主なきノラネコたちの家   作:もちごめさん

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誤字報告ありがとうございます。ちょっと前に書き直した第一部から誤字脱字が山ほど出てきてて震えた。

20/9/08 本文を修正しました。


五話

 夕方に差し掛かり、強まる西日が地面に佇む人影を着々と引き伸ばす、そんな頃。ただじっと立ち尽くしていた影の主たちが、ふと不動を破り口を開いた。

 

「にしてもよぉ、まさか悪魔なんてトンデモがこんな身近に溶け込んでるだなんて思わなかったぜ。『念』に聖剣に神器(セイクリッド・ギア)に、ほんと世界ってのは広いんだな。なあゼノヴィア」

 

「……その話、いったい何度目だ、ハンゾー。耳にタコができる、と日本では言うんだったか……いい加減聞き飽きたぞ。そもそも私は元教会の戦士で、最初からその『トンデモ』だって知っていたんだ。お前の感動に共感しろと言われても困る」

 

 前者は楽しげな、後者は少々呆れ気味な声色での会話。初めての会合から幾分経ち、持ち前の気質も相俟ってすっかり打ち解けた二人、ハンゾーとゼノヴィアは、目に染みる斜陽を共に浴びながら呑気なやり取りを交わしていた。

 

 ゼノヴィアの言う通り幾度繰り返したかもわからない話題だが、今も以前も、台詞に乗った感情とは裏腹に、彼らが纏う雰囲気は真剣そのものだ。頭をそっちに回していても、集中力と精神力はそのまま静かに毅然としている。

 

 彼らの『精孔』を開いて『念』に目覚めさせてから数日、施した修行の成果が、この『纏』だった。

 

 『纏』は『念』の基礎である『四大行』の中でも最も根本的な技術。身体に『気』を纏わせて身体強度を高めるそれは、ほとんどの場合、『念』に目覚めた能力者が最初に修めるものだ。

 生まれながらに使いこなせたボクにはわかりようがないが、聞けば凡夫はこの『纏』ですら、モノにするために数ヶ月もの修行を要するらしい。それを考えれば彼らの才能は、一般的には素晴らしいものなのだろう。廃教会から悪魔共が通う学園に修行場所を移し、ぎゃあぎゃあやかましい子供のざわめきの中、日が暮れるまでの三時間を途切れさせずに耐え抜いたのだから、それは試験としても合格で差し支えない結果だった。

 

 数日でこれだけ上達し、もはや『纏』の修行に集中する時期は過ぎたと判断できるほど修行の進みが早いのだから、指導役のボクにだって不満はない。

 修行中のおしゃべりを容認しているのだって、全てはそれ、段取りのいい修行のためだ。意識せずとも『纏』を使うことができるよう、たとえ眠って意識のない状態でも使い続けることができるように、身体に叩き込まなければならないのだ。それくらいできるようにならなければ、その先の応用技や『発』にたどり着くことは疎か、『念』の世界に踏み入ることすらできない。

 

 ただもちろん、傍の木陰で手の中の本に眼を落とすボクは、教師ごっこに目覚めたわけではなかった。

 

(ヒマだしにゃ……)

 

 彼らが立ちっぱなしで『纏』を三時間続けているということは、つまりボクも三時間木陰で読書しっぱなし。持参した娯楽はとっくに尽きて、いま眼で追っている文章に至ってはもう三週目だ。つまるところ、退屈を紛らわせるものがもうハンゾーとゼノヴィアくらいしかないので、わざわざそれを邪魔する気にならなかったのだ。彼らのじゃれ合いも、横から聞いている分にはつまらなくない。

 

 だからボクはもう頭にすら入ってこない文字列をなぞりながら、呆れのため息を越えて再開した彼らのやり取りにこっそり耳を傾けていた。

 

「そりゃあお前にとっては今更だろうよ。でも……あー……伝わらねえかなこの気持ち!今までただの創作物だって思ってたモンが、目の前に存在してるんだぜ?こんな未知、男ならハンターでなくても興奮しねーわけがねえ!」

 

「だからそんなことを言われても、ハンターですらない私には理解できない。おめでとうくらいなら言ってやってもいいが、どのみち後だ。今は修行の最中だろう」

 

「黙らないとできないほど『纏』も難しくねーだろ。付き合い悪いな、姉弟子だってのに……。あ、それとももしかして、脳筋なゼノヴィアちゃんにはこの程度の『気』の操作も難し――ぐほッ!」

 

「ふ、ふざけたことを言うな!私は脳筋ではないっ!フェルさんにだって……ちょっと短絡的だと言われただけだ!」

 

 どうやら拳が飛んだようだ。ちなみにボクがゼノヴィアに送った『ちょっと短絡的』は、そのまま脳筋と言い換えてもらって差し支えない。初めて『精孔』を開けた時、潜在的な『気』の量が多かった彼女は噴き出す大量の『気』が制御できず、ならばと勢いを落とすため、ボクたちの忠告を無視して全力で『気』を放出するという力技に出たのだ。

 

 思惑通り量も勢いも落ち着き制御には成功したが、それすべてが彼女の本能によって実行され、しかも危惧した通り失神寸前に陥った、というそんな過去を、同じく知っているハンゾーは、『纏』のおかげもあってすぐに調子を取り戻し、ゼノヴィアへ白い眼を向けた。

 

「ほらみろ手が出る。図星だろ?『纏』も乱れてるぞ」

 

「う……これは……三時間も続けていれば、多少疲れるのも当たり前だろう……?」

 

「そりゃお前がじっとしていられない性質だってだけの話だ。オレは何ともないぜ?始めたての頃ならいざ知らず、こんだけ続けりゃ嫌でも慣れる」

 

 言い訳も一蹴して、ハンゾーは首を振る。そしてそのまま向いたゼノヴィアの対面、目を閉じ静かに『纏』を続ける白髪の少女へ言った。

 

「なあ、白音ちゃん……だったよな?あんたもそう思うだろ?」

 

 シロネは、クロカと同じその金の眼を薄く開いた。

 

「……はい?何が、ですか……?」

 

 今日ようやく初めて修行に参加して、ハンゾーとゼノヴィアの関係の外で黙々と努めていた彼女。どこか物憂げにぼんやりと、ハンゾーの顔を見返し首を捻る。

 

 ボクと同じくハンゾーもその応えと様子を予期していなかったらしく、僅かに目を見張って息を呑んでから、申し訳なさそうに頭を掻いた。

 

「いや……別に、大したことじゃないんだ。邪魔して悪かった」

 

「おいハンゾー、貴様、私と随分態度が違うじゃないか。白音に惚れたのか?ハゲのクセに」

 

「……そういうとこだよお前」

 

 ここぞとばかりに切りかかるゼノヴィアに、ハンゾーが半笑いで青筋を立てる。が、その割に二人の『気』は大して揺らがない。挟まれたシロネは、そんな二人の軽口に微かな笑みを浮かべた。

 

「二人とも、仲がいいんですね」

 

 漠然とした笑みで告げられた印象。同時に二人は不満も露に眉を顰め、顔を見合わせ、次いでそっぽを向く。

 

「へんっ、冗談きついぜ白音ちゃん。誰がこんな脳筋痴女と……」

 

「こちらの台詞だ変態ハゲ。私だって、この男と仲がいいなどと思われるのは心外だ」

 

「……喧嘩中、なんですか?」

 

 笑みが反転し、シロネの顔色が明らかに悪くなった。わかりにくいが、何か思い詰めているような、そんな表情。

 

 しかし顔を背ける二人は気付かず、不機嫌なまま渋面で唸った。

 

「喧嘩、というほどのものではない……。参観日にこいつと初めて顔を合わせた時、下着を見られた。それだけならともかく、ずっとネタにして侮辱してくるんだ。好意を持てるはずがないだろう」

 

「だからそれはそういうつもりで言ったんじゃねーって釈明したろ!それに、侮辱してんのはそっちの方だ。どんだけ訂正してもハゲハゲ言いやがる……!スキンヘッドを嗤う奴に、やり返して何が悪い!」

 

「私だって侮辱された分をやり返しているんだ!貴様のそれが通るなら、私の怒りだって正当だ!」

 

 平行線だ。互いに譲る気は無いらしい。

 だが、それでも二人の『気』の様子を見れば、特別大した問題ではないだろう。憎しみ合っているわけでもなし、修行に支障はない。クロカと曹操のように、いずれ兄弟のようとでも評されるような関係にでも落ち着くはずだ。乏しい経験則からして、たぶん。

 

 ボクが二人のやり取りに抱くとすれば、そんな感想。要するにどうでもいい。どうせ二ヵ月弱の付き合いなのだ。

 

 外から見ればその程度の、ただの他人同士のいざこざだ。シロネにしてもそれは同様のはずなのに、彼女は明らかに、過剰なほどの否定を発していた。

 

「……つまり二人とも、相手が自分の何に怒っているのか、わかっているんですよね?」

 

 声色の異様さに、ようやく二人が気付く。

 

「お互いに、自分が悪かったって気付いているんですよね?」

 

 あっけにとられ、二人はシロネの視線に射抜かれた。意志で重い眼差しに、まずハンゾーが耐えかね、引きずり出された後ろめたさで眼を逸らすと、続いてゼノヴィアも顔を背ける。

 

「わ、悪かったも何も、オレはこんな奴……」

 

「……そうだぞ、白音。何に怒っているのか知らないが、今日初めて会ったばかりの男の肩を持つなど、らしくも――」

 

 シロネの『気』が、その声のように震えた。

 

「憎んでいるなら、そんな顔にはならないです!」

 

 つい、ボクもそっちへ視線を引っ張られてしまう。その『気』か言葉か、ハンゾーとゼノヴィアは背を跳ねさせ、とうとう『纏』が解けた。

 

 慄いたままの二人は、なぜか眼に涙を浮かせたシロネの悲しげな表情を見つめる。

 

「仲直り、するべきです。ハンゾーさんは……ウタさまとフェルさまと一緒で、夏休みが終わったら帰ってしまうんですよね……?今のまま別れてしまったら……仲直りできる機会を無くしてしまったら、絶対にそのことを後悔します。……悔やんでも、どうしようもないのに……だから、私は……そうなってほしくないです……」

 

 奥底から押し出すようにして言って、そこで耐えかねたシロネは俯いて黙り込んだ。引き結んだ唇から、ほんの微かに喉が鳴る音が漏れ出る。

 

 悪魔の鋭い聴覚でそれを耳にしたゼノヴィアも、耳にしなかったハンゾーも、眼に浮かべたのは一様に困惑だ。すなわち、なぜ関係のない他人の不和にこれほど感情的なのか、という疑問。

 ゼノヴィアとは仲間であろうが、だとしてもその様子は度が過ぎている。そして同時にあまりに真剣な気迫は、お茶を濁して理由を訊くことすら憚られるほどのものだった。

 

 ハンゾーとゼノヴィアが、いざこざを放棄してシロネをなだめに掛かったのも当然だろう。息の合ったことで、二人同時に居心地の悪そうな顔をした。

 

「いや、まあ……確かに、ずっといがみ合ったままってのは、いいことではねーな、うん」

 

「恨み続けるというのも、生産的ではない。……だから、そうだ。白音の言う通りでは……あるな……」

 

 絞り出すように言うと、ゼノヴィアはハンゾーに向き直り、口を尖らせたまま頭を下げた。

 

「……ハゲと呼んで、悪かった。もう口にしないので、許してほしい」

 

 眼は余所を向いたままだが、確かに謝罪の言葉。ハンゾーも、あからさまな不承不承で眉を寄せながら、やはり詫びを呟く。

 

「こっちこそ……すまん、痴女だのバカだの言って。……はぁ、じゃあ解決だ。これでいいか、白音ちゃん」

 

「よくなければ困る。そう何度も下げられるほど、私のプライドも安くないんだ。機嫌を直してもらわねば――」

 

 しかし二人の仲直りは、どうやらシロネには認められないものであるようだった。尻すぼみに言葉を霧散させたゼノヴィアの足元に、ぽたりと滴った雫が一つ。土を濡らしてすぐに乾いたその涙は、シロネから零れたもの。

 

 ただよくよく見ればそれはそれまでの感情的とは違い、目からのものではなかったが。

 

「まだ、解決なんてしてません……!」

 

 余所を向き、気を取られていた二人は雫の出どころに気付かず、ぎょっとして焦燥を見出す。シロネは潤んだ眼を、意志と『気』に乗せ二人にぶつけた。

 

「形だけの仲直りなんて、そんなの意味がないです。二人とも、全然納得していない……。不満が残っているなら、それも全部、一緒に解消しないとだめなんです……!」

 

「け、けどよ……んなこと言われたって……」

 

「不満も何も……ううん……」

 

 と、やはり言い辛そうにして二人は口を噤む。とはいえ言えないことに対する負い目はあるらしく、シロネの瞳から眼を外していた。最初にあった互いへの憤りは、顔からも気配からもすっかり吹き飛ばされている。

 

 引き出されつつある不満の理由は、本心からのものではない嫌忌と負い目と、そして一時頭から飛んだ憤りを話さぬ意義によって、もう舌に乗る寸前である様子。二人の仲を憂うシロネの涙、のように見せかけた魔力由来の水滴に端を発した二人の罪悪感と後悔は、限界まで膨れた風船の如く、既にもういっぱいいっぱいだ。

 

 故にそこにもう一度、カマトトぶった嘘泣きを投げ込んでやれば、話さなければと二人が決壊するのも当然だった。

 

「し、白音!そんな、泣くほどのことでは……ああもう!わかった!包み隠さず言ってやればいいんだろう!?」

 

 俯き、垂れた前髪の白幕から水滴が落ちる瞬間を今度こそ眼にしてしまって、ゼノヴィアは思惑通り、大慌てで言った。続いてハンゾーに向き、しかしその時の不満とはまるで違う、怒りの混じった羞恥で頬を薄く染めながら睨みつけた。

 

「私が腹立たしいのはな、ハンゾー!わ……私の、胸と下着を見たというのに、あの時以降、何の遠慮も興味も見せないことだ!いつもいつも、涼しい顔して私の先ばかり歩くから……」

 

「……はあ!?意味不明だぞお前!理不尽にもほどがあるわ!忘れてやろうってんのに、なんでそれでキレられなきゃならねーんだ!?」

 

「私にだってわからん!!」

 

 一際激しく、滅茶苦茶にかぶりを振ったゼノヴィアに、台詞と相俟ってハンゾーが余計に混乱する。だがそれ以上に、ゼノヴィア自身がその衝動を理解できていないようだった。

 

 感極まったのか赤い顔に涙も滲ませ、ぎりと歯を食い締める。

 

「わからんが、ただ癇に障るんだ!一誠のような色情の眼に進んで見られたいわけではないし、お前の気遣いにも文句はない!けど……あ、あんなことを言って、しかも私が姉弟子だというのに、それ以来気にした素振りもないというのが……眼中にないと言われているようでどうにも気に障る……!理不尽だっていうのもわかっているさ。だから黙っていた!ほら、私のはこれで全部だ!次はお前の番だぞハンゾー!洗いざらい吐き出せ!」

 

 人差し指を向けて半ばヤケになって叫んだゼノヴィアに、ハンゾーはシロネの哀れっぽい様子をちらりと一瞥してから、苦虫を噛み潰したような顔をした。

 

「洗いざらいも何もねーよ、オレが和解できてねーっていうんなら、それはその理不尽だ。見ちまったのが不可抗力な上に、もう何に怒ってるのかもわからんくらいどう言っても言い返してくっから、謝るのに嫌気がさしたってだけだ。……だから、もうやめる!」

 

「な、なんだ?私にはもう、どうしようもないんだ。いっそもう、腕っぷしで決着をつけるか?あの時の腕相撲の二の前になるぞ」

 

「十戦全敗の話はするんじゃねーって!悪魔の身体能力がすごいってのはわかったから!……そうじゃなくて、お前がオレにキレてる理由が……まあ、わからんけどわかったから、気にするのをやめにするってことだ。そういうもんなんだと思うことにする。だから安心してオレの才能に嫉妬しろ、ゼノヴィア」

 

「し、嫉妬!?私がハンゾー、お前の才能に嫉妬していると……!?そ、そんなわけあるかっ!な、なあ、フェルさん、そうだよな……?私は一番弟子なんだから……少なくとも同格くらいではあるよな……?」

 

 と、羞恥の赤面のまま不安で顔を青くするという離れ業をやってのけたゼノヴィアが、弾かれるようにしてボクに尋ねる。

 

 実際彼女の言う通り、『念』の才能という点において、二人のそれにほとんど差はない。聖剣やら天の加護やらで消費されている分、多少劣るだろうが、それでも誤差の範囲内だ。彼女がこれほど不安がっている理由、三時間の『纏』でハンゾー以上に疲労してしまっているのは、単に体調と精神状態の問題だろう。

 不知の世界を知って大興奮の彼と違い、考えなしの悪魔への転生を悔い始めている彼女は好調とは言い難い。精神エネルギーである『気』を操る『念』は、そんな些細な気分でも精度が揺らぐのだ。

 

 ということを、聞いてないふりをする間もなくゼノヴィアに眼を掬い上げられてしまったボクは、ため息混じりに告げようとした。シロネの手のひらで転がされ、その子供みたいな内心を暴露させられてしまった彼らへの憐れみ付きで。

 

 だがその前、演出での興奮でボクの息に気付かないハンゾーが、割って入ってシロネの顔色を伺った。

 

「一番弟子だの姉弟子だのはこの際どうでもいいだろ!好きなだけ弄ればいい!だから、どうにかお前もこれで妥協してくれよ。オレもうこの空気に耐えられねー……」

 

「変なことを言うな!自分を殴れなんて言う奴を殴る趣味は、私にはない!うう……わ、私もわかった!お前に倣うことにする!細かいことを気にするのはやめだ!元々私は、フェルさんの教えを受けるために悪魔にまでなったんだ!関係のないことで時間を無駄にしてなるものか!」

 

 二人は顔を見合わせて頷き合い、合意に至ってシロネに提出する。一番最初に浮かべた涙を、とうに引っ込めてしまったシロネに。

 

「ほら、白音ちゃん!これで完璧仲直りだろ!?」

 

「私とハンゾーは、これで生涯の……ええと、そう、マブダチだ!……だから、そろそろ機嫌を直してくれ。君を泣かせたとなっては、私が部長に叱られてしまう……」

 

「……ほんとに、もう嫌いじゃないですか……?」

 

 明らかに作っているとわかるレベルの震えた声で、シロネは僅かに顔を上げ、髪の隙間から上目遣いに二人を見上げた。だが当然、ようやく得られた合格に喜ぶ二人は違和感に気付かない。ここぞとばかりに肩まで組んで、健気なアピールまでして見せた。

 

「ああ、もちろん!オレたちもうマブダチの大親友だからな!なあゼノヴィア!」

 

「そうとも!これからもフェルさんの弟子同士として、互いに頑張ろう!」

 

 そうやって、本心に色まで付けた宣言をさせるため、道筋を引いたシロネ。結局、何故そんなことをしたのかはわからずじまいだが、まあ案外、単なる気まぐれかもしれない。なにせクロカの、妹だ。

 

「よかったです……」

 

 顔を上げ、涙目に顔をほころばせながら悪びれもせずに言うその様。目的のために情を使う手管は、クロカが使う色仕掛けにもよく似ていた。

 

(『女は生まれながらに女優』、だっけ)

 

 こっそり息を吐く。そんな、何とも言えない感慨に瞑目するとその瞬間、和解もといシロネの機嫌の回復を喜び合う三人に割り入って、ボクの端末がタイミングよくアラームを鳴り響かせた。

 

 三時間『纏』を維持する修行の終了を告げるそれにこの場で最も驚いてしまったのは、恐らくボクだろう。完遂を常に意識する当事者の三人は、快哉を破った電子音に強襲されようとも、もちろん安堵を浮かべるのみ。不覚にも気を取られ、セットしていたことを忘却していたのは、指示だけを出したボクばかりだ。

 

 ようやく終わった、とそれまでの企みの分も合わせて息を吐くシロネに、そういえば途中で『纏』解けたんだった、と気付いて喜びを消し、半口開きで硬直するハンゾーとゼノヴィア。彼らがボクの動揺と内心に気付く前にと、ボクは手の文庫本を音を立てて閉じ、騒々しいアラームを黙らせ立ち上がった。

 

 伸びをして心に渦巻く様々を誤魔化しつつ、二極する三人の顔色を順に眼で撫でる。それに肩を震えさせるという反応を見せたハンゾーが、怖々と瞬きをして口にした。

 

「あー……もしかしてオレら、『纏』三時間やり直し……?」

 

「うぐ……そんな……今日も『纏』だけで修行が終わるのか……」

 

「いいよ、数分の誤差だし。合格にしてあげるにゃ。そもそも……シロネが妨害したみたいなものだから」

 

 一際絶望が色濃く、項垂れ呟いたゼノヴィアが、ボクの台詞にパッと顔を明るくした。反対にシロネは見抜かれたことに気づいたらしく、気まずげな表情。ボクは視線を外し、主に遊びつくした玩具類で埋まるショルダーバッグを持ち上げる。

 

「それに時間も無いしね。三時間保つまでできるようになったから、後は他の修行と並行して進める。いい?これからは生活の中でも常に『纏』をしたまま過ごすこと。意識せずに維持できるくらいになれば、それでようやく『纏』が完成だから」

 

「……『常に』?それは……休憩の時でもか……?」

 

「もちろん。『意識せずに維持できるくらい』だから。まあキミたちなら、そうかからずに寝ながらでもできるようになれるにゃ」

 

「……悪魔の身とはいえ、しばらくは寝不足がきつそうだな……」

 

 心のへだたりが解き放たれたためなのだろうか、ゼノヴィアにしては珍しく、弱気を吐き出す。その嘆きをするりとくぐり、ハンゾーが問いかけた。

 

「んで、じゃあ次は何をやるんだ?『四大行』は、確かあと『練』『絶』『発』だったか。……どれがなんだかは知らねえけど」

 

「『練』は通常以上に『気』を生み出す技で、『絶』は反対に『気』を絶つ技、『発』は……その人固有の能力のこと。……です、よね?フェルさま」

 

「……うん。大体そう」

 

 代わりに答えてくれたシロネには眼を向けられず、ボクはバッグの中身を漁りながら肯定する。しかしそのまま、「けど」と続けた。

 

「シロネ、キミも『纏』はともかく、他三つは碌にできないんだから、もう他に構ってる余裕はないからね」

 

 ぐう、とシロネの喉が鳴る。ほんの少し見ただけではあるが、京都で『念』に目覚めてからそれなりの時を経た彼女の『念』は、しかし『纏』で止まっている。

 今まで指導を受けたことがないのだろう。いかにクロカの妹、『気』を操る仙術の才を生まれ持つ猫魈とはいえ、勝手の違う『念』を我流ではどうしようもない。それらがどういったものなのかなど、言葉でわかるはずもないのだ。

 

 『纏』がまともにできていただけで十分。そもそもの才能も全く悪いわけではない。しかしそのシロネを尊敬している節があるゼノヴィアにはボクの評価が意外なものだったようで、目を丸くして息を呑んだ。

 

「コカビエルとの戦いで見たあのパワーでも、まだ修練の余地があると……?」

 

「うん、当然。まあ実際に見てないけど、ちょっと頑張った『纏』ってとこかにゃ。『練』はもっと、爆発的に『気』を増やす技だから」

 

「余地……。フェルさま、どうすればうまくできるようになりますか……?」

 

 シロネが意欲を露にすると同時、バッグの中に目的のものが入っていないと諦めて、ボクはすまし顔で彼女の眼を見返した。途端に湧き出す息苦しさを、堪えてどうにかやり過ごす。

 

「修行法は色々あるけど、『水見式』をするつもり。ついでに『系統』も調べられるし、『発』の修行にもなるし」

 

 だからこちらのバッグになかった道具を求めて、木の葉ごと枝を折り取り、

 

「ウタ、適当に準備しちゃったから、たぶんそっちに水とグラス入ってると思うんだけど……出してくれる?」

 

 と、隣で携帯ゲームに夢中のクロカに言った。

 

「ええ……いいとこなのに……」

 

 イヤホンを取り、嫌そうな顔でボクを見上げる彼女。受講者三人の騒ぎは無視しても、さすがにボクまで意固地に拒絶する気は無いようで、頑固に不満を見せたまましぶしぶゲームを横に除ける。

 

 言わずとも伝わり、彼女は準備を始める。取り出したグラスに注がれる水に、それがボクらの労いだとでも勘違いしたのかハンゾーの手が伸びた。ありがたいと礼まで口にされる前に訂正して叩き落とし、オーバーに痛がる彼をよそに、水で満たされたグラスの上に一枚葉を浮かべた。

 

「これが『水見式』。これに『練』をして、出た反応で何系なのか判別するんだけど……うん、まずは『系統』の説明が必要だにゃ」

 

 シロネとゼノヴィアも、グラスからボクに眼を移した。注目を、手にした枝に絡めて集め、夕日の下の土を突く。

 ガリガリ削って溝を刻みながら、頭に浮かべた。

 

「簡単に言うと……個々人の『念』の傾向、かにゃ。『気』の特徴といってもいい。生まれ持った得意不得意のことだね」

 

「フェルさんの不気味な『気』のような、か?あるいは私が……『纏』を苦手としているように……」

 

「んー……それは、関係なくはないと思うけど……もっと大雑把な枠組みだよ。大別して六種類。上から順に――」

 

 ゼノヴィアも二人も覗き込む中、地に書いた図形、六角形の頂点を、十二時から時計回りに示して諳んじる。

 

「モノの力を高める『強化系』、『気』の性質と形を変える『変化系』、『気』を物質化する『具現化系』、他に分類できない『特質系』、物体を操る『操作系』、『気』を身体から離して維持する『放出系』。『念』は必ずこれらのどれかに分類できる。だから『発』、固有の能力を作る場合は、戦闘スタイルに加えてこの『系統』を意識することをお勧めするにゃ。

 ただ、自分の『系統』の能力だけしか作れないってわけじゃない。『系統』は六角形内で相関関係にあってね、例えば強化系能力者が『強化系』で百の性能を出せたとしたら、両隣の『変化系』と『放出系』は八十くらいの性能、もう一つ下がって『具現化系』と『操作系』は六十っていうふうに、性能は落ちるし習得速度でいっても非効率だけど、一応習得はできる。『系統』っていっても、いわば得意分野でしかないから。あ、けどちなみに『特質系』は他系統の能力者じゃ習得できないから、こっちも憶えといてね。今は能力開発じゃなくて『練』と『発』の修行だから関係ないけど、将来も見据えて知っていた方がやる気も出るでんじゃないかにゃ?……はい、じゃあここまでで、何か質問ある?」

 

 教師の真似事は疲れる。大分省略した説明でも大いに気力体力を消費して、最後に穴埋めを任せるとボクは教鞭兼チョークの枝を抛り、元の場所、読み終えた本類の詰まったバッグの上にどっかり腰を下ろした。

 

 お尻に何冊か折れた感触が伝わるが、つまらなかった報いと片付ける。すると挙がった手、ヒエラルキー的に行儀よく挙手するハンゾーを顎で促し、捕捉を問わせた。

 

「他の五つはまあ、なんとなくわかったけどよ、『特質系』がよくわからん。『他系統じゃ習得できない』ってのもそうだが」

 

「……この六角形の相関関係、『六性図』っていうんだけど、そもそも『特質系』ってここに分類できない、別の側面にあるような『系統』なんだよ。後天的に変化する可能性が高い系統が『具現化系』と『操作系』だからこの位置に置かれてるけど、基本的には血統だったり特殊な生まれだったりに起因する、特異なタイプ。だからウタや、シロネの仙術みたいなものだって思って」

 

「……先天的な資質、か」

 

 呟き、シロネを気にして横眼を向けるハンゾー。しかしいつの間にか挙手制が確立していたらしく、鹿爪らしく自分の番を待つシロネは気にも留めない。同じように尋ねてやると、真面目顔から少しの必死が顔を見せた。

 

「じゃあ、一番強いのも、その『特質系』なんですか?」

 

「強い?」

 

「え、っと……私、リアス部長の『戦車(ルーク)』だから、か、格闘戦で強くならないといけないので……」

 

 聞き返すと興奮が解け、今度は委縮し彷徨う視線。少し悩んでから、ボクは書き出した答えを口にした。

 

「基本的には、『強化系』かな。一番効率よく肉体強化ができるから、直接的な攻防力に繋がりやすい」

 

 再びボクに定まる眼に、「けど」と続ける。

 

「元が非力だと、焼け石に水になることも多いよ。人間が人外を相手にした時なんか顕著だね。ハンゾーも、ゼノヴィアに腕相撲、勝てなかったんでしょ?」

 

「あ、ああ……」

 

 再度公にされたハンゾーの渋面と、非力と切り捨てられたシロネの歯噛み。ボクはシロネのその、三人の中でもとびぬけて小さく華奢な体躯を見つめた。

 

 元々、向いていない。彼女に埋め込まれた悪魔の駒(イーヴィル・ピース)、『戦車(ルーク)』の駒でどれだけ攻撃力と防御力が上がっていようと、体形が変わらない以上、正面切っての殴り合いはどうあがいても不利だ。格下でも体型差で負けることは十分にあり得るだろう。

 

「だから『具現化系』とか『操作系』、『特質系』もそうだけど、条件達成で即詰ませるような能力が合ってると思う。仙術もあるし、力自慢になるのは諦めた方がいいんじゃにゃい?……ていうか、『系統』って生まれ持つものだから、理想を気にしても仕方ないんだけどね」

 

 我ながら、ずいぶん親切な長台詞だ。シロネの思いつめたような表情が愉快で、少し自分に嫌悪した。

 

 そうして最後、ゼノヴィアが手を挙げて、指す前に首を捻った。

 

「それで、その『系統』とやらがわかる『水見式』は、どうやってやるんだ?」

 

「『練』するのよ。これに」

 

 答えたのはクロカだった。

 ゼノヴィアが見つめるグラスを手に取り、どこからか持ってきた金バケツを逆さにして、その上に置く。使い古された波打つ底で水が少量零れたが、クロカは気にせずその前に腰を下ろし、グラスを包み込むようにして手をかざした。

 

 胸中の入れ替えを必要としたボクの代わりに、めんどくさそうに三人を見渡した。

 

「お手本、一回しか見せないからしっかり見てなさいよ?……いい?『練』は内の力を溜めて、一気に放出するイメージで――」

 

 注釈付きで言いながら、実になめらかに発動したクロカの『練』は、各々頭に巡らせる三人が指示通りにグラスに眼を向けると同時、すぐさま変化を引き起こした。

 

「おあッ!なんだこれ!」

 

「水が、一瞬で」

 

「真っ黒……」

 

 夕日も淀みなくすり抜けるグラスの透明は、一秒も経たずに光を通さぬ漆黒へと転じた。

 

「とまあ、こんな感じに変化が起こるわけ。ちなみに水の色が変わるのは『放出系』の証。黒色なのは私個人の特徴。『系統』ごとに反応が違うのはもちろん、同じ『系統』でも、例えば私と同じ『放出系』でも、色が赤だったり青だったりするの。あと言うことは……もういいか。『練』ができればひとまずはいいから……ほら、次はあんたたちの番よ。ご自由にどうぞ」

 

 畳みかけるように言い終えて、クロカは水を換えると元の木陰に戻ってしまう。役目は果たしたとゲーム機とイヤホンをつける姿に、頑なだなあと呆れた。そしてやっぱり、自分に嫌悪もした。

 

 息を吐き、立てた膝の上で頬杖をつく。その頃にちょうど目の前の感動も治まり、いち早くゼノヴィアが手を挙げた。

 

「……では、まず私が……いいか?」

 

 他二人の首肯を受け取って、グラスの前に胡坐をかく。息をつき、やたらに長く深呼吸をしたゼノヴィアは、最後に一つ気合を入れると、ようやくグラスに手をかざした。

 

 その一瞬、キラリと瞬きボクの眼に夕日の跡を残したのは、彼女の手のひらに滲んだ汗だろう。

 彼女が『気』を集中させて間もなく、ボクはそれを察知した。彼女の身体に残る、クロカの『練』を間近で感じたたために巡った緊張。他二人と比較して『纏』が上手くできなかった劣等感と、プライドによるプレッシャーが合わさり、『念』の精度を著しく落としている。

 

 歯を食いしばり、悲愴の眼でグラスを睨み踏ん張る彼女の、『練』には程遠い程度の『気』には、それが如実に表れていた。始めて数十秒しか経っていないが、空回りし続ける彼女の性格上、このまま続けさせて事態が好転することはないであろうことは明らかだった。

 

 これではグラスになにがしかの変化が起こるまで、つまりゼノヴィアが『練』を成功させるまで、少なくない時間が必要となってしまう。そして暇つぶしのネタはお尻の下だ。

 退屈を予感したボクはやむを得ず、その暗いしかめっ面にも聞こえるよう、嘆息して声を張った。

 

「ただ闇雲に念じればいいってわけじゃないよ」

 

 びくりと背が跳ね表情が凍り、からくり人形みたいなカクカクの動作でボクを見上げる。怒られるとでも思ったのか、合うや否や潤み始めた眼に、出かかった二発目のため息を呑み込んで続けた。

 

「もっとこう……最初に『纏』した時みたいに思いっきりさ。キミの場合、潜在的な『気』の量が多いから、遠慮せず吐き出したほうが上手くいく」

 

「『気』の量が多い……のか……?私は」

 

「うん」

 

 三人の中では頭一つ抜けている。聖剣を扱える器であるのだから、そうおかしなことではないだろう。それが強さに直結するわけではないが、しおれかけた彼女の自信には繋がったようだった。

 

 競争相手がいれば習得も早かろうという思惑があったからこそ、ボクはすんなりハンゾーを受け入れたのだ。だというのに折れてしまっては困る。欲をかいたためにマイナスを被るなどごめんだ。

 

 こんな心労、ハンゾーとゼノヴィアの予想以上の仲の良さ――あるいは悪さか――の対処に追われる時点で既にプラスマイナスゼロであるような気もするが、ともかくこの場は切り抜けたらしく、ゼノヴィアは眼の悲愴を必死にまで持ち上げ、『気』を振り絞った。

 

 ほどなくして、『練』は成功した。

 

「……お?なんか、水が……」

 

 と最初に気付いたのは、傍でずっと熱心にグラスを覗き込んでいたハンゾーだった。伝って落ちるほどに汗を増やし、悪戦苦闘で疲弊した当人、ゼノヴィアは、しかし変化に気付かず、座らぬ眼で手元を凝視したまま呆然と聞き返した。

 

「なんだ……色が変わったのか……?」

 

「いや……ちょっとだけど、湯飲みのふちから溢れてないか?」

 

「……気付かないうちに、汗でも落ちたか。フェルさん、純粋な水でなくなってしまったようだが、大丈夫なのか……?」

 

 汗の数滴で水が溢れるという、まずそのことに疑問を持ってほしかった。

 

 グラスの下、錆びの浮いた銀色を僅かに濡らす水を眼にして言ったゼノヴィア。しかしまあ、脳筋なのでしょうがない。敬虔な神の信徒などをやっていた人間に、一度信じたことを疑わせるのは困難だ。少なくとも自発的には。

 

「あ、いえ、ゼノヴィアさん、今ちょっと溢れました。汗じゃないです」

 

 一歩先んじて確信に至ったシロネに続き、目を剥いて勢いよく顔を上げたゼノヴィアに告げた。

 

「水が増えるのは『強化系』の証だよ。おめでとうゼノヴィア、ぴったりだにゃ」

 

「『強化系』……。わ、私、今のが『練』なのか?できたのかっ?」

 

「心配しなくても、『水見式』で変化が出てるんだから。……シロネの『練』もどきより、よっぽどうまくできてる」

 

「ッ!……くぅ……ッ!!」

 

 今までの重圧が、ようやくそれで解放された。汗と涙を弾き飛ばし、身体を震わせるほどの喜びよう。在庫一掃の褒め殺しにしてもやりすぎだったかと後悔しかけたが、仮止めしたため息を吐き出すそのきっかけ、ゼノヴィアは爆発する歓喜を自分の内に留めることに成功し、ニマニマ笑いながらも黙ってグラスの前を退いた。

 よってボクも彼女に白い眼を向けるだけに留まり、気味悪げに片眉を歪めながら交代したハンゾーに、気を取り直して注視した。

 

 それでもなお続いていたゼノヴィアのニマニマは、ハンゾーが彼女の半分の時間で水に変化を起こしたことによって、無残にも砕け散った。

 

「お!来た来た!色が変わったぞ!ってことはオレは『放出系』か!」

 

 クロカのそれには遠く及ばず、透明度に変わりはない。だが夕日の中でも認められるほどはっきりした色彩は、ゼノヴィアが起こした反応よりも劇的なものだ。

 併せて敗北感を味合わう彼女に膝を突かせ、しかし一瞥もくれることなくやる気に拳を握り締めるハンゾーを眺めていたシロネは、我関せずのクロカに視線を彷徨わせると、一瞬眼を閉じ、そして身体に『気』を滾らせた。

 

「……次は、私の番ですね」

 

 呟き、使った『念』は、前二人の試行錯誤をその体質で見ていたためか、ハンゾーよりもさらに早い時間で『練』となった。

 

 最終的に膝を抱えて不貞腐れ始めたゼノヴィアはやはり意識の外にして、シロネはグラスの中を見つめながら、何とも言えない表情を作る。閉口する彼女に代わり、テンションの高いハンゾーの生き生きとした声色が、興味津々に変化の様子を追っていた。

 

「おお!今度は葉っぱが動いてんぞ!となれば残りの『変化系』か『操作系』か……なあどうなんだ、フェル」

 

「……『操作系』だにゃ。こっちも相性ぴったり」

 

 取って付けたような敬称すらもなくしたハンゾーの逸りに答え、ボクは立ち上がった。クロカが用意してくれた後二個のグラスを、それぞれ気落ちする二人の前に置く。

 

「『系統』が後天的に変化する可能性もなくはないけど、まあよっぽどのことがない限りはだから、諦めて受け入れることだにゃ。さてじゃあ、当面の修行ね」

 

「……『水見式』を、繰り返すのか……?」

 

 引きずる敗北感と想起した疲労でどんより曇った眼差しを、意外にもゼノヴィアがボクに向けた。

 全く頭が回らないわけではないらしい。どちらかと言えば平時に力を発揮できないタイプなのか、思い直し、「そう」と肯定を挟んでから続ける。

 

「『練』の力強さに比例して変化も顕著になるから……とりあえず一週間くらいかにゃ。『纏』と一緒に毎日続けて。ウタみたいな強い反応を起こせるように」

 

 これで『纏』と『練』と、そして『発』を同時に鍛えられる。『水見式』を利用した方法は本来『発』のほうの基礎修行として用いられることが多いが、今の段階で『練』と『発』はほぼイコール。多少の不足はあれど、これがベストだろう。

 

 何がともあれ時間がないのだ。特にシロネの関係で、できるだけ早く、可能なら本格的に時間が取れるようになるまでに、『凝』までは習得させねばならない。

 

 それに、クロカとシロネが二人きりになれる機会も、なるべく多く作らねばならないのだ。

 

「わかったらじゃあ、ほら始め!」

 

 ボクは意識して無心に入りながら、手を打って三人を急かした。




ハンゾーが放出系という設定は公式のものではありません。まだ未判明なので、そうなんじゃないかと思う系統を仮置きしました。情報が出たら更新します。(果たして出るんだろうかとかは思っちゃいけない)
それと、白音とゼノヴィアの系統について、こちらも納得できない方がいるかもしれません。もしどうしても許せないのであれば、貴方がハンターハンターのクロスを書きましょう。もれなく私が喜びます。
感想くれても喜びます。
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