主なきノラネコたちの家   作:もちごめさん

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四話

「消えた……じゃと!?」

 

 八坂が驚愕の声を漏らす。その背後に庇われる子供たちも皆そろって目を剥き、きょろきょろ辺りを見回した。

 

「さっきまでそこにいたのに……まさかまたエクスカリバーかよ!?」

 

「いや……【透明の聖剣(エクスカリバー・トランスペアレンシー)】は使い手を透明化できるけど、他のエクスカリバー共々、あの時に僕が粉々に砕いたはずだ。何より彼は剣を持っていないし、聖なる気配も全く感じられないよ。むしろ……」

 

「【念】だ!一瞬、奴は明らかに【気】を使っていた!だろうハンゾー!?」

 

「ああ、オレも感じた。野郎、あの姿になったことで念能力を会得しやがったってことか!」

 

 赤龍帝と聖魔剣と、ゼノヴィアにハンゾー。それぞれ警戒と共に己が手に武装を出現させ、唯一戦闘能力がない元聖女の金髪を囲んで守る。しかし四方を向いた彼らの眼、悪魔の感覚にもフリードの姿は見つけられない。その理由は恐らく、確信している様子のハンゾーの推察通りだろう。

 

 能力による透明化。彼らの未熟がフリードを見失わせたわけではなく、現にボクの視界からも、数舜前までその目前にあった姿は消え失せていた。

 となれば八坂も彼らも警戒するのは当然。曰く赤龍帝たちへ復讐しに来たフリードが、その姿を隠してすることなど一つしか考えられない。不意打ちを許し、もし仮に誰かが殺されれば、ボクとシロネとの関係にも支障が出るだろう。

 

 だからボクとて他人ごとではいられない。警戒し、備えて然るべき状況だ。

 

 だがボクは、拳を構えることすらできていなかった。

 

 頭は消えたフリードの姿を探そうともせず、両方の目玉は姿の消えた石畳の一点を映して固まったまま。そこにあった異形の姿のみを、焼き付けられた水晶体の裏側に見つめ続けている。

 

 陰として残るその身体を、何度も何度も仔細になぞった。カメレオン、カ、クモ、サソリ。そして人間。それらすべてが混ざり、繋がったあの姿。それがフリードを敵と認めず、思考を縛り付けていた。

 

「――ェル……フェル!!」

 

 ふと鼓膜を叩く大声に気付き、忘我から帰って身が跳ねた。半分怒声となった八坂の声が帽子の中の耳にまで響いて、視界に石畳と、周囲に八坂に眠らされて倒れている観光客たちの姿が戻る。それらを経て、緩慢に背後の八坂を振り返った。

 

「しっかりせい!姿が見えぬのなら別の眼で感じればいいだけのことじゃろう!許可するゆえ、早く【円】を使え!」

 

 思考の硬直が打つ手なしの諦念に見えたらしい。だからこその怒声、気付けの指示に、ボクは困惑しながらも従った。

 

 八坂はフリードを敵だと言い、実際そうだとわかってもいるが、しかしどうしてもそう思えない。事実と認識が食い違い、混乱が頭を占める精神状態の中、ボクはどうにか【気】を練り、引き伸ばす。

 

 アメーバ状に広がって、たちまちボクの【円】が周囲一帯を覆った。半径凡そ一キロほどでとても好調とは言い難いが、それでも感知に問題はない。

 

「うっ……!!な、なんだよこの、すっげえ悪寒……!!」

 

「なんて、禍々しさだ……!!これは確かに、師匠の言葉通り……」

 

「一誠に木場、それにアーシアも、気持ちはわかるが耐えてくれ!フェルさんに悪意があるわけじゃないんだ!【円】とは自身の【気】を広げて周囲を覆うことで、その中のすべてを把握できるという技でな……」

 

「おっかねーのは、つまりフェルの【気】に包まれてるからってだけだ。警戒する気持ちはわかるが勘弁してやってくれよ。特に木場、何があったか知らねーけど、あの人自身にもわからねーんだよ。どうしてこんなおっそろしい【気】してるんだか」

 

「お、おっそろしいとか言うでない!フェルの【気】は……ちょ、ちょっと変わっておるだけじゃ!それだけで剣を向けるなど、やはり悪魔!知ってたけどやっぱりろくでもない!」

 

 根を張ってしまっている憎悪をそう叫び、聖魔剣と、ついでに赤龍帝たちを睨め付ける九重。ボクに向きかけた聖魔剣の剣先諸共それをなだめるハンゾーの、口調に反して神妙な表情と、そんなことより金髪を守らねばとフリードの姿を探しているゼノヴィアと赤龍帝の姿。さらにその中心で不安そうにしている金髪の、今度はボクの【気】に対する身の震えまで、ボクの【円】は認識できていた。

 

 つまり十分に機能している。何ならその瞬間、ちょうど範囲の内に入ってきた曹操たちの気配もボクは感じ取れていて、ならば周囲で機を伺っているはずのフリードの姿も、ボクは発見できるはずだった。

 

 しかし、感じるいくつもの気配の中に、フリードは存在していなかった。

 

「……いない……?」

 

「なに……!?」

 

 ボクの身体を動かしていた八坂の指示が短く事実を告げさせて、遅れてその意味を理解した彼女が絶句する。

 姿は見えない。気配もしない。さらには【円】でも感知できないなど、普通ではない。

 

「それはつまり、奴の能力は――」

 

 と能力を悟る八坂の、その口が続きを言うよりも早く、背後、ボクの首の後ろに鈍い痛みと鋭い衝撃が突き刺さった。

 

「がっ――」

 

 針か何かで打ち抜かれたような攻撃は脊髄に響き、一瞬息まで潰れて、貫く勢いが身体をも吹き飛ばす。敵と認識できない相手からの攻撃を予測できるはずもなく、防御も受け身もできなかったボクの身体は衝撃にされるがまま、林の木々をなぎ倒した。

 

 景観の一部になっていた雑木林に一本醜い道を作り、やがて一際大きな老木にぶつかって止まる。衝撃を受け止めた代わりにへし折れ倒れる巨樹。放たれる轟音に巻き込まれながら、ボクの耳は九重の悲鳴を聞いた。

 

「フェルッ!!そんな、フェルッ!!」

 

「……嘘、だろ……!?」

 

 続くハンゾーの驚愕。ボクの身体を知る彼が九重や他の皆のようにボクの戦闘不能を意識したわけではないだろうが、そもそも攻撃を食らうこと自体が思ってもみなかったことなのだろう。

 

 万全の防御である【堅】を教えたのはボク。そのボクが攻撃された瞬間にも【堅】を使えなかったどころか、常態たる【纏】すら乱れていた事実は、ハンゾーの【凝】でも明らかなほどだった。だから“信じられない”という思いが声に出た。

 

 あるいはそれにしてもな大げさは、曹操に起因するのかもしれない。しかしともかく、その恐れたちも威力の割に大きく残る痛みもすべてボクの脳味噌の混乱が故。どうしていいかもわからず、呆然と垂れる頭を持ち上げ、地響きと巻き上がる土煙の向こうを見つめた。

 

 するとちょうど煙の隙間にその瞬間が映り込む。八坂たちから少し離れた石畳の上、画用紙の裏から絵具を滲ませたかのようにじわりと、透明であったフリードがその姿を現していた。

 

「ぶっはぁー!クリティカルヒィッツ!とはいえさすが俺っちの元上司を倒しただけのことはある。首ちょんぱするはずだったんですけど、防御でもされましたぁ?あ、聞こえてない?首の骨がポッキーしちゃいましたかねェ!」

 

 土煙と木の陰でボクの姿は見えていないのだろう。大きく息を吐き出した後、こちらを見やって勝ち誇ったように、辛うじて人間の形が残る胸を張るフリード。拍子に蜘蛛の脚と腹が不安定に揺れ、ボクの首を突いたと思われるサソリの尻尾もゆらゆら揺れる。

 

 その様子にショックから立ち直る悪魔たち。九重とハンゾーはいまだ衝撃を引きずるが、それらをすべて背に庇い、八坂がフリードを睨みつけた。

 

「……まさか【円】でも感知できぬとはな。その能力、透明化できるというだけのものではないらしい」

 

「ピンポンピンポンご明察!しかし大正解をなされたところで俺様から逃れる術はないのであります!てか逃がしちゃったらヤバいっしょ!透明化で二回もやられちゃこっちの面子がボロボロのボロっすよ!」

 

 にいっと醜悪に曲がった笑みが、聖魔剣の方へ向く。

 

「どうだいイケメン悪魔クン、今回は見切れたかよ?てめえの中二病ソードに負けた伝説の聖剣(笑)なんて目じゃないこのスーパーフリード人モード、切れるもんなら切ってみなよぉ!」

 

「っ!君は――」

 

「よく言いおる。伝説の聖剣とやらも今の力も、主のものではないじゃろう」

 

 見え見えの挑発に乗りかけた聖魔剣の前を背で塞ぎ、八坂は地面に転がる短い筒、フリードが己の首に突き刺した銀色の注射器へ眼をやる。

 

「先ほど打った薬品、借り物の力じゃ。そんなものをどこで手に入れた」

 

 どこだろうとどうでもいいことだ。

 それに、八坂は知りようがないことだがボクにはもう察しがついている。察する他なかったのだ、その正体も、理由も。

 

 ボクの中の“キメラアント”が惹き付けられるフリードの姿。それをもたらした注射器。

 人間に超常の力を与える薬とは、初めて人間界へやってきたあの日に聞いた言葉だった。

 

 あれが四年前のパリストンが言っていた、ボクの血から生まれた“力”、“キメラ化(オーダー・ブレイク)”なのだろう。

 

 だからボクはあれを眼にして思考が止まるほどの衝撃を受けた。自分と同じ“キメラアント”をそこに見たからだ。様々な生物の混ざりものであり、悍ましい内面を持つ、悪魔を食らうバケモノ。

 

 しかし本能が呼応する一方で、理性はしっかりと事実を認識している。あれは“キメラアント”ではない。ボクと同じものでは決してない。ボクの遺伝子情報に刻まれた、それまでの進化の道筋。その過程にありえた“力”を人間に注ぎ込んだだけのもの。

 むしろボクにとっては忌避すべきものだろう。キメラの面で言えば今まで積み上げてきたものを横取りされた屈辱の結果であるし、それに自らの血からこんなにも気持ちの悪い外見の化け物が生み出されたという事実には、正直憤慨しそうになる。作るにしてもこんな形にするなと、パリストンたちに怒鳴りに行くべきところだ。

 

 わかっているのだ。喜べるようなものではないことくらい。

 

(なのに――)

 

 どうしても、惹かれてしまう。フリードに、同胞(・・)に近付きたいという欲求が止められない。

 

 巨樹に押しつぶされる半身を引きずり出し、相反ゆえの混乱に翻弄されながら、ボクはふらふらと皆の方に向かって林を出た。

 

 きつい日差しの下に戻り、照らされたことでボクがやられたものだと思い込んでいた皆もボクの存在に気が付いた。凝視するフリードの化け物の顔が、わかりやすく苛立ちに染まる。

 

「なんスか、死んでねーじゃんゴリラ女。くたばっとけばいいのにさぁ!あーめんどくせぇったらねえぜ!」

 

「フェルッ!!よかった、無事だったのじゃなっ……!!」

 

 眼に涙を浮かべた九重が、感極まってボクへ走り寄ろうとする。だがハンゾーがその両肩を捕まえて留めた。

 

 肩にかかる力で自分が危険に飛び込もうとしていたことに気付き、ボクに伸ばした手を戻してぎゅっと握る九重。安堵からの衝動を必死に抑え込む彼女の表情とは真逆、不安の色が全く消えない、むしろ増してすらいるハンゾーの渋面が、ボクを見つめて絞り出したような声で言った。

 

「フェル、お前……大丈夫、なんだよな……?」

 

 その言葉は怪我の有無を心配するものではなく、つまりフリードのあの“力”と戦えるのかという意味。ボクの内心を凡そ把握しているということで、ボクは改めて確信した。

 

 ハンゾーはキメラ化(オーダー・ブレイク)の存在もその由来も知っている。しかしつい先日まで【念】も知らなかった彼に深い知識があるはずもなく、ならば一目でそれがキメラ化(オーダー・ブレイク)だと判断できた理由は、元からフリードがそれを使って急襲してくることを知っていたからだなのだろう。

 

 そこまで考えれば情報と注射器と企みの元は一目瞭然。ボクに事前の情報が入っていないことも鑑みて、奴の独断専行だ。その目的はわからないが。

 

 だが後でどう報復してやるにせよ、今は後だ。ボクはフリードを見つめたまま、ハンゾーに応えて頷いた。

 ただのやせ我慢だが、ボクを倒したと思い込んでいたフリードには十分な威圧になったようで、彼はチッと小さく舌打ちをした。

 

「もっかいぶっ殺してやらなきゃだめっスかそうっスか!まあ別に構いやしねえですけどね。能力使った俺様を見つけられる奴なんてこの世にいないわけなもんで……なんならゴリラ女やっちゃえばもうこっちの勝ちですし、後はもうババア狐なんか小指の先っちょでちょちょいのちょいでおすし」

 

「っ……あの野郎、俺たちのことは眼中にないってのかよ。白音ちゃんにも木場にもぶっ飛ばされたくせに」

 

 赤龍帝が憤りと一緒に拳を握り締める。抑え込み、喉の奥でくぐもったそれをフリードは耳聡く捉え、怒りが今度はそっちに向いた。

 

「だーから今の俺様はスーパーフリード人なんだって!耳も眼も頭も悪いクソ悪魔が、勘違いして格上気取ってんじゃねえぞ!!」

 

「勘違いしてんのはてめえのほうだ!!そっちがどれだけ強くなろうが、俺たちだって今日までずっと修行してパワーアップしてきたんだ!!あの時とは違う……それを、証明してやるよッ!!」

 

 吠え返し、滾った怒りが左手の【赤龍帝の小手(ブーステッド・ギア)】の力に変わる。ゼノヴィアと聖魔剣も容易く侮辱に乗り、とうとうそれぞれの戦意を滾らせるが、しかしそれを許さない八坂が、前に出ようとする三人を乱暴に押し戻した。

 

 その毅然の眼が一瞬、不安を覗かせボクを見た。

 

「若人を危険に晒すまでもない。貴様など妾一人でも十分じゃ。その透明化の能力、絶対の自信を持っておるようじゃが……念能力なのじゃろう?であれば“絶対”などということはない。はぐれの神父でしかない貴様は知らんのじゃろうがな」

 

 しかしすぐに離れ、フリードを睨め付ける。その一瞬の目配せが言わんとしたことはすぐにわかった。フリードが姿を現している今のうちに攻撃しろと、そういうことなのだろう。九重や赤龍帝たちを守らなければならない八坂は迂闊に手が出せず、実力的に安全な排除が可能なのはこの場でボク、フェルのみだ。

 だがそのフェルの様子がおかしい。もろに攻撃を食らったのもそうだが、纏う【気】も戦意も明らかに乏しいのだ。不安はそのためで、事実、その危惧は正しかった。

 

 攻撃しろと命じる理性に反して、やはり身体はそれを拒んでいる。再びの八坂の指示にもそれは変わらず、どっちつかずで固まる身体は続く八坂とフリードの舌戦をただ見つめ続けた。

 

「はいはいここにも馬鹿が一匹。寝言跳ねて言うのがこの世のルールでござんすよ?」

 

「馬鹿などと、主の方こそどうなのじゃ。人からかけ離れたその身体に変わり、随分と動き辛そうじゃのう。これではむしろ弱体化ではないか?」

 

「……うるっせえんだよクソアマ!あーもう罪、罪っすわコレ!神に代わってお仕置きしちゃいましょうねぇ!」

 

 怒りの面持ちが、その瞬間邪悪へと転じた。眼が見る先は八坂を越してその後ろ、庇護対象たち。

 

 全員がその悪意に身を竦ませた、その瞬間にフリードは大きく息を吸いこむ。そして、姿が消えた。

 

 虚を突かれた間の出来事で全員反応できず、一拍遅れて妖力を発揮した八坂が寸前で自分たちと倒れる人間の観光客たちへ結界を展開する。直後、自身と赤龍帝たちを覆ったそれに重い打撃音が打ち付けられ、結界の表面にいくつもの波紋が広がった。

 

 やはり見えも感じもできない、フリードの攻撃だ。ただ攻撃の跡と振動だけしか把握できないそれに、悪魔たちはそれでもなんとか姿を捉えようと無意味に目を凝らしている。頼もしい将の厳然を保って結界を支え続ける八坂と、そしてハンゾーの視線が、焦燥を加えて再びボクを一瞥した。

 

「っ……ふんっ!このような攻撃、例え何十時間と続けようが、妾の結界は破れぬぞ!身の程を知ったか小童が!」

 

 応えるものはない。が、挑発の後、攻撃が止まった。

 

「……なん、だ?諦めたのか……?」

 

 眉をひそめて辺りを見回すゼノヴィアの推測は、恐らく間違いだ。気付いた八坂は苦虫を嚙み潰したような顔に変わってボクへ叫んだ。

 

「フェル!!そっちへ行くぞ、気を付けよ!!」

 

 守りに入った八坂たちに攻撃が届かない以上、そこに入らないボクに攻撃の手が向くことは道理だ。やはり気配は感じられないが、フリードは今、ボクへとその八本の脚を動かしているのだろう。

 

 そんな危険への忠告が鼓膜を揺らすのを感じながら、ボクはその場に立ち竦んでいた。

 

 ズガッ、と、腹部に衝撃。【気】でジャケットに拳ほどの穴が開く。続いて腕、背中、脚に、次々フリードの攻撃が突き刺さった。

 

 肉体へのダメージは、あるとはいえ微々たるものだが、対して丈夫でない衣服はどんどんボロボロになっていく。つまりその下の素肌もどんどん九重たちに晒されて、このままではいずれ決定的な部位を見られてしまうだろうという強烈な危機感が、ボクの身だけでなく精神までもを激しく打ち据えていた。

 

「フェル、しっかりしろよお前!!マジでほんとに死んじまうぞッ!?」

 

「死ん……ッッ!!嫌じゃ、フェル!!いつもみたいに戦ってよッ!!」

 

 ますます困惑と焦燥を強めていくハンゾーと、“死”の言葉に恐怖を煽られた九重の悲鳴が聞こえてくる。見えない攻撃が唯一発する打撃の音と痛み、それらにただ巻かれるだけの中、あちこちに張り飛ばされるボクの眼は、一瞬八坂の姿を視界に捉えた。

 

 眉の間がいかにも不本意、やむを得ないという風に歪み、結界を支えていた両手が離れた。次の瞬間、一瞬にして彼女らを守る結界は解け、代わりに八坂の手からいくつもの火の玉が発射された。

 

 狐火なのだろう。放たれたそれらは一直線にボクへと向かい、そして爆ぜた。だがしかし撒き散らされる炎はボクではなく、その周囲を球状に覆って渦を巻く。多少の熱気はあれど、全く動こうとしないボクへの喝でないことは明らかだった。

 

 炎と同時にフリードの攻撃は止まったのだ。しかしそんなことは攻撃を受けていたボクしか知覚できず、おまけに傍から見ればボクごと攻撃したようにしか見えない炎の竜巻の威容は、それぞれの眼からその意図を隠してしまっていた。

 

 そして瞬時に、炎の竜巻はすさまじい勢いで膨張した。

 

「なっ、何をしているんだ八坂さん!?フェルさんだけじゃなくて私たちまで……!!」

 

「ッ!!イッセー君!!」

 

「くっ……!!伏せろアーシア!!」

 

 すぐさま彼らの目の前にまで迫る炎の壁。ゼノヴィアは冷や汗をかきながら八坂に詰め寄り、叫ぶ聖魔剣に背を押された赤龍帝は、罵倒を堪えて金髪を庇い抱きしめた。

 

 だが彼らよりは修羅場慣れしているハンゾーと、母親に対する信頼が深い九重にはその緊張はない。そしてその通りに、妖力の炎は八坂たちへとたどり着いたその瞬間、彼らを避けてぽっかりと空間を作った。

 

 周囲を炎に覆われ、ボクとほとんど同じような状況。いつまで経っても訪れない燃焼の痛みにようやく恐る恐るながら赤龍帝たちが顔を上げた頃、巨大な狐火を操るため集中する八坂の閉じた目が、ふと開いて敷かれた道の一点を見た。

 

「炎で触れてもわからんか。じゃが……ッ!」

 

 燃えて転がっている炭の塊は、フリードのクモの脚の一部だ。焼かれ、砕けたその一部へ向けて、八坂は竜巻を制御する手の反対、右手で妖力を放った。

 竜巻と結界の両方に集中力を割いているためその威力は大きくないが、しかし狙い違わず着弾した。薄紫の妖力が炸裂し、瞬間何もないその空間にフリードの姿が滲み出た。

 

「ぐぼああぁぁぁッッ!!痛熱痛いィィーーッぅ!!」

 

 悲鳴と共に、八坂が左の手のひらを握って広がる火炎をたちまち抑える。数舜で消えた炎の壁のその先では、異形の身体のあちこちが焼け焦げたフリードが、赤熱する石畳の上をのたうち回っていた。

 

 痛々しいその様を、ボクは焼き開かれた林から漂う嫌な臭いを嗅ぎながら見ていた。

 

「マジ……マジですかこれぇ……!!アバズレクソ狐がこんなやべーだなんて聞いてねえぞ……ッ!!」

 

「……誰から何を聞いたのかは知らぬが、妾はこの地の主じゃぞ。姿を捉えられずとも攻撃する方法はいくらでもある。貴様程度の人間、元より相手にならんわ……っく……」

 

 肩をせわしなく上下させながら言う八坂が、不意にふらついて膝を突いた。見て取れる疲労。あれほど巨大な炎の竜巻を操りながらしかも観光客たちのための結界も維持するという力技は、彼女にとって少なからぬ負担となっていたらしい。

 

 その苦しげな声を耳にして、フリードは勢い良く身を起こした。残った人間らしさの一つであった白い頭髪は燃え尽き、カの羽も脚の一本も消し飛ばされていたが、それらの激痛を越えた先に見えた八坂の様子が、彼の顔に醜悪を取り戻させた。

 

「へ……フヒッヒッヒャヒャぃ……!なんだなんだ、随分お疲れじゃあねぇのクソ狐。あのトンデモぶっぱ技、二発目の余裕はあるんすかねぇ?」

 

 じゅっ、と焼けた石畳をクモの脚が踏む音。立ち上る熱気が陽炎となって揺らめき、フリードの笑みを一層邪悪に曲げている。

 

 八坂の技に感嘆と、消耗に不安を抱いていた悪魔たちと九重とハンゾーが、八坂に向けられるその邪悪の余波で身を凍らせた。が、かぶりを振り、怖気を振り払って赤龍帝は厳めしく吠えた。

 

「てめえの方こそもう限界だろ!!復讐だとか、いい加減諦めろよッ!!」

 

「おやぁ?『諦めろ』って、もしかしてビビってんスかぁ?クソトカゲのクソ悪魔くん?……ぶぁーか!クソ悪魔は全部俺様にぶち殺されるの!これ決定事項なんだもん!」

 

 内心の払いきれない恐れを見透かされ、言葉を詰まらせる赤龍帝。その間に立ち直った八坂が再び前へ出た。

 

「無駄じゃ、その決定事項とやらは。貴様はもうこれ以上、妾とは戦えぬよ。もう勝負はついた。仕舞いじゃ」

 

「あ……?何言ってんですかクソ狐」

 

 芝居がかった調子で首を傾げ、フリードは次に、ただその場に佇み続けるボクへと眼を向けた。

 

「さっきはぶっぱされて中途に終わっちまったけど……それまでを見ていらっしゃらない!?このゴリラ女、俺様がボッコにしてやってたんですけど……あそっか、見えないんだった!」

 

「……確かに見えてはおらんが、知っておる。主がそれを自分の実力と思い違いしていることもな」

 

「なぁにイキっちゃってんだかねぇ、俺様の能力を破るぶっぱ技はもう使えねぇのでしょう!?」

 

 唐突に真顔になってふざけるフリードに八坂は鼻を鳴らす。だがフリードはそんな反応など気にもせず、再びにぃっと笑い、大きく息を吸いこんだ。

 

「対して俺様の【神の不在証明(パーフェクトプラン)】に回数制限なんてねえのよ!!ならもうここからは、俺様の独壇場――ッ!!」

 

 そして周囲の空気を肺に取り込んだ、次の瞬間、一瞬にしてフリードの余裕の笑みが崩れ去った。

 

「ごっほぇッ、げふ、げっ、んぐへぇッ!」

 

 代わりに無茶苦茶な咳が出る。背中が折れ、ビクンビクンと痙攣を繰り返す異形の身体を油断なく凝視しながら、八坂は告げる。

 

「だから、もう勝負はついたと言ったじゃろう。貴様の透明化の能力はあらかた把握できた。透明化していても実態がなくなるわけではないこと、自身の身体から離れたものは透明化できぬこと、そして今貴様がやろうとしたように、息を止めることが能力発動のカギであることもな」

 

 炎の竜巻で落ちた脚の破片と、そして今までも能力の前後に大きな呼吸をしていた事実。使った後しばらく息が荒かったことも含めて、様子を見ていればそのルールを推測することは容易かった。

 なにせ今のボクでもわかったほどだ。だからつまり、フリードは八坂の言う通り、彼女と戦えるような人間ではない。“力”は強力でも器が小さいのだ。だからこのまま戦っても、勝利者が八坂であることは疑いようのないことだった。

 

 故に八坂はボクを当てにすることをやめたらしく、鋭い眼差しをフリードに向けたまま告げる。

 

「じゃから狐火に少々細工をした。燃えた気が喉を刺す毒となるように。……安心せい、無関係の者たちも多い場じゃ。咳を誘発するのみで大した害はない」

 

「げほッ、ごっ……せ、せき゛ィ……!?」

 

「うむ。じゃが貴様の能力を封じるには十分。まともな呼吸ができぬようになれば、透明化の持続時間も頻度も著しく落ちよう」

 

 透明化が使えなくなる。それが致命傷であることを、フリードは誰よりも強く理解したに違いない。強力で、しかも誰にも破れないと強く信じていたその自信が砕かれれば、動揺は理屈以上に能力に影響する。

 

 それを理解しているとは思えないが、しかし瞬間、彼の眼に残っていた攻撃的な色がすっと抜け落ちた。震える喉を締め上げんばかりに手で押さえつけ、裏返った声で叫んだ。

 

「とんずらさせていただきやす!!」

 

 一息吸いこみもう一方の手で口も塞いで、そして姿が消えた。長く息を止めていられなくなったとはいえ、我慢すれば逃げる程度はできると考えたよう。皆がまたざわめくが、しかし八坂にそんなものはない。

 

「阿呆め。身体から離れたものは透明化できぬと教えてやったじゃろう」

 

 眼が追っているのは、フリードの捥げた脚から滴った血痕。段々と冷えてきた石畳に線を引くそれが彼の居場所を示している。脚を引きずりながらゆっくり遠ざかり、先の森へと逃げ込もうとする血の道しるべ。その赤色(・・)が見えていた。

 

 頭の中をぐちゃぐちゃにされる。そんなボクを横目に見てから、八坂は再度右手に妖力を集わせた。放ち、宙に命中。吹き飛ばされるフリードの姿が現れる。

 

「ぶっはぁ!!げふ、ごほぉッ!!いっだぁい!!」

 

「全く、往生際の悪いことじゃ。もう一度言おう。もはや貴様の手は二度と我らの下には届かん。妾の目の前に姿を現したこと、後悔しながら縄に――」

 

 攻撃が命中したらしいクモの腹を抱えて丸くなり、仰向けで悶絶するフリードへ八坂は最後の勧告をする。が、それは途中で途切れた。

 

 彼女の意識が振られ、鋭く己の背後を向く。悪魔たちの頭上を越して片手がかざされ、次の瞬間、展開された結界に犬のような化け物の牙が激突した。

 

「おわあッ!?な、なんだ!?」

 

 ぱきぃん、と背後で響いた大音響に、遅れて赤龍帝たちも振り向いた。と同時に、その奥でさらに異変。周囲で倒れ伏していたはずの観光客たち、その一部ではあるが、さっきのフリードのように変身を始めていたのだ。

 

 肉と骨が歪に膨らみねじ曲がり、それぞれクマやサイやカメなど、多種多様な生物の特徴を持つ化け物へとその姿を変える。そしてそれらは犬の化け物に続き、次々八坂の結界へと攻撃を始めた。

 

 悪魔たちはそれらの生物たちを見る眼に驚愕と不快感を灯しながら、その正体を叫ぶ。

 

「フリードの仲間!?彼らもあの薬とやらを使ったのか……!」

 

「っ、まさか観光客の中に敵がいるとは……!フリードほどの力はないようだが、どうする八坂さん!この数はやはり一人では難しいだろう!?」

 

 だから私たちに戦わせろというゼノヴィアの意思は、だがやはり拒絶された。首を振る八坂は、防ぐ隙に再び息を吸いこむフリードを憎々しげに見送るほかない。

 

「舐めるでない小娘!撃退するだけなら片手で足りる!」

 

「な、ならどうして倒さないのじゃ!?母上、早くしないとほら、あの男が透明に――」

 

 と、八坂と悪魔たちの背の間で震えた九重の言葉は、寸前八坂がその片手を振るったと同時に途切れた。

 

 透明化するフリードへと、そちらを見ずになんとか捻り出した妖力の攻撃。がしかし狙いも荒いそれは今度は外れてしまったようで、奥の広葉樹を一本へし折って終わる。舌打ちを辛うじて堪える八坂の眼は、次に流れる血の跡を追いながら半分吐き捨てるように叫んだ。

 

「フリードの仲間など、ここにはおらんからじゃッ!!倒せるはずが無かろう、彼らから薄く感じるフリードの【気】、彼らの変身は薬ではなく、奴の能力によるものじゃ!!」

 

「な、なんだとッ!?」

 

「最初の透明化の際、我らの驚愕の隙に術を施していたに違いない!!操られておるのじゃよ彼らは!!」

 

 だから撃退ではなく拘束の必要がある。そう言う八坂の推察は、恐らく正しい。彼ら一般人の垂れ流しの【気】には、確かにフリードの【気】が感じられる。技もなく、ひたすら己の武器である牙や爪をぶつけるのみの攻撃も、いかにも戦いを知らなさそうな一般人のそれに見えた。

 

 それらの事実を、八坂は今までの技の数々に加え、己の力が及ばず無辜の民を巻き込んでしまったという悔恨を一身に受け止めつつ、反対側のフリードの気配にまで注意を配りながら悟ったのだ。精神的消耗はもうすでに限界だったのだろう。

 

 だから、平常では見落とすはずがないものを見落とし、見逃すはずがないものを見逃した。

 

「フリード、妾は貴様も捕らえようと思っておった。まだ若いのじゃから、と。……反省しよう。妾が甘かった。貴様のような危険な存在は、今ここで討たねばならぬ……!!」

 

 結界を維持する手がぐっと握り締められ、フリードに化け物に変えられた人間たちの動きが途端に止まった。妖術で縛ったのだろう。どさどさ頽れて地面に転がる。

 

 そうして自由になった片手がフリードの跡に照準を定め、もう一方が背後を庇った。

 

「主ら、しっかり固まっておれよ。攻撃に集中する故、離れていては守れなく――」

 

 その手が空を切り、そしてようやく気が付いた。弾かれたように背後を向く八坂。化け物たちを気にしていた悪魔たちも振り向き、眼にする。

 

「九重は、どこじゃ」

 

 背に隠していたはずのその姿が、いつの間にか消えていた。

 

 影も形もない。ただ誰もいない空間が、八坂と悪魔たちの間に空いているばかり。動く気配も何もしなかったのに、という驚愕は、だがすぐに理解し、戦慄へ変わった。

 

「ぶえっほげっほ……ここっスよ、ここ」

 

 咳き込みつつ息を吐き出しながら言い、姿を現したフリードが背負うクモ糸。皆の視線が一様にそこへ向く。

 

 ぐったり目を伏した九重が、その糸に縛られ囚われていた。

 

 そうなるまでの経緯は驚くほど単純だ。フリードがそのクモの腹の尻から粘着質の糸を発射し、九重に付けて引っ張った。ただし付けるのも引っ張るのも、実行したのは恐らく透明化している最中だろう。ボクの眼に見えたのは、八坂の背に隠れて戦いを見守っていた九重の身体に繋がる糸が、フリードが透明化を解除した瞬間現れた、その光景だけ。

 それが二つ前の透明化の時。恐らくその時に糸を付け、次、つまり今さっきの透明化の時に引っ張り、九重を捕まえた。フリードはクモ糸を含めた自分自身を透明化、不可知化する能力だけでなく、それを他人にも適応する能力をも所持していたのだ。

 

 立ち竦むボクは、その場から離れて全体を眼にしていた故に、すぐそれに気付いた。だが九重に付いていたクモの糸の存在にも気付けなかった八坂は、気を失った九重を背に担ぎ見せつけるフリードの姿に、その動きを止めてしまっていた。

 

「天才フリード様は、んげっほ、戦力の差を見誤ったり、げへッ、しないのです……んぐっふ!なので、下水のヘドロみてえにお優しい皆々様に、ッぐ、朗報!人質取っちゃいました!次攻撃してきたら、これバーガーのパテにしちゃいやす!」

 

「きッ……さ、まぁ……ッッ!!」

 

 尻尾の毛がぞわ、と逆立ち、見張られた金の目に強烈な怒りが滾る。周囲の悪魔たちの身も凍り付くほど激甚。それが無理矢理に舌を動かして、歯が固く食いしばられた。

 

 そんな中で、同じく怒りの気配に呑まれかけのハンゾーの視線が、必死の叫びとなってボクに向く。

 

 ――しっかりしてくれ。本当に、手遅れになるぞ。

 

 そう急かしている。実際、この場をどうにかできるのは、キャパシティーの限界に達している上、大事な娘を人質に取られた八坂以外ではボクだけだ。しかも簡単に片を付けられる。【絶】で気配を絶って暗殺するか、何なら身体能力だけでも押し切れてしまうだろう。悪魔たちを守らなければならない八坂と違ってボクは自由に動けるのだから、透明化の能力があれどフリード程度の実力者なんて、倒そうと思えば一瞬だ。

 逆に、ボクが倒せなければ九重は限りなく危うい。フリードはその宣言通り、攻撃を察知すればすぐさま九重を殺してしまうだろうし、かといって見逃しても、用済みとなった九重を生かして返すとは考え難い。どちらに転んでも九重は殺される。

 

 だからなおのこと、ボクはここで行動しなければならなかった。ハンゾーに言われるまでもなく理解していること。今気づいたというわけでもなく、それまでもずっとわかってはいる。

 

 そして、それを直前で塞ぎ止めているフリードのキメラの身体は、未だに少しの変りもない。

 

 狭間で震えるボクをあざ笑うかのように、フリードのカメレオンの眼がこっちを見た。

 

「んじゃあそっちのゴリラ女も完全にビビっちまってるようですし、げふ、ごほっ、そろそろ俺様は行かせていただきやす!」

 

 喉を押さえ、大きく息を吸いこむ。もはや見慣れたものとなった透明化の前動作を、八坂もボクも見ていることしかできない。胸の内で気が狂いそうなほどの怒りや焦燥と戦う八坂の眼は血走って消えゆくフリードと九重を凝視して、力んで切れた口端からは血の筋までが流れていた。

 

 そして二人の姿が視界から消え去ると同時、八坂の正気はとうとう失せた。ガクガクと揺れながらも、脚が一歩前に踏み出す。どちらにしても殺される危険に変わりはないが、しかしそれを黙って見ていることは、親である八坂にはできなかったようだった。

 

 だがそれに妨害が入る。彼女の足元で縛られ、倒れ伏していた、化け物に変えられた人間たち。八坂たちを襲えという命令が生きていたのだろう。動かないその身をねじ折ってまで、再び動き出そうとしている。

 

 敵意に塗れた唸り声。一人が前に出た八坂の脚に咬みついた。

 出血すらしないほどのものだが、しかしそれで、爆発せんばかりに膨れ上がった八坂の怒りは彼らに向いた。

 

「邪魔、じゃあッ!!」

 

「ッ!!駄目だ八坂さんッ!!」

 

 叫んだのは、悪魔たちに先んじて我に返り、八坂が向けた殺意に気付いたハンゾーだった。八坂は殺す気なのだ。化け物に変えられたただの観光客たちを。

 

 それでも、もう言葉などで八坂は止まらない。内の怒りを内包した狐火が、これまでに見ないほどどす黒く染まって化け物たちに放たれた。

 

 が、直後。邪炎を纏った槍の穂先がその狐火を絡め取る。炎と炎は激しくせめぎ合い、やがて槍に込められた力の分打ち勝ち、反れて空へと飛んでいった。

 宙を駆け上ったそれは、八坂がその槍の持ち主を見つけた途端、崩れて消えた。眼に冷静が戻る。

 

 槍の持ち主、八坂を鎮めた曹操は、ぱっと振り向き、ボクを信じられないものを見るような眼で見て小さく呟いた。

 

「……何があった」

 

 ハンゾーが緊張をため息に変えて吐き出し、短く答えた。

 

「九重ちゃんが浚われた。最初はフェルが相手しようとしてたんだが、相手がバケモンになった途端動けなくなっちまった」

 

 応えを受け、しかし曹操はハンゾーに一切目もくれず、化け物たちを邪炎で地面に縫い留めながら、眼の色も変わらずボクを見つめて歩み寄ってくる。

 

 しかし追い越し、加減を忘れた八坂の両手がボクの肩を掴んだ。

 

「そう……そうじゃ、フェル、なぜ……!!なぜ手を貸してくれなんだ……ッ!!」

 

 悲愴の表情。しかし責める言葉はすぐにしぼみ、俯いた顔から小さく「済まぬ……」と聞こえて止まる。

 

 曹操はそれを見やり、深く息を吐き出してから言った。

 

「……事情はある程度理解しました。人を呼びましょう。化け物と化した彼らを治せる者にも心当たりがあります。大丈夫、逃走のための人質なら、少なくとも京都を抜けるまでは生かしておくに違いない」

 

 その言葉にゆっくりと持ち上がる、涙にぬれた八坂の顔。横を向くそれを見つめながら、しかしボクの眼は未だ、フリードのキメラの身体を映していた。

 

 罪悪感とで、身が二つに割れそうだった。




キメラ化=ピトーの血=キメラアントの血=メレオロン、ザザン等、他全てのキメラの力

みたいな力技が、フリード君がキメラアントの念能力を使用できる理由です。ゆるして。
最強能力神の不在証明(パーフェクトプラン)があればフリード君もこのくらいやれる…はず…。
感想ください。
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