もしもあの時一人で戦っていたら   作:まがお

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ゴブリンよ、あの子の住む牧場を襲っておいて「渡り」になれると思ったか?
ゴブリンスレイヤーさんが中途半端に逃すわけがないので後始末編です。


それから

 ゴブリンの巣穴を潰しに行くために森の中を進む一党。

 牧場襲撃の事件から三日と経たずゴブリンスレイヤーは活動を再開していた。

 

 

「あの、ゴブリンスレイヤーさん。捕まってる人もいないのにどうして今回は急ぎなんですか?」

 

「怪我をした奴らは一度巣に戻る。だが、放っておけば『渡り』になるかもしれん」

 

 

 今回の目的は巣穴の殲滅、それも前回襲撃してきた生き残りのゴブリンを潰す事である。

 

 

「しっかし、オルクボルグも無茶するわよね。あの数のゴブリンを一人で相手するとか信じらんない」

 

「そうじゃのう、きっと男の意地というやつよ。あの子と違って金床の耳長娘には分かるまい」

 

「どこを見て言ってるのかしら?相変わらず失礼ね、アンタなんか樽じゃない」

 

「拙僧は是非とも助太刀したかった。あの牧場のチーズは非常に甘露ゆえに」

 

「あはは…… でもゴブリンスレイヤーさんが無事で良かったです。それに今度はこうして声を掛けてくれましたし」

 

 

 ここにいる妖精弓手、鉱人道士、蜥蜴僧侶、女神官はゴブリンスレイヤーに頼まれて集まった。

 そう、今回はギルドからの依頼では無い。

 普段から『ゴブリンだ』しか言わず、何をするか碌な相談もしてこなかった事を思うと相当な変化である。

 事実、ゴブリンスレイヤーから手伝って欲しい事があると言われた時には全員が驚いていた。

 

 

「……着いたぞ」

 

「見張りは無し。やっぱり襲撃に殆どのゴブリンを使い切ってたのかしら」

 

「そりゃ、あんだけ死体があったんじゃからそうなるわい」

 

 

 ゴブリンスレイヤーは牧場を片付けた後、直ぐに取り逃がしたゴブリンの行方を探っていた。

 逃げたゴブリンは撒菱を踏んで生き残った奴らである。逃げた跡には当然血痕が続いており、巣穴は簡単に見つけることができた。

 残存戦力は少ないと思っていたが、それでも念のために仲間と来たのは散々一人で無茶するなと言われたからである。

 これでもし一人でゴブリンを始末した後に『後始末をして来ただけだ』なんて言ってしまったら、また女性陣には怒られていたことだろう。

 

 

「竜牙兵を出せ。入り口を見張らせる」

 

「承知いたした」

 

 

 ここの洞窟は入り口は一つだけしか無いと確認済みである。

 奇跡は温存することが多いが、今回は本当に一匹たりとも逃さずの殲滅を行うために念を入れて入り口に見張りを置かせた。

 一党は洞窟の中に入り、ゴブリンを見つけては確実に息の根を止めていく。

 

 

「はぁっ!!」

 

「16、17、18…… 思ったより逃してしまっていたか……」

 

「ほいっと、どんなもんよ!!」

 

「こりゃあ儂の出番はなさそうだの」

 

「私も奇跡を使うことはなさそうです」

 

 

 ゴブリンスレイヤーと蜥蜴僧侶が前衛を受け持ちゴブリンを倒していき、妖精弓手が討ち漏らしを弓矢で射抜いていく。

 手持ち無沙汰な鉱人道士と女神官は警戒を続けながらも、そのまま黙々と着いていくのだった。

 

 そして一党はゴブリンを倒しながら洞窟の一番奥まで辿り着いた。

 奥の広間に残っていたゴブリンを殲滅し、ゴブリンスレイヤーは突き刺した剣をゴブリンの頭から引き抜く。

 

 

「26…… よし、コイツで最後だ」

 

「ふー、この洞窟広いから疲れたわ…… 意外と武器とか道具が纏めて置かれてたのには驚いたけど」

 

「ロードが居たからだろうな。通常のゴブリンではそんな事は気にしない」

 

「あれ? ゴブリンスレイヤーさん。そのゴブリン、靴を履いてますね」

 

「ほんとじゃの。珍しいゴブリンも居たもんじゃ」

 

「ふむ、他にもいくつか靴を履いている個体がいるようですな」

 

 

 ゴブリンスレイヤー以外は最後の広間で倒したゴブリンの死体を見て違和感に気づき、不思議そうな顔をする。

 

 

「……奴らは馬鹿だが間抜けじゃ無い。靴の大切さを学んだのだろう」

 

 

 ゴブリンスレイヤーの言葉を聞いて彼が牧場で何をしたか思い出した。

 

 

「そういえば撒菱使ったんだっけ…… 確かにゴブリンでも靴ぐらい履きたくなるかも」

 

 

 彼らは苦笑いしながらも納得し、無事に今回のゴブリン退治は終わった。

 

 

 

 

 ゴブリン退治を終えた一党はギルドに緊急で報告することも無いので、牧場の方に寄っていた。

 

 

「おかえりー!! 大丈夫だった?」

 

「ただいま。巣穴は潰してきた。次が現れるまで牧場は大丈夫だ」

 

「そっか、ありがとね」

 

 

 いつもの様に彼女はゴブリンスレイヤーを待っていてくれる。

 彼もいつもの様に彼女ただいまを言う。

 だが、今までとは違い今日は他のお客さん――彼の仲間がいる。

 

 

「皆さんもありがとうございました。彼、こんなだから迷惑かけてませんか?」

 

「迷惑というか内臓を…… まぁいいわ、今回は見張りが居なかったから大丈夫だったし」

 

「慣れますよ。人前には出れませんけど……」

 

 

 仲間の女の子達が遠い目をした様子を見て、彼が色々したんだろうと牛飼娘は悟る。

 

 

「もう、女の子は繊細なんだよ? ちゃんと気を使わなきゃ」

 

「そうか…… だが、必要な事だ」

 

「はぁ…… そうだっ!! 皆さん一緒にご飯にしませんか? 今日は伯父さんも居ないので良かったらご馳走させてください」

 

「飯に誘われて食わんのでは鉱人が廃るわい。儂はご馳走になるぞ」

 

「拙僧も勿論頂こう。この部屋には甘露な香りが漂っておりますのでな」

 

「もちろん私と彼女もね!! 前にチーズ食べたけどとっても美味しかったのよ」

 

「はい、ご馳走になりますね」

 

 

 彼とその仲間と一緒に食卓を囲む。

 いつもよりも賑やかな食事の時間。

 

 

「んー、甘露!! このシチューもチーズに負けず劣らず甘露ですぞ!!」

 

「くぅぅ、美味い!! ここのチーズは酒が進むわい!!」

 

「本当に美味しいですね。ゴブリンスレイヤーさんが好きなのも分かります」

 

「ちょっと、あんたここでも兜被ってんの!? 取りなさいよ、私まだ顔見た事ないんだから!!」

 

「そうか……」

 

 

 この前は彼一人で戦う事になったけど、それはきっと悪い偶然が重なっただけで今の彼は一人では無い。

 この人達ならきっと助けてくれる。

 そう思って牛飼娘は微笑んだ。

 

 

「やっぱりいい人達だよね。それにしても、君って他の人に顔を見せたこともないの?」

 

「ああ……」

 

「よし、兜外さなかったらシチューのお代わりはあげないっ。ふふっ、どうする?」

 

「それは困る……」

 

 

 ゴブリンスレイヤーはゆっくりとした手付きで兜を外し傍に置いた。

 シチューのお代わりの為に兜を外す、そんな素直な彼の行動に嬉しくなる牛飼娘。

 

 

「ほっほう、かみきり丸はそんな面しとったのか。良い面構えじゃの」

 

「確かに、戦士の相ですな」

 

「なによー、全然悪くないじゃない!! でも白いわねー」

 

「っ!! ……ゴブリンスレイヤーさん、その方がずっと良いと思いますよ」

 

「そうか……」

 

 

 兜を外しても彼の評価はやはり悪くないようだ。

 一部気になる反応があったけど、牛飼娘は彼が慕われること自体は嬉しく思う。

 でも彼を譲るつもりは微塵もなく、負けるつもりは絶対にない。

 

 

「こんなレアなもんが見れたんじゃ。今夜は飲むぞ!! ほれ、お前さんらも飲まんかい!!」

 

「アンタはいつも飲んでるでしょうが!!」

 

「甘露!!」

 

「お酒、ですか。あまり飲んだことは無いのですが……」

 

「ふふっ、折角だし私も飲んでみようかな」

 

「そうだな……」

 

 

 

 

 ゴブリンスレイヤーは飲み始めて早々に寝落ちしてしまった。

 しかし、残りの面々は酒を飲み続けた。

 そして誰も止めるものがいなくなり、悪酔いが始まる。

 

 

「……」

 

「うー、いつも金床金床って…… 私だって後500年もすればこの子みたいになるんだから!! そうよ、チーズよ!! 私もこの子と同じもの食べ続ける!! そうすれば万事解決よ!!」

 

「大っきくても肩こるだけなのに…… 周りからは見られるし!! でも彼はあんまり見てくれないし!! 女の子には優しくって言ったのにっ!! 私だって女の子なのにー!! この唐変木ー!! ちょっとくらい気づけーっ!!」

 

「あははははっ!! いと慈悲深き地母神よ、胸に迷える我らにどうか母性をお恵みください!! 地母神だって言うなら奇跡くらい起こしてくださいよー!!」

 

「KA・NN・RO!! KA・NN・RO!!」

 

「やべ…… こりゃあ、ちっと飲ませすぎたかもしれん…… もうどうにもならんし、儂ももっと飲むか」

 

 

 彼らの宴は続く。

 この酔いから目覚めた時、今夜の記憶があるかは分からないが……

 

 

 

 

「これは、いったい何があったんだ?」

 

 

 翌日、仕事から帰ってきた牧場主が見たのは死屍累々となっている者たち。

 鉱人に森人に蜥蜴人、神官服の女の子までがテーブルに突っ伏していたり、床に転がっている。

 早々に寝てしまったゴブリンスレイヤーだけは動けるようで、早起きした彼一人で後片付けをしていた。

 

 

「酒を飲んでいました」

 

「いや、それは見れば分かるが……」

 

「酒に呑まれていました」

 

「……そうか、あの子は?」

 

「まだ寝かせています」

 

「そうか……」

 

 

 あの子だけベッドに運んでいるところから、彼もそれなりにあの子の事を特別だと思っているのだろう。

 妖精弓手と女神官にはマントをかけているので、単に野営に慣れた冒険者と一般人で扱いを分けただけかもしれないが。

 

 

「君は、あの子の事をどう思っているんだ?」

 

「どう、とは?」

 

「いや、何でもない……」

 

「そうですか……」

 

「ああ、君がもし牧場を…… いや、これは私が言うことではないな。忘れてくれ」

 

「分かりました。……片付けに戻ります」

 

 

 最近彼と口調が似てきてしまった牧場主は深く考えるのをやめた。

 

 自分にとって姪の事は娘のように大切で、将来の事も気になる年頃ではあるのだがもう少し見守るしかないのだろう。

 

 兜を被り続ける彼は、今はまだゴブリンスレイヤーである。

 しかし、いつかはその兜を脱ぐ時が来るのかもしれない。

 その時が来たら――

 

 

 




後始末も終わったのでこの話はここで終わりになります。
いつかゴブリンスレイヤーさんが兜を脱いで穏やかに暮らす日が来るといいなと、そんな想像をしながら酒の話を書いてました。

読んで頂きありがとうございました。

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