主なきノラネコたちの家   作:もちごめさん

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20/9/08 本文を修正しました。
21/2/14 本文を修正しました。


六話

 ピトーが生徒三人に『水見式』をさせてから凡そ三十分。当初発動すらおぼつかなかった彼らの『練』は、どうにか手間取ることなく使うことができる程度にまで進歩していた。

 

 一周回って吹っ切れて、ガラスのコップにかじりつくゼノヴィアはもちろん、『纏』の段階からかなりの適性を見せたハンゾーも、みんなとにかく『練』のスタートラインには立てたようだ。後はここから地道に反復練習し、練度を上げていくのみ。この様子ならば、ピトーが計画する修行メニューのステップアップも早そうだ。

 

 ただ、そう真面目に働くことないのにと、私は思わなくもない。

 所詮は今回限りであろう悪魔からの依頼。評価なんてどうでもいいのだから、口出しなんかせずに適度にさぼっちゃえばいいのだ。何なら修行の方法さえ提示すれば、リアス・グレモリーも文句は言えないだろう。

 なのに彼女は今も、汗水たらして『練』を繰り返す彼女らにアドバイスを飛ばしている。人間でありハンターでもあるハンゾーに関してはわかるが、悪魔に目を掛ける意味があるのだろうか。

 

 ピトーでなく私が受けた依頼に関しては特にそう思う。リアス・グレモリーは『仙術を教えろ』と言ったのであって、『『念』を教えろ』とも『強くしろ』とも言っていない。私がパパっと仙術だけを教えてやればそれで終わる話だ。ピトーは習得に効率的だからなんて言うが、極論を言えばそもそも習得させる必要すらもないだろう。なぜならここでまともに仙術を扱えるのは私のみ。基本の触りだけでもそれが完成形と私が言えば、確かめる術など彼女らに存在しないのだ。

 大嫌いな悪魔相手に、いったい何を考えているのやら。

 

(暇なら私とゲームしてくれればいいじゃん。せっかくパーティゲー持ってきたのに……)

 

 三時間に及ぶ『纏』のテスト終わり、同じ本を何度も読み返していると気付いた時に、ためらわずに誘えばよかった。もっと言えば、懇切丁寧に相手される三人にイライラしている場合じゃなかった。

 

 くだらない後悔に意識を取られながら、私は手に持つゲーム機の画面、星を手に入れ歓喜する赤帽子団子鼻のキャラクターを見つめていた。

 終盤に差し掛かったすごろくゲームの戦績は、やはりNPCの敵では相手にならず、ぶっちぎって私が一位。先を見るまでもない確定的な勝利に退屈と不満が混ざった息を吐く。ちょうどその時だった。

 

(……ああ、やっと帰ってきた)

 

 感覚に、それらが触れた。

 

 とうとう沈んだ夕日に背を押されて帰る生徒が多い中、逆に駒王学園の敷地に入ってくる三人分の気配だった。私たちが居るこの旧校舎の裏を目指して一直線にのろのろ進むそいつらを、私は感知した。

 

 赤龍帝たちだ。本来なら今日『念』を学び始める予定だった彼。ゼノヴィアとハンゾーのように『精孔』を開けてやるはずだったがしかし、私とピトーとで改めて検分したところ発見された不安要素を確かめるために、リアス・グレモリーともう一人のおまけを一緒に、近くを少々走らせていたのだ。

 

 それが今、帰還したらしい。『纏』のテストの間、三時間くらい適当に走れと指示し、三十分押している。より多く走るための時間超過であるならいいが、気配のへばり具合を見るにたぶんそうではないのだろう。予想が当たっているなら、同様に不安要素も的中だ。

 

 感じ取ってしばらくして、ようやく校舎の角から姿を現したその様子は、想像のド真ん中。ぷるぷる震える脚がゴールの安堵で仰向けにひっくり返ってしまうほどの、文句のつけようがない疲労困憊っぷりだった。

 

 目視で確かめるために三十分ぶりに顔を上げた私の視界で、湯気までが漂うほど全身を汗でずぶぬれにした彼が、掠れた呼吸で忙しなく胸を上下させていた。

 

「ひぃ、ひぃ……やっと、終わった……脚が、肺が、身体が、死ぬぅ……」

 

 『水見式』に熱中していた三人もが、その哀れな様子に憐れみの眼を向ける。似たようなマラソンもといイジメを課せられた経験を持つゼノヴィアは、当時の自分と重ね合わせてしまったのか、苦しげに顔を歪めていた。

 

 赤龍帝の場合は時間まで走ることだけを定め、それ以外をあまあまのリアス・グレモリーに投げたためにゼノヴィアほどの難行程ではなかっただろうが、この疲れようだ。せめて彼の頑張りだけは評価してやるべく、私はゲーム機と外したイヤホンを腿の上に落とすと、続いて自転車を押して現れたリアス・グレモリーに、先んじて尋ねた。

 

「で、どこまで走ってきたの?」

 

 いつものように肩を微かに震えさせたリアス・グレモリーは、ちらりとピトーを伺ってから答えた。

 

「え、ええっと……二駅向こうの町まで行ってきたわ。あちこち走って、だから往復で三十キロくらいかしら。放課後なのに、結構頑張ったと思わない?」

 

「……三十?」

 

 一瞬、数字の理解が滞る。三十キロを三時間、つまり時速十キロ。たったそれだけで、息も絶え絶えなあの現状。

 

 アマチュアのマラソン選手でももっといい結果が出せるだろう。人間よりはるかに頑強な悪魔の肉体を以てしてこの程度とは、正直さすがに想像していなかった。

 

「走れって言ったはずだけど、競歩でもしてたの?いや、だとしても論外だわ。弱いとは思ってたけど、身体能力もどんだけよあんた」

 

「ば、馬鹿を言わないで!言ったでしょう?イッセーは数ヵ月前までただの一般人だったのよ。鍛え始めたのはここ最近だし、一生懸命走って完走したのだから、それだけで十分すごいわ。私のコレと、ちゃんと並走できていたもの」

 

 己の下僕の雄姿に精一杯胸を張ると、リアス・グレモリーは自転車のハンドルをポンと叩いた。前かごの中で、カラの水筒と湿ったタオルが揺れる。

 

 ふうん、と私は鼻を鳴らし、心の中で盛大に嘆息した。

 

 手厚く補助されて三時間で三十キロしか走れないなんて、やっぱり評価なんてする必要はなかったらしい。あまりにも身体のスペックが低すぎだ。

 

 彼に『念』は教えられない。

 

(さてさて、どうやって諦めさせようかしら)

 

 『念』関係はピトーの領分だが、リアス・グレモリーとのやり取りは私の役目。なにせお互いまともに会話ができないのだ。ピトーは憎悪で、リアス・グレモリーは恐怖で。

 

 そのために、この問題には私が頭を回さねばならない。凝った首を鳴らすと、私は、相変わらず仰向けの赤龍帝を見やった。

 

 彼は、そのあまりの衰弱ぶりに同情したハンゾーから、何やら丸薬のようなものを口に放り込まれている。何なのかとか細い声で尋ねる赤龍帝に、兵糧丸だとサムズアップするハンゾー。二人は初対面のはずだが、もう意気投合したようだ。

 気質が似ているのか、それとも女だらけのこの場で数少ない同姓だからなのか。ごくスムーズに友人にまで昇華された交流に、もういっそハンゾーに『念』の何たるかを教えさせるべきかと、思いついた時だった。

 

「ところで……色々聞きたいことがあるのだけど、いいかしら」

 

 リアス・グレモリーの問い。赤龍帝から戻すと、彼女は顔を困惑にしてハンゾーに注意だけ向けていた。

 

 どうやらハンゾーの人のいい笑みでも、リアス・グレモリーは器を大きくできなかったようだった。どうぞと応じると、疑心たっぷりに首を捻った。

 

「イッセーを介抱してくれている、あのスキンヘッドの方は、どちら様?」

 

 そういえば、赤龍帝だけでなくリアス・グレモリーにも、ハンゾーを紹介していなかった。

 

 思い出して答えようとした。が、その間もなく張り上げられる喜びの声色。いよいよ『水見式』だけでなく『練』をも放りだしたハンゾーが、満面の笑みでリアス・グレモリーの前に飛び出した。

 

「そう!そうなんだよ!スキンヘッドなんだよコレ!剃ってるんだよ!いやあ、ようやくまともに認識されて、ちょっと感激しちまった!あんたいい人……いや、人じゃなくて悪魔なんだよな?一誠のやつのご主人様なんだとか」

 

「え、ええ、そうよ。貴方はイッセーのお友達……になったのは今なのよね?ええと……とにかくまず、お名前を教えてくださる?」

 

「ああこりゃあ、名乗らずに失敬を」

 

 無暗に高いテンションに引きながら、それをなんとか押し留めて微笑み尋ねるリアス・グレモリー。それに幾らか興奮を静められたハンゾーは、軽く会釈をして懐をまさぐった。

 

 取り出した長方形の紙片、私とピトーの肌着の裏に縫い付けられている、『ウタ』と『フェル』の証によく似たサイズのそれを差し出して、言った。

 

「オレ……いや私めは、こういう者です」

 

「は、はあ……これはご丁寧に、どうも……ッ!」

 

 サラリーマンみたいに名刺を手渡されたリアス・グレモリーは訝しげにそれに眼を落とし、次いでそれまでの警戒がまるごと嘘だったかのような明るい驚愕に、その豊かな胸を弾ませた。

 

「雲隠流の……ニンジャ!?あ、貴方本物のニンジャなの!?」

 

 瞬間それに呼応して、ハンゾーの眼も嬉々と輝く。

 

「おうとも!幼くして里のあらゆる忍法を習得し、数多くの過酷な修行を乗り越えた神童、数少ない上忍の一人である最強の忍――になる予定の――『半蔵』とは、他でもないオレ様のことさ!」

 

「感激だわ!まさかこんなところで本物のニンジャに会えるなんて!……さ、サインとか、貰ってもいいかしら?」

 

 子供のような笑顔、という表現に合致するだろうか。リアス・グレモリーは混じりっ気のない純粋な喜びで声を上げ、祈るみたいに手を組み合わせた。

 

 間違っても神への感謝を示しているわけではなかろうが、つまりそれほどの感動。名刺まで用意したハンゾーが、実に嬉しそうにサインペンのキャップを抜いたのも、リアス・グレモリーの感動に、目立ちたがりの欲求を満たすことができたためだ。

 

 となれば私は、もう両者に呆れしか感じない。二人の『忍者』と『スキンヘッド』への喜びようは、ちょっと引くほど大げさだった。

 

「あ、の……リアス部長、は……日本の文化が、お好きなので……」

 

 横から聞こえるオドオドした注釈があったとしても、呆れかえった私の眼は二人を見つめたまま。

 渡した名刺の裏側にすらすらペンを走らせるハンゾーを、ピトーに代わって『修行に戻れ』と一喝してやろうかと舌を咥えた。ついでに、サインを心待ちにそわそわしだしたリアス・グレモリーにも嫌味を一つと。

 

 しかし脳内から喉に檄の言葉が流れるよりも早く、そのそわそわが解放された。

 

「……ね、ねえ、もしよかったらだけれど、ハンゾー、貴方、私の眷属にならない?」

 

 落ち着きがなかったのは、つまり『欲しかった』からであるらしい。達筆なサインの途中で顔を上げたハンゾーに、リアス・グレモリーは息せき切って続ける。

 

「つい最近ゼノヴィアが二人目の『騎士(ナイト)』になって、あと残り一つ、『戦車(ルーク)』の駒が余っているの!相性で言えば、忍者のあなたには『騎士(ナイト)』や『兵士(ポーン)』のほうが向いているかもしれないけれど、『騎士(ナイト)』はもちろん、『兵士(ポーン)』もイッセーの分で使い果たしているから……ああ、ええっと、この駒っていうのは――」

 

「ゼノヴィアに聞いた。悪魔の駒(イーヴィル・ピース)ってので悪魔に生まれ変わるんだろ?んで、その代わりにあんたに仕えなきゃならないんだとか」

 

「そうよ!悪魔の身体なら何万年も生きられるし、お金も地位も思いのまま!試験を受けて上級悪魔に昇格すれば、自分の眷属を集めてハーレムだって作れるの!」

 

 そんな明るいばかりのプレゼンは、覚悟していたとはいえ、私に若干の吐き気をもたらした。甘っちょろいリアス・グレモリーでも、こういう部分はやはり悪魔なのだ。嘘は言わないが、本当のことも言わない。

 

 不老に権力におまけに女、これが欲しくない男などそうはいない。悪魔の眷属になるだけでこれらが手に入ると言われれば、多くは甘言に釣られ、ゼノヴィアのように『眷属』の意味を知らずに手を取るだろう。

 

 しかし、『眷属』とは言い換えて『下僕』、主たる上級悪魔、特に生粋の貴族悪魔たちの言葉では、『奴隷』という。

 いわば物だ。自らの所有物だから何をしようが、それこそ殺してしまおうが罪ではない。主が悪でも反抗すればそれが逆転し、容易く『はぐれ』の烙印を押され殺される。例え上級悪魔になったとしても、そこを牛耳る生まれながらの上級悪魔、元の主の呪縛は続くのだ。

 

 デメリットを抜かしてメリットだけを主張すれば、それはもちろんお得な話に聞こえるだろう。が、実態はこう。一方的に搾取されるのみだ。私はそれを、少なくともここにいる誰よりもよく知っている。

 

 だから当然、私がリアス・グレモリーの妄言に抱いたのは強い拒否感と嫌悪のみだった。ゼノヴィアはもう手遅れだが、悪魔への転生など、知り合いという理由を抜きにしてもしてほしくはない。

 

 けれどハンゾーとリアス・グレモリーの間に、私が介入することはなかった。なるがままに任せたのは、既にハンゾーの眼が、ハンターのそれであったからだった。

 

「だから……どうかしら?悪い話ではないでしょう?」

 

 と、この勧誘が成功すると、半ば信じ切って気付かないリアス・グレモリーを、表情を引き締めたハンゾーが短く断ち切った。

 

「いや、遠慮しとく」

 

 躊躇も迷いも一切ない拒否。リアス・グレモリーは驚愕で一瞬固まった後、サインを済ませて返却された名刺を呆然と受け取りながら瞬きした。

 

「ええと……待遇に不満があるなら、幾らか譲歩もできるわよ?……私にできる範囲でだけど、なんでも一つあなたの願いを叶える、なんてどう?」

 

「オレは、自分の願いは自分で叶える。だからやっぱりその話、断らせてもらおう。誰かの下に縛られるってのは、どうにも性に合わないんでな。そのためにハンターにまでなったんだ」

 

「あ、あなたもハンターだったの!?」

 

「ああそうだ。つってもまだひよっこだけどな」

 

 頷くハンゾーに、リアス・グレモリーは眼を見張った。そうとわかってなおさら欲しがるものと思っていたが、しかし続いて眉尻を下げ、一転して諦めを見せる。ハンターを目指す者たちの、その気質を既に理解していたかのようだった。

 

 ハンターたちの規則、十ヶ条の、確か一番最初の項にもある通り、ハンターは何かを狩る者だ。

 狩人、つまり『挑む者』。ハンターライセンス自体が目的の連中――言ってしまえば私たちもその範疇だが――は別として、そういう奴らが、いわば誇りを捨てた飼い犬ハンターになることを良しとするはずがない。

 

 ましてハンゾーは、私とピトーの悪魔嫌いも承知している。

 

「それにオレ、フェルたちに『念』の修行つけてもらってるからよ、今悪魔になっちまったら何されるかわかったもんじゃねえ。中途半端なところで放り出されんのも、ゼノヴィアみたいに無暗に強く当たられんのも、オレはごめんだ。だから、悪いな」

 

「そ、そう……」

 

 頭を掻くハンゾーはそう言って、リアス・グレモリーが握る名刺をポケットにしまわせた。

 

 見届け、私は誰にも気付かれないくらい小さく息を吐いた。すると吐き出した呼気に沿って、ゼノヴィアのどんより曇った恨み節が耳に入る。

 

「やっぱり……傍から見ても、私は嫌われているんだな……。うう……ずるいぞ、ハンゾーばかり……」

 

「……それで恨まれて、オレはどうしろってんだ」

 

「知るものか!貴様は精々、人の身をありがたがっていればいい!寿命の分、私は必ずお前以上の高みに上ってみせるからな!」

 

「あー……そうだな、うん。楽しみにしとくわ」

 

 噴き出す強がりと負け惜しみに、この話題を地雷と認識したハンゾーが顔を背ける。受け流そうとする彼に対して、二人が口にした悪魔の不満にいたたまれず身を寄せるリアス・グレモリーは、しかし咳払いと共に威厳を奮い立たせ、私とハンゾーに続けて眼をやった。

 

 微かに残る未練と、そして後悔を振り払うように咳払いを一つして、凛然と引き締めた。

 

「ともかく、ハンゾー、貴方がここにいる理由も、人間のままでいたいこともわかったわ。ゼノヴィアや白音と一緒に修行をすることにも、文句は言わない。けれど今更だけれど、ここは学園で、つまり私有地なの。近々警備も厳しくしなければならないから、あらかじめ申請してくれないと……少し困るわ」

 

「あ、そういや確かに――」

 

 変わった話題にばつが悪そうに一般常識を思い出すハンゾー。しかし静観に限界を迎えた私は遮り、叩きつけられた苛立ちを発散するため口をはさむ。

 

「悪魔が私有地云々持ち出すなんて滑稽だわ。それに、今言ったでしょ?」

 

「へ、屁理屈を言わないで!確かにお兄様はここの理事の一人だけれど、きちんと人の法で運営されているの!」

 

「どうだか。記憶記録の修正は悪魔の得意分野じゃない。あんたたちが人間界で生活するその下にも、どれだけ不正があるのかしらん?」

 

「不正なんて……あなたたちだって、流星街の出身じゃない……」

 

 苦々しげにもぞもぞ動いた口が呟くように言って、そしてすぐ、言うべき言葉ではなかったとでもいうように固く引き結ばれる。にやと上がった私の口角は、一瞬何のことかわからず呆けたが、一瞬後にフェルとウタが流星街出身であったことを思い出した。確かにまあ、大っぴらにするべきことではないだろう。

 

 正直なんと言われようがどうだってよかったが、ハンゾーはそれを気にして聞かなかったことにすると決めたらしく、あからさまに明るい声を捻り出した。

 

「んまあ、じゃあアレだ、普通の学校は勝手がわからんが、教師の誰かに言えばいいのか?今から行ってくるから、それで勘弁してくれよ。……だからちょっと外してもいいか?人の法ってんなら、ハンターの特権だって機能するだろうし」

 

「特権……そう、立ち入り禁止区域にも合法的に入ることができる、なんていうのもあったわね。けれど今日の所は行使しなくても結構よ。というか、注意をしただけだから、次から気を付けてもらえれば構わないわ。もうすぐ日も暮れて、私たちの時間になるのだもの。修行だってここからが本番だわ。――という認識なのだけれど……」

 

 駆け出す寸前のハンゾーを制して、リアス・グレモリーの言葉は私に向き直った。それが伝わると、今度はゼノヴィアたちの方を眼で示し、表情を硬くする。

 

「あのグラスと木の葉の道具は、ゼノヴィアとハンゾーも使っているのだから、『念』の修行に関わる何かなのよね……?白音には、仙術の指導をお願いしたはずなのだけれど……」

 

 ほらやっぱりこの認識。と、私は横目でピトーを睨みつけた。適当に仙術の技の一つか二つ、教えるだけでよかったのだ。

 

 だがもちろん、私の不満に気付いてもピトーは何も言わず、リアス・グレモリーとの会話を私に丸投げして余所を向く。胡坐をかいた己の膝に頬杖をつく、自堕落な横顔へため息を吐いてから、私は諸々の不平不満を我慢して、せめてもの抵抗にぶっきらぼうに応じてやった。

 

「仙術以前に『念』の習得が必要だからよ。……いい?仙術っていうのは、殺傷力はあっても戦闘力はそれほどのものじゃない。誰かの後ろで術だけ使うならいいけど、『戦車(ルーク)』は前に立って殴り合うんでしょ?格闘戦をさせたいなら仙術以外、要は『念』を、せめて基礎だけでもしっかり覚えてもらわなきゃ意味ないの。実際、私の知る仙術使いは皆、同時に念能力者よ」

 

「……本当に?」

 

「しつこい!そんなに心配しなくても、仕事はちゃんとするわよ!強くしてあげるって言ってるんだから、黙って従ってればいいの」

 

 疑心まで合わさると本当にめんどくさい。疑いが残るリアス・グレモリーを両断した。

 

 それでも尚、ピトーが無関心なのをいいことに追及で口を開こうとするリアス・グレモリー。毅然とした立ち姿に、ピトーみたいに私にも怖がれ、と内心で悪態を付き、背後の木の幹を頭で小突く。軽い八つ当たりで消化できなかった分は、赤龍帝の体力測定という役目が終わったのだからもうご退場願おう、という台詞に改め、そして口に出そうとした。

 

 だが思考がそっちに振れるまでの数瞬の内、リアス・グレモリーが面倒を続けるよりも早くと急いだその言葉は、第三者によって喉の奥に消えた。

 

「大丈夫っすよ、部長。白音ちゃんも言ってたじゃないですか。ウタ、あんたのあの黒い玉も、『念』と仙術の合わせ技なんだろ?」

 

 赤龍帝が、上体を起こして私に挑むような眼を向けていた。

 

 もしかせずともハンゾーの兵糧丸が効いたのだろう。それでもまだ息は荒いが、身動き一つとれない疲労から、微かに笑みを浮かべるまでに回復している。

 私の能力の内を見た気でいる彼は目に垂れてきた汗を拭い、ますます視線を一直線にして言った。

 

「そりゃあ初対面の時はムカついたけど……ってか今も、部長への態度は気に食わねえけど……けどドライグにミルたんに……ヴァーリの奴も、みんなあんたたちの腕を認めてた。強くなるには、強いやつから教わるのが一番だろ?だから俺は、あんたたちが俺たちのことをどう思っていようと、この夏の最後までついてってやるって決めた!……コカビエルにも楽勝で勝てるくらい、強くならなきゃだめなんだ」

 

「……コカビエルか。イッセー、お前、少し前に白龍皇に再会してからずっとその調子だな」

 

 バケツに零れた『水見式』の水を拭きながら、ゼノヴィアが苦笑気味に顔を上げた。

 

「両親を殺すと言った、あのブラックジョークは確かに怒って当然のものだが、拘り過ぎれば足を踏み外すぞ?」

 

「別にヴァーリが憎くて言ってるわけじゃねえよ。いつかは戦わなきゃならないんだろうけど、それより……もしあいつくらい強くて、あいつが言った冗談を本心から言える奴が現れたらって、想像しちまってさ……いてもたってもいられないんだ」

 

 だから、と、赤龍帝は私たち、特にピトーに長く注視し、噛みしめた歯をゼノヴィアが手をかざすグラスに向けて開いた。

 

「早く俺にも『念』を教えてくれ。まず……『ショウコウ』?ってのを開けるんだろ?」

 

 その要求に対する返答は、数分前から決まっている。

 

「ダメよ」

 

 間を開けずに私が答えた。

 

 叩き切られた流れに、赤龍帝のみならずピトー以外の全員が唖然と動きを止める。やがて当事者は、自信が予想した了承とは違う言葉を呑み込み、認識して数秒後、ようやく驚愕にずいっと身を乗り出した。

 

「な、なんでだよ!?あんたたちの言った通りに、マラソンだって死にそうになりながらこなしたんだぞ!そしたら教えてくれるんじゃなかったのか!?」

 

「そんなこと一言も言ってないし。それに『死にそうになりながら』って、高々三十キロでへばっちゃうことに、まず危機感抱きなさいよ。ゼノヴィアとハンゾーだったら、倍の距離でも軽く走れるわ」

 

 鼻で笑い、同意を求めて二人に眼をやると微妙な表情が返ってくる。さすがに『軽く』は盛り過ぎたかと反省しつつ、爪の甘皮をいじって手を組んだ。

 

「……要は、基礎能力が低すぎるのよ、赤龍帝ちん。『念』だの強くなるだの以前に、戦うための身体ができてない。今のままじゃ、『念』を覚えたとしても宝の持ち腐れだわ」

 

「低すぎ……って、そんなことねえだろ!?あんたたちは知らねえだろうけど、ちょっと前に俺、ライザーの奴も倒したんだぜ?」

 

「知ってるわよ、左腕を食わせて無理矢理禁手化(バランス・ブレイク)したんでしょ?けどそれはあんたのじゃなくて神器(セイクリッド・ギア)の、中にいるドラゴンの力。『念』でそれを強化するつもりなのかもしれないけど、そんなの手順違いにもほどがあるわ。鍛えられるところは他にいくらでもあるのに」

 

 自身の能力を一定時間ごとに倍加させる彼の『赤龍帝の小手(ブーステッド・ギア)』。『念』も倍加できるのだから、確かにその分強くはなれる。

 

 だがそれは基礎能力を高めても同じことだ。例えば走れる距離を三十キロから四十キロに伸ばすだけでも、倍化を加味してすさまじいパワーアップになるだろう。筋力も体力も瞬発力も、碌に鍛えていない彼にはまだまだ伸びしろがあり、それらをもしゼノヴィアやハンゾーに近いレベルに押し上げることができたなら、今の数十倍は強くなれるに違いない。

 

 そして同じ効果を『念』で望もうとすれば何百年かかるかわからないという、つまりそういう理由だった。

 

「当分は『念』よりも身体作り。あんたが、『()を覚えたい(・・・・・)んじゃなくて強くなりたい(・・・・・・)っていうんなら、こっちのほうが近道よ。それでも『念』がいいのなら、別に止めないけど」

 

「ぐ……ほんとに、身体鍛えたほうが強くなれるんだな……?」

 

「赤龍帝ちんがどれだけ強くなろうが私たちには関係ないし、嘘つく必要なんてないのよ。お仕事、ビジネスなんだから。……わかったらまあ適当に、腕立て伏せなら……三百回くらいかしら。脚を休ませるついでにやってみて」

 

 私はため息を吐くように言って、喉元に何かをわだかまらせたリアス・グレモリーを見やった。

 

 契約内容と大分外れるが、しかしそれよりもずっと効率よく強くなれる方法だ。お仕事と言いながら、筋トレなんていう私たちが苦労する必要もない手段を提示したために、リアス・グレモリーも思うところがあるのだろう。

 が、実際一番効率的なのだから、渋面もそのうち納得に落ち着くはずだ。言いたげに見返してくるリアス・グレモリーの無駄な時間を払い除け、説明責任を果たした私は、ゲームの続きに没頭すべくイヤホンを手に取った。もうすっかり違和感がなくなった人間の耳にそれを突っ込む。

 

 スリープ状態を解除しつつ、もう片方のイヤホンも装着しようとした。が、斜陽に満たされた音が閉ざされる前に、乾いた笑いが鼓膜から私の人心地を平手打ちした。

 

「……マジかよ、こっからまた筋トレとか……。へへ……じゃあ虚弱同士、ギャスパーも『念』じゃなくて筋トレからだな、たぶん」

 

 まるでもう一人、ギャスパーなる悪魔まで面倒を見なければならないと、既に決まっているかのような発言だった。

 

 実際のところ、そんなわけはない。リアス・グレモリーと交わした契約は三人分のみだ。故に、例え彼らの中での決定事項だろうと、契約にない以上私たちに従う理由も義務もない。

 

「……あれ、ギャスパー?……あいつどこ行ったんだ?」

 

 と首を捻った赤龍帝然り、それらはたぶん、さして考えずに出た台詞だったのだろう。どうせ辛い修行をするのならその『ギャスパー』も道連れに、という、軽口か揶揄か願望か。しかしそんな、何でもない言葉であると思い至るよりも早く、私の内心にはコカビエルと戦った後にやらかした気まずさが蘇っていた。

 

 要は、また私は何か下手を打ってしまったんじゃないか、という恐れ。自分が先のことをあまり考えられない性質であるという自覚がある分、その危惧は内心でたちまち育ち、考え過ぎであるという冷静な思考を打ち消した。

 だから姿が見えないギャスパーを探す赤龍帝の様子も眼に入らず、私は思わずそこへ、校舎傍の植え込みに隠れる気配(・・・・・・・・・・・・・・)へ視線を向けてしまう。赤龍帝から突然あらぬ場所へ視線をやった私は傍から見ればただ奇妙で、それ故に集めてしまった注目はすぐギャスパーと結びつき、理解された。そこに隠れているのかと目を眇めて覗き込んだ赤龍帝は、やはりすぐに目視できたらしく、半ば這いずるようにして灌木の中に頭を突っ込む。

 

 自分の失態でピトーに失望されるかもしれないと怯えながら、私はその、茂みから突き出た赤龍帝のお尻を見守っていた。

 

「ギャスパー?初耳だが……なあゼノヴィア、この前聞いた名前以外にも悪魔の仲間がいたのか?」

 

「うん……?ああ、そうだ。つい最近封印が解かれてな、ハーフのヴァンパイアで、しかも引きこもりらしい。極めつけに女装趣味の男だ」

 

「そりゃあ何とも……個性的な仲間だな」

 

 片耳にイヤホンを垂らしたまま、ハンゾーとゼノヴィアの何でもない会話を聞いて、せめて落ち着こうと深呼吸する。『念』も仙術も何もかも、冷静沈着が肝心要。

 

「――ひっ!い、嫌ぁ!お外怖いぃ!知らない人がいっぱいいるところになんてもう行きたくないですぅ!」

 

 と、念じた理性がパニックに打ち勝ったのかはわからないが、ギャスパーらしき声、まるっきり女の子な高音が意味するところは、私にも認識できた。おまけに赤龍帝に引っ張り出された彼女……もとい彼のその背格好。

 ハンゾーの言う通り、いやそれ以上に、少なくとも一瞬、あちこちに泳ぎまくる己の両目が縫い留められるくらいにはちぐはぐで、個性的(・・・)だった。

 

「……マジでか。あれで男とか、もはや詐欺だろ……」

 

「……気持ちはわかる。私も未だに、あれが男だなどと信じられない。貧弱が過ぎる」

 

 来ている服、制服はは女性ものだし、顔も身体も線が細いし、もはや感じる『気』だって女っぽい。「もうここは外だ、男なら覚悟を決めろ」と、何も間違ってはいないはずなのに違和感がはなはだしい檄を飛ばしながら、なんとかその彼を引っ張り出そうと歯を食いしばる赤龍帝と、それを拒否して灌木の細い幹に抱き着き目に涙を浮かべるという抵抗は、拍車をかけて事態に混沌を生んでいた。

 

 暴行を働く男と、なすすべなく震えるか弱い女。そんなイメージが流れ込んできて、事実との矛盾に余裕のない私は困惑するしかない。呆然と眺めていると、平常のハンゾーは世の不可思議を呑み下し、まともな疑問を取り戻した。

 

「てか、ほんとにあんなとこに隠れてたんだな。勘は鋭い方だと思ってたんだが、全く気付かなかったぜ。吸血鬼ってのは気配消しの技かなんか使えるのか?」

 

「いや、そんな話は聞かないな。神器(セイクリッド・ギア)は持っているが、そういう効果でもない。引きこもり生活のせいで存在感が薄くなっているとか……そうだ、あれじゃないか?『四大行』の『絶』。知らずに自然と身に付けてしまう者もいると……そんな話があっただろう?」

 

 私とピトー以外、誰もギャスパーの所在を知れなかったその理由。直感で導き出したそれはほとんど正解だ。だがそれどころでない私はもちろん、さっきからずっと本に眼を落したままのピトーも、ゼノヴィアを褒め称えることはない。

 

 代わりに、赤龍帝が反応した。

 

「ゼノヴィア、それ本当か?ってことは……すげーぞギャスパー!お前『念』が使えるんだな!神器(セイクリッド・ギア)的にも身体鍛える必要はあんまりねえし、まさかお前もゼノヴィアたちの修行組に行っちまうのか!?先を越されるのはちょっともやもやするけど……頑張れよ!」

 

「い、いやね、赤龍帝ちん、そもそもその吸血鬼は契約に入ってなくて――」

 

 そう言いつつ、主にピトーに向けての釈明。焦りが押し出した反射の言葉はしかし、半ばでギャスパーの声に覆いかぶさられる。

 

「嫌です嫌です嫌ですぅう!これ以上こんな場所にいたら、僕干からびて灰になっちゃいますよぉ!だいたい、ちょっと外を走るっていうだけの話だったから頑張って出てきたのに、どうしてこんなことになってるんですか!……まだこんなことが続くなら、いっそのこともう一度僕を封印してくださいリアスお姉様ぁ!」

 

 とうとう本格的に泣き叫び始めた。どうやら強引な引きこもり脱却プログラムを敢行してしまったらしいリアス・グレモリーは一つため息を吐き、眉を下げて優しげな表情を作る。赤龍帝と彼が取っ組み合う植え込みの傍にしゃがみこみ、やめさせると、涙が伝う薄い頬を撫でた。

 

「封印だなんて、そんなことを言わないで、ギャスパー。それにマラソンも、ほとんど私の自転車に乗っていたでしょう?……それでも、外に出ること自体が辛かったのはわかるわ。でもね、どこかで頑張らないとずっと怖いままよ?封印が解けた今が、一番いいきっかけなの。だから、ね?一緒に頑張りましょう?」

 

「そうだぜギャスパー!部長がこう言ってるんだからさ、俺たちグレモリー眷属の男同士、一緒に助け合っていこうぜ!それに鍛えて『念』を覚えれば、もしかしたらお前の神器(セイクリッド・ギア)も制御できるようになるかもしれないだろ?そしたら俺の野望が……でゅへへへ……」

 

「野望って何ですか!それに『鍛えて』って言ったって、神器(セイクリッド・ギア)は僕のいうことなんて聞かないんです!……僕はそんなこと望んでないのに、みんな勝手に止まっちゃう……みんな勝手に止めちゃう……!制御できるようになんてならなくていい……こんな、みんなに嫌われるだけの力……僕は欲しくなんてなかったのに……!」

 

 二人の必死の説得も、全く意味をなさなかった。それほどにギャスパーのコミュ障ぶりと、そしてどうやら宿しているらしい神器(セイクリッド・ギア)は闇の深いものであるようだ。

 

 そこでふと、私は吸血鬼の中で膨れていく『力』の気配に感付いた。

 

 叫んだ憤りのその激情に引っ張られ、みるみる強まっていく。たぶん神器(セイクリッド・ギア)が呼応しているのだろうが、しかし制御すらままならない下級悪魔の能力だ。恐れる理由はない。普通であれば、無意識下でそう切り捨てただろう。

 

 だが感じた『力』は、無視することが難しいほどの邪悪を含んでいた。今この場面でなかったら、例えばサンペーやコカビエルと戦っている時にこれを感じたなら、動揺なんてすることはなかっただろうが、それを感じたのが泣き虫でひ弱なお子様吸血鬼となれば話は変わる。釣り合わない『力』に、指導には不要と忘れていた警戒心をいきなり叩き起こされ、比較にならない衝撃を私は感じた。

 

 おかげで修行関係の頭のごちゃつきも吹き飛んだ。ピトーも同様、何かを感じ取ったのか弾かれるようにして顔を上げる。一緒にギャスパーのほう、膨れた『力』が集中する赤い双眸に意識を向けた。

 

 すると直後、気圧されるリアス・グレモリーと赤龍帝、私たちを含む皆を撒き込んで、

 

「――だからもう、僕のことなんて放っておいて……き、傷つくのは、もう嫌なんですッ!」

 

 周囲の、時が止まった。

 

 爆発するかのように『力』が放射され、それにリアス・グレモリーも赤龍帝も、ハンゾーやゼノヴィアたちも包み込まれている。そして彼らは直前の姿のまま、動かない。

 しかし周囲の草木は風を受け、いつも通りざわざわと揺れていた。しばしあっけにとられてからそのことに気付き、ぽかんと呆けた口を閉じる。どうやら時を止めるといっても、それはそこまで広範囲に及ぶものではないらしい。

 

 とはいえ、だ。

 

「……すごい能力だね、コレ」

 

 隣のピトーが宙に固定された本をつついて言う通り、恐ろしい力であることは間違いない。力量差からか私とピトーには効かなかったが、そうでなくても物まで動きを止めることができるのだから、いくらでも応用が利く。

 

 目を押さえてはあはあ喘ぐギャスパーの様子から『力』を暴走させたのであろうことも加えて、確かに封印されるのも納得な特大の爆弾だ。

 

「それだけに、何考えて封印解いちゃったのかしらね」

 

 外に出して、もし変な奴らに利用されたらどうするのだ。

 

 そんな尤もな疑問と呆れを呟くと、それはどうやら喘ぎ声を破り、ギャスパーに届いたようだった。

 

「な……なんで動けているんですかっ!?僕また、勝手に能力を発動させちゃったのに……!」

 

 覆いの外れた彼の眼が停止していない私たちを見つけ、そして驚愕を走らせた。悲鳴と一緒に放出すると今度は恐怖が勝ってきたらしく、慌てて茂みの中に引っ込む。

 もちろんそこの時間は停止していない。眼を起点にした力であることも鑑みて、効果の及ぶ範囲は視界内に留まるのだろう。という推察を、私はギャスパーの挙動を見張りながら考えた。

 

 怯えた被食者のように隠れて眼だけを覗かせる彼の、その内の力がまた震えて増大し始める。同じく震えて狭まった喉が、ひゅ、と音を鳴らして息を吸う。

 

「ご、ごごご、ごめんなさい……!巻き込んだの、わざとじゃないんですぅ……ぶたないでぇ……」

 

 いっそ笑えるくらいに私たちを恐れるその台詞に、ピトーと顔を見合わせ失笑した。

 

 その瞬間に、突然それは現れた。

 

「なんだ、フェルにウタ、相変わらず悪魔をいたぶるのが趣味なのか?彼は確か、お前たちの雇い主の眷属だろう」

 

 驚き視線を戻せば、ギャスパーの茂みの傍に佇む男。いつの間にか、曹操がそこにいた。

 

「――ッひやぁぁぁ!!まままままた知らない人ぉ!!もうやだ僕おうち帰るぅうう!!」

 

 傍の声に振り向きとび上がって駆け出すや否や、脚が縺れてすっころんだギャスパーは放っておいて、私は苦々しい思いで数ヵ月ぶりに見るその端正なドヤ顔を睨みつけた。

 

 不覚を噛みしめる。声が発せられるまで、接近にまるで気付かなかった。

 リアス・グレモリーたちの帰還にいち早く感付いたように、私は常態でもある程度の気配が読み取れる。それをすり抜けた曹操の『絶』がかなりのレベルにあることは確かだが、それでも以前会った時は気付けたのだ。

 

 私だって常に研鑽を積んでいるのに、努力を上回られた気がして実に悔しい。なぜこんなところにいるのだとか、そういう疑問を、誇らしげな顔面に一発ぶち込んでやりたい欲が押し流し、私は拳を握って立ち上がった。

 

「なんで曹操、あんた――」

 

 いや立ち上がろうとして、数センチ浮いただけで落ちた。腿の上のゲーム機も時間が止まり、動かなかったのだ。

 引っかけて根っこの上に押し戻された身体がそのことに気付くのに、ピトーに呆れの視線を浴びながら数秒を要した結果、私の行動の前に曹操は逃げ出した。小賢しくも優越感に浸りながらしゃがんだまま停止するリアス・グレモリーの前を横切ると、倒れ込んだギャスパーに手を差し出した。

 

 武人らしいその硬い手のひらを認識した途端再び零れる悲鳴の呼吸を遮って、曹操が微笑む。

 

「初めまして吸血鬼君、俺は曹操という者だ。名前を訊いてもいいかい?」

 

「え……あ、あの……はい……えっと、ギャスパー・ヴラディ、です……」

 

 パニック状態に構わず冷静を返された、そのギャップが故なのだろうか。人当たりのいい笑みに、ギャスパーは今までの様子からすれば驚くほど落ち着いてその手を取った。

 

 中身は中二病が入った皮肉屋だぞ、と暴露してやろうかとも思ったが、どんな反撃をされるかわかったものではないので、ようやくゲーム機の束縛から逃れた私は黙って木に背を預けた。

 

 結局反抗しなかった私に動揺したのか、笑顔のままぴくりと微かに眉を動かす曹操のその反応。オドオド見上げるギャスパーに、それを隠して代わりに思案の顔を見せた。

 

「……そうか、ギャスパー……。用事があるのはそこの二人だけだったが、どうやら君とも、少し話をするべきらしいな」

 

「へ……?あ……も、もしかして、曹操さんもリアスお姉様みたいに、ぼ、僕に酷いことするつもりじゃ……」

 

「いやいや、違うさ。聞こえてしまったが、君を鍛える話だろう?それはフェルとウタの仕事だ」

 

 いや違う、と内心で首を振る。一方強引にもたらされた落ち着きも剥がれ始め、起き上がったギャスパーは曹操の手を離し、胸の前で握った。身を引いたその怯えに首を振ると、私たちの方を向いて肩をすくめた。

 

「頼まれてもいないのに勝手に手を出してしまえば、それこそ俺が怒られてしまうよ。割り込みはどの世界でも嫌われる」

 

「ボクは別にいいよ、割り込んでも、この仕事なら。むしろキミのほうが適任じゃない?」

 

 そもそも鍛える気は無いが、ピトーが鼻で笑う。そういえば曹操は、私や彼女に度々自分が知る武術教えたがっていた。何のつもりかしつこいので、なし崩し的にコカビエル相手に使えるくらい、いくつか覚えてしまっている。

 そのことを揶揄されたと理解して、曹操のドヤ顔が逸れた。

 

「……空気を読んでくれ、フェル。それにそうだとしても生憎、俺はしばらく忙しいんだ」

 

「ふぅん……働き者だにゃ。でっかいヤマ、片付けたばっかなんでしょ?」

 

「おいおい、耳が早いな。誰から聞いた。会長か?」

 

「誰からも。キミの旅行先から、なんとなく予想しただけにゃ。その反応を見る限り、当たってたみたいだね」

 

 私には何のことやらだが、ピトーは曹操をやり込めているようだった。

 ムッと口を閉ざした奴は、せめてもの抵抗にキザっぽく唇を尖らせた。一秒だけそのまま、ギャスパーの唖然も私の愉悦も受け入れて、改めて無視して微笑みかける。

 

 そして、芝居がかった憂いを浮かべながら、言った。

 

「ヴァレリー・ツェペシュから、ギャスパー、君の境遇は聞いてるよ」

 

 出したその名は、一瞬にしてギャスパーの眼に尋常ならざる激しさをもたらした。

 恐怖に困惑、人間不信の気がたちまちのうちに消え去り、曹操に詰め寄る。数舜前とは異なる唖然で凝視して、つっかかりながら震える唇を動かした。

 

「ヴァ……ヴァレリーを、な、なんで曹操さんが知ってるんですか……!?あそこの人たちは、人間なんて家畜みたいにしか見ていないのに……」

 

「だから俺がツェペシュ派の姫君と会えるはずがない、ということか?まあ、悪魔の眷属をしていたのだから、知るはずもないか。……要は人間がどうのと言っていられない時だったんだ、俺が彼女に会ったのは。なにしろクーデターの真っ最中だったからね、混乱に紛れて忍び込むのはさして難しくなかった」

 

「く、クーデター……!?」

 

「ああ。ある意味、君と似たような事が起こった。ヴァレリー・ツェペシュは君と同じハーフヴァンパイアだろう?君が出奔した後、彼女にも神器(セイクリッド・ギア)、それも神滅具(ロンギヌス)クラスのものが目覚めてしまってね、つまりその力を巡った争いさ。酷いものだったよ、あちこちでヴァンパイア同士が殺し合っているんだから」

 

 『でっかいヤマ』とはそういうことかと、ほんのちょっとだけ感心する私の内心とは対照的に、ヴァレリーとやらがそれほど大切なのか、ギャスパーはどんどん情動を大きくする。少し前の気弱が嘘のような必死さだった。

 

「それで、ヴァレリーは!?ヴァレリーはどうなってしまったんですか!?」

 

「心配せずとも、助け出したさ。そのために潜入したんだから。ただヴァンパイアたちの認識では、死んでいるが」

 

 その必死さの熱に少し間を開けさせてから、苦笑してみせる。

 

「たとえ助け出してどこかに逃がしても、神滅具(ロンギヌス)を宿していると知れている以上、追手は掛かるだろう?だからまず、その原因を取り払う必要があったんだ。わかりやすいようにね、ヴァンパイアたちの目の前で、ヴァレリーが宿す神滅具(ロンギヌス)を抜き取ったのさ」

 

 そしてそう続けた。が、私はその、いかにも用意していたふうな台詞の中に一つ矛盾を発見してしまう。別にそれを明らかにしてやる必要なんてないのだが、指摘されしかめっ面をする曹操を思い浮かべると、それはひとりでに口に出た。

 

「あれ?そもそも神器(セイクリッド・ギア)って、抜き出しちゃったら死んじゃうんじゃなかったの?」

 

 魂が密接に関係しているからだとか、そんなことを他ならぬ曹操から聞いた覚えがある。知らなかったらしいギャスパーの安堵が逆転する瞬間、しかし曹操に望んだ表情は現れず、微笑んだまま、肩を怒らせ腰を上げたギャスパーをなだめた。

 

「それが当たり前だったのは昔の話さ、人の技の進歩だよ。吸血鬼を含めてほとんどの勢力が知らないが、今は安全に摘出する方法もあるんだ。……それと、悪いけどこれはリアス・グレモリー嬢にも内緒にしてもらっていいかな。結構デリケートな秘密だから」

 

「暴露する方が悪いにゃ」

 

「聞いといてなんだけど、同感」

 

「だから空気を読んでくれと言ってるだろ。……はあ、お前たちの性根の悪さに郷愁なんて感じたくなかったよ」

 

 私とピトーとで浴びせてやった憐れみが、曹操の眉間にしわを寄せた。しかし喜ぶのもつかの間、神妙に彼を見つめるギャスパーが真剣を引き戻し、曹操がそれに便乗してまたしても逃げ出した。

 

 再び、演技の善意を台詞に乗せる。

 

「そういうわけで、安全に抜き取った神滅具(ロンギヌス)を見せつけてから、ついでに城ごとまとめて吹き飛ばした……ように見せかけた。晴れてヴァレリーは死亡、神滅具(ロンギヌス)も瓦礫の下ってわけだ。ヴァンパイアの連中は今も発掘作業に勤しんでるよ。

 ……要約するとまあ、こういうことがあったんだ。ギャスパー、君のことを聞いたのもその時だ。ヴァレリーは、自分よりも神器(セイクリッド・ギア)に苦しめられてきたギャスパーが、今も辛い思いをしていないか心配だと……逃げ出してからもしばらく一緒にいたんだが、ずっと心配していたよ」

 

「……今、彼女は、どうしていますか……?」

 

「どうだろうね。君を探すと言っていたが、再会できていないのなら、そういうことなんだろう。まあ、いずれ会えるだろうさ。……それに俺は、君の懐旧を煽りたかったわけでも、知らなかったことを責め立てたいわけでもないよ」

 

 口当たりのいい言葉をそう奏で、腰をかがめた曹操はごく自然にギャスパーの頭を撫でた。

 

 俯き歯を噛んだギャスパーの、今にも決壊しそうだった涙が支えられ、持ち上がる。容易く掌握され凪いだ心が曹操と視線を繋げ、じわりと染み入っていくのが傍目にもわかる。

 

「俺も……いや、運がいいことに君たちほどの不幸には見舞われなかったが、神器(セイクリッド・ギア)を生まれ持ったせいで色々あってね。だからというわけではないが、力になりたい。力が怖いのなら、捨てることもできるんだ、心を殺してまで立ち向かう必要はないよ。ヴァレリーのような選択もあると……今は、覚えていてくれさえいればいい。すぐに決められることでもないだろう」

 

 どれもこれも、実に作為的な話だ。都合がいいばかりで、曹操の内心は全く見えない。それでも救われたような眼をしているあたり、ギャスパーに疑いはないようだった。

 

 最初に出会ってからもう五年、すっかり幼さも消えて磨きがかかった好青年の笑みは、初対面だろうが大概の相手に信用されてしまう。カリスマ性というかなんというか、その、人に慕われる才能は、正直私も侮りがたしと思っているが、久々に現場を眼にしてしまうと違和感が拭えない。

 いっそ念能力で操作でもしているかのようだ。もちろん仙術使いの私にはそうでないことなど一目瞭然なのだが、奴の『発』が不明である事も合わさって、何か仕掛けがあるのではないかと思えてならなかった。

 

 しかしどうやら今回もその仕掛けを見破ることはできず、ギャスパーの中の人物像を、突如現れた外敵からよき理解者へと、あっという間に押し上げてしまった曹操は、気持ち悪くもずっと撫でさすっていたギャスパーから手をどかし、覗き込んで重く頷いた。

 

「さてそれじゃあ、そろそろリアス殿と他の皆を起こさなくてはな。挨拶もまだだ」

 

「あ、は、はい!……でも、その……僕、能力の解除もへたくそで、いつも何回も失敗しちゃうから……ちょ、ちょっと待ってください!」

 

 曹操が微笑む。慌てて居住まいを直し、ギャスパーは目に力を込めた。

 リアス・グレモリーたちの方へ眉を寄せ、真剣にぐぬぬと唸る。が、動いているのは表情筋ばかりで、感じる『力』に変化はない。眼に関連する能力とはいえ、ただ必死に睨みつけているだけでは、それはもちろん制御なんてできるはずがないだろう。

 そのことに気付いてもいない。何回も失敗するはずだと、私は宙で止まったままのゲーム機への注意を後回しに息を吐いた。宣言の通り、事の進展までしばらくかかるであろうことを予感して、ありきたりな感動ものの映画でも見るような眼をするピトーの傍に腰を下ろそうとした。

 

 だが場所を見つけ、木の根に座ったその瞬間、二つの気配が連続した。

 

(……曹操?)

 

 奴の『念』と、次いでギャスパーの神器(セイクリッド・ギア)が発動し、周囲に広がる。驚いて顔を上げれば、ちょうど止まっていた面々が動き出していた。

 

 同時、半ば反射的に伸ばした足で落下してきたゲーム機を受け止めながら視線を投げると、片目をつぶった得意げで、人差し指を唇に当てる曹操と眼が合った。停止が解けた仲間たちに呆然と口を半開きにするギャスパーもつまり、そういうことなのだろう。

 ついさっきも抱いた操作の疑惑が遅れて解消され、私は鼻を鳴らして曹操の小憎たらしい顔から視線を外した。

 

 それが凡そ三秒。時間停止の能力が解除されてから経過したそれだけの間で、動き出した彼らはその違和感、ギャスパーの能力が暴発していたことに気付き、そしてすぐに直前までそこにいなかった人物、曹操を発見した。誰もが目を見開いて、しかし一番に、リアス・グレモリーの喜色の声が驚愕をまとめて押し流した。

 

「ッ!曹操!来ていたのね!いきなり現れるから驚いたわ!」

 

「俺はあなたが止まっていたことに驚きましたよ。お久しぶりです、リアス・グレモリー殿」

 

 京都由来の曹操へのあこがれはどうやら健在、むしろ双方の成長によって悪化しているようで、小走りに寄ってきたリアス・グレモリーのその声色は、さっき聞いたものより一段高い。媚びを売るほうも売られるほうも両方等しくムカつくが、あのイケメンは誰だと騒ぐ赤龍帝と同列になりたくはないので、やむなく腹の底に落として静めた。

 

 そうして一つ瞑目してから目の前の騒ぎに意識を戻すと、主人が見ず知らずの男に謙遜していることが気に入らないのか、赤龍帝はさらに何やら曹操を指さし、敵対心も露に歯を剥いていた。下僕が抱く嫉妬に気分も悪くなかったリアス・グレモリーだったが、どうやらそれは気に食わなかったようで、怒った表情に変わる。

 叫んだ台詞が、私の鼓膜を揺らした。

 

「イッセー、失礼なことを言わないで!彼はライザーのような男性ではないし……そ、それに、れっきとした客人よ。とても高名なハンターなの。だから……フェルとウタの様子を見に来たわけではないのよね?……やっぱり、あの件かしら?」

 

「ええ、挨拶はしておくべきだとね。ネテロ会長共々、しばらく町に滞在させていただくわけですから」

 

「……ちょっと待って、ネテロのジジイも来てるの?」

 

 黙っているつもりだったが、その名前には反応せざるを得ない。同じく反応した幾人かは放っておいて、性格の悪いあの師匠との修行を思い出す。

 

「まさかまた組み手させられるんじゃないでしょうね。だとしたらミルたんか……『十二支(じゅうにし)ん』だっけ、そいつらに相手してもらえって言っといてよ。仙術使いだからってことあるごとに遊びに付き合わされるの、もうごめんだわ」

 

「いや、違う違う。もしそうなら俺が護衛に就くはずがないだろう。もっと真面目な理由があるのさ」

 

「真面目な理由って?」

 

 本を閉じてピトーが訊くと、曹操は肩をすくめて言った。

 

「近々この学園で、悪魔、天使、堕天使の三大勢力による会談がある。それに呼ばれたのさ。コカビエルの件で話し合いをするんだそうだ」

 

「……ふぅん、会談ねぇ」

 

 呟き、リアス・グレモリーを見やったピトーに、奴はいつもの如き反応を見せ怖々頷く。

 

 確かに、実際がどうであれあの出来事。悪魔のテリトリーに堕天使が侵入し、危うく魔王の妹を殺しかけた事実に変わりはない。追及なり言い訳なりをする場を設けるのは当然だろう。天使はその仲介役か何かか、『三大勢力』なのだから、関わらないわけにいかなかったに違いない。

 

 となればやはり、それは疑問だった。

 

「その会談とやらに、なんであの性悪ジジイが呼ばれたのよ。関係ないじゃない」

 

 例え三大勢力で何が起きようが、神話勢力なんて他にいくらでもいる。先細りの神話形態が滅びたとしても、彼らがどうとでもするだろう。わざわざハンター協会が出張ることではないはずだ。

 

 それとも人間界で戦争を起こすなと、釘でも刺しに来たのだろうか。想像し難いその理由を思い浮かべたが、曹操はまたしても肩をすくめ、やれやれと首を振った。後で殴る。

 

「関係ないわけがないだろう?コカビエルを倒したのはお前たちだそうじゃないか。しかも仕事があったわけでもないのに、偶然その場に居合わせたんだとか。……まあ、依頼の日にちを前倒ししたっていうことは想像がつくが……ハンター協会として何か意図があったのかと、彼らは話を聞きたいんだよ」

 

「……やっぱり、ネテロが赴くだけの理由には思えないけどにゃあ」

 

「それだけじゃないってことなんだろう」

 

 じゃあやっぱり直接文句を言いに来たのか。と的外れに思い直す恥の上塗りは、幸運なことに寸前で自制された。それでもやっぱりあのよぼよぼジジイの心の内は読めないが、どのみち私たちには関係あるまい。裏で誰の思惑が蠢いていようと、最悪、ピトーと一緒に逃げればいいだけだ。

 だから私は、ゲーム機のイヤホンを耳に突っ込み、他人事に手を振った。

 

「そう。ま、お仕事頑張ってね曹操。変な事件にならないよう、祈っとくわ」

 

 だが応えは、三度目の呆れだった。

 

「何を言ってるんだ。お前たち二人とも重要参考人だぞ、当然会談にも出席だ」

 

「はあ!?だとしてもそんなもん出るわけないでしょ!私たちはこいつらを教えるためにここにいるんだから、関係ない要請なんてブッチするだけよ!」

 

 言ってやっても、腹の立つ仕草は崩れない。極めつけに、キザなウインク。普通であれば手が出るコースだがしかし、

 

「心配せずとも、学び舎で『変な事件』なんて起こらんさ」

 

 それらの重ね掛けに、何を思ったのかピトーは、苦々しげだが頷いてしまったのだ。

 彼女が行くといえば、もちろん私も追従する以外にない。私はがっくり肩を落とし、項垂れる。たちまち変化する気分を示すかのように、久々に見たゲームの画面では、私の配管工が没落して最下位になっていた。




色々な乖離。一誠の念習得を楽しみにしていた皆様へごめんなさい。感想ください。
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