「・・・ここに来るのも、久しぶりだな」
呟く俺。
俺は今、絵里姉と亜里姉が住むマンションへとやって来ていた。
つい数ヶ月前までは、俺も住んでいた場所・・・
「・・・緊張するな」
この家を出てからというもの、絵里姉とは一度も会っていない。
それどころか電話で話したり、ラインでやりとりしたことも無い。
その絵里姉と、俺は今から顔を合わせようとしているのだ。
「・・・よし」
意を決し、亜里姉に渡された家の鍵を取り出す。
震える手で鍵穴に差し込み、ゆっくりとひねった。
ガチャッという音と共に鍵が開き、恐る恐るドアを開ける。
「ただ・・・失礼します」
『ただいま』と言うことを躊躇ってしまい、慌てて言い直しながら中に入る。
中は静まり返っており、本当に人がいるのか疑わしいレベルだった。
「寝てるのかな・・・?」
首を傾げつつ、ゆっくりと廊下を進む。
たった数ヶ月離れていただけなのに、家の中がとても懐かしく感じられた。
感傷に浸りつつ歩いていると、洗面所の方で音がした。
ドキドキしつつ、洗面所のドアの前に立つ。このドアの向こうに、絵里姉がいるんだ・・・
俺は震える手でドアの取っ手に手をかけ、そして・・・勢いよくドアを開けた。
「絵里姉ッ!」
「えっ・・・?」
そこにいたのは、間違いなく絵里姉だった。
普段はポニーテールにしている金髪を下ろし、滴る水をタオルで拭いて・・・
あっ・・・
「そ、天・・・?」
絵里姉の白い肌が、みるみるうちに赤く染まっていく。
大きな胸、くびれた腰、しなやかな太もも・・・全てが露わになっており、完全に生まれたままの姿だった。
「・・・失礼しました~」
ゆっくりとドアを閉める。
さて・・・帰ろう。
「待たんかいいいいいいいいいいっ!」
ドアの隙間から伸びてきた絵里姉の手に、襟首を掴まれる俺なのだった。
*****
「・・・で?」
「大変申し訳ございませんでした」
ソファに座る絵里姉に見下ろされ、土下座して謝る俺。
俺達は今、リビングへと移動してきていた。
「まさかウチの弟に、姉の裸を覗く趣味があったとは思わなかったわ」
「ご馳走様でした」
「まさかの感謝!?そこは否定しなさいよ!?」
「絵里姉、立派になったね」
「私の方が年上よねぇ!?誰目線なの!?」
「元気そうで安心したわ。それじゃ」
「だから待ちなさいってば!?」
ソファから立ち上がろうとした絵里姉だったが、足元がふらついて倒れそうになった。
慌てて支える俺。
「・・・体調を崩してるって聞いたけど、ホントにしんどそうだね」
「・・・どうってことないわよ」
俺から離れ、再びソファに座る絵里姉。
そのまま俺を睨みつける。
「・・・何しに来たのよ。この家を出て行ったくせに」
「・・・何してるんだろうね、ホント」
溜め息をつく俺。
こうなることは分かってたのに・・・
「まぁとりあえず・・・夕飯でも作ろっか」
「は・・・?」
「冷蔵庫は・・・うわぁ、グチャグチャ・・・ちゃんと整理しなよ、亜里姉・・・」
「ちょ、何してるのよ!?」
「何って・・・夕飯作ろうとしてるんだけど?」
「アンタ本当に何しに来たのよ!?」
絵里姉のツッコミ。やれやれ・・・
「ちゃんと栄養のあるもの食べなきゃ、いつまで経っても体調良くならないよ?とりあえず何か作るから、横になって休んでな」
「勝手なことしないで!今さら何を・・・」
「先に言っておくけど、俺は謝りに来たわけじゃないから」
準備を進めつつ、冷たく言い放つ俺。
「俺はあの時の自分の判断を、間違ってたとは思わない。内浦へ行って良かったと思ってるし、浦の星に入って良かったと思ってる」
「っ・・・」
「でも絵里姉だって、自分が間違ってるとは思ってないでしょ?だったら話し合ったところで、何の意味も無い。この話は平行線のまま終わるよ」
「・・・じゃあ何でここに来たのよ」
尋ねてくる絵里姉。
やっぱり言葉にしなきゃ伝わらないか・・・
「・・・弟が姉の心配をするのは当然でしょ」
「っ・・・」
「喧嘩してたって、体調を崩してるって聞いたらそりゃ心配になるよ。弟なんだから当たり前じゃん」
「・・・だったらッ!」
怒りで表情を歪める絵里姉。
「だったらッ!どうしてこの家を出て行ったのよッ!?どうして私の言うことも聞かずにッ!浦の星のテスト生の話を引き受けたりしたのよッ!?」
俺に詰め寄り、胸ぐらを掴む絵里姉。
「どうして私をっ・・・置いていったのよぉっ・・・!」
絵里姉の頬を涙が伝う。
足に力が入らなくなったのか、またしても倒れそうになる絵里姉をそっと支える。
「・・・言ったでしょ。今のままじゃ平行線で終わるんだから、話し合ったって何の意味も無いって」
俺は絵里姉を抱きかかえると、ソファまで運んで横に寝かせた。
「・・・夕飯ができたら起こすから。それまでゆっくり寝てなよ」
絵里姉の身体に、近くに置いてあったタオルケットをかける。
絵里姉はそれを掴むと、頭まで勢いよく引っ張って顔を隠した。
「ひっぐ・・・ぐすっ・・・」
絵里姉のすすり泣く声が聞こえる。
俺は黙ってキッチンへ戻ると、黙々と夕飯作りを進めるのだった。
*****
《梨子視点》
「ハラショー!このお肉美味しいー!」
「ちょっと亜里沙!?それ私の肉でしょうが!」
「アハハ・・・」
苦笑する私。
私は今、亜里沙さんと一緒に焼肉を食べにやって来ていた。
そしてこの場には、もう一人の人物がいる。
「ほら、梨子も食べなさい。いい感じに焼けたわよ」
「ありがとうございます、にこさん」
お皿にお肉をのせてくれるにこさんに、お礼を言う私。
あのμ'sのメンバー、矢澤にこさんが私の目の前に座っていた。
「しっかしまぁ、天がまた東京に帰って来てたとはね・・・何でアイツ連絡を寄越さないのよ・・・」
「ホントですよ!言ってくれればすぐにでも会いに行ったのに!」
頬を膨らませている亜里沙さん。
「にこさんだって、あんなに天に会いたがってましたもんね!」
「わ、私は別に・・・まぁ、会いたかったけど」
急に頬を赤らめ、恥ずかしそうに呟くにこさん。
むっ、もしやにこさん・・・
「『天くんのことが好きなのかな・・・?』とか思ってるでしょ」
「えぇっ!?何で分かったんですか!?」
「思いっきり顔に出てるわよ」
呆れているにこさん。
「言っとくけど、私は天に恋愛感情を抱いたことは無いわよ。ことりや海未、真姫みたいなガチ勢じゃないからね」
「じゃあ厄介勢ですか?」
「・・・なるほど、凛の入れ知恵ね」
溜め息をつくにこさん。
「花陽や希とも違うわよ。っていうか、あの二人もガチ勢みたいなもんでしょ。『求められれば応える』って、多少なりとも恋愛感情が無いと応えられるわけないじゃない」
「た、確かに・・・」
つまり、μ'sの半分以上が敵っていうこと・・・?
「・・・道は険しいんですね」
「まだ何も聞いてないけど、アンタが天に惚れたってことはよく分かったわ」
「えぇっ!?梨子ちゃん、天のことが好きなの!?」
「何でこの流れで気付かなかったのよ・・・」
再び溜め息をつくにこさん。
「じゃあにこさんにとって、天くんってどんな存在なんですか?」
「んー、そうねぇ・・・」
考え込むにこさんだったが、やがてクスッと笑みを零した。
「・・・光、かしら」
「光・・・?」
「そう、光。一人ぼっちだった時も、嫌になるくらい落ち込んでいた時も・・・どんな時でも、天は私を照らしてくれた。いつだって手を差し伸べてくれた。だから私は、心の底から天を信じることが出来るわ」
微笑むにこさん。
「だからこそ、私は光を・・・天を守りたい。恋してるわけじゃないけど、あの子の為なら私は何でも出来るわよ」
「っ・・・」
息を呑む私。
そこまで天くんのことを・・・
「だからこそ、これだけは覚えておきなさい」
真顔で私を見るにこさん。
「アンタ達Aqoursのメンバーが、もし天を傷付けるようなマネをしたら・・・私は絶対に許さないから」
「・・・肝に銘じます」
思わず冷や汗が出る。にこさんの目が、言葉の本気度を物語っていた。
鞠莉さん、殺されるんじゃないかしら・・・
「ちょっとにこさん、梨子ちゃんが怖がってるじゃないですか。止めてあげて下さい」
「初対面はガツンとかますくらいがちょうど良いのよ。舐められちゃいけないの」
「あっ、お肉も~らいっ♪」
「亜里沙ああああああああああっ!」
亜里沙さんには思いっきり舐められていた。
凄いわね亜里沙さん・・・
「気にしないでね、梨子ちゃん。にこさんはこう見えて優しい人だから」
「は、はい・・・」
「ちょっと!?『こう見えて』ってどういう意味よ!?」
「そのままの意味です。今のにこさん、メッチャ怖いですからね?」
「うぐっ・・・」
言葉に詰まるにこさん。
にこさんをやり込めるなんて、凄いわね亜里沙さん・・・
「っていうか亜里沙さん、今さらですけど帰らなくて良いんですか?そもそも夕飯の買い出しをしに来たんじゃ・・・」
「夕飯は天に任せておけば大丈夫だよ。さっき天にも『私は焼肉食べに行くから、お姉ちゃんの夕飯よろしく』ってラインしといた」
笑う亜里沙さん。
「久々にお姉ちゃんと会うわけだし、しばらくは二人っきりにしてあげたいからね」
「天くん、大丈夫ですかね・・・?」
「梨子ちゃんが喝を入れてくれたんだもん。大丈夫だよ」
微笑む亜里沙さん。
「・・・ありがとね、梨子ちゃん。天の背中を押してくれて」
「い、いえ・・・私も強く言い過ぎちゃったというか・・・」
「あれくらいがちょうど良かったんだよ。そうじゃなきゃ、天もなかなか覚悟が決まらなかっただろうし」
「天や絵里のことをよく知ってる分、私達は強く言えなかったからね」
苦笑するにこさん。
「あの二人に必要なのは、ちょっとしたキッカケなのよね。それさえあれば、後は自然と仲直り出来ると思うんだけど」
「そのキッカケを梨子ちゃんが作ってくれたし、何とかなりますよ。二人ともお互いを想い合ってるんですから」
笑いながらそう言う亜里沙さん。
「・・・亜里沙さんは信じてるんですね。天くんのことも、お姉さんのことも」
「勿論」
亜里沙さんはそう言い切ると、柔らかな笑みを浮かべるのだった。
「私の自慢の弟と、自慢のお姉ちゃんだもん」
どうも〜、ムッティです。
世間では『鬼滅の刃』とコロナウイルスが流行っていますが、皆様いかがお過ごしでしょうか?
自分は風邪をひいてしまい、体調不良の日々を過ごしていました(´・ω・`)
最初は『え、まさかコロナ!?いやインフル!?』と焦りましたが、病院に行ったらただの風邪だったという・・・
皆さんも気を付けて下さいね(お前が言うな)
さてさて、遂に絵里ちゃん登場です!
・・・いきなり全裸でしたけど(笑)
アレです。天はそういう星の下に生まれたんです。
・・・チクショウ(゜言゜)
果たして二人は仲直り出来るのか・・・
次の話は明日投稿予定です。
それではまた次回!以上、ムッティでした!