クラピカ巻き込んで親善レーティングゲーム始まって
白音&一誠が黒歌&曹操に負けて悪魔チーム連敗が続き
ピトーVSサイラオーグで不穏なことが色々起こった
今回の更新は全六話。怒涛の展開。
私の眼はずっと眼前のステージ上、リングの上を半円に覆った結界を見つめていた。
まるで何かの卵のようで、血管が走るかのような筋模様を刻んだ白い表面は、全くその内側を見通させない。その上どうやらひどく硬いようだ。今更場にたどり着いた魔王の眷属たちが、先ほどからずっと刀で切りつけたり魔法で焼いたりを繰り返しているが、ひびどころか傷の一つも付けられていない。
常軌を逸した頑丈さ。その中に、ピトーは対戦相手のサイラオーグと乱入してきたシャルバ・ベルゼブブと共に閉じ込められてしまっていた。
シャルバ・ベルゼブブは旧魔王派の残党だ。サイラオーグたち悪魔だけでなく、人間勢力に属するピトーも奴にとって敵であることは明白。そんな二人を諸共閉じ込め何をする気なのかはわからないが、まさかお土産片手に秘密の内緒話というわけではないだろう。
であれば私も動かないわけにはいかなかった。魔王の眷属にも破壊できないものを私が破壊できるのか、なんて現実は関係がない。もし本当に破壊できず、それがどうしようもないものだとしても、大事な人が大変な目に遭っているかもしれないのに何もしないなんて、そんな不義理に耐えられるはずがないのだ。
と、そういう類の意気で身体を動かせたのは数分前までのことで、今の私の身体はステージ外周の客席壁に半ば埋まったまま、呆然と結界を見つめるばかりだった。
頭の中では意気を挫かれた光景、ピトーが自分を拒絶したその瞬間ばかりが延々と繰り返されている。あの時、シャルバがピトーとサイラオーグが戦うリング上に不意に出現し、意気を抱いて奴を排除しようと飛び掛かったあの瞬間、追い越し際に私を打ち返した鉄槌打ち。
眼が、明らかに敵を見るそれだった。
なんでそんな眼が私に向いているのか。それを向けるべきは私ではなくシャルバ、あるいは、あったとしてもサイラオーグであるはず。なのに向けられたのは私。その理由、理由は――。
わからない。わかりたくない。だから思考が前に進まず、打たれてあまりにも冷たく痛むお腹の疼きも意識に上らず、私は結界を見つめたまま沈黙していた。
ふと突然、見つめていた結界がピンク色の布生地に塞がれた。同時に肩を揺さぶられていることに気付き、私は顔を上に持ち上げた。
「ウタさん……ウタさん!しっかりするにょ!」
厳めしい顔と、その頭の上に乗るには似つかわしくないファンシーな帽子。ミルたんだった。
しゃがんで目線を合わせていた彼は、私の眼が光景のあまりの落差に正気を取り戻したことを認めると、立ち上がって手を差し出した。
「今は非常時にょ、ウタさん。この場はミルたんたちに任せて、他の選手たちと一緒に早く避難するにょ!」
「あ……え……」
有無を言わさず手を取られ、壁の中から引っ張り上げられる。瓦礫が崩れる音の中、遅れてミルたんの言う言葉の意味を認識した私は、どうにかそれに首を振った。
「で、でも……私、ピトーを、助けないと……」
我ながら、声はか細いものしか出なかった。おかげでピトーの名前はミルたんにしか聞こえなかったが、それでもミルたんは、正気を取り戻したとはいえショックから抜け出せていない私の内情を見抜いたようで、厳めしい顔がさらに険しくなり、しわが寄る。
そして一つ息を吸いこみ、目を閉ざした彼の手が再び私の肩を鷲掴みにして、カッと開いた。
「しっかりするにょ!黒歌さん!」
見開かれた眼差しの迫力。さらにはそれなりの大声を至近距離で浴びせられ、さすがに身体がびくりと跳ねる。しかしミルたんに手心はなく、畳みかけるように私に迫り、言い放った。
「ミルたんはネテロ会長との戦いの後、ノブくんの念空間での黒歌さんとピトーさんしか知らないにょ。それから今日まで、二人の間に何があったのかも知らないにょ。けど……これだけはわかるにょ。黒歌さんがピトーさんを想う気持ちは、あの時から全く変わっていないにょ!」
肩が揺さぶられる。
「ならその愛と、何よりピトーさんの愛を信じてあげるべきだにょ!」
「ッ……!」
肩からの熱が、心臓まで伝わって大きく鼓動した。意気を挫いたあの光景へ手が伸びる。
「例え何が変わっても、愛は絶対になくなったりしないにょ!黒歌さんとピトーさんが紡いできた、その思い出だけは絶対に不変なんだにょ!だから黒歌さん、あなたの信じる
そうだ、と、脈動する心臓が頷いた。
今までずっと、二人で一緒に生きてきたのだ。助け合って支え合って、そしてそれこそ家族同然に愛し合って。
そんな彼女が、私に敵意を向けるなんてありえないのだ。ならばそこには何かの理由があるに決まっている。それが、本心であるわけがない。
私は、
頭の中で私を見やるピトーの敵意を、私は破り捨てた。
ミルたんはそうして気力を取り戻した私の顔を見つめ、また少しだけ眉を寄せた。
「……大丈夫にょ?」
「ん……もう平気。そうよね、こんなの、何かあったに決まってるんだから」
呟くように言う私に、ミルたんは何か言いたげに口をもごもごとさせた。が、結局その言葉は出てこず、代わりに一つ頷いた。
「なら、だからこそ今は逃げるべきだにょ」
「っ!?な、なんでよ!」
呆然自失で使い物にならない状態だったからこそ、ミルたんは私に避難しろなんて言ったんじゃないのか。しかしミルたんは首を横に振る。
「ウタさんが消耗してしまっているからにょ」
「してないわよそんなの!」
「しているにょ。白音ちゃんとの戦いで、彼女の攻撃を正面から受けていたにょ?いくら【流】が完璧でも、あれだけの威力となれば防御側も相応のオーラを消費してしまうのは当然のことにょ。誤魔化そうとしても、ミルたんにはわかるにょ」
唇を嚙む。流石にネテロやストラーダと並んで最強の人間の一人に数えられる彼を欺くには私はまだまだ修行不足らしい。確かに彼の言う通り、私のオーラ、【気】は、白音の打撃やコピーした【
だがしかし、確かに万全とは言い難いコンディションだが、それでも結界と対峙できるだけの【気】は十分に残っているのだ。なんならそれだけでなく仙術だってある。その意を込めた眼で私はミルたんを睨んだが、もちろんそれで彼の顔色が変わるはずもなく、やはり淡々と首を振る。
「けれどあの異常とも思えるほどの頑丈さ。……それに、シャルバ・ベルゼブブくんのことも考えれば、不十分なんだにょ」
ミルたんは結界を、厳めしいその両目を細めて見ながら言った。
「これだけで終わるとは、ミルたん思えないんだにょ」
「はい、大正解」
と、そこに何か聞き覚えのない声色が響いた、次の瞬間、
「ッ!!?危ないにょッ!!」
眼前を、極大な魔力の光弾が覆い尽くした。突然のことに反応できない私。それを見てかミルたんが叫び、襲い来るそれに立ちはだかるようにして身を投げ出した。
そして爆発。甲高い炸裂音と爆風が撒き散らされ、ミルたんも私も一様に吹き飛ばされた。特に直接受けたミルたんの方はすさまじく、巨体が一瞬のうちに私の目の前から消え、恐らく後方、逃げ出し空席となった客席に突き刺さって轟音を上げる。
私も再び壁に背を叩きつけられ、爆発の衝撃と合わせて抑えようもなく苦悶の呻き声が漏れ出した。それを一息でどうにか噛み潰し、頭を振って衝撃も追い出す。私は次いで、この攻撃を打ち放ったであろう聞き覚えのない声の主、上空に浮かぶそいつへと、敵意を以って眼をやった。
六対の羽を持つそいつは間違えようもなく悪魔だった。しかも羽の数に見合う大悪魔然とした強者の気配。魔王だと言われても信じてしまいそうな、ある種のカリスマ性すら感じさせられる男だった。
そして何より、その【気】の性質に加えてニヤニヤと愉快そうに笑うその顔。誰かの面影が見える。
その面影の本人はすぐに、男の正体共々、殺意のこもった声で叫んだ。
「貴様……ッ!!リゼヴィムッ!!」
「やっほーヴァーリきゅん。その通り、リゼヴィムおじいちゃんですよーっと、アヒャヒャヒャヒャ!」
今日の試合中ずっと憮然とした表情しか見せなかったヴァーリの顔が、激しい憎悪に荒れ狂っていた。
ともすれば悪魔を前にしたピトーのようにも見える情動。そして“おじいちゃん”ということはやはり、二人は血縁なのだろう。顔と【気】がわずかに似ているのはその証、奴は初代ルシファーの、その息子というわけだ。
ここから人間とのハーフであるヴァーリに繋がるまでに何かがあったのか、小ばかにするようなリゼヴィムの笑い声にヴァーリはますますいきりたち、背に
そのまま飛んで向かって行ってしまいそうな彼をリアス・グレモリーたちが必死に押し留める中、逃げずにVIP席に残った者の一人、もう一人のルシファーは、声色に明らかな敵意を乗せながら言った。
「……リゼヴィム。君をこのゲームに招待した覚えはないんだが、何の用だい。この結界も、シャルバではなく君の仕業か?」
「これはこれは魔王さま、ご機嫌麗しゅう……なんつって。別に招待されてないからって来ちゃいけないなんて決まりはないでしょ?あっても知ったことじゃないけどねぇ」
ヴァーリやサーゼクスだけでなく、周囲に残った皆から敵意を向けられているというのに、なお薄っぺらく笑い続けるリゼヴィム。唯一曹操だけは奇妙に訝しげな表情をしていたが、それら全てにリゼヴィムは関心を持たず、続けて大仰に首を傾げた。
「で……なんだっけ、何の用かって?そりゃあもちろん決まってる。察しがつかないほど腑抜けじゃないでしょ、魔王やってんだから。おまけに俺より若いくせに俺より歳食ってるじいちゃんも傍にいるしさぁ」
その台詞が指すのはネテロ。性根の悪い私の師匠もこの場を訪れており、そしてやはり残ったままだ。滅多に見せないおふざけ抜きの真剣で、研磨された刃のように鋭い、肌に突き刺さるような【気】を放っている。
それを向けられ、やはり大げさに身を抱いて怯えてみせたリゼヴィムは、さらに続けて言い放った。
「まあぶっちゃけ、宣戦布告だよ目的は。犯行動機はシャルバの所の旧魔王派と、まあ似てなくもないかな?人間と仲良くして世界平和なんて言っちゃうサーゼクス君。おじちゃん、君の存在がひじょーーーに気に食わないのよ。それを良しとした悪魔たちも含めて」
見回し、サーゼクスやその眷属たちを視界に収めると、リゼヴィムは眉間に皺を作った。
「悪魔っていう存在はそんなものじゃなかったはずだ。間違っても人間とおてて繋いで楽しく踊る生き物を指す名前じゃない。悪魔とは……人を騙し、唆し、奪う、“悪”のことだろう?」
「違う!悪魔とは、冥界に住まう一つの種族。それだけだ!悪など決して本質ではない!」
「いーや、違わないね。悪魔の本質とは悪であり、そうあるべき存在なんだ。俺が隠居してる間、特に最近なんか顕著でしょ。サーゼクス君の言う通りなら、いろんな勢力にちょっかい出す悪魔なんていなかったんじゃない?」
「っ……!」
そこには恐らく人間側の思惑があったはずだと、ピトーがそう言っていたことを思い出す。リゼヴィムがそれを知っているのかどうかは読み取れないが、一転して再びニヤニヤ笑いに戻ったその顔を、私は心の重さの分だけ拳を握り締め、警戒心に変えて睨めつけ続けた。
沈痛な面持ちで歯噛みするサーゼクスの言葉を待つのをやめて、リゼヴィムはこれ見よがしにため息を吐いた。
「ほらね?なのに君ったら悪魔の駒で人間の血を入れたりレーティングゲームなんてお遊びでお茶を濁したり、挙句に今度の同盟。あれナニ?家畜にでもなりたいの?悪のくせに正義になりたがるから、結局どっちもない畜生に堕ちてるじゃん。愉快なこと大好きな僕ちんでも、さすがにこれは笑えないよ」
「家畜……だと……!?」
絞り出したようなサーゼクスの声には応じず、リゼヴィムは両手を広げて空を仰いだ。それから胸に何かを抱くように腕を縮め、呟くように言う。
「言うなれば俺は、悪魔という種族を救いに来たんだ。親愛なる同胞が家畜に堕とされてしまう前に、この両手で掬い上げるために……。って感じで、平たく言えば戦争しに来たのよ。人間に屈した君らの“正義”と俺の“悪”、どっちかが潰れるまで殺し合おうじゃないの!ヒャヒャヒャヒャ!」
狂ったように嗤い出す。向く先はサーゼクスと、そしてネテロ。
リゼヴィムは悪魔と人間、二つの勢力に喧嘩を売ったのだ。勝算があるというのだろうか。私を含めた周囲の眼にリゼヴィムの正気を疑う色が混じり始める。
だが一人、ヴァーリは全く変わらずに憎悪を向け続けていた。
「……さっきから、訳の分からんことをべらべらと……ッ!!貴様がどんな思惑でそこにいるのかなど興味はない!!リゼヴィム・リヴァン・ルシファー!!俺と戦え!!貴様だけは絶対に、俺の手で葬ってやるッ!!」
しかしヴァ―リの殺意は、ネテロやサーゼクスのそれのように、リゼヴィムに怯えるふりすらさせることも叶わなかった。
「どーしたのヴァーリきゅん、そんな葬るだのなんだの殺伐としたことばかり言って。ピトーとかいうお化けキメラアントと……幻影旅団だっけ?に殺されたのがそんなにショックだった?ああ、それとも――」
つまらなそうな表情が、一転して嘲弄のそれ。
「目指していた“最強”が、その気になれば簡単に踏みつぶされちゃうくらいしょーもないものだってこと、気付いちゃったのかなぁ?」
そしてその嘲弄は、ものの見事にヴァーリの憎悪に戦慄を差した。
「修行先にハンターを選んだ、ってのがまずダメダメだよね!半分とはいえ悪魔で魔王なんていう強い血が混じってるんだから、人間みたいな弱い血用の“殺し方”なんてわざわざ教えてくれるわけないじゃん。実戦にしても、守られてるヴァーリきゅんを殺しにかかってくる格上なんてそういないし、同格以下はその白トカゲちゃんのおかげでワンパンだから経験値なんてたまるはずないもんねっ!」
「ッッッ―――!!!」
「だ、だめッ!!ヴァーリッ!!」
ヴァーリの動揺が一息で殺意に振りきれる。寸前に感付き、上がった赤髪の必死の制止は意味をなさず、
『Vanishing Dragon Balance Breaker!!』
一瞬にして
純白の鎧に殺意の【気】を纏い、そしてその拳が振るわれた。
「死ね……ッ!!リゼヴィムッ!!」
ゴォッ、と、恐ろしいほど重い打撃音が空気を揺らす。強烈な殺意に押し上げられたその威力は、さっき見たサイラオーグのそれにも迫るほど。そんなパンチがきれいにリゼヴィムの顔に突き刺さり、そしてさらに、打撃音に紛れて響き渡った。
『Divide!!』
【半減】。触れた相手の“力”を半減させ、さらには【吸収】までしてしまう彼の
格上でも、よほどの差がない限りは同じことだ。そしてヴァーリとリゼヴィムの間には、ヴァーリの元々の強さも相俟ってそこまで絶対的な差は存在しないように思える。
少なくとも、迫る拳を避けもせずにニヤニヤ見つめてられるほどの差はないはずだった。だが殴られ、威力に押されて背を反ったリゼヴィムは、平然とその身を起こして言った。
「あれ?ヴァーリきゅん、おじいちゃんの能力教えてあげたことなかったっけ?」
とぼけた顔には焦りも、何より傷の一つもついていなかった。
効いていない。それどころか【半減】が発動していない。ピトーの“力”も問答無用に奪い去ったはずなのにと、私の頭に混乱が生まれる。
兜のせいで見えないが、恐らく忌々しげな顔をしたヴァーリが唸るように呟いた。
「【
「なんだ、ちゃんと知ってんじゃん。忘れちゃってた?そんなんだからお遊びから抜け出せないんだ……ぜッ!」
すっと身をかがめたリゼヴィムの脚が、次の瞬間、煙るほどのスピードでヴァーリの胴に振りぬかれた。
どうやら体術の腕も相当に高いらしい。躱すことなどできず、吹き飛ばされるヴァーリ。地面に激突する前にどうにか体勢を取り戻し、そして鎧越しだというのに相当なダメージを負ったらしい脇腹を抱え、身を折る。
「こ、の……ッ!!」
だが殺意は止まらず、今度は大量の魔力弾。瞬く間に次々と打ち込まれ――その尽くを魔法陣の盾で弾きながら、リゼヴィムは憐れみの眼をヴァーリに向けた。
「……まあ確かにさぁ、
弾幕の中でヴァーリを見やりながら、リゼヴィムはゆっくり距離を詰めて来る。私は二人の間に行き交う怒りと呆れを見つめつつ、静かに【念】を練った。
「俺の能力、【
肩をすくめ、そしてその眼が、前触れなしに突然動いた。
「例えばさ、
私に、いや、正確にはこっそり放った【
そしてそれだけに止まらず、光線は直線上、私をも射程に収めて弾幕を突っ切った。危機を察知した身体が半自動で動く。その場を飛び退こうと脚をたわめ、解き放つその直前。
「ふんッ!!」
ミルたんが上から降って来て、気合を込めた腕の一振りで光線を叩き潰してしまった。
「おおう、驚き!もう復活しちゃったわけ?結構本気だったんだぜ?アレ」
「ミルたんは、ミルたんを信じてくれるみんながいる限り負けたりしないにょ」
砂埃に汚れてますます厳つさの増した顔で、静かにリゼヴィムを見上げるミルたん。その、まるで堪えた様子のない立ち姿は確かに驚きであるが、今の私にはそれ以上の驚きが頭の中に溜まったまま。【
相応の【凝】を使えるのであれば不思議はないが、しかし見た限り、リゼヴィムが発する【気】には念能力を修めた者らしい“滑らかさ”が全くなかったのだ。【念】を使わない悪魔や一般人同様、好き勝手に垂れ流されている。にもかかわらず眼の精孔、【気】の通り道が開いていて、見えている。
【念】を使えていないのに【念】が使えているという、ひたすらに意味不明の状態だ。
意味不明過ぎて言葉にはならず、胸のうちに抱いたまま、私は急けようとして中途半端のまま固まった身体を起こし、口を覆ってまた愉快に笑い始めたリゼヴィムへ警戒心を引き戻した。
「アヒャヒャヒャヒャ!なんてファンタジーだ!英雄っぽくて大好物だぜそういうの!今日はお知らせと仕込みだけのつもりだったけど、年甲斐もなく燃えて――うおっ!?」
ひとしきり嗤い、次いで戦意を滾らせ始めたその身体が、唐突に途切れてその場を飛び退いた。一拍後に瞬く斬撃。結界破りを試みていた沖田が悪魔の羽を広げ、刀を振りぬいた体勢のまま敵意の表情を悔しげに歪めている。
だがさらに、地上で妙に妖艶な
バチバチうるさい騒音。だが掻き消すほど大きな哄笑が、リゼヴィムの喉から吐き出された。
「アヒャヒャヒャヒャ!いつになったら来るんだって思ってたよサーゼクスちゃん!なかなかいい駒、揃えたじゃないの!」
「私の自慢の
サーゼクスが応じ、手の中に滅びの魔力を構える。油断なくリゼヴィムを睨め付けながら、続けて訝しげな顔をした。
「君の【
「気狂い?その自覚は大いにあるよ!正気なんてクソくらえだね、俺に言わせれば」
リゼヴィムはつばぜり合いする魔法陣をとうとう弾き飛ばし、魔法使いに魔力弾を一発見舞う。
命中故の爆発には見向きもせずにサーゼクスを見下ろしながら、これみよがしに肩をすくめた。
「まあそうは言っても正直、そこんとこが一番の悩みどころでさぁ……。戦争っつったらやっぱり頭数は必要じゃない?最初はシャルバちゃんとこの旧魔王派で都合つけようと思ってたんだけど……あの子のおバカさ見誤ってたわ。彼以外全滅しちゃうんだもん」
「最悪だよねー」なんて乾いた笑い。毛色は違えど睨み合ったまま、リゼヴィムは続けておどけたふうに言う。
「まさか生き返しちゃうわけにもいかないし、てかできないし、かといって他所から都合するのも手間なんよね。どこもかしこも悪魔アンチで門前払い。いやはや色々痛い目にあっちゃったよ」
「ならばさっさと諦めて、潔く俺に殺され――ッッ!!」
台詞を突き破り、ヴァーリが再びリゼヴィムへと突撃した。しかし頭に血が上ったそれはあまりに単調が過ぎて容易く見抜かれる。僅かに身を捻っただけで躱され、叩き落とされた。
その全身鎧の塊はサーゼクスたちのいるVIP席めがけて降ってくる。頭に突き刺さったカウンターはさっきのように体勢を立て直すことを許さず、悟ったらしいサーゼクスは顔をしかめながら悪魔の羽を広げた。
「ッ!!お兄様ッ!!」
飛び出し、飛んで墜落するヴァーリを受け止めるサーゼクスに、突然リアス・グレモリーから悲鳴が上がる。降ってくるヴァーリに隠れ、サーゼクスにはリゼヴィムが放った魔力弾が見えていなかったのだ。
一瞬遅れて気付いたが、しかし避けるにはもう間に合わない。迎撃するには抱きとめたヴァーリが邪魔。リアス・グレモリーはまとめての被弾を想像してしまったのだろう。
だがVIP席に残ったもう一人が、動揺のあまり見えていなかったらしい。認識したのはすべてが為された後だった。
【
私の性悪師匠、ネテロが静かに掌を合わせ、現れた観音像が次の瞬間には魔力弾を押し潰していた。
迎撃の一部始終を見切れた者はこの場にいないはずだ。それほどに静かで滑らかで、そしてあまりにも速い合掌。実際に目の当たりにして、リアス・グレモリーやその仲間たちは一様に戦慄する。
だというのにその戦慄を敵に回しているリゼヴィムは、相変わらず愉しそうなままだった。
「ヒャヒャヒャ!こっちもさすが!振れ幅はデカいけどここまで強いのが生まれる、ってのが人間のいいとこだよね!数が多いからさ!」
そしてその笑みが、さらに醜悪に歪んだ。
「そんな種族が、唯一悪魔と仲良しこよししてるらしいじゃん?」
だから戦力調達に好都合なのだと、表情だけで言い放ったリゼヴィムに再びネテロが動く。合掌し、動きが見えないが、恐らく手刀。
【
観音像からのそれが振り下ろされた。威力がリゼヴィムのみならず後ろの客席と、リング上の結界までをも打ち据える。ピトーたちが囚われるそれにはやはり傷もつかなかったが、仙術が組み込まれたそれはリゼヴィムを戦闘不能にするには十分、
であるはずだったのだが。
「うそ……!?」
思わず呟いてしまうほどの光景。ネテロの【百式観音】に打ち据えられたはずのリゼヴィムは、依然変わらない様子、場所で、その場に浮いたままだった。
「嘘じゃないよ?ほら五体満足。おじさんは健康そのものさ!」
反応して両手を開き、ひらひら振って見せてくるリゼヴィム。言葉通りダメージを負った様子はなく、おかしな点といえば、冥界の空に溶け込んでしまうくらいの
私にとって絶対的であった【
「……サーゼクス殿、あの者は【
「いや……。彼は初代ルシファーの息子。純粋な悪魔のはずだよ。特殊な能力は【
兜が砕け、脳を揺らされたために未だふらつくヴァーリを席の椅子に下ろしつつ、サーゼクスはリゼヴィムを見やる眼を細くする。その応えに、ネテロの眉間の皺が深くなった。
私や彼らだけでなく周囲からも驚愕を向けられるリゼヴィムは、やはり嗤い続けた。
「そういうこと!ロマンがあるっていっても大半の人間はハズレくじ、そんなもんを手駒にするよりさ……もっといいもの、手に入れたんだよねぇ。……ヴァーリきゅん、よく見ときな。びっくりするよ……!」
片手をかざし、ヴァーリを見やるリゼヴィム。そして不安定に身体を揺らしながら立ち上がり、それを睨み返すヴァーリ。次の瞬間、身体の揺れごとその眼が驚愕に凍り付いた。
『Half Dimension』
背に生える七対目の、見覚えのある光翼。劣化したカセットテープのような音声が鳴って、そして手のひらの先、佇む巨大な【百式観音】が、潰れた。
「ッ!!それは――ッ!!」
さらに動き、今度の標的はVIP席の三人。寸前悟ったサーゼクスが結界を張り、拮抗して軋みだす。かなりのパワーなのか苦しげに汗を垂らすサーゼクスの様に、またしても悲鳴が上がった。
「嘘……!!ヴァーリの……!!」
ただし今度のそれは困惑の割合が多い。それも当然、リゼヴィムの背に宿り、使われた“力”は空間の【半減】。二つとない
ありえない。ヴァーリとリゼヴィム、二人が白龍皇の力を使っている現実。
「なぜ……ッ!!貴様が、アルビオンを……俺の“力”を……ッ!!」
「ハンター協会、正確にはそっちのストリッパーくんがだけど、
僅かな恐怖が垣間見えるヴァーリの動揺をニヤニヤ笑みで一瞥し、リゼヴィムはストリーッパーくん、恐らく曹操に意味ありげな眼を向ける。その曹操がどんな反応を示したのかは前に立つミルたんの背で見えないが、不満足なものではなかったらしく、リゼヴィムは続ける。
「ところがさ、俺も意外なことにその研究ってのが、思ってた以上の深みにまで手ぇ突っ込んでたんだよね!マジで驚いたよ、人類が
「
ヴァーリの驚愕の声が上がる。他の悪魔たちやハンターたち、そして私もその驚きは同様だ。宿主を死なせずに
だが明らかにでたらめではないようだ。【半減】から守り続けるサーゼクスからの眼に、ネテロは否定もせず、険しい表情でリゼヴィムを見やっている。
リゼヴィムは表情からどんどん余裕をなくしていくヴァーリへ、やれやれとばかりに首を振った。
「さっきも言ったけど、ほんとに世の中舐め腐ってるよねヴァーリきゅん。
その瞬間に再び沖田と魔法使い。主の危機を救うため、機を伺っていた二人が動く。
まず魔法使いが注意を引くための魔法を放ち、一瞬遅れて沖田が切りかかる。その身体から巣くう妖怪たちが溢れ出し、思惑通り防がれた魔法の残滓を縫って先行するが――
「くッ!!よせ、沖田ッ!!」
苦痛を噛み殺しながらサーゼクスが叫んだ静止の言葉。その通りに、妖怪たちも振るった刀の斬撃も、やはりすべて、薄紫の霧の下にすり抜けた。
「だが、まだ――ッ!!」
しかし沖田は一太刀では止まらない。横一線に振りぬかれたはずの軌道が跳ね返った。妖怪の力を纏い、より一層の速さと威力を伴って、伸びて沖田の身体を包み込もうと蠢く霧すら無視してさらに切りかかる。
無謀であることは明らかだ。恐らく攻撃がすり抜ける要因である霧。見上げるリアス・グレモリーたちも、もちろん沖田自身も、それが無視していい要素でないことは理解しているはず。
だがそれでもかまわないと放たれた神速の連撃。雷光の如き一閃は、覚悟の下、確かにリゼヴィムの肉を切り裂いた。そして侵食し、身体を覆ってしまった薄紫の霧は――
ふと気付けば私の視界の端、リング傍で皆と構えるゲオルグの隣に、より濃い霧の塊となって移動していた。
晴れ、無事な沖田の姿が現れる。警戒するように身を固めていたが、うっすら汗をかきながら息を吐くゲオルグに気付き、警戒を解いて微笑んだ。
「……ありがとう、魔法使い君。おかげで命拾いしたよ」
「どういたしまして。……まあ、試さずにいられなかっただけだから、こっちもあまり偉そうなことは言えないけどね」
「……ということは、やっぱり
と、沖田の礼をお互い様だと流したゲオルグに、腕組みしながら訪ねるジークフリート。ゲオルグは次いで上空、ざっくり切り裂かれた腕を押さえて大げさに痛がっているリゼヴィムの、その周囲で蠢く薄紫に霧を睨めつけ、自身が操る霧とよく似たそれに若干の不愉快を差し向けた。
「ああ、干渉できた。あれは恐らく、俺の【
【
からくりは割れた。しかも本家の能力者がこの場に揃い、さらには干渉までできるのなら脅威度はかなり下がる。
「……わかっただろう、リゼヴィム。君がどれだけの“力”を手にしようが、それに意味はないんだ。例え私たちを殺したとしても、悪魔と人間の全てと戦い勝利するなど不可能だよ。おとなしく投降するんだ」
「いってて……馬鹿言ってんじゃねぇよサーゼクス。その不可能をひっくり返すために泥棒したって言ってんじゃん。……まあ、認めるさ。お前たちは強いよ。
魔力で傷口から滴る血を止めると、リゼヴィムは痛みに震える頬を、高く愉快に吊り上げた。
「こんなもん、ただのおまけだよ?」
手の中で指を擦る。その身に【
「能力だけじゃなく、数もまとめて解決できるぶっ壊れの
皆がリゼヴィムの攻勢を悟り、そして誰もそれを止められない。それほどまでに規模が大きかった。
「中二病のおじさんに、素敵なプレゼントをありがとう」
“力”が発動した瞬間、周囲にそれらは現れた。
何匹、何体も、姿形もばらばらの化け物がそこら中に、地面から湧き出るように出現する。舞台やリングだけでなく、無人の客席にもひしめく。とんでもない数だ。
それらの目が一斉に開いて害意を灯すと同時、
「さあ、善と悪でぐちゃぐちゃの殺し合いしようじゃないの!アヒャヒャヒャヒャヒャ!!」
私はそれらに、ピトーの生まれ故郷で眼にした死体たちの面影を見た。
リゼヴィムおじさんの口調よくわからないのでとりあえずアヒャらせとけの精神。
感想ください。