絢瀬天と九人の物語   作:ムッティ

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昨日は暑かったのに、今日はメッチャ寒い…

気温の変化が激しすぎてついていけない…


縁は大切にすべきである。

 「あっ・・・天くん・・・ダメ・・・!」

 

 「そんなこと言っちゃって・・・梨子さんなら、もっとイケるでしょう・・・?」

 

 「ダメ・・・それ以上は・・・あっ・・・!」

 

 「よし、イキますね・・・!」

 

 「ああああああああああっ!?」

 

 悲鳴を上げる梨子さんに構わず、俺はただ力を込め・・・

 

 「痛い痛い痛い!?天くん待って!?ホントギブ!ギブだから!」

 

 「梨子さんの悲鳴が聞けるなら、俺はいくらでもこの背中を押しますよ」

 

 「ドS!鬼!悪魔!」

 

 「おっと、力加減をミスりました」

 

 「いやああああああああああっ!?」

 

 梨子さんの背中を押していた。

 

 マネージャーを引き受けてから数日、俺は千歌さん達の練習に付き合っていた。今は練習前の柔軟体操をしており、俺は梨子さんとペアを組んで身体をほぐしているのだった。

 

 「天くん、ホント容赦ないよね・・・私もやられたけど、痛かったなぁ・・・」

 

 「そうかな?私はそんなことなかったけど?」

 

 千歌さんと曜さんも、そんな会話をしながら柔軟体操をやっている。まぁ曜さんは水泳部だけあって、身体も柔らかかったしな。

 

 「さて、これぐらいにしておきますか」

 

 「ハァ・・・ハァ・・・」

 

 練習場所の砂浜に突っ伏し、息切れしている梨子さん。やれやれ・・・

 

 「大丈夫ですか?練習はこれからですよ?」

 

 「天くんのせいでしょうが!」

 

 「梨子さんの身体が硬いせいです。だから頭も固いんですよ」

 

 「うぐっ・・・」

 

 悔しそうな梨子さん。どうやら自覚はあるらしい。

 

 「俺の知り合いのピアノやってる人は、キチンと柔軟体操を続けて身体が柔らかくなりましたよ。まぁ未だに頭は固いままですけど」

 

 「じゃあ関係ないじゃない!?」

 

 「でも、ピアノはメッチャ上手くなりました」

 

 「ちゃんと柔軟体操やらなくちゃ!」

 

 チョロい梨子さん。

 

 まぁ上手くなったというより、前より楽しそうにピアノを弾くようになったっていう話なんだけどね。柔軟体操も関係無いし。

 

 「さて、ランニングいきますか」

 

 「おー!」

 

 「ヨーソロー!」

 

 千歌さんと曜さんが元気よく走り出し、その後を梨子さんと俺が追う。これがいつものランニングの陣形だった。

 

 「ライブ、絶対成功させるんだ!私達なら出来る!」

 

 息巻いている千歌さん。

 

 ライブの日まであまり時間も無いが、それまでに何とかスクールアイドルとしての形にはしたいところだ。会場を満員にできたとしても、パフォーマンスがダメなら小原理事長も納得しないだろう。

 

 そもそも、μ's大好きウーマンのダイヤさんがブチギレるだろうし・・・ん?μ's?

 

 「千歌さん、一つ聞いても良いですか?」

 

 「ん?何?」

 

 「グループの名前って決まってるんですか?」

 

 「・・・あっ」

 

 今『あっ』って言ったよこの人。完全に忘れてたパターンだよ。

 

 「ちゃんと決めた方が良いですよ。名前って結構重要ですから」

 

 「そうだよね・・・でも、どんな名前が良いかなぁ・・・」

 

 考え込む千歌さん。すると、曜さんが勢いよく手を上げた。

 

 「はいはーい!『制服少女隊』なんてどうかな!?」

 

 「無いかな」

 

 「無いわね」

 

 「無いですね」

 

 「えぇっ!?」

 

 全員から否定され、ショックを受ける曜さん。いや、まぁ何と言うか・・・

 

 「完全に曜さんの趣味が入ってますよね、それ」

 

 「良いじゃん!可愛いじゃん!」

 

 頬を膨らませる曜さん。

 

 曜さんは職業系の制服が大好きらしく、自分で作ったりもするんだとか。なのでライブの衣装は、曜さんが担当することになっている。

 

 「梨子ちゃんはどう?どんな名前が良いと思う?」

 

 「んー、そうねぇ・・・」

 

 千歌さんに尋ねられ、考え込む梨子さん。梨子さんならきっと、良いセンスのグループ名を考えてくれるだろう。

 

 「海で知り合った三人組ってことで、『スリーマーメイド』とか・・・」

 

 そんなことを考えていた時期が俺にもありました。

 

 「さぁ、そろそろペース上げましょうか」

 

 「「おー!」」

 

 「待って!?今の無し!無しだから!」

 

 顔を真っ赤にしてブンブン腕を振る梨子さん。やれやれ・・・

 

 「仕方ありません。言い出しっぺに決めてもらいましょうか」

 

 「え、天くんが決めてくれるの?」

 

 「脳天かち割りますよ、能天気オレンジヘッド」

 

 「メッチャ罵倒された!?私一応先輩だよねぇ!?」

 

 「早く考えないと、マジで『スリーマーメイド』にしますからね」

 

 「今すぐ考えなきゃ!?」

 

 「だからそれは無しだってば!?」

 

 ギャーギャー騒いでいる梨子さんは無視して、千歌さんが必死にグループ名を考える。と、曜さんが俺へと視線を向けてきた。

 

 「ちなみに、天くんはどんなグループ名が良いと思う?」

 

 「そうですねぇ・・・『シグナル』とかどうでしょう?」

 

 「お、ちょっとカッコ良いかも。ちなみに名前の由来は?」

 

 「イメージカラーですね。梨子さんがサクラピンク、千歌さんがオレンジ、曜さんがライトブルー・・・それぞれ赤・黄・青に近いですし、信号っぽいじゃないですか」

 

 「・・・うん、由来がちょっとアレかな。まぁ名前は悪くないと思うけど」

 

 「っていうか、私のイメージカラーはみかん色だから!オレンジじゃないから!」

 

 「そこに拘るんですか?」

 

 千歌さんのよく分からない拘りはさておき、他にも名前を考えてみる。

 

 「三人のイニシャルで考えるのはどうですか?千歌さんがC、曜さんがY、梨子さんがRだから・・・そう、例えば『CYaRon!』とか・・・」

 

 「「「それはダメ」」」

 

 「あれ?ダメでした?」

 

 結構良い名前だと思ったんだけど・・・

 

 「いや、良い名前だとは思うんだけどね・・・」

 

 「うん、良い名前なんだけど・・・何かダメな気がする」

 

 「上手く言えないんだけど・・・この三人のグループ名では無いわね」

 

 何故か微妙な表情をしている三人。まぁ皆がそう言うなら仕方ないか・・・

 

 「そういえば、μ'sはどうやって名前を決めたのかしら?」

 

 「ギリシア神話に登場する文芸の女神『ミューズ』が由来なんだって。『ミューズ』は九人の女神が存在するらしくて、そこから『μ's』っていう名前にしたみたい」

 

 「あれ?でもμ'sって、最初は三人だったんじゃなかったっけ?」

 

 「あっ、確かに・・・じゃあ何で『μ's』にしたんだろう?」

 

 ダイヤさんの問題に答えられなかったことがキッカケで、μ'sのことを熱心に調べるようになった千歌さんだったが・・・これは流石に分からないだろう。

 

「天くんは知ってる?」

 

「まだμ'sが三人だった頃、学校に投票箱を設けてグループ名を募集したみたいです。そこに投函されていた紙に『μ's』って書いてあって、それをグループ名にしたんだとか」

 

「・・・まさか本当に知ってるなんて」

 

唖然としている千歌さん。

 

「じゃあμ'sの名前を考えた人は、音ノ木坂の生徒ってこと?」

 

「そうです。後に判明したそうですが、投函したのは東條希さんだったんだとか」

 

「東條希さんって・・・え、μ'sのメンバーの!?」

 

「えぇ。まぁ投函したのは、彼女がμ'sに加入する前の話だそうですけど」

 

「そうなんだ・・・でも、何で『μ's』だったんだろう?」

 

「彼女には、九人になる未来が見えていたそうですよ。まぁ、嘘か本当かは分かりませんけど」

 

「そういえば希さんは、パワースポットや占いに傾倒していたってネットにも書いてあったっけ・・・それなら、本当に未来が見えたのかもしれないね!」

 

少し興奮気味な千歌さん。この人、μ'sの話の時はホントに熱くなるな・・・

 

 「で、名前どうします?」

 

 「あぁっ!?忘れてた!?」

 

 頭を抱える千歌さん。

 

 その後も皆で考えながらランニングしていたものの、結局良い案は思い浮かばず・・・俺達はスタート地点へと戻ってきていた。

 

 「ハァッ・・・ハァッ・・・何か・・・いつもより疲れた・・・」

 

 運動は得意なはずの曜さんが、珍しくしんどそうにしている。千歌さんと梨子さんも疲れたのか、砂浜に仰向けに倒れ込んだ。

 

 頭を使いながらランニングをすると、いつもより負荷が大きいようだ。

 

 「・・・よし、練習メニューに追加しよう」

 

 「「「鬼かっ!」」」

 

 三人から総ツッコミを受けたところで、俺はあるものを発見した。

 

 「ん・・・?」

 

 「天くん?どうしたの?」

 

 「いえ、何か書いてあるみたいで・・・」

 

 さっきまで俺達が柔軟体操をしていた辺りに、『Aqours』という落書きがしてあった。

 

 走り始めた時は、こんな落書きなど無かったはずだが・・・

 

 「私達がランニングしてる間に、誰かが書いたんじゃないかな?この辺の砂浜って、結構色んな落書きがあったりするし」

 

 「・・・そうですかね」

 

 曜さんはそう言うものの、俺はどこか釈然としなかった。

 

 そもそも落書きにしては字が綺麗過ぎるというのもあるが、どこかで見た字のような・・・

 

 「ところでこれ、何て読むのかしら?」

 

 首を傾げる梨子さん。俺の知るかぎりこんな英単語は無いはずなので、恐らく造語だとは思うのだが・・・

 

 「もしかして・・・アクア、ですかね?」

 

 「アクア・・・水ってこと?」

 

 「えぇ、多分。海辺ですし、水を基にした造語なんじゃないですか?」

 

 「・・・水かぁ」

 

 微笑む千歌さん。あ、この顔は・・・

 

 「ねぇ、この名前・・・」

 

 「良いんじゃないですか?」

 

 「まだ何も言ってないよ!?」

 

 「グループ名にどうか、っていう話ですよね?」

 

 「天くんってエスパーなの!?」

 

 「千歌さんが分かりやすいだけです」

 

 この人は本当に分かりやすい。考えていることが思いっきり顔に出るし。

 

 「これをグループ名にするの?誰が書いたか分からないのに?」

 

 「だから良いんだよ」

 

 梨子さんの言葉に、千歌さんが笑う。

 

 「名前を決めようとしている時に、この名前に出会った・・・それって、凄く大切なことなんじゃないかな?」

 

 「・・・そうですね」

 

 出会いというものは、偶然なのか必然なのか・・・そんなものはどちらでも良い。

 

 重要なのは、その縁を大切に出来るかどうか・・・そう考えている俺にとって、今の千歌さんの言葉はとても共感できるものだった。

 

 「賛成であります!」

 

 「このままじゃ、いつまでも決まりそうにないしね」

 

 曜さんと梨子さんも賛成のようだ。これで決まったな。

 

 「じゃあ決定ね!今から私達は、スクールアイドル『Aqours』だよ!」

 

 「「おー!」」

 

 盛り上がる三人。グループ名も決まり、これでますます気合いが入るだろう。

 

 「さて、休憩はここまでにしましょうか。次はステップの練習をしましょう」

 

 「えぇっ!?もう休憩終わり!?」

 

 「ご不満なら、永遠に休憩させてあげましょうか?」

 

 「遠回しの殺害予告じゃん!?最近の天くん、生徒会長より怖いんだけど!?」

 

 「いやいや、ダイヤさんは・・・あっ」

 

 思い出した。あの字、どこかで見たことがあると思ったら・・・

 

 思わず苦笑してしまう俺なのだった。




どうも~、ムッティです。

ようやくグループ名が決まりました。

もっとサクッと終わらせる予定だったのですが、思ったより長くなってしまった…

早く善子ちゃんや果南ちゃんを出さねば…

それではまた次回!以上、ムッティでした!

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