あと、あいにゃさんが可愛すぎてヤバい。
『十千万』の二階にある千歌さんの部屋で、千歌さんと俺は正座して向き合っていた。千歌さんからの連絡を受けたであろう曜さん・梨子さんも加わり、俺達四人はテーブルを囲む形で座っている。
先ほどの一件もあり、部屋の中は重苦しい雰囲気で包まれて・・・
「もぐもぐ・・・このクッキー・・・もぐもぐ・・・メッチャ・・・もぐもぐ・・・美味しい・・・もぐもぐ・・・流石は・・・もぐもぐ・・・志満さん・・・もぐもぐ・・・」
「凄い勢いでクッキー食べてる!?」
「口の中に物を入れた状態で喋らないのっ!」
いなかった。
梨子さんから注意されてしまったので、口の中のクッキーを紅茶で流し込む・・・うん、紅茶も美味しい。
「ごめんなさい、お母さん」
「誰がお母さんよ!?」
「え、ママって呼んだ方が良いですか?」
「そういう問題じゃないんだけど!?」
「じゃあ間をとってオカンで」
「だからそういう問題じゃないってば!?」
ぜぇぜぇ息を切らしながらツッコミを入れてくれる梨子さん。
「まぁ、疲れ切っている梨子さんは放置するとして・・・」
「誰のせいよ!?」
「それにしても、志満さんと美渡さんが千歌さんのお姉さんだったとは・・・」
世の中狭いものである。知り合いのお姉さん達が、まさか学校の先輩の家族とは・・・
「確かに苗字は『高海』だし、妹がいるとは聞いてたし、浦の星に通ってるとは聞いてたし、最近スクールアイドルにハマってるらしいとは聞いてたけど・・・まさかですね」
「全然まさかじゃないよねぇ!?それ私しかいないよねぇ!?何で気付かないの!?」
「いやぁ、鈍感なもので。すみません千歌さん・・・いや、義妹さん」
「何で言い直したの!?」
「俺が志満さんと結婚したら、美渡さんと千歌さんは俺の義妹になりますから」
「こんな義兄さん嫌ああああああああああっ!?」
梨子さんに続き、千歌さんもダウンして机に突っ伏す。仕方ないので、俺は右隣の曜さんに向き直った。
「ところで曜さん、もう夜ですけど・・・ここに来てて良いんですか?バスが無くなって帰れなくなりません?」
「あ、それは大丈夫。今日は千歌ちゃんの家に泊まらせてもらうから」
大きめのリュックを持ち上げる曜さん。
「千歌ちゃんから連絡もらって、大急ぎでお泊りの準備したんだよ。まさか千歌ちゃんの家に天くんが来るなんて、思ってもみなかったなぁ」
「お騒がせしてすいません・・・梨子さんは大丈夫なんですか?」
「うん。私の家は隣だから」
「そうなんですか!?」
マジか・・・っていうか、家の隣が旅館ってある意味凄いな・・・
「それより、天くんこそ大丈夫なの?」
机に突っ伏していた千歌さんが顔を上げる。
「夕飯のこととか、家に連絡してる様には見えなかったけど・・・」
「あ、一人暮らしなんで大丈夫です」
「「「一人暮らし!?」」」
三人の声がハモる。あれ、言ってなかったっけ?
「俺、元々は家族と東京に住んでたんですよ。それが浦の星へ入学することになって、一人でこっちに引っ越してきたんです」
「天くんも東京に住んでたの!?」
「えぇ、一応」
流石に梨子さん一家のように、家族で内浦に引っ越すことは出来なかったが。だから俺だけこっちに来たのだ。
「だから志満さんからのおすそ分けって、ホントありがたいんですよね。一応料理は出来ますけど・・・人の作ってくれたものを食べられるって、凄く幸せなことですから」
「天くん、これからはウチで夕飯食べていきなよ!」
「私の家も大歓迎よ!いつでも来てくれて良いからね!」
何故か涙目の千歌さんと梨子さん。あれ、同情されてる?
「天くん、ウチにもご飯食べに来てね!」
「いや、気持ちは嬉しいですけど・・・曜さんの家だと帰れなくなりますから」
「お泊りでも大丈夫だよ!」
「思春期の男子に対して、もう少し警戒心を持ってくれません?」
呆れている俺に構わず、目を潤ませながら俺の手を握ってくる曜さん。いや、気持ちはメッチャ嬉しいんだけども。
「まぁそれはさておき・・・とりあえず、マネージャーの件について話しましょうか」
「「「っ・・・」」」
俯く三人。やっぱり責任を感じているようだ。
「まず最初に言っておきますが、俺がマネージャーをやるのは小原理事長に脅されたからです。悪いのは小原理事長であって、千歌さん達には何の非もありません。なので責任を感じる必要は無いですよ」
「いや、でも・・・」
「異論は認めません」
千歌さんが申し訳なさそうに口を開くが、強引に遮る。
「俺はスクールアイドルを目指す千歌さん達を応援してましたし、俺で力になれることがあるなら協力したいとも思ってました。スクールアイドル部に入ったり、マネージャーになったりするつもりはありませんでしたが・・・それでも、陰ながら支えていけたらって。だから『自分達がスクールアイドルをやろうとしたせいだ』なんて、絶対に思わないで下さい。そう思われることの方が、俺はよほど悲しいです」
「天くん・・・」
「・・・一つ、聞いても良いかしら?」
梨子さんがおずおずと口を開く。
「天くんならスクールアイドルのマネージャーなんてお手の物だって、あの時鞠莉さんが言ってたけど・・・どういう意味なのかな?」
「・・・申し訳ないんですけど、今は話せません」
「あ、言いたくないなら大丈夫よ!?無理に聞いたりしないから!」
頭を下げる俺を見て、慌てる梨子さん。気を遣わせちゃったな・・・
「・・・まぁとにかく。マネージャーをやることになったからには、精一杯やらせてもらいます。経緯が経緯なんで、正直複雑かとは思いますが・・・」
「本当に良いの・・・?」
曜さんが気遣わしげに俺を見ている。
「あんなにマネージャーをやることを拒否してたのに・・・大丈夫なの?」
「・・・曜さん」
「何・・・?」
「好きです」
「うん・・・えぇっ!?」
ビックリしている曜さん。顔がどんどん赤くなっていく。
「きゅ、急にそんな・・・!」
「あ、恋愛的な意味じゃないですよ。人としてです」
「紛らわしいわっ!」
勘違いが恥ずかしかったのか、耳まで真っ赤にしながら両手で顔を覆う曜さん。千歌さんと梨子さんが同情的な視線を送っている。
「曜ちゃん、ドンマイ・・・」
「天くん、今のは誰でも勘違いするわよ・・・」
「そうですか?」
まぁとりあえず、悶絶している曜さんは置いといて・・・
「千歌さんのことも梨子さんのことも、俺は好きですよ。尊敬できる先輩だと思ってます。もしそう思ってなかったら、学校を追放されるとしてもマネージャーを引き受けたりしなかったでしょうね」
さっき花丸にも言ったことだが、学校を追放されるだけなら俺はマネージャーを断っていた。それでもマネージャーを引き受けたのは、スクールアイドル部を立ち上げてほしかったから。
それはつまり・・・尊敬できる先輩方に、夢を叶えてほしかったからだ。
「俺がマネージャーをやりたくなかったのは、先輩方が嫌いだからじゃありません。まだ理由は言えませんけど、それでも・・・先輩方が好きだから、俺はマネージャーを引き受けたんです。それだけは覚えておいて下さい」
「天くん・・・」
涙目の千歌さん。俺は立ち上がると、三人に向かって頭を下げた。
「さっきはちょっと感情的になって、場の空気を悪くしてしまってすみませんでした。マネージャーとして精一杯頑張りますので、これからよろしくお願いします」
「っ・・・天くんっ!」
「うおっ!?」
勢いよく抱きついてくる千歌さん。思わずその場に倒れこんでしまう。
「ごめんね・・・ひっぐ・・・ごめんね・・・!」
「・・・はいはい、泣かないで下さい」
苦笑しながら、泣いている千歌さんの頭を撫でる。
「謝る必要なんか無いのに・・・千歌さんはお人好しですね」
「・・・それは天くんもでしょ」
優しい温もりに包まれる。梨子さんが後ろから俺を抱き締めていた。
「天くんも謝る必要なんか無いのに・・・本当にお人好しなんだから・・・ぐすっ」
「あれ、梨子さん泣いてます?」
「泣いてないわよ・・・ぐすっ」
確実に泣いてるじゃないですか・・・というツッコミは、流石に無粋だと思ったのでしなかった。
「うわあああああんっ!天くうううううんっ!」
「感情を微塵も隠す気の無い人が来た!?」
俺、千歌さん、梨子さんをまとめて抱き締める曜さん。ちょ、苦しいんだけど・・・
「皆で頑張ろうっ!スクールアイドル部を立ち上げようっ!」
「ちょ、曜さん・・・分かったから落ち着いて・・・」
「うわあああああんっ!」
「・・・全然人の話聞いてないし」
まぁ、不思議と悪い気はしてないけど。今は好きにさせておこう。
「っていうか梨子さん、結局俺に抱きついてるじゃないですか。やっぱり俺、年上の女性に抱きつかれやすい体質なのかも」
「か、勘違いしないでよね!?これはあくまで友愛的な意味でしてることだから!」
「梨子ちゃん、今のは世間じゃツンデレって言われるセリフだよ?」
「千歌ちゃん!?何よツンデレって!?私はデレてなんかないんだからね!?」
「千歌さん聞きました?テンプレの台詞でしたよね?」
「うん、やっぱり梨子ちゃんはツンデレなんだね」
「だから違うってば!?」
「うわあああああんっ!」
最早カオスとも言うべき状況である。
それでも・・・先輩方との距離が、少しだけ縮まったような気がした俺なのだった。
どうも~、ムッティです。
さて、とりあえず天がマネージャーになりましたね。
千歌ちゃん達とは良い感じに仲が深まっていますが、果たして鞠莉ちゃんとはどうなるのか…
そして海の音を聴いて以来、出番の無い果南ちゃんの登場はいつになるのか…
これからの展開をお楽しみに(・∀・)ノ
それではまた次回!以上、ムッティでした!