鞠莉ちゃん推しの方々、大変申し訳ありません…
翌日・・・
「緊張するなぁ・・・」
理事長室の前でドキドキしている俺。今朝ダイヤさんから連絡があり、放課後に新理事長との顔合わせがあると告げられたのだ。
一体どんな人なんだろう・・・
「・・・よし」
覚悟を決めてドアをノックする。
「どうぞ~」
中から女性の声がした。新理事長の声かな・・・?
「し、失礼します・・・」
恐る恐るドアを開け、理事長室へと足を踏み入れた瞬間だった。
「シャイニー!」
「うおっ!?」
いきなりタックルをくらい、思わずその場に倒れ込んでしまう。
「な、何事・・・?」
痛みを堪えながら上体を起こすと、誰かが俺に抱きついていた。ブロンドのセミロングヘアを、三つ編みのカチューシャのように結っている女子だ。
浦の星の制服を着ているので、この学校の生徒だと思うのだが・・・
「天!お久しぶりデース!」
顔をガバッと上げ、満面の笑みで俺を見つめる女子生徒。
ん・・・?
「えーっと・・・どちら様ですか?」
「What!?覚えてないの!?」
女性がショックを受けている。いや、俺の知り合いに金髪美少女なんて・・・
一応いるけど、この人ではないはずだ。
「ちょっと!?いきなり何をしているのですか!?」
先に来ていたであろうダイヤさんが抗議する。よく見ると千歌さん、曜さん、梨子さんまでいるし・・・
梨子さんは何故かジト目でこっちを見てるけど。
「・・・天くんって、年上の女性に抱きつかれやすい体質なの?」
「そんな体質だったら幸せなんですけどね。梨子さんも抱きつきます?」
「抱きつきません!」
そっぽを向いてしまう梨子さん。
どうやらご機嫌斜めみたいなので放置して、俺に抱きついているパツキンのチャンネーへと目を向ける。
「で、どちら様ですか?」
「・・・本当に分からないの?」
さっきまでの笑みから一転、寂しそうな表情で俺を見る女子。
何だろう、もの凄い罪悪感に襲われてるんだけど・・・
「鞠莉さん!いいから早く天さんから離れなさい!」
怒っているダイヤさん・・・ん?
「鞠莉・・・?」
今ダイヤさんが呼んだ名前・・・それにこの独特の髪型・・・側頭部に数字の『6』のような形で髪を結ってある・・・
あれ・・・?
「えぇ!?鞠莉ちゃん!?小原鞠莉ちゃん!?」
「Yes!やっと思い出してくれた!」
嬉しそうに俺を抱き締める女子・・・小原鞠莉。おいおいマジか・・・
「大きくなったね、天!」
「鞠莉ちゃんの方こそ、すっかり大人の女性って感じになっちゃって」
特に俺の身体に押し付けられている、この二つの大きく柔らかいモノ・・・ずら丸や果南さんより大きいのでは・・・
「っていうか、何で鞠莉ちゃんがここに?」
「フフッ、それはね・・・」
「ちょ、ちょっと待って下さい!」
俺と鞠莉ちゃんが話していると、ダイヤさんが慌てて割り込んでくる。
「その話に入る前に、お二人の関係についてお聞きしたいのですが!?お二人はお知り合いなのですか!?」
「えぇ、幼馴染です」
ダイヤさんの質問に答える俺。
「母親同士が友人関係で、小さい頃は家族ぐるみの付き合いをしてたんです。まぁ鞠莉ちゃん達が引っ越してからは、会う機会もなくて疎遠になってたんですけど」
「最後に会ってから、もう十年近く経つもんねぇ・・・」
しみじみとしている鞠莉ちゃん。時が経つのは早いなぁ・・・
「っていうか鞠莉ちゃん、浦の星の制服着てるけど・・・まさか転校してきたの?」
「No!私は元々、浦の星の生徒デース!」
「マジで!?」
「マジですわ」
溜め息をつくダイヤさん。
「留学の為に海外へ行っていたのですが、このタイミングで戻ってきたようです・・・理事長として」
「ヘぇ・・・ん?」
今ダイヤさん、何か凄いこと言わなかった?
「・・・理事長が何ですって?」
「例の新理事長というのは・・・鞠莉さんのことだそうです」
「・・・ダイヤさんでも冗談を言う時ってあるんですね」
「・・・冗談であってほしかったのですけどね」
苦い顔のダイヤさんに対し、鞠莉ちゃんがドヤ顔で一枚の紙を見せてくる。
「これが証拠デース!」
「・・・嘘やん」
それは鞠莉ちゃんが理事長に就任したことを証明する任命状だった。おいおい・・・
「鞠莉ちゃん・・・今すぐ警察に出頭しよう」
「Why!?」
「小原家の力で前理事長を亡き者にするなんて・・・それで鞠莉ちゃんは満足なの?」
「勝手に前理事長を殺さないで!?天は小原家を何だと思ってるの!?」
「成金一族」
「それは否定できないけども!」
鞠莉ちゃんの父親はリゾートホテルチェーンを経営している富豪で、鞠莉ちゃんはいわゆる御嬢様というやつだ。
昔からそうだったが、この人達は基本的にお金の力に頼ることが多い。普通なら有り得ない現役女子高生理事長が誕生したのも、恐らく小原家の財力によるものだろう。
「どうせ小原家が浦の星に多額の寄付を納めてるとかで、学校の運営に顔が利くんでしょ?それで鞠莉ちゃんの理事長就任をゴリ押ししたってところじゃないの?」
「・・・君のような勘のいいガキは嫌いだヨ」
「どこの錬金術師?っていうか、嫌いならそろそろ離れてくんない?」
「It`s joke!天のことは大好きデース!」
俺の頬に頬ずりしてくる鞠莉ちゃん。スキンシップが激しいな・・・
「それで?何で留学から戻ってきて、いきなり理事長になったりしたの?」
「浦の星にスクールアイドルが誕生したって聞いて、ダイヤに邪魔されちゃ可哀想だから応援してあげようと思って」
「本当ですか!?」
嬉しそうな千歌さん。生徒会長であるダイヤさんに反対されていることもあって、理事長である鞠莉ちゃんの応援はかなり心強いんだろう。
「Yes!デビューライブにはアキバドームを用意してみたわ!」
「何やってんの!?」
アキバドームといったら、ラブライブの決勝が行なわれるほどのステージだ。そこでデビューライブって・・・
「そんな!?」
「いきなり!?」
「嘘でしょう!?」
「き、奇跡だよ!」
曜さん・梨子さん・ダイヤさんが絶句している中、顔を輝かせている千歌さん。そんな千歌さんを見て、鞠莉ちゃんは満面の笑みを浮かべ・・・
「It`s joke!」
「えぇっ!?」
「「「「・・・ですよねー」」」」
千歌さんがショックを受ける中、溜め息をつく俺・曜さん・梨子さん・ダイヤさん。
小原家の財力なら、アキバドームだろうが貸し切りに出来るだろうからなぁ・・・一瞬本気かと思ったけど、流石にそれはないか・・・
「実際に用意するステージは、もっと身近な場所デース!」
「身近・・・?」
「どこですか・・・?」
曜さんと梨子さんの問いに、鞠莉ちゃんはウインクしながら答えるのだった。
「フフッ、それはね・・・」
*****
《梨子視点》
「ステージって・・・ここですか?」
私達が鞠莉さんに連れられてきた場所は、浦の星の体育館だった。
「Yes!ここが貴方達のデビューライブを開催する場所デース!」
頷く鞠莉さん。
「ここを満員にできたら、人数に関わらず部として承認してあげるわ」
「なっ!?」
「本当ですか!?」
驚くダイヤさんに対して、千歌ちゃんは喜びを抑えきれないようだった。
まぁ念願だったスクールアイドル部を設立できるかもしれないチャンスだし、喜ぶなという方が無理だとは思う。
「鞠莉さん!?何を勝手に・・・」
「理事長権限よ。ダイヤは黙ってて」
「ぐっ・・・!」
鞠莉さんを睨みつけるダイヤさん。この二人、何か因縁でもあるのかしら・・・
「ただし、一つ条件があります」
私達を見回す鞠莉さん。条件・・・?
「もし満員にできなかったら・・・その時は解散してもらいます」
「「「えぇっ!?」」」
まさかの解散宣告に驚く私達。
こんなに広い体育館を満員に・・・果たして私達に出来るだろうか・・・
「嫌なら断ってくれて結構よ?どうする?」
挑発的な態度をとる鞠莉さん。この人、本当に私達を応援する気があるのかしら・・・
「・・・千歌ちゃん、どうする?」
「やるしかないよ!他に手があるわけじゃないんだし!」
鞠莉さんの挑発的な態度に燃えたのか、意気込んでいる千歌ちゃん。
確かに千歌ちゃんの言う通り、他に手があるわけじゃない。やるしかないわね・・・
「ヨーソロー!了解であります!」
「頑張りましょう!」
曜ちゃんと私も応える。それを見て、鞠莉さんはニッコリと笑った。
「では、行なうということで良いかしら?」
「はい、やります!」
「よろしい」
千歌ちゃんの返事に頷くと、鞠莉さんは天くんの方を見た。顔合わせが済んだので帰ろうとした天くんを、鞠莉さんはわざわざ引き止めてここへ連れてきたのだ。
この二人は幼馴染らしいけど、それにしては距離が近すぎないかしら・・・さっきだって、鞠莉さんはずっと天くんにくっついたままだったし・・・
って、何で私はそんなことを気にしているのかしら・・・
「天、貴方にお願いがあるの」
「お願い?」
首を傾げる天くんに、鞠莉さんは微笑みながら口を開いた。
「この子達のマネージャーになってちょうだい」
「・・・は?」
「ちょっと待って下さい!?」
驚いている天くん。そこへダイヤさんが慌てて割り込んだ。
「天さんは生徒会役員です!勝手に決められては困りますわ!」
「生徒会の仕事は、毎日あるわけじゃないでしょう?それに生徒会役員でも、部活の兼任は可能なはずよ?他の生徒会役員達だって兼任してるじゃない」
「それはそうですが・・・!」
「鞠莉ちゃん、悪いけどそのお願いは断らせてもらうよ」
苦笑しながら言う天くん。
「そもそもスクールアイドル部は、まだ承認されてもいない部活でしょ?マネージャーなんて早いと思うけど?」
そう、昨日も天くんはそう言っていた。確かにまだ私達は本格的な活動も出来ていないし、マネージャーなんて早いと思う。
昨日は曜ちゃんに乗せられて、『天くんが入ってくれたら』なんて思ってしまったけれど・・・
「それに俺、マネージャーの仕事なんて・・・」
「出来ない、とは言わせないわよ」
不敵な笑みを浮かべる鞠莉さん。
「スクールアイドルのマネージャーなんて・・・天にはお手の物でしょう?」
「っ!?」
息を呑む天くん。スクールアイドルのマネージャーがお手の物・・・?
「私が何も知らないと思った?私達は疎遠になってしまったけど、貴方のお母様と私のママは今でも連絡を取り合っているのよ?」
「・・・あのお喋りクソババア」
悪態をつく天くん。表情が歪んでいる。
「この子達を、マネージャーとして支えてあげてほしいの。天なら出来るでしょ?」
「出来ないよ」
鞠莉さんの言葉をバッサリ切り捨てる天くん。
「俺で力になれることがあるなら、協力したいとは思ってる。でもマネージャーにはならないし、スクールアイドル部に入る気も無い。鞠莉ちゃんの頼みでも、それは聞けない」
明確な拒絶。鞠莉さんが溜め息をつく。
「そう・・・それなら幼馴染の小原鞠莉としてではなく、理事長の小原鞠莉として貴方に命令するわ。この子達のマネージャーになりなさい。さもなくば、貴方を浦の星から追放します」
「鞠莉さん!?何を言い出すのですか!?」
ダイヤさんが鞠莉さんに食ってかかる。
「理事長が一生徒に何かを強要するなど、あってはなりませんわ!そもそも、正当な理由もなく追放など出来るわけが・・・」
「共学化を白紙に戻せば良い話よ。そうすれば天は、浦の星から出ていかざるをえなくなるわ。そして小原家は、浦の星の運営に顔が利く・・・それくらい十分に可能よ」
「正気ですの貴女!?」
「至って正気よ。そもそも、天を浦の星に呼んだのは私なんだから」
「「なっ!?」」
驚いている天くんとダイヤさん。鞠莉さんが天くんを呼んだ・・・?
「天の中学の理事長さんから天を推薦された時、運命だと思ったわ。天がいれば、私の願いはきっと叶う・・・そう思ったわ」
「願い・・・?」
訝しげな天くんに対し、悲しそうに微笑みながら何も答えない鞠莉さん。
一方、ダイヤさんはわなわなと身体を震わせていた。
「鞠莉さん、貴女・・・最初から利用するつもりで、天さんを浦の星に呼んだというのですか・・・!」
「・・・その通りよ」
乾いた音が体育館に響く。ダイヤさんが鞠莉さんの頬を引っ叩いていた。
「見損ないましたわッ!天さんは貴女の幼馴染なのでしょう!?その天さんを利用する為に呼んだですって!?恥を知りなさいッ!」
「・・・天、貴方ずいぶんダイヤに好かれたのね。こんなダイヤ初めて見るわ」
叩かれた頬を押さえ、天くんへと視線を移す鞠莉さん。
「いくら蔑まれようと、私は要求を変えるつもりは無いわ。天、マネージャーになりなさい。私は本気よ」
「鞠莉さん!?いくら何でもそんな無理矢理・・・」
「そうですよ!私達だってそんなやり方は望んで・・・」
「貴女達は黙ってて。天がマネージャーにならないと言うのなら、さっきのデビューライブの件も白紙にするわ。部の承認もしません」
「そんな!?」
千歌ちゃんと曜さんに冷たい眼差しを向ける鞠莉さんに、私も黙っていられなかった。
こんな状況、天くんがあまりにも可哀想すぎる。やりたくもないマネージャーをやれと強要され、断れば学校からの追放及び私達を不利な状況に追い込むと脅されているのだ。
こんなのって・・・
「・・・分かりました」
溜め息をつく天くん。
「引き受けますよ・・・マネージャー」
「天くん!?本当に良いの!?」
「仕方ないでしょう。それ以外の選択肢が無いんですから」
私の言葉に、天くんが苦笑する。
「せっかく浦の星に来たのに、追放されたくありませんから。スクールアイドル部だって、ちゃんと立ち上げてほしいですし」
「天くん・・・」
千歌ちゃんと曜ちゃんも、悲痛な表情を浮かべていた。マネージャーになってほしいとは思ったけど、こんなやり方するなんて・・・
「・・・感謝するわ、天」
鞠莉さんが天くんに触れようと手を伸ばし・・・思いっきり弾かれた。
「・・・触らないで下さい」
「そ、天・・・?」
鞠莉さんを見る天くんの目は、見たこともないほど冷たいものだった。その目に見つめられた鞠莉さんは、怯えたように一歩下がる。
「マネージャーの件、確かに引き受けました。ただし条件があります」
「な、何かしら・・・?」
「まず一つ目・・・スクールアイドル部が設立された場合でも、スクールアイドル部への所属を強要しないこと。マネージャーとしての仕事はするつもりですが、スクールアイドル部に所属するつもりはありませんので。勿論設立されなかった場合は、マネージャーは辞めます。よろしいですね?」
「え、えぇ・・・マネージャーの仕事をしてくれるなら、所属までは強要しないわ」
天くんの言葉には、感情が全くこもっていなかった。まるで機械音声のようだ。
「二つ目・・・生徒会の仕事の優先を許可すること。俺の所属はあくまでも生徒会ですので、そちらが最優先です。よろしいですね?」
「え、えぇ・・・」
鞠莉さんが恐る恐る頷く。今の天くんがよほど怖いらしい。
「そして三つ目・・・貴女がどこまでこれまでの俺を知っているのか、俺も把握はしていませんが・・・」
鞠莉さんを睨みつける天くん。
「他の人達に、俺の情報は一切話さないこと・・・よろしいですね?」
「わ、分かったわ・・・」
「・・・では、マネージャーを引き受けます。不本意ではありますが」
踵を返し、体育館の出口へと歩いていく天くん。
「そ、天っ!」
「人を気安く名前で呼ばないで下さい・・・小原理事長」
名前を呼ぶ鞠莉さんに冷たく返した天くんは、忌々しそうに吐き捨てた。
「俺は今、この学校に来てしまったことを・・・心の底から後悔してますよ」
その言葉は、私達の胸に深く突き刺さるのだった。
どうも~、ムッティです。
さて、ようやく鞠莉ちゃんが登場しましたが…
すみません、いきなり横暴な態度をとっております…
しばらくは天が鞠莉ちゃんに冷たくなるかと思いますが、物語の都合上何卒ご理解下さいませ(>_<)
それではまた次回!以上、ムッティでした!