「停電!?」
驚いている小原理事長。
曲の途中でいきなり発生した停電に、千歌さん達だけではなくお客さん達も困惑していた。
「まぁ、この天気だもんなぁ・・・」
俺は溜め息をつくと、インカムを通じてよいつむトリオの三人に指示を出した。
「むつさんとよしみさん、一度照明のスイッチを切って下さい。切ったらそのまま待機でお願いします」
『わ、分かった!』
『了解!』
「いつきさんも待機してて下さい。何とかしてきますんで」
『何とか出来るの!?』
「元気があれば何でも出来ます」
『アント●オ猪木じゃん!?』
いつきさんのツッコミはスルーして、俺は出口へと足を向けた。
「天!?どこに行くつもり・・・キャッ!?」
足がもつれ、転倒する小原理事長。何してんのこの人・・・
「・・・暗いんですから、下手に動くと危ないですよ」
小原理事長の手を掴み、思いっきり引き上げる。
「あ、ありがと・・・」
「時間も無いんで、このまま行きますね」
「え、ちょ!?」
小原理事長の手を掴んだまま、出口から外へと出て電気室へと向かう。そこには既に先客がいた。
「遅いですわよ、天さん」
「ダイヤ!?」
そう、そこにいたのはダイヤさんだった。
「すみません、このおっぱいお化けのせいで遅れました」
「おっぱいお化けって何!?」
「あぁ、なるほど・・・その無駄に大きい乳をもぎ取ってやりたいですわね」
「ダイヤまで!?」
ショックを受けている小原理事長。と、俺は陰に隠れているもう一人の存在に気付いた。
「・・・果南さん?」
「ぎくっ・・・」
青い髪のポニーテールを揺らし、恐る恐るこちらを振り向く果南さん。
「何で果南さんがここに?」
「アハハ・・・この悪天候で今日はお店が休みになったから、ちょっとライブの様子を見ようかなぁって・・・」
「会場を覗く様子が完全に不審者でしたので、ここまで連行してきたのですわ」
「ちょ、誰が不審者よ!?れっきとしたこの学校の生徒なんだけど!?」
「果南さんうるさいです。おっぱいが大きいからって、声まで大きくする必要は無いんですよ」
「おっぱい関係なくない!?っていうか、完全にセクハラ発言だよねぇ!?」
「ハグ魔に言われたくないです」
「うぐっ・・・」
言葉に詰まる果南さん。と、果南さんと小原理事長の目が合った。
「鞠莉・・・」
「果南・・・」
お互い複雑そうな表情を浮かべる。この二人、何かあったんだろうか・・・
「時間もありませんし、早速取り掛かりますわよ」
手を叩くダイヤさん。
「早くこの発電機をセットして、電源を復活させるのですわ」
「発電機って・・・何でそんなものがここに・・・?」
「倉庫から引っ張り出してきたので」
小原理事長の疑問に、しれっと答えるダイヤさん。
「念の為に準備しておきたいと、天さんにお願いされましたからね」
「天が・・・?」
「まぁ予報でも、天気が悪いって言ってましたから。雷の影響で停電する恐れもあるので、念には念を入れて準備しておこうと思いまして」
使うことはないだろうなんて思ってたけど、まさか本当に使うことになるとは・・・
「ダイヤさんと二人でセットしようと思いましたけど・・・三人もいるなら大丈夫そうですね。というわけで、ここはお願いします」
「天さんはどうするのですか?」
「電源が復活したら、よいつむトリオの三人に指示を出さないといけないので。準備が出来たら、インカムで知らせてもらえますか?」
「承知しました」
「ダイヤさん・・・松嶋菜●子のモノマネしてる場合じゃないですよ」
「家●婦のミタは意識してないですわよ!?」
ダイヤさんの、ツッコミもスルーして、俺は会場へと戻る。そこで目にしたのは・・・
「温度差な~んて、いつ~か~消~し~ちゃえって~ね~♪元気だよ・・・元気を出して・・・いく・・・よ・・・」
泣きながらアカペラで歌う、千歌さんの姿だった。見るからに心が折れかかっている。
「千歌さん・・・」
無理も無い。初めてのライブが解散のリスクを伴ったものということで、余計にプレッシャーを感じていたはずだ。
その上こんなハプニングまで起きてしまったのだから、誰だって泣きたくなるだろう。純粋な性格の千歌さんだけに、ダメージも人一倍なはずだ。
「・・・何でああいう真っ直ぐな人にばかり、こういう試練が待ち受けてるのかなぁ」
本当によく似てるというか・・・こんな試練に遭遇するところまで、似なくてもいいんだけど・・・
と、ダイヤさんから連絡が入る。
『天さん、準備完了ですわ』
「了解です」
さて・・・ちょっくら手を貸しましょうかね。
「むつさん、よしみさん・・・スイッチオン!」
『『ラジャー!』』
再びステージが照明で照らされる。ステージ上の千歌さん達が呆然としている中、今度は会場に大きな声が響き渡った。
「バカ千歌あああああっ!アンタ開始時間を間違えたでしょ!?」
レインコートを着た美渡さんが、大勢の人を連れて会場に入ってくる。
「美渡さん!」
「あっ、天!」
レインコートを脱ぎながら、こっちへ歩いてくる美渡さん。
「遅くなってゴメン!開始時間を間違って知らされてたみたいで・・・」
「どういうことですか?」
「これよ、これ」
美渡さんが一枚のビラを渡してくる。
これって確か、千歌さんが自分達で配る為に作ったビラ・・・ん?
「・・・ここに書いてある開始時間、三十分遅いんですけど」
「そうなのよ!十五分前に行けば良いかなって思って来てみたら、もう始まってるっていうんだもん!ホント焦ったわよ!」
なるほど・・・
千歌さんが作ったビラの開始時間が間違っていたせいで、ライブ開始時点でお客さんが全然来ていなかったと・・・
逆に来てくれていたお客さんは、かなり時間に余裕を持って来てくれていたと・・・
うん、そういうことね。
「すいません美渡さん、ちょっと妹さんのうなじ削いできますね」
「巨人扱い!?気持ちは分かるけど落ち着いて!?」
「駆逐してやる・・・この世から・・・一匹残らず・・・!」
「いや、千歌は一人しかいないから!」
美渡さんに全力で止められたので、仕方なく駆逐を諦める。
あのオレンジヘッド、マジで覚えてろよ・・・
「それにしても・・・埋まったね、会場」
笑っている美渡さん。気付けば会場は満員になっており、どこもかしこも人で埋め尽くされていた。
条件達成だな・・・
「・・・Unbelievable」
いつの間にか、小原理事長が近くに立っていた。満員になった会場を見て、眩しそうに目を細めている。
「あの状態から、本当に満員になるなんて・・・」
「・・・言ったでしょう。可能性はあるって」
美渡さんへと視線を移す。
「そもそも、シスコンの美渡さんが来てない時点でおかしいと思いましたよ」
「誰がシスコンよ!?べ、別に千歌の為なんかじゃないんだからね!?」
「はいはい、ツンデレ乙」
「ツンデレちゃうわ!」
「っていうか、志満さんはどうしたんですか?」
「留守番してくれてるわよ。旅館を空けるわけにはいかないからね」
「・・・・・」
「『アンタが留守番してろよ・・・』みたいな目で見ないでくれる!?」
「おぉ、以心伝心」
「全然嬉しくないんだけど!?」
ギャーギャー喚く美渡さんは無視して、小原理事長へと向き直る。
「・・・条件はクリアしました。今さら約束を反故にしたりしませんよね?」
「勿論よ。スクールアイドル部の設立を許可するわ」
微笑む小原理事長。
「やっぱり貴方は凄いわね、天・・・あの人の言う通りだわ」
「・・・俺は何もしていません。買い被るのは止めて下さい」
それだけ返すと、インカムを通じていつきさんに指示を出す。
「いつきさん、曲を最初から流して下さい」
『え、最初から!?続きからじゃなくて!?』
「これだけの人が集まってくれたんです。もう一度初めからライブやりましょう」
『・・・それもそうだね。了解!』
『ダイスキだったらダイジョウブ』が最初から流れる。千歌さん達は驚いていたが、すぐに曲に合わせて歌い始めた。
「うおおおおおっ!千歌あああああっ!」
興奮して叫んでいる美渡さん。やっぱりシスコンじゃん。
「・・・楽しそうね、あの子達」
小原理事長が呟く。ステージ上で歌って踊る千歌さん、曜さん、梨子さん・・・三人とも活き活きとしていて、本当に楽しそうだ。
それを眺める小原理事長の表情は・・・どこか懐かしそうで、どこか寂しそうなものだった。
「・・・言うべきか迷いましたけど、一応言っておきますね」
「天・・・?」
「発電機のセット・・・手伝ってくれてありがとうございました」
俺の言葉に一瞬ポカンとした後、小さく笑う小原理事長なのだった。
どうも~、ムッティです。
ここで一つ、この作品とは全く関係の無いお知らせをさせていただきますが…
『刀藤綺凛の兄の日常記』が復活しました!
…知らない人にとっては、『何の話?』ってなりますよね(笑)
学戦都市アスタリスクを原作とした、ハーメルンに投稿されているssでございます。
実は自分もアスタリスクが原作のssを投稿させていただいているのですが、以前コラボさせていただきまして。
作者の富嶽二十二景さん(以前の名前は綺凛・凛綺さん)がハーメルンに戻られて、以前の作品を再び投稿されているのです。
以前読んでいたという方、アスタリスクのssに興味があるという方は是非ともチェックしてみてはいかがでしょうか?
というわけで、ちょっと宣伝させていただきました(笑)
それではまた次回!以上、ムッティでした!