絢瀬天と九人の物語   作:ムッティ

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まだ5月なのにこの暑さ…

今年の夏はヤバい気がする…


試練を乗り越えた先に待っているものがある。

 「ライブ凄かったよ天くん!衣装も曲も振り付けも良かったし、先輩方もキラキラしてて輝いてた!それから、それから・・・!」

 

 「アハハ・・・ありがとね、ルビィちゃん」

 

 興奮状態のルビィちゃんに、苦笑しながらそう返す俺。

 

 ライブが終わってお客さん達のお見送りをしていた俺に、ルビィちゃんがダッシュで駆け寄ってきたのだ。

 

 本当にスクールアイドルが好きなんだなぁ・・・

 

 「お疲れ様、天くん」

 

 ルビィちゃんの後ろでは、花丸が優しく微笑んでいた。

 

 「ライブ、凄く楽しかったずら」

 

 「そう言ってもらえると嬉しいよ。来てくれてありがとね、花丸」

 

 「フフッ、天くんの為ならどこでも行くずら」

 

 「・・・花丸が天使に見えるわぁ」

 

 花丸の頭を撫でる。

 

 「まだ結構雨が降ってるから、気を付けて帰ってね」

 

 「了解ずら!」

 

 「じゃあ、また明日ね!」

 

 手を振って帰っていく二人。さて・・・

 

 「花丸もルビィちゃんも行ったし、そろそろ出てきなよ・・・よっちゃん」

 

 「ぎくっ!?」

 

 扉の陰から、よっちゃんが恐る恐る顔を出す。

 

 「恐るべしリトルデーモン・・・隠していた我が魔力を感知するとは・・・」

 

 「扉の陰からシニヨンだけはみ出してたら、誰だって気付くわ」

 

 「うげっ!?」

 

 「っていうか、マスクとサングラス外したら?完全に不審者だよ?」

 

 「誰が不審者よっ!?」

 

 そうツッコミを入れつつも、マスクとサングラスを外すよっちゃん。素直や・・・

 

 「今日は来てくれてありがとね」

 

 「フッ・・・リトルデーモンの頼みを聞くのも、主である我の役目・・・堕天使ヨハネの慈悲深さに感謝するが良い」

 

 「わー、ヨハネ様慈悲深ーい」

 

 「棒読みっ!」

 

 正直、よっちゃんには本当に感謝している。まだ登校する決心がついていない中で、ライブの為にわざわざ学校まで足を運んでくれたのだから。

 

 「・・・学校に来るの、しんどくなかった?」

 

 「急に心配してんじゃないわよ」

 

 バシッと背中を叩かれる。

 

 「これぐらいどうってことないわよ。まぁ、クラスメイト達と会うのは・・・まだちょっと勇気が出ないけど」

 

 「・・・ゆっくりで良いから。焦らずにやっていこうね」

 

 「・・・うん。ありがと」

 

 小さく笑うよっちゃん。

 

 「天も今日はお疲れ。帰ったらゆっくり休みなさいよ」

 

 「分かったよ、母さん」

 

 「誰が母さんよ!?」

 

 「明日ノートとプリント持って行くから。いつものごとく、夕飯ご馳走になります」

 

 「相変わらずその流れなのね・・・了解。じゃあまた明日」

 

 よっちゃんも手を振りながら帰っていく。と、俺の背中がいつもの衝撃を受けた。

 

 「お疲れ様のハグ!」

 

 「・・・慣れって恐ろしいですね」

 

 最初の頃はあんなにドキドキしてたのに、今はもう完全に平常心だ。

 

 健全な思春期男子として、これはいかがなものだろうか・・・

 

 「次々に美少女と会話しちゃって・・・本命はどの子なの?」

 

 「果南さんってことにしといて下さい」

 

 「おっ、私を美少女の括りに入れてくれるの?」

 

 「誰がどう見たって美少女でしょ。果南さんの可愛さを舐めないで下さい」

 

 「な、何か恥ずかしいんだけど・・・」

 

 顔を赤らめる果南さん。

 

 最近分かったことだが、この人もストレートな言葉に弱い。褒め言葉には特に弱い。

 

 「そういえば、果南さんもありがとうございました。発電機のセットを手伝ってくれて」

 

 「どういたしまして。まぁ大したことはしてないけどね」

 

 笑う果南さん。

 

 「それにしても・・・このタイミングで鞠莉に会うとはね・・・」

 

 表情が暗くなる果南さん。やっぱり二人の間には、何かがあるようだ。

 

 「・・・元気出して、のハグ」

 

 「っ!?」

 

 偶にはこっちから果南さんにハグしてみる。果南さんの顔が真っ赤になっていた。

 

 「そ、天!?」

 

 「いつもハグしてる仲なんですから、そんなに恥ずかしがらなくても良いでしょう」

 

 「そ、そうだけどさぁ・・・男の子からハグされるなんて、経験無いから・・・!」

 

 「よし、果南さんの初めてゲット」

 

 「その言い方は誤解を招くから止めてくんない!?」

 

 「ちょっと何言ってるか分かんないです」

 

 「何でよ!?」

 

 どうやら少しは元気が出たようだ。やっぱり果南さんはこうでなくちゃ。

 

 「さて・・・こんなところをダイヤさんに見られたら『破廉恥ですわ!』って怒られそうなんで、そろそろ離れますね」

 

 「アハハ、確かに・・・」

 

 苦笑する果南さん。

 

 「でも・・・偶には相手の方からハグされるのも、悪くないかもね」

 

 「果南さんは基本的に、自分からハグしに行きますもんね」

 

 「そうなんだよ。だからまぁ・・・偶には、天からハグしてくれても良いよ?」

 

 少し恥ずかしそうに笑う果南さん。

 

 何だか今の果南さんは、『お姉さん』というより『女の子』っていう感じがして新鮮だな・・・

 

 「それじゃ、私も帰るね!」

 

 「えぇ。今日は来てくれてありがとうございました」

 

 帰っていく果南さんを見送る。これでお客さんはほとんど帰ったか・・・

 

 「・・・顔を出しに行くかな」

 

 ライブが終わってから、まだ千歌さん達のところに顔を出せていない。

 

 果たしてどんな様子なのか、少し気になっている俺なのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 《千歌視点》

 

 「・・・終わったね」

 

 「・・・うん」

 

 「・・・そうね」

 

 ステージ裏で、私達は椅子に座ってボーっとしていた。

 

 ライブが終わって、ステージ裏に戻ってきて、三人で号泣して・・・ひとしきり泣いたら、何だかドッと疲れが押し寄せてきたのだ。

 

 「満員だったね・・・」

 

 「うん、会場を埋められたね・・・」

 

 「条件クリア、よね・・・」

 

 これでスクールアイドル部の設立が認められる。これからもAqoursとして活動することが出来る。

 

 「これから始まるんだ・・・」

 

 ゆっくりと椅子から立ち上がる。

 

 「始められるんだ・・・スクールアイドル」

 

 また涙ぐんでしまいそうになる。ステージでも泣いたし、さっきも泣いたのに・・・

 

 「・・・千歌ちゃん」

 

 そっと隣に寄り添ってくれる曜ちゃん。

 

 「一緒に頑張ろうね」

 

 「曜ちゃん・・・」

 

 「曲作りは任せて」

 

 梨子ちゃんも隣に立ってくれる。

 

 「絶対に良い曲を作ってみせるから」

 

 「梨子ちゃん・・・」

 

 「だから千歌ちゃん・・・作詞は早めにお願いね?」

 

 「うっ・・・」

 

 「全ては千歌ちゃんにかかってるからね?」

 

 「止めてえええええっ!?プレッシャーかけないでえええええっ!?」

 

 思わず頭を抱えてしまう。そんな私を見て、曜ちゃんと梨子ちゃんが笑っていた。

 

 うぅ、意地悪・・・

 

 「勘違いしないことですわね」

 

 厳しい声がかけられる。振り向くと、ダイヤさんが立っていた。

 

 「今までのスクールアイドルの努力と、街の人達の善意があったからこそライブは成功した・・・それを忘れないように」

 

 「・・・分かってます」

 

 言われなくても分かってる。私達の実力なんてまだまだで、今は他のスクールアイドルには到底及ばない。

 

 そんなことは分かってる。

 

 「でも、ただ見てるだけじゃ始まらないって・・・上手く言えないけど、今しか無い瞬間だから・・・だから、輝きたい」

 

 ダイヤさんを真っ直ぐ見つめる。

 

 「だから全力で、スクールアイドルをやります。普通星人の私がようやく見付けた、心からやりたいことだから」

 

 「・・・そうですか」

 

 ダイヤさんはそれだけ言うと、踵を返して出て行った。

 

 「あんな言い方しなくても良いのに・・・」

 

 口を尖らせる曜ちゃん。

 

 「そんなに私達のことが気に入らないのかな・・・」

 

 「・・・多分、私達の為を思って言ってくれてるんじゃないかな」

 

 最初はただ、スクールアイドルが嫌いなんだと思ってたけど・・・

 

 μ'sのことをあんなによく知ってる人が、スクールアイドルを嫌いなわけがない。

 

 「何か、そんな気がするんだよね」

 

 「千歌さんって、そういう勘だけは無駄に鋭いですよね」

 

 「無駄って酷い・・・って天くん!?」

 

 いつの間にか、すぐ後ろに天くんが立っていた。い、いつの間に・・・

 

 「お疲れ様です」

 

 「いつからいたの!?」

 

 「『夢にときめけ!明日にきらめけ!』からですね」

 

 「そんな場面無かったよねぇ!?完全にルー●ーズじゃん!?川●先生じゃん!?」

 

 「あれ?『あきらめたらそこで試合終了ですよ・・・?』でしたっけ?」

 

 「それはスラ●ダンクの安●先生!野球からバスケになってるよ!?」

 

 「あ、曜さんと梨子さんもお疲れ様でした」

 

 「お疲れ~」

 

 「お疲れ様」

 

 「無視しないでくれる!?」

 

 ホントにこの子は・・・全くもう・・・

 

 「あ、さっき小原理事長とも話したんですけど・・・スクールアイドル部、正式に設立を認めてくれるそうです」

 

 「ホント?良かったぁ・・・」

 

 胸を撫で下ろす梨子ちゃん。

 

 まぁ約束を反故にされることはないとは思ってたけど、改めて聞くとやっぱりホッとする。

 

 「良いライブでしたよ。ファーストライブとしては上々だと思います」

 

 「色々ハプニングもあったけどね」

 

 苦笑する曜ちゃん。あ、ハプニングといえば・・・

 

 「天くんの『スイッチオン!』っていう声と同時に、また照明が点いたんだけど・・・あの時、天くんが何かしてくれたの?」

 

 「あぁ、ちょっと発電機をセットしてもらいまして」

 

 「発電機!?」

 

 「え、まさか停電になることを予測してたの!?」

 

 「えぇ。あくまでも万が一の為に用意してもらったんですけど・・・正解でしたね」

 

 苦笑する天くん。この子、ちょっと有能過ぎない・・・?

 

 「まぁ用意してくれたのもセットしてくれたのも、俺じゃないんですけどね」

 

 「え、じゃあ誰が・・・?」

 

 「あー・・・本人の為にも言わないでおきます」

 

 「えぇっ!?凄く気になるんだけど!?」

 

 何故か言葉を濁す天くん。本人の為ってどういう意味・・・?

 

 「まぁとにかく、何とかなって良かったです。ライブも成功して、スクールアイドル部も設立が認められる・・・最高の結果になりましたね」

 

 「うん、ありがとう・・・天くんのおかげだよ」

 

 「え?」

 

 驚いている天くんの手を、両手でそっと握る。

 

 「ライブの途中、何度も心が折れそうになった。でも折れそうになる度に、天くんの声が聞こえたんだ。だから頑張れた」

 

 「千歌さん・・・」

 

 「今回のライブだって、天くんの支えが無かったら成功してないもん。本当に感謝の気持ちでいっぱいだよ」

 

 練習メニューを考えてくれたり、作詞に悩んでた私にヒントをくれたり・・・

 

 いつだって天くんは、私達に寄り添ってくれた。会場の設営とかだって、誰よりも一生懸命やってくれてたってむっちゃん達から聞いてる。

 

 天くん無しで、今回の成功は有り得なかった。

 

 「支えてくれてありがとう、天くん」

 

 「ホント、天くんにはいつも助けられてるわね」

 

 「曜さん、梨子さん・・・」

 

 天くんと私の手に、曜ちゃんと梨子ちゃんの手が重ねられる。私は天くんを見た。

 

 「これからも、私達のマネージャーでいてくれる?」

 

 「・・・まぁ、そうしろって言われてますからね。あの忌々しい理事長から」

 

 溜め息をつく天くん。

 

 「でも・・・千歌さんや曜さん、梨子さんと一緒にいるのは楽しいですから。もう嫌々マネージャーをやってるわけじゃありませんよ」

 

 「天くん・・・」

 

 「ここからがスタートですから。練習もハードにするんで、覚悟して下さいね」

 

 「っ・・・うん!」

 

 私は笑顔で頷くと、勢いよく天くんの胸に飛び込んだ。

 

 「ちょ、千歌さん!?危ないですって!」

 

 「えへへ、何か無性に抱きつきたくなっちゃった」

 

 「あ、じゃあ私も!ヨーソロー!」

 

 「ちょ、曜さん!?倒れる!倒れるから!」

 

 「だ、だったら私も!えいっ!」

 

 「いや、梨子さんまで来ちゃったら・・・うわっ!?」

 

 三人分の重さに耐え切れなくなった天くんと共に、私達はそのまま床へと倒れ込んだ。

 

 私も曜ちゃんも梨子ちゃんも笑い、天くんはやれやれと言いたげに苦笑している。

 

 仲間達とこうして笑い合えることを、とても幸せに思う私なのだった。




どうも~、ムッティです。

この話で、アニメ一期の第三話まで終了したことになります。

次回からは第四話へと入っていきます。

ここ最近あまり出番のなかった、はなまるびぃの二人を存分に出していく…予定です(笑)

次回もお楽しみに(・∀・)ノ

それではまた次回!以上、ムッティでした!


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