絢瀬天と九人の物語   作:ムッティ

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3月28日木曜日、日間ランキングで6位に入りました!

皆様、ありがとうございます!


借りは返すものである。

 「・・・そうですか。ライブの準備は順調に進んでいるのですね」

 

 「えぇ、何とか」

 

 生徒会室でお茶を呑みながら、ダイヤさんと会話している俺。

 

 今日は生徒会の仕事があった為、マネージャーとしての仕事はお休みだ。

 

 「高海さん達は、今日も練習ですか?」

 

 「いえ、今日は宣伝活動ですね。沼津の駅前でチラシを配るそうですよ」

 

 スクールアイドル部の設立が承認される条件は、体育館を満員にすること・・・しかしそこには、一つの問題点があった。

 

 「この学校の生徒が全員集まったとしても、体育館は満員にはならない・・・私が言える立場ではありませんが、鞠莉さんも意地悪ですわね」

 

 溜め息をつくダイヤさん。

 

 そう、浦の星の全校生徒は百人にも満たない。体育館を満員にするには、外部のお客さんに来てもらうしかないのだ。

 

 小原理事長はそれを分かった上で、この条件を出したのだろう。本当に食えない人である。

 

 「ラブライブを目指す以上、学校の中だけで満足してはいられませんからね。それでこんな条件を出したんでしょうけど・・・気に入りませんね」

 

 千歌さん達はまだ、スクールアイドルを始めたばかりだ。

 

 それなのにもうライブをやらせ、満員に出来なければ解散しろだなんて・・・ハードルが高過ぎる。

 

 「あの人が何を考えているのか分かりませんが・・・人を何だと思ってるんですかね」

 

 「天さん・・・」

 

 気遣わしげにこちらを見るダイヤさん。

 

 小原理事長とのいざこざがあってから、ダイヤさんは本当に俺のことを心配してくれていた。『生徒会長として何も出来ず申し訳ない』と言って、土下座してきたほどである。

 

 勿論ダイヤさんは何も悪くないので、すぐに肩を掴んで頭を上げてもらったが。

 

 「・・・まぁ、今はそんなことを言っても仕方ないですね。とにかく体育館を満員にして、スクールアイドル部の設立を承認してもらわないと」

 

 苦笑する俺。

 

 とにかくやるしかない。今は恨み言を言うよりも、前を向いて頑張っていかないと。

 

 「グループ名が決まって、千歌さん達もますます気合いが入ってますから。素敵な名前を付けてくれた人に感謝しないと・・・ありがとうございます、ダイヤさん」

 

 「なっ!?」

 

 驚くダイヤさん。やっぱりか・・・

 

 「な、何のことか私にはさっぱり・・・」

 

 「いつも生徒会の仕事でダイヤさんの字を見ている俺が、分からないわけないでしょうに。砂浜の落書きにしては、ちょっと字が綺麗過ぎましたね」

 

 「・・・参りましたわ」

 

 がっくりと肩を落とすダイヤさん。

 

 「少し練習の様子を見に行ったら、ちょうどグループ名の話をしているのが聞こえたので・・・あ、あくまでも参考にと思って・・・」

 

 「千歌さんの性格を考えると、あの名前になる可能性が高いことは分かってたんじゃないですか?つまりダイヤさんにとって、あの名前は特別なものだったんでしょう?」

 

 「うぐっ・・・」

 

 どうやら図星らしい。まぁ本人が話したくなさそうだし、これ以上は深く聞かない方が良いだろう。

 

 「ちなみに、読みは『アクア』で合ってますか?」

 

 「・・・えぇ、そうです」

 

 頷くダイヤさん。

 

 「水を意味する『Aqua』と、複数形の所有代名詞『ours』を合わせた造語ですわ」

 

 「それで『Aqours』ですか・・・」

 

 『ours(私達のもの)』ということは、ダイヤさん以外にもこの名前を考えた人がいるってことなのかな・・・?

 

 「・・・まぁいずれにせよ、良い名前をいただきました。ありがとうございます」

 

 「あの、天さん・・・このことは、高海さん達には・・・」

 

 「分かってます。内緒にすれば良いんですよね?」

 

 言うつもりが無かったからこそ、ダイヤさんはこっそり落書きをするという方法をとったんだろう。ダイヤさんがそれを望むなら、わざわざ暴露したりするつもりは無い。

 

 「それにしても・・・ダイヤさんのおかげで、グループ名が『制服少女隊』や『スリーマーメイド』にならずに済みましたよ」

 

 「・・・どんなネーミングセンスしてますの?」

 

 呆れているダイヤさんなのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「あら天くん、いらっしゃい」

 

 「こんにちは、善恵さん」

 

 生徒会の仕事を終えた俺は、津島さんの家へとやってきていた。目的は勿論、先週分のノートやプリントを届けることである。

 

 花丸やルビィちゃんも来たがっていたが、前回のこともあるので今回は俺一人で来ることにしたのだ。

 

 「来てくれてありがとう。本当に助かるわ」

 

 「いえいえ、大したことじゃないですから」

 

 これで津島さんが授業に遅れずに済むなら、お安い御用である。俺もノートをまとめた甲斐があるというものだ。

 

 「それじゃあ私は買い物に行ってくるから、留守番よろしくね」

 

 「了解です。荷物持ちは大丈夫ですか?」

 

 「フフッ、そんなに買う物は多くないから大丈夫よ。それじゃ、行ってくるわね」

 

 「行ってらっしゃーい」

 

 善恵さんを見送り、俺は津島家へと足を踏み入れる。さて・・・

 

 「善恵さんが帰ってくるまで、テレビでも見てようかな」

 

 「待たんかいいいいいいいいいいっ!」

 

 テレビをつけてソファに座った瞬間、津島さんが勢いよく自分の部屋から出てきた。

 

 「あ、津島さん。こんにちは」

 

 「あ、こんにちは・・・じゃないわよ!?あと、私のことはヨハネって呼びなさい!」

 

 「津島さん、もしくは善子ちゃんじゃダメなの?」

 

 「ダメに決まってるでしょ!?私は堕天使ヨハネよ!?」

 

 「じゃあよっちゃんで」

 

 「人の話聞いてた!?」

 

 ツッコミを入れまくるよっちゃん。キレの良いツッコミだなぁ・・・

 

 「っていうかアンタ、人の家で何してんのよ!?」

 

 「ソファに座ってテレビ見てる」

 

 「おかしいわよねぇ!?ここアンタの家じゃないわよねぇ!?」

 

 「よっちゃん・・・遂に自分の家さえ分からなくなったんだね・・・」

 

 「腹立つ!コイツ腹立つ!」

 

 「コラコラ、地団駄を踏まないの。下の部屋の人に迷惑だよ?」

 

 「誰のせいだと思ってんのよ!?」

 

 ムキーッと怒っているよっちゃん。やれやれ・・・

 

 「実は今日、津島家で夕飯をご馳走になる予定なんだよね」

 

 「ハァッ!?何で!?」

 

 「昨日善恵さんとラインしてたら、夕飯のお誘いを受けたんだよ」

 

 「ちょっと待って!?アンタいつから人の母親を名前で呼ぶようになったの!?いつラインの交換とかしたの!?」

 

 「実は・・・かくかくしかじか」

 

 「なるほど、そんなことが・・・って分かるかっ!それが通じるのはアニメやマンガの世界だけだわっ!」

 

 「おぉ、ダイヤさんと同じツッコミ」

 

 「ダイヤさんっていうのが誰かは知らないけど、私は今その人に果てしない同情の気持ちを抱いたわっ!」

 

 ツッコミすぎて息切れしているよっちゃん。大変だなぁ・・・

 

 「まぁとりあえず説明しとくと・・・この前俺達がここに来た日の夜、俺のところに善恵さんから電話がかかってきたんだよ。『せっかく来てくれたのにごめんなさい』って」

 

 「うぐっ・・・」

 

 バツの悪そうなよっちゃん。少しは申し訳ないと思っているらしい。

 

 「な、何でアンタの電話番号が分かって・・・」

 

 「ほら、クラスの連絡網ってあるじゃん?あの紙を見て俺に電話してきたみたい」

 

 「・・・あったわね、そんなの」

 

 忘れていた様子のよっちゃん。連絡網は入学初日に配布された為、初日しか学校に来ていないよっちゃんでもしっかり貰っていたようだ。

 

 「それで電話で話しているうちに、よっちゃんのことで色々と相談を受けたんだよ。部屋で怪しげなことをやってるっぽいとか、気になって覗こうとするんだけど全然部屋に入れてくれないとか・・・」

 

 「人のクラスメイトに何てこと相談してんのあの人!?」

 

 顔を真っ赤にして、両手で顔を覆うよっちゃん。自分のことを堕天使とか言っちゃう割に、そういうことを知られるのは恥ずかしいようだ。

 

 「そして何だかんだ馬が合った俺と善恵さんは、お互いのラインのIDを教え合ったのだった・・・続く」

 

 「今すぐ話しなさいっ!」

 

 「いや、後は特に無いんだよね。昨日ラインで『明日お邪魔しまゆゆ』って送ったら、『せっかくだし夕飯をご馳走しまゆゆ』って返ってきて今に至りまゆゆ」

 

 「語尾が気になって話が入ってこない!」

 

 「よっちゃん、人の話はちゃんと聞こうよ」

 

 「やっぱコイツ腹立つわ!」

 

 疲れ切ってしまったのか、壁にもたれかかるよっちゃん。仕方ないので、座る位置をずらしてソファのスペースを空けてあげる。

 

 「ほらよっちゃん、座りなよ。何か飲む?」

 

 「・・・冷蔵庫に麦茶が入ってるからよろしく」

 

 「あいよー」

 

 もうツッコミを入れる気力も無いらしく、力なくソファに座るよっちゃん。俺は冷蔵庫から麦茶を取り出し、適当なコップに注いでよっちゃんに差し出した。

 

 「へいお待ち」

 

 「・・・どうも」

 

 コップを受け取り、一気に麦茶を飲み干すよっちゃん。良い飲みっぷりである。

 

 「ぷはぁっ・・・あぁ、生き返る・・・」

 

 「全く・・・体力無いのに全力でツッコミ入れるからだよ」

 

 「誰のせいよ!?」

 

 「あ、気力が戻ったね」

 

 俺はそこで今日の目的を思い出し、鞄の中からクリアファイルを取り出した。

 

 「はいこれ。先週分の授業のノートとプリントが入ってるから」

 

 「あ、うん・・・」

 

 何とも言えない表情で受け取るよっちゃん。

 

 「・・・ねぇ、何でここまでしてくれるの?」

 

 「あれ?迷惑だった?」

 

 「いや、凄く助かるけどさ・・・」

 

 複雑そうに俺を見るよっちゃん。

 

 「前回もらったノート、本当に分かりやすくまとめられてた。あれって、黒板に書かれたことをただ写したものじゃないでしょ?その後でアンタが、私にも分かりやすいように色々手を加えてくれたのよね?」

 

 「色々ってほどじゃないよ。要点が分かりやすいようにまとめただけだし」

 

 「それでも、わざわざそこまでしてくれた。どうしてただのクラスメイトの為に、そこまでしてくれるの?」

 

 憂いを帯びたその表情に、俺は彼女の本質を見た気がした。

 

 自分のことを堕天使だと名乗るその豪胆さとは裏腹に、本当の彼女はとても臆病なんだと思う。誰よりも人の目を気にするし、人に対してなかなか心を開くことが出来ない。

 

 恐らくその理由は、自分に自信が無いから。今の質問には、『私にそこまでする価値があるの?』という意味合いもあるのだろう。

 

 まぁ、俺の答えは決まってるけど。

 

 「・・・花丸が、いつもよっちゃんの心配をしてるんだよ」

 

 「え・・・?」

 

 「『せっかく同じ学校になったのに』とか、『このまま学校に来なかったらどうしよう』とか・・・よっちゃんのこと、凄く気にかけてるんだよ」

 

 花丸は本当に心の優しい子だ。そんな俺の大切な友達に、寂しそうな顔をしてほしくない。

 

 だから俺は、よっちゃんを放っておけない。

 

 「つまり、花丸の為ってこと・・・?」

 

 「それが大きな理由かな。まぁ個人的に、よっちゃんには借りもあるから」

 

 「借り・・・?」

 

 首を傾げるよっちゃん。どうやら心当たりが無いようだ。

 

 「入学式の日、教室で自己紹介やったでしょ?」

 

 「ああああああああああっ!?思い出させないでええええええええええっ!?」

 

 「ていっ」

 

 「あうっ!?」

 

 やかましかったので、よっちゃんの頭にチョップをお見舞いして黙らせる。

 

 まぁよっちゃんの黒歴史確定自己紹介のことは置いといて・・・

 

 「俺が自己紹介した後、花丸やルビィちゃんとすぐに拍手してくれたじゃん。俺、あれに救われたんだよね」

 

 「いや、そんな大げさな・・・」

 

 「拍手してもらえない辛さは、よっちゃんが一番分かってるだろうに」

 

 「だからそれを思い出させないでよおおおおおおおおおおっ!?」

 

 頭を抱えるよっちゃん。どんだけ引きずってんだこの子・・・

 

 「女子校の中で唯一の男子っていうこともあって、周りの皆は凄く注目してくるわけだよ。その好奇の視線を向けられる中で、一番最初に自己紹介だからね。ものすごく緊張したし・・・皆が受け入れてくれるか、不安で仕方なかったよ」

 

 それでも、最初に花丸が拍手してくれて。ルビィちゃんとよっちゃんも続いてくれて。

 

 あの時は本当に、凄く救われた気持ちになった。

 

 「だからあの時のことは、本当に感謝してる・・・ありがとう、よっちゃん」

 

 「・・・べ、別に大したことはしてないわよ」

 

 素っ気無くそう言うよっちゃんだが、顔が赤くなっている。素直じゃないんだから・・・

 

 「そんなわけで、よっちゃんには大きな借りがあるんだよ。それを少しでも返せたらっていうのも、理由としてはあるかな」

 

 「ま、まぁそういうことなら・・・しょうがないから受け取ってあげるわ」

 

 「じゃあその対価として、来る度に夕飯をご馳走になるね」

 

 「借りを返す話はどこへいったのよ!?」

 

 「TS●TAYAで借りたCDを返す話?」

 

 「言ってないわよ!?」

 

 全力ツッコミのせいで、またしてもよっちゃんが力尽きそうになっていた。仕方ないからこの辺にしておこう。

 

 「まぁとりあえず、心の準備が出来たらまた学校に来てよ。花丸とかルビィちゃんは勿論、クラスの皆とか赤城先生も心配してるから」

 

 「・・・本当に?あの時のことを笑ったり、ドン引きしたりしてない?」

 

 「してないよ。むしろ『何で来なくなっちゃったのかな』とか、『仲良くなりたいね』って言ってるぐらいだし」

 

 実際、ウチのクラスは本当に良い人ばかりだ。俺も今では仲良くさせてもらってるし。

 

 「よっちゃんの心の準備が出来るまでは、俺が責任を持ってノートとかプリントを届けに来るから。いつ復帰しても授業についていけるように、ちゃんと勉強はしといてね」

 

 「・・・うん。分かった」

 

 小さく頷くよっちゃん。名前の通り、やっぱり善い子だな・・・

 

 「ヨハネよっ!」

 

 「人の心を読むの止めてくんない?」

 

 どんだけ堕天使ヨハネに拘るんだ・・・

 

 「・・・まぁでも、『よっちゃん』呼びは許してあげる」

 

 「え・・・?」

 

 よっちゃんが頬を赤らめ、髪の毛先をクルクルいじっている。

 

 「あ、あくまでも『ヨハネ』の『よっちゃん』だからね!?『善子』の『よっちゃん』は認めないからね!?」

 

 「両方とも『よっちゃん』だし、どっちでも良いんじゃ・・・」

 

 「良いのっ!そこは譲れないからねっ!」

 

 よく分からない拘りだけど・・・まぁ本人がそう言うんだから良いか。

 

 「了解。俺のことも天で良いからね」

 

 「フッ・・・では天、貴方を私のリトルデーモンに・・・」

 

 「あ、結構です」

 

 「何でよ!?」

 

 そんなやり取りをしている間に、窓の外はすっかり薄暗くなっていた。

 

 千歌さん達、チラシ配り終わったかなぁ・・・あっ。

 

 「よっちゃん、スクールアイドルって知ってる?」

 

 「何よ突然・・・まぁ知ってるけど」

 

 「実は浦の星でも、スクールアイドルをやろうっていう人達がいてさ。一応俺がマネージャーをやってるんだけど、今度ライブをやるんだよね」

 

 鞄の中からチラシを取り出して、よっちゃんに手渡す。

 

 「へぇ・・・天がマネージャーやってるのね」

 

 「色々あったんだよ・・・本当に色々・・・」

 

 「・・・アンタも苦労してるのね」

 

 同情してくれるよっちゃん。優しいなぁ・・・

 

 「ま、気が向いたら行ってあげるわ。本当に気が向いたらね」

 

 「よっちゃん・・・マジ善子だわ」

 

 「だからヨハネよっ!?」

 

 よっちゃんが堕天使ではなく、正真正銘の天使に見える俺なのだった。




どうも~、ムッティです。

さて、前書きでも述べましたが・・・

3月28日木曜日、『絢瀬天と九人の物語』が日間ランキングで6位にランクインしました!

嬉しすぎてスクショしました(笑)

☆評価を付けて下さった皆様。

感想を書いて下さった皆様。

お気に入りに登録して下さった皆様。

そしてこの作品を読んで下さった皆様。

本当にありがとうございます。

これからも『絢瀬天と九人の物語』をよろしくお願い致します。

それではまた次回!以上、ムッティでした!
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