、偶然入手していた対大妖怪の呪符を以てして、八坂殿までもを撃退せしめた。なんていうその事実が、私には胡散臭くてしょうがない。

 私たちが今日、京都を訪れているという情報は、我々悪魔と貴方がた妖怪しか知りようがないはずです。ならば何者かが情報を流し、連中に手を貸し準備していたと、そう考えるのは何かおかしなことでしょうか?今後のリアスさま、ひいては悪魔の安全保障のために、この背後関係はつまびらかにせねばならない。八坂殿、そうは思いませんか?」

 

 妖怪たちが裏で糸を引いていたのではないか。奴の根幹に根付いた疑念は、結局それに始終する。故にその八坂と繋がる私たちも信用できず、四方すべてに牙を剥き出しにしているのだ。

 

 孤立無援。周囲の全員が敵となれば、外部からの言葉など耳に入るはずもない。つまり、言葉であの敵意を引かせることは、すさまじく難しい。

 

 いよいよ私も覚悟を固めた。曹操も、その渋面を一層険しくする。

 

 だがその意思は、暗にはっきりと疑われた、当の八坂によってわきに追いやられた。

 

「思うとも。此度の事件は奇妙じゃとな。白音や姫君の身柄だけでなく、それをダシにした稚拙な陰謀の存在を、妾はこれの始まりからずっと感じておったわ」

 

 同色の不信を返し、睨みつける。

 

「……まあ、いいじゃろう。事件の解明を望む思いは同じであるようじゃしな、頭くらいは譲ってやらんでもない。あの上質な人の肉を楽しみにしておる者もおる故に肉体すべてをやるわけにはいかんが……情報がほしいというのなら、それだけで十分じゃろう?それに、お主らには悪魔の駒(イーヴィルピース)なる蘇生の魔具が――」

 

 と、信頼関係の締結を投げ捨てた八坂が溜まったものを吐き出して、イライラと続けるその最中、

 

「あ……ひッ!!」

 

 純粋な邪気の波が、感覚に触れた。

 

 発見したその悪寒のあまり、白音が悲鳴を漏らしてしまう。一瞬だけ早く察知した私も、背を粟立てて振り返り、見た。

 

 イケメン青年と、二人の兵隊が消えたトンネルの奥、その暗闇。ぼうっと淡く、白く浮かび上がる、魚のような頭が二つ。

 

 見覚えのある『念魚』が、今度は二匹で且つ完全な造詣のまま、揃ってまっすぐこちらを向いていた。気配に似合わないつぶらな瞳が私たちを見つめ、身をくねらせゆっくりと進んでくる。

 

 迫りくる気配と私たちの反応に、他の皆も気付いたのだろう。息を呑む声が聞こえ、空気の緊張が一気に膨れ上がった。

 

 だが――

 

「あの『念魚』は……ッ!!まさかあ奴、まだ生きておるのか!?」

 

「……いえ、恐らくあれは『死者の念』でしょう。禍々しさが俺でもわかる。深い恨みや未練を抱いたまま死ぬと、死後も『オーラ』が消えず、現世に残ることがあるのです。そして……そうして発動した念は、恐ろしく強くなる。十分に、注意すべきでしょう」

 

 その優美な姿は、私にとって無視し難い奇妙を含んでいた。

 

 曹操の言う通り、『死者の念』ではあるはずだ。執着、憎悪、そういった悪念によって発動するが故の、混じりっ気のない邪気。それが発せられているうえ、能力の持ち主である男は間違いなく死んでいるのだから、原理はそれ以外にありえない。

 

 間違いなくそうであると、判然としてはいる。だが、だがやはり、そうであるとしても妙なのだ。

 

 なぜ今になって現れたのか。

 

 生命エネルギーに理論を言うのもおかしいかもしれないが、普通は死してすぐ、魂が肉体から離れる前に『死者の念』は発動する。どこまでいってもそれが『念』である以上、自身の肉体にある『気』を使う必要がある。

 男の命が消えて十数分が経過した今、その身体には『気』も、そして魂も、居座れはしないだろう。第一、その体内ででも『念』が使われれば、確実に私が知覚できていた。故に同じ理由で、消滅を免れた『念魚』がいて、それに宿り戻ってきた、ということもありえない。私の仙術の索敵能力から逃れられた『念魚』など、存在するはずがない。

 

 第一、『念魚』は釣竿で釣るか他の能力で無理矢理引き上げるかしないと具現化できないのではなかっただろうか。そのあたりが都合よく省略されたということもありえるが、やはり違和感を覚えてしまう。何かが異なっているような、ちぐはぐの感覚。

 

 どうにも打ち捨てられないもやもやに苛まれる。その間に、悠々と泳ぎ寄ってきた『念魚』たちがその行進をやめ、一所、男の死体の上を旋回し始めた。

 

 理解の及ばない奇行。男の憎悪が向くとすれば、とどめを刺したシルバか、追い詰めた私たちであろうに、と訝しく思う。不満が過ぎてもはや諦めの域に入りつつあるピトーや他の皆共々、私は二匹の『念魚』を見守っていた。

 

 唐突だった。

 

 不意にその時、『念魚』たちの二対の視線が、私とピトーを同時に直撃した。ただし敵意が感じられない。面白がるような馬鹿にしているような、魚の目玉から発せられたとは思えないような表情が、それに見えた。

 

 そうして困惑が増した次の瞬間、二匹は大口を開け、食らいついた。

 

 よりにもよって、術者であるはずの釣り人男に。

 

「なッ……!!」

 

 絶句したのは沖田。動きかけたその身体を制し、八坂は『念魚』へ、素早く掲げた狐火を打ち込んだ。

 

 妖炎が燃え上がる。が、『念魚』は堪えた様子もなく、一心不乱に肉を貪っている。噛み千切った痕から全く血が出てこないのは、たぶんその『念魚』の能力なのだろう。加減されたものとはいえ、八坂の力が防がれたことと相俟って、皆の気配に動揺が広がった。

 

 同じく、私の内心も驚愕していた。一緒になって息を呑む。ただ、その中身。理由は、その時起こった『念魚』の変化でそれに気付き、長らくの疑問に答えを見つけたがための情動によるところが大きかった。

 

 『死者の念』、邪気で形作られた『念魚』。収まっている『気』もほとんど邪気一色だったが、隠れていた別物が、取り込まれた肉の微かな『気』に反応して、ほんの僅かに顔を出していた。

 

 男の『気』でも邪気でもない第三者の『気』、イケメン青年クロロの『気』だ。それが手綱を引き、覚えのある内側と外側のちぐはぐを基礎としながら、この能力を形成している。

 

 釣り人男の能力であったはずの『念魚』が、イケメン青年の奇妙な転移能力と似た形で働いている。そしてどうやら、『念魚』は『死者の念』の執着や憎悪だけで動いているわけではないらしい。

 

 それはつまり、

 

「他人の能力を引き出す能力、ってことなのかしらね」

 

「なんだと?貴様、いったい何を言っている……!」

 

 欲した情報源までもが消え去ろうとしている今、何もかもが疑わしくてしょうがないらしい。今にも暴れ出しそうなほど怒り、兵たち立ちに押し留められている沖田が、歯を剥いて怒気を迸らせた。

 

 隣で害意の『気』を燃やすピトーのためにも無視を決め込むつもりであったが、曹操と八坂、その他もろもろからも説明を求めるような沈黙が流れ、やむを得ず整理を始める。

 

 歯が立たず、もうすでに死体の半分以上を虚空の胃袋に収めてしまった『念魚』たちを一瞥してから、私は求められるまま振り返った。

 

「たぶんイケメンのほうの仕業なのよ、これ。言葉にするとややこしいんだけど……釣り人男が『死者の念』で『念魚』を具現化した、じゃなくて、『死者の念』が宿った『念魚』をイケメンが具現化した、みたいな、そんな感じなの。外側は変わらずに、中身がイケメンの『気』に主導されてるように見えたから、だからイケメンの能力がそうだったんじゃないかって話。複製(コピー)奪取(テイク)かは、わからないけど」

 

「……あ、あのっ!」

 

 白音が、いっそ悲壮とも思える表情で声を上げる。

 

「た、確かあの黒ずくめの人、あれと同じお魚に、盗んでもいいだろって……言っていたような気が、します……」

 

「……つまりは、対象から『念』を盗んで使うことができる能力ね。ハマればすごいタイプ。……もしかしたら、『死者の念』っていうのも何か条件の一部だったのかも。こんな能力、相当の『制約』と『誓約』がないと成立するはずがないし……まあ憶測はともかく、ハイリスクハイリターンな能力なら、下手なことしない限り能力を奪われる心配なんてしなくて大丈夫でしょ。周りだけ注意しておけばいいわ」

 

 ピトーの『念』が盗まれそのまま正体が露見する、という状況は私たちが最も恐れるところ。その杞憂を取り払うために付け加えた後半は、八坂に限って真逆の効果を及ぼしたらしい。顔を歪め、兵隊の一人に耳打ちする。その苦々しげな表情が、『念魚』の現れたトンネルの奥へ向かった兵隊二人の安否によるものなのだと遅まきに気付くころ、堪えかねたように曹操が唸った。

 

「……それがわかって、つまりどうなんだ?仙術で倒せるのか?」

 

「ちょっと!勘弁してよね。『念』っていってもあんな邪気の塊……触れるなんて死んでもごめんよ。こっちに害意はないみたいだし、放っておくのが一番だわ」

 

「ならさっきの、いかにもわかったふうな台詞は何だったんだ!?」

 

「知らないわよ!あんたたちが、教えてくれみたいな空気作ったからでしょ!?」

 

 マジかよこいつ、とでも言いたげな視線が突き刺さる。それに、だって仕方ないじゃん、と睨み返しながら、私は無駄に終わった厚意へのため息を呑み込み、鼻を鳴らしてそっぽを向いた。

 

「そりゃあ、私の正気を犠牲にすれば、消滅させられないとは言わないけどね。でも邪気に呑まれるなんてもうこりごりだし、それにたぶん間に合わないわ。あんたの邪炎なりなんなりで倒すにしても、同じこと。あの『念』の強さからすれば、倒しきる頃にはとっくに死体なんて消え去ってるわよ、『念魚』のお腹の中にね。あれも、エサになれて本望でしょ」

 

 もしかしたら、それ故の『死者の念』だったのかもしれない。死した他人の心境なんていう益体もないことを想像しつつ、食べ終えるまでいよいよもうあとわずかとなったその光景を見つめた。

 

 バラバラ死体も真っ青なくらいのスプラッタ――血と臓物が零れていない分いくらかましかもしれないが――ともかく、とうとう頭に手を付け始めた『念魚』に眼を向けていると、ふと兵隊たちのざわめきと共に、赤熱した鉄塊のように静かな怒号が、漂う邪気の空気をなぞって私に触れた。

 

「やはり、あれを止める気などないのか、貴様らには……!八坂殿、それは、貴方も奴らと同じ意志であると、そう捉えてよろしいのですか……?」

 

 見ると、押しのけられた兵隊に代わり、八坂が沖田の前に立ち、妨げていた。

 

 私たち、というよりはさらに奥の『念魚』が標的だろうが、敵意に眼をぎらつかせる沖田を威圧のみでその場に押し留めながら、八坂はもはや何色もなくなった声色で、冷ややかに言う。

 

「ウタ殿が無理と言っておる。なら他に方法などないじゃろう。妾もこんな状態で全力など出せぬ」

 

「ですから、ならば私があれを滅ぼすと――」

 

 低く重く、底から響いた。

 

「二度目じゃ、小童。我らを愚弄してくれるな」

 

 すさまじいプレッシャーが放たれる。大妖怪の妖力、他の妖怪を平伏させる迫力は、気を抜けば私も膝を折ってしまいそうなほどだった。

 

 そんな、質量までもを感じる威圧に曝された沖田は、息を詰めて心臓近くを掌に握りしめた。玉のような脂汗が浮かぶと共に、その身から、同じく妖力のようなものが噴出し、暴れている。

 

「ここにおること自体が、明らかな罪であることを心得よ。それ以上は、侵略行為と見做す。おとなしく、我らの言うことに従っておれ」

 

 告げると、ようやく圧は治まった。耐えかねた沖田が膝を突き、激しく喘ぐその身に、同じく放たれた白音とリアス・グレモリーが取りすがる。

 

 『念魚』たちのほうを見た。八坂に慄いているうちに、そんなことなど意にも介さない二匹は黙々と食を進め、食べ散らかしすらきちんと浚ってしまったらしい。

 

 そしてその時、最後の一口とばかりに残されていた頭部を、同時にぱくりと、その口腔に収めてしまった。

 

 沖田のうめき声。その体躯からは考えられない質量を完食してしまった二匹は、やはりこちらに襲い掛かってくる様子もなく、そろってくるくると旋回し始める。

 そしてまたしても私たちの姿を捉え、感情を見せた。嘲笑のようなそれに、脳内でふと、釣り人男の表情が重なると、それを悟ったかのように『念魚』は溶けだし、たちまち消えていなくなった。

 

 一拍を置き、トンネルの奥から風が吹き込んでくる。置き土産に漂う邪気も押し流され、痕跡までもが消え去った。そこに死体や『念魚』があったことは、見てももうわからない。

 

 八坂は息を吐き、気配を憤怒から沈痛へ転じさせると、こちらに歩み寄ってきた。

 

「……どうやら、ウタ殿の言ういけめん(・・・・)は、すでに駅の構内からも脱出してしもうたようじゃ。ほんに、すさまじい使い手じゃのう。主らが殺されなんで、よかった。まあ、ともあれ――」

 

 声音が一段、引き上げられる。

 

「これで本当に終わりじゃろう。三人の内の一人が欠けたのじゃから、再び襲ってくることはまずあるまい。姫君と白音にも、相応の守りを付けられるわけじゃしな。とはいえ、調書やらをないがしろにするわけにもいかんが……」

 

 愚痴るように呟きながら、八坂は鮮やかな手並みでピトーの腕の中に九重を据えた。抱かされたピトーと抱かれた九重は、一緒に目を白黒させて、説明無き突然に首を捻る。

 

 息の合ったそれらに「あー」と鳴き声を吐く私をよそに、曹操をも呼び寄せた八坂は、可笑しそうに苦笑しながら、妖力の集ったその手のひらを私たちにかざした。

 

「そういう後処理も妾の仕事じゃからな、とにかく主らはまず休むとよい。必要とあらば治療と……食べる元気があればじゃが、軽食の用意もさせておるでな、妾のことが終わるまで、しばらくゆっくりしていておくれ」

 

「ああ、それはありがたい。この二人、こちらに来てから飯の話ばかりするくらいには腹を空かしておりまして、きっと内心では飛び上がるほど喜んでおりますよ。もっとも、私は少し、入りそうにありませんが」

 

「オマエさ、その、八坂と話す時に毎回口上がキモチワルくなるの、やめてくれない?背中がゾワゾワしてしかたないんだよね」

 

「ほほ、そうじゃな。次は妾も、少しは曹操殿の肩の荷を下ろせるよう、頑張るとしよう。さて……では、飛ばすぞ?」

 

 曹操の頬が少し色付くと、同時に八坂の術が完成した。転移魔法の妖術版。足元に輝く陣が妖力を放ち、私たちの身体を包み始める。

 

 私は一瞬だけ、ピトーから外して奥に眼をやった。

 

 今度は、救えはした。身体だけだが、そもそもそれ以外の救いなど、必要とはされていなかった。

 

 たぶん、それらはあいつと一緒に乗り越えていくのだろう。だからもう、これ以降はない。この後会うことはないだろうと、そう思い、覆われていく視界に一画、その姿を切り取った。

 

 黒歌の役目は、もう終わったのだ。

 

 だから、

 

「――ウタさま!わたし、強くなります……!」

 

 転移の直前、そう聞こえて締め付けられた胸の痛みも、きっとすぐに消えるだろう。

 

 突然込み上げたそれを必死に押し下げながら、私はゆっくり目を閉じた。

 

 

 

 

 

「――とまあ、内外共に不測の事態は多々ありましたが、きちんと治めることができたわけです。会長おすすめの京懐石は、残念なことに食べ損ねましたがね」

 

 なんてふうに曹操は、ネテロに今回の一部始終を報告していた。

 

 ハンター協会本部が会長室。さしたる調度品もなく質素だが空調は完璧な快適空間にて、一面のガラス張りを背後にして執務机に座するネテロに、これでもかというほど事細かに弁舌を振るう奴。未だに戻らない顔色に身振り手振りまでもを加え、ボクが赤髪にキレたことから黒歌のチョップで気絶させられたことまで、合間合間に嫌味を挟み、語られた。日本を発ってもう一日が経過したというのに、奴の吐き気と逆恨みのほうは治まりが付かないらしい。

 

(ホントに、鬱陶しい奴だにゃぁ)

 

 ねちっこく詰られ続ければ、イライラが蓄積されるのもやむなしだろう。いつもであれば適当に反撃して発散するところだが、ネテロを前にしているとなれば、そうもいかない。

 

 そう、最も腹立たしいのはそれだ。

 

 憎きアイザック=ネテロ。ボクと黒歌を一蹴した奴を眼前にして、警戒心を手放すことなどできるはずがない。この場所、ハンター協会本部が会長室にて対峙してからずっと、ボクは意識を緊張させ続けていた。

 椅子の上に胡坐をかきながら、報告の最中、波のように去来する情動に任せて幾度もぶつけた威圧。なのに奴は、ボクの視線のそのすべからくを、まるで眼中にないとでも言わんばかりに軽く受け流してしまうのだ。

 

 発散どころではない。一人相撲をしているようで、空しいばかり。ボクをこんな気持ちにさせておいて、自分は素知らぬ顔をする、それが実に腹立たしい。

 

 勢い余って京懐石から落胆までを思い出してしまうくらい、ボクはイライラに翻弄されていた。無駄とわかっていても敵意を消すことができず、余計な思考ばかりが引っ張られる。

 

 あれは、あの時ボクの食欲を刺激したにおいの正体は、懐石料理ではなかったのだ。本当にろくでもない。

 

 などと、ある種の精神攻撃に揺さぶられてそれらを堪えていると、ふと気付いた。曹操との間に続いていたネテロの会話が、僅かにボクのほうへ傾く気配。

 

「ううむ、それは災難じゃったのォ。つくづくお主は強敵に縁がある。ハンターとしてはともかく、武人としては恵まれておるようで羨ましいわい。そのもっともたるのがその二人であるわけじゃが……さて、」

 

 さしたる間を置かず、方向が変わる。とぼけたふうな老人の相貌が曹操を外れ、意識と同じくボクを捉えた。

 

 それでもやはり、膨れ上がるボクの威圧は素通りし、あまりにも無防備に首を傾げる。

 

「そういえば、お主らが何故ここに居るのか、聞いておらんかったの。曹操の付き添いで来たわけではないんじゃろう?」

 

 飄々とした物言いに、何もかもを見透かされているような気分になる。当然好ましからざる感覚だが、だからといって黙っていたら、堪えて居座った意味がない。不服と不満と、それから多種多様なイライラを呑み込んだ。

 

「……黒歌?」

 

 とはいえそれは、望んだ当人である黒歌が言わねばならないことだろう。隣で踏ん切りつかずに目配せしてくる彼女を小突き、促してやると、ほっとしたように瞑目する。そして一つ深呼吸をしてから、まっすぐネテロに眼を向けた。

 

「アイザック=ネテロ。私に……仙術を教えてください」

 

「ほう、何故に?」

 

 頭まで下げた黒歌に、動揺の一つもせず聞き返すネテロ。呑み込んだものを吐き出しそうになるボクを意識の外に、黒歌は少し言い淀んでから答える。

 

「……それは、自分の力不足を痛感したから。一人で右往左往してる暇はないって思ったから、です……。他に指導者の当てなんてないし……」

 

「ほうほう。らしいがピトーくん、お主はそれで良いのかの?他でもないワシに、黒歌くんを任せて」

 

「ボクのことはいいんだよ!それで?いいのかだめなのか、どっち!」

 

 たまらず張った声に、ネテロはにっこり微笑んだ。

 

「もちろん良いとも。数少ない仙術使いの同胞じゃからな、請われたならば是非もない。それにワシも猫魈の仙術には興味があってな、実は前々から、曹操に話の機会を設けてくれるよう頼んでおったのじゃよ。……その顔を見るに、どうやらワシの頼みはなかったことにされておったようじゃが」

 

「いや、だってあんな無茶ぶり、できるわけがないでしょう?俺はまた、会長の悪いところが出たのだと思っていましたよ」

 

「ふぇっふぇっふぇ、大マジも大マジじゃったよ。今日も、来るって聞いてワシ期待しとったんじゃもん」

 

 さも楽しそうに笑い、ネテロは椅子から立ち上がった。スキップでも始めそうなその陽気が、ほんの一瞬九重のそれと重なってしまったことが非常に不快だが、きりがないのでひとまず見逃すことにする。

 

 おかげで書類が山をなす執務机からも脱出を果たした奴は、カラコロ下駄を鳴らしてボクたちの前を通り過ぎると、扉に手を掛け振り返った。

 

「そういうわけでの、黒歌くん。ちょうど仕事も片付いたことだし、さっそく今からいかがかな?ほれ、ピトー君に曹操も」

 

 黒歌とネテロを二人きりにする気はもとよりない。恐らく永久に消えることがない、奴に対する警戒心。万が一のためにも、誘われずとも修練にはついて行くつもりだった。

 

 が、今しばらくは例外だ。

 

「後で行くよ、ボクたち二人とも。コイツの三半規管を直してあげる約束しちゃったからさ」

 

「そうかの?ならば、先に行っておるよ。場所は曹操に案内してもらうといい」

 

 最後まで全く内心を晒すことなく、ネテロは扉を押し開け出て行った。両開きの片側だけが微かに軋みを上げ、頂点を経て戻り始める。

 

 立ち上がった黒歌は、ちょっと緊張した面持ちでそれを押さえた。

 

「じゃあ、私も行ってるわね、フェル」

 

「うん、ウタ。すぐ終わるから」

 

 隙間をすり抜け向こうに消えると、扉はゆっくり閉ざされた。

 

 再びの密室。さらには見計らい、曹操が半笑いに、「それで?」とボクへ椅子を回す。黒歌の分だけ間を広げて相対し、咳払いを一つした。

 

「何が訊きたいわけなんだ?……いや、察しはついているが、まさか本当に治してくれるわけでは……ないんだよな……?」

 

「さて、どうするかな。十億払うなら考えてあげてもいいけどね」

 

「ドルでも円でも法外だな、全く……しばらくは酔い止め薬がお茶請けか……」

 

「ご愁傷様。でも嫌なら、百円くらいはまけてあげようか?ちゃんと答えてくれるなら」

 

「はっ!俺の善性はジュース一本分の価値も無いのか!」

 

 笑う曹操。ボクはその時、ようやく奴に眼を向けた。

 

 脱いだ帽子を手の中で弄び、それを以て息を吸う。

 

 奴の笑みが、困ったふうに歪んだ。

 

「どこまでが、オマエたちの企みなわけ?」

 

 応えはしばらく返らなかった。

 

 頭の中で言い訳やらこじつけやら、嘘の配分でも量っているのだろう。隠す気はあるようだが、その様子が黒歌のプリンを食べてしまった時そっくりで、隠蔽の効果はまるでない。しかし構いはしなかった。そもそもコイツがすべてを知っているわけがないのだ。

 

 ボクはおとなしく、曹操の呼吸音を待った。

 

「……どう話したものか……とにかく、俺の計画ではない。現場で働かされているような末端でしかないうえ、役職も持たない平ハンターの身であるから、それを前提に聞いてほしいんだが……」

 

 些細なことだ。そこから一つ抽出して組み上げればいいだけのこと。

 

「確かに、あの誘拐事件を画策したのは俺たちの側だ。喧嘩するよう仕向けたのもな。……ただ――」

 

 曹操がぱちりと瞬きをした。

 

「あんな死闘になったのは、こっちとしても全くの想定外だった。両方と同じく、『幻影旅団』なんていう大物が現れるなんて、思ってもみなかったのさ。

 ……適当な、はぐれの悪魔払い(エクソシスト)か妖怪狩りなんかをぶつけて、小さな諍いからお前たちも合わせて炎を煽る、というのが本来目指した予定なんだ。今後のためにな、悪魔と妖怪の関係が良くなると都合が悪かったんだよ。

 大分狂ったせいで、むしろフォローに回る羽目になったが……だからまあ、目的はそれだけだ。白音の誘拐はもちろん、リアス・グレモリーへ伸びる魔手も、成功させてやるつもりは欠片もなかった。それで……あー……だが結果的に白音は助かったわけだろう?目的もあらかた達成したことだし、俺の吐き気を除けば作戦は大成功だった、という話なわけだが……」

 

 緩やかに衰えていった勢いが、そこでとうとうボクの眼に負けた。ごくりと喉を鳴らし、反応を求めて落ち着きなく視線を泳がせる。

 

 脚を組み替え腕を組み替え、思考を回すボクを見守っていた奴は十数秒後、早くも耐え兼ねたらしく、身を乗り出した。

 

「納得はできたのか?これ以上と言われても、俺が話せることはもう残っていないぞ?」

 

「……ふぅん」

 

 一瞬、三半規管の修復にかこつけて頭を開こうかという思いが脳裏をよぎった。

 

「まあ、いいよ。黒歌とボクと……白音に害が及ばなければ、他は関係ないから」

 

 とりあえず、最たる対策法を認めたことに免じて、勘弁してやることにする。

 

 眼が外れ、隠しながらも胸をなでおろす曹操。放ってボクは椅子を飛び降り、帽子をかぶりなおして扉の面を押した。

 

 そして振り向き、告げる。

 

「これの後でさ、パリストンと話せるように連絡しといてくれる?」

 

「……ああ、そうか……。わかったよ、十億だ」

 

「口座に入れとくにゃ、ジンバブエドル」

 

 曹操と違い、パリストンから引き出すには、お金なんかでは足らないだろう。ボクの身体データとなら取引にはなるかもしれないが、口出しは望み薄。それでも知ってしまったからには関わらざるを得なかった。

 

 だからあの時、協力は結構などと言ったのか。下手をすれば奴は、ネテロよりも厄介だ。

 

 気を引き締め直し、ボクはポケットから携帯を取り出した。操り、色を付けた金額を送り付けると同時、響いた非難の声には無視をして、会長室を出た。

 

 また、何かしらが起こるであろうと、予感しながら。




どうにかこうにか一話に収まったので、これにて二房の猫じゃらし二部、終了です。くぅ疲。一部と比べて三倍ほどの話数、更新期間に於いては言わずもがなの長い間、お付き合いくださりありがとうございました。最新話から読み始めるタイプの人は今すぐ残りの十五話+一部の五話分も読んで。
さてはてお知らせ。一部以上にどっちの二次かわからないような展開になってしまった二部ですが、三部ではちゃんと原作と合流します。未だにスタート地点を悩んでいるような有様は、二部後半の京都動乱編(二秒で命名且つパクリ)で加わった白音も交えつつ、どうにかする予定です。未来の私の頑張りに期待しましょう。
なのでそのために英気を養うことにします。連載は短編を書くのと違って大分エネルギーを消費するのでモチベーションの維持が難しく、このまま連続で書いていれば、たぶん恐らく文章力が墜落してしまいます。京都動乱編の真ん中あたりからの失速が読者さんにバレていないか、すごく不安なくらいです。何十話何百話と続けて長期連載している他の作者さんと違って、私は豆腐の角の千倍意志力が弱いことに定評がある穀物なので、それを回復するためにお休みをいただきたいのです。
つまりは、積みゲー消化したり他の短編書いたり他の二次小説読んだりしたいので、次話三部の更新がだいぶ遅くなります。年明けぐらいまではサボってもいいよねって、そんな気持ち。
以上です。また会う日までしばしの別れ。
でも感想はいつでもください。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。