ちょっと名言っぽいタイトル縛りをやってきたのが仇になったか…
「・・・言い残したい言葉はありますか?」
「すいませんでしたああああああああああっ!」
全力で土下座している千歌さん。津島家で夕飯をご馳走になった翌日の放課後、俺は千歌さんの家にお邪魔していた。
ライブで披露する曲の作詞を、千歌さんが担当することになっていたのだが・・・
「作詞ノートって書いてありますけど、完全に白紙じゃないですか。何ですかこれ。千歌さんの頭の中と一緒じゃないですか」
「人の頭が空っぽみたいに言わないでくれる!?」
「ああん・・・?」
「返す言葉もございません!」
冷たい目を向けると、千歌さんが再び額を床に擦り付ける。その様子を見て、曜さんと梨子さんが引いていた。
「ま、まぁまぁ天くん!ここは落ち着こう!ねっ!?」
「そ、そうよ!まだ何とか間に合うわ!」
「・・・ハァ」
二人に宥められ、溜め息をつく俺。まぁ確かに、千歌さんを責めてる場合じゃないか・・・
「とにかく作詞を終わらせましょう。千歌さん、イメージとかあります?」
「μ'sのスノハレ!」
「却下です」
「えぇっ!?」
ショックを受けている千歌さん。この人はホント・・・
「スクールアイドルを始めたばかりで、スノハレみたいな曲を目指すのはハードルが高過ぎます。μ'sの楽曲で一、二を争うほどの名曲を舐めないで下さい」
「うっ、確かに・・・」
「まぁ、恋愛に関する曲を作るのは構いませんけど・・・それこそ、千歌さんの経験を基にして作詞すれば良いんじゃないですか?」
「フッフッフッ・・・自慢じゃないけど、私の恋愛経験はゼロだよ!」
「ライフもゼロにしてあげましょうか?」
「遠回しの殺害予告止めて!?」
ダメだこの人、完全にポンコツだわ・・・
「曜さんとか梨子さんなら、恋愛経験ありそうですよね」
「私?無い無い!」
「私も無いわね」
「・・・マジですか」
これはテーマを恋愛じゃないものにすべきかもしれない。それにしても・・・
「梨子さんに恋愛経験が無いのは意外ですね・・・」
「え、そう?」
「だって梨子さん美人だし、絶対モテるでしょう」
「なっ!?」
赤面する梨子さん。
「そ、そういうことを真顔で言わないでっ!」
「だって本心ですし。クラスに居たら、間違いなく男子達の注目の的でしょう。実際モテたんじゃないですか?」
「そ、そんなこと言われても・・・本当にモテなかったわよ?ずっとピアノ一筋でやってきたから、恋愛にうつつを抜かしてる余裕も無かったし」
「告白とかされなかったんですか?」
「全然。中学までは共学の学校に通ってたけど、男子達にとって私は気軽に話せる友達って感じだったのかも。よく『付き合って下さい』って買い物に誘われたし」
「・・・梨子さんって罪深い人ですね」
「何で!?」
千歌さんと曜さんも、何とも言えない表情で梨子さんを見ている。
その『付き合って下さい』は、どう考えても告白だろうな・・・『買い物に付き合って下さい』なわけが無い。
「ちなみに、買い物には付き合ったんですか?」
「申し訳なかったんだけど、全部断ってたわ。ピアノのレッスンで忙しかったから」
「うわぁ・・・」
「そ、そんな露骨に引かなくても良いじゃない!私だって、友達からの買い物のお誘いを断るのは申し訳なかったわよ!」
「いや、何と言うか・・・大丈夫です。梨子さんは知らない方が良いと思います」
「え?」
首を傾げる梨子さん。
梨子さんに想いが届くことなく撃沈していった男子達の人生に、どうか幸多からんことを・・・
「っていうか、曜さんも意外ですよね。モテそうなのに」
「おっ、私のことも可愛いって言ってくれるの?」
「当然じゃないですか。誰がどう見たって美少女でしょう」
「っ・・・あ、ありがと・・・」
頬を赤く染め、照れ臭そうに笑う曜さん。梨子さんと同じで、真正面から褒められることに弱いらしい。
「でも残念ながら、梨子ちゃんと違って本当にそういう経験無いんだよね」
「いや、だから私も無いんだってば」
「被告人は静粛に」
「誰が被告人よ!?」
抗議してくる梨子さんは無視して、俺は曜さんと会話を続けた。
「じゃあ逆に、好きな人とかいなかったんですか?」
「んー、そもそも恋したことが無いんだよね。私も小さい頃から水泳一筋だったし」
「なるほど・・・」
「ねぇねぇ天くん、私は?私は可愛い?」
「はいはい、可愛い可愛い」
「何で子供をあやすみたいなノリなの!?」
膨れっ面の千歌さん。
まぁ実際、千歌さんもかなりの美少女だと思う。あまりにもフランク過ぎて、俺もこんなノリで接してしまっているけども。
「でも、三人とも恋愛経験ゼロとなると・・・やっぱり、別のテーマで曲を作った方が良いかもしれませんね」
「えー・・・あっ、じゃあμ'sのメンバーは恋をしてたのかな?」
「どうしたんですか急に」
「いや、だってスノハレみたいな曲を作れたんでしょ?それってつまり、μ'sの誰かが恋をしてたってことじゃないの?」
目が爛々と輝いている千歌さん。本当にμ'sが好きなんだな・・・
「・・・スノハレって、μ'sが全員で作詞した曲らしいですよ」
「え、そうなの?」
「えぇ。μ'sのメンバーが、色々なものに対する『大好き』という気持ちを込めた一曲・・・それが『Snow halation』です」
「『大好き』という気持ち・・・」
「それをテーマにするのも良いんじゃないですか?例えば・・・スクールアイドルが大好きっていう気持ちとか」
「それだ!」
勢いよく立ち上がる千歌さん。
「それ良い!私達の最初の曲にピッタリなテーマだよ!」
「千歌ちゃん、歌詞書けそう?」
「うん!これなら書ける気がする!」
千歌さんはペンを持つと、白紙のノートに勢いよく文字を書き始めた。書けば書くほど、どんどんのめり込んでいくのが分かる。
「・・・凄い集中力ですね」
「千歌ちゃんはやれば出来る子なんだよ」
笑みを浮かべる曜さん。やれば出来る子、か・・・
「・・・ホント、そっくりだな」
「そっくり?」
「いえ、何でもないです」
適当に曜さんを誤魔化し、千歌さんの姿を眺める。
「これほどスクールアイドルが大好きな人が、スクールアイドルを続けられなくなるなんて・・・そんなのおかしいですよね」
「天くん・・・」
「会場、絶対満員にしましょうね。小原理事長に、スクールアイドル部の設立を認めさせてやりましょう」
「勿論!」
「頑張りましょう!」
「え、何?何の話?」
「千歌さんのライフがゼロになるまでしごき続けようっていう話です」
「それは勘弁してええええええええええっ!?」
千歌さんの悲鳴が響き渡るのだった。
*****
「ありがとうございました!」
笑顔で最後のお客さんを見送る俺。
お客さんが見えなくなるまで手を振り、ホッと一息ついたところで・・・後ろからいつもの衝撃を受けた。
「お疲れ様のハグ!」
「はいはい、お疲れ様です」
「むぅ・・・反応が冷たい」
「毎回ハグされ続けたら、そりゃ慣れますって」
不満そうな果南さんに、苦笑しながら返す俺。まぁ俺の目の前で、平気でダイビングスーツを脱ぐことに関しては未だに慣れないけども。
下に水着を着ているとはいえ、惜しげもなくナイスバディをさらけ出されると・・・正直、目のやり場に困ってしまう。
「やっぱり土日は、お客さんの数が多いんですね」
「そうなんだよ。私だけじゃ手が回りきらないだろうから・・・ホント、天が手伝ってくれて助かってるよ」
笑顔でそう言ってくれる果南さん。
実は梨子さん達と海の音を聴きに行った日、果南さんからアルバイトの誘いを受けていたのだ。これから土日に来るお客さんの数が増えるので、手伝ってくれる人を探していたんだとか。
その誘いを受けた俺は翌週から、果南さんの実家が営むダイビングショップで土日だけアルバイトをするようになったのだった。
「アルバイト経験の無い素人で、ホントに大丈夫なんですか?」
「大丈夫だって。っていうか、ホントにアルバイト経験無いの?接客とか上手いし、初めてとは思えないんだけど」
「コミュニケーション能力には自信あるんで」
「アハハ、なるほどね」
果南さんは面白そうに笑うと、近くのウッドチェアに腰を下ろした。
「そういえば、千歌達のライブって来週の日曜日でしょ?準備は大丈夫なの?」
「えぇ。何とかなりそうです」
あの後千歌さんはすぐに歌詞を書き終えたし、それを基に梨子さんもすぐに曲を作ってくれた。振り付けもこの土日に三人で考えると言っていたので、後は明日からその振り付けを基に練習するのみだ。
ちなみに衣装は曜さんが制作を進めており、もう間もなく完成するとのことだった。
「明日からの一週間は、ちょっとハードになりそうですけどね。俺も裏方としての仕事を進めていかないと」
「裏方としての仕事?」
「主に会場の設営ですね。スポットライトの位置とか、音響のチェックとかもしないといけませんし。まぁそれに関しては手伝ってくれる人もいるので、心配無いですけど」
ちなみに手伝ってくれる人というのは、千歌さん達と同じクラスのよしみさん・いつきさん・むつさんの三人である。通称・よいつむトリオの三人は千歌さん達の良き理解者であり、今回のライブでの手伝いを申し出てくれたのだ。
ライブの宣伝の為のビラ配りもしてくれていて、正直かなり助かっていたりする。
「後は練習の監督ぐらいですね。ライブ前なので追い込みをかけたいところなんですけど、無理して本番に響いたら元も子もないですから。その辺りはこっちでちゃんと調整して、練習メニューを組もうと思います」
「へぇ・・・しっかりマネージャーやってるんだね」
感心している果南さん。
「千歌達は運が良いね。こんなしっかりサポートしてくれるマネージャーがいてさ」
「・・・まぁマネージャーをやることになったキッカケは、あまり褒められたものじゃないですけどね」
「・・・鞠莉か」
顔を顰める果南さん。
俺も話を聞いて驚いたのだが、ダイヤさん・果南さん・小原理事長は小学生の時からの付き合いらしい。ダイヤさんと果南さんが通っていた小学校に、小原理事長が転入してきたんだそうだ。
つまり俺が幼かった頃の小原家の引っ越し先は、内浦だったということになる。
「ホント・・・相変わらず自分勝手なんだから」
果南さんもダイヤさんから事情を聞いたらしく、俺のことを凄く心配してくれた。
おまけに俺があの時の状況を話すと、『これから一緒に殴りに行こうか』とチャゲアスの名曲みたいなセリフを本気で言い出すほど怒っていた。まぁ何とか思い留まらせたけども。
「まぁとにかく、ライブに向けて頑張らないといけませんね・・・そんなわけで果南さんには申し訳ないんですけど、来週の日曜日はお休みをいただきます」
「了解。忙しいようなら、土曜日も休みで大丈夫だよ?来週の土日は天気が良くないっていう予報が出てるせいか、今のところお客さんの予約も多くないし」
「いえ、大丈夫です。マネージャーの仕事に力を入れ過ぎて、生徒会の仕事やアルバイトを疎かにしたくないので」
「天は真面目だねぇ・・・ダイヤに影響されてるんじゃない?」
「ハハッ、そうかもしれませんね」
思わず笑ってしまう俺。
実際、ダイヤさんはとても真面目な人だ。生徒会長として責任を持って仕事をしているし、俺も見習わないといけない点がたくさんある。
「ただ・・・ダイヤさんにはもう少し、肩の力を抜いてほしいんですけどね。ちょっと頑ななところがあるので」
「ダイヤは昔からあんな感じだからね。黒澤家の名に恥じないようにって、肩肘張って生きてるところがあるから」
「なるほど・・・俺の知り合いにも名家の娘がいますけど、確かにそういったところはありましたね」
「へぇ、知り合いにそんな人がいるんだ?」
「えぇ、まぁ」
せっかくだし、今度電話して話を聞いてみようかな。似たような立場だからこそ、分かることがあるかもしれないし。
「そういえばダイヤさんって、μ'sのファンなのに何で『スクールアイドル部は認めない』なんて言ってるんだろう・・・」
ふと疑問を口にする俺。これはよいつむトリオの三人から聞いた話だが、これまでにも『スクールアイドルをやりたい』という生徒が少なからずいたらしい。
ところがダイヤさんはそれを認めず、スクールアイドル関連の部活の設立を全て拒否してきたんだそうだ。一体何故なのか・・・
と、果南さんが何やら思いつめたような表情をしていた。
「果南さん?どうかしました?」
「ううん、何でもないよ」
すぐに笑みを浮かべる果南さんだったが、どこか笑顔がぎこちなかった。ダイヤさんについて、思い当たる節でもあるんだろうか・・・
「さて、さっさと片付けちゃおうか。今日もウチで夕飯食べていきなよ。お母さんが天の為に、腕によりをかけて美味しいもの作って待ってるってさ」
「ありがたくご馳走になります」
果南さんの表情が気になったものの、深くは聞けない俺なのだった。
どうも~、ムッティです。
何とこの作品が、またしても日間ランキングで7位に入りました!
本当にありがたいことでございます(>_<)
いつもこの作品を読んで下さっている皆様には、感謝の気持ちでいっぱいです。
ありがとうございます。
そんな中、いよいよファーストライブが近付いてきましたね。
果たしてどうなるのか…
次回もお楽しみに(・∀・)ノ
それではまた次回!以上、ムッティでした!