「・・・懐かしいな」
廊下を歩きながら、小さく独り言を呟く。
俺は今、音ノ木坂学院へとやって来ていた。
こうやって高等部の校舎を歩いていると、あの頃のことを思い出すな・・・
『今日も練習に行くにゃー!』
『ちょ、凛ちゃん!?走ったら危ないよ!?』
『花陽!?アンタも走るんじゃないわよ!?』
『全く、困った一年生達ですね・・・』
『フフッ、元気があって良いんじゃないかな?』
『元気なのは良いのだけれど、廊下は走らないでほしいわね・・・』
『全く、子供なんだから・・・』
『まぁまぁ、放課後で人も少ないし大丈夫やない?』
練習場所の屋上へと向かう皆の後ろ姿を、今でも鮮明に思い出せる。
そして・・・
『ほら天くん!早く行こう!』
笑顔で俺の手を引く、サイドテールの少女。今頃何してるのかなぁ・・・
そんなことを考えながら歩いていると、目的地である部屋の前へと着いた。
一つ息を吐き、ドアをノックする。
「どうぞ~」
「失礼します」
返事が返ってきたので、ドアを開けて中に入る。
すると・・・
「天くううううううううううんっ!」
「むぐっ!?」
一瞬にして視界が塞がれ、顔が柔らかい感触に包まれた。
「会いたかったわー!寂しくて死んじゃうかと思ったわよ!」
「ふぉふぉふぉふふぁふぃふぇふふぁふぁふぁふぁふぁ(どこのウサギですか貴女は)」
「あんっ♡そんなところで喋っちゃダメっ♡」
「ふぉふぇふぃふぉふふぃふぉふぉ?(俺にどうしろと?)」
「んあっ♡フフッ、ゴメンなさい♪」
ようやく解放され、俺を抱き締めていた女性の姿を確認できた。
ベージュ色の長い髪、独特なサイドテール・・・ことりちゃんによく似た美女である。
「お久しぶりです、南理事長」
「むぅ・・・その呼び方は嫌!」
「子供ですか貴女は」
「嫌なものは嫌なのっ!名前で呼んでっ!」
「はいはい、分かりましたよ・・・」
俺は溜め息をつくと、女性に一礼した。
「お久しぶりです・・・ひなさん」
「えぇ、久しぶり」
笑う女性・・・南ひなさん。
ことりちゃんのお母さんであり、音ノ木坂学院の理事長である。
俺に浦の星のテスト生の話を持ちかけてきた張本人だ。
「天くんったら、全然連絡くれないんだもの。心配してたのよ?」
「いや、定期的に連絡してましたよね?浦の星でのことを報告する為に」
「一ヶ月に一度だけじゃない!本当なら毎日ほしいわよ!」
「何を彼女みたいなこと言ってるんですか」
「そ、そんな・・・彼女だなんて・・・キャッ♡」
「照れないで下さい。あと、もう少し自分の歳を考えて下さい」
ことりちゃんが今年で二十二歳だから、恐らく四十~五十歳のはずなんだけど・・・
二十代~三十代にしか見えないのが恐ろしい。
スタイルも良いし、ことりちゃんと並んでも親子ではなく姉妹に見えてしまうほどだ。
「フフッ、まぁ彼女の座はことりに譲るわ」
「自分の娘を何だと思ってるんですか」
「ゆくゆくはことりが天くんのお嫁さんになって、私は天くんのお義母さんになるの!まさに完璧な将来設計ね!」
「俺とことりちゃんの気持ちが無視されている件について」
「あら、ことりじゃ不満かしら?」
「まさか。俺は幸せですけど、ことりちゃんにも相手を選ぶ権利があるでしょうに」
「まだ気付いてないのね・・・まぁ天くんらしいけど」
ひなさんは何故か溜め息をつくと、柔らかい笑みを俺に向けるのだった。
「それはさておき・・・お帰りなさい、天くん。浦の星での話、たっぷり聞かせてもらえるかしら?」
*****
「そう・・・色々あったのね」
「えぇ、まぁ」
お茶を飲みながら頷く俺。
俺は内浦での生活について、ひなさんに一通りのことを話し終えていた。
「それにしても、奈々ったら事情を話しちゃって・・・」
「むしろ何で隠してたんですか貴女は」
「その方が面白そうだったんだも~ん♪」
「歳を考えろオバさん」
「辛辣!?」
ショックを受けるひなさん。
全く、この人ときたら・・・
「っていうか、ひなさんと奈々さんってどういう関係なんですか?」
「学生時代の先輩と後輩よ。卒業してからも交流があってね」
肩をすくめるひなさん。
「だから奈々の娘さんが音ノ木坂に入ってきた時は、私も嬉しかったんだけど・・・彼女には、ずいぶん苦しい思いをさせてしまったみたいね。奈々から話を聞くまで、私は気付くことが出来なかったわ」
「・・・そういうのを表に出さずに、抱え込んじゃう人ですからね」
きっと梨子は周りに気を遣って、元気に振る舞っていたんだろう。
周りの人に頼ることもなく、一人でもがき苦しんでいたんだろうな・・・
「だからこそ、天くんには感謝してるわ。彼女を救ってくれたんだもの」
「いや、救ったなんて大げさな・・・」
「あら、奈々はそう言ってたわよ?ピアノコンクールが上手くいったのも、天くんのおかげだって感謝してたもの」
「梨子の努力の賜物ですよ。俺は何もしてませんから」
「相変わらず謙虚ねぇ・・・まぁ、そういうことにしておきましょうか」
苦笑するひなさん。
「内浦でも楽しくやってるみたいで、安心したわ。絵里ちゃんとも仲直り出来たみたいだし、本当に良かった」
「ご心配をおかけしてすみません」
「良いのよ。喧嘩の原因を作ってしまったのは、他でもない私なんだから・・・本当にごめんなさいね」
謝るひなさん。
そんなひなさんに、俺は聞いてみたいことがあった。
「そもそも、どうしてひなさんは俺をテスト生に推薦したんですか?他にも良い生徒はいたでしょうに」
「・・・天くんが一番適任だと思ったのよ」
窓の外を眺めるひなさん。
「μ'sの皆を繋ぎ、支え、音ノ木坂の廃校阻止に尽力してくれた天くんなら・・・同じように廃校の危機に直面している浦の星の、力になってくれるんじゃないかって。そう思って、鞠莉ちゃんに天くんを推薦したの。まさか幼馴染とは思わなかったけどね」
「ひなさんと鞠莉はどういう関係なんですか?鞠莉は小原家のコネクションだって言ってましたけど」
「鞠莉ちゃんのお父さんとウチの旦那って、昔からの友人なのよ。私が音ノ木坂の理事長だっていうことを知った鞠莉ちゃんが、お父さんを通じてコンタクトをとってきてね。それ以来、色々とアドバイスを求められるようになったの」
「・・・相変わらず凄い行動力だな」
そうやって自分から積極的に行動を起こせるのが、鞠莉の凄いところだと思う。
流石は経営者の娘といったところか・・・
「でも、天くんをテスト生に推薦して正解だったわ」
笑みを浮かべるひなさん。
「Aqoursのことは、私もチェックさせてもらってるけど・・・皆本当に活き活きしてる。きっと良いマネージャーがいてくれるからね」
「さぁ、どうでしょうね?」
肩をすくめる俺。
「果たして俺は、彼女達にとって良いマネージャーなのかどうか・・・」
「フフッ、それなら本人達に聞いてみると良いわ。私には答えが分かる気がするけどね」
ひなさんはそう言うと、柔らかく微笑んだ。
「彼女達の力になってあげて。それはきっと、天くんにしか出来ないことだから」
「・・・仰せのままに」
俺の返事に、満足そうに笑うひなさんなのだった。
どうも〜、ムッティです。
今回はことりちゃんママが登場しましたね。
娘の名前が『ことり』なので、『ひな』という名前にしてみました。
漢字にしようか迷いましたが、娘が平仮名なのでそのまま平仮名にしました。
っていうか・・・若すぎません?(今さら)
しかもことりちゃんそっくりだし・・・
ホントμ'sやAqoursメンバーのママ達って、若くて綺麗ですよねー。
『ママライブ!』と『ママライブ!サンシャイン!!』やらないかな←
それではまた次回!以上、ムッティでした!