今年の夏はヤバい気がする…
「ライブ凄かったよ天くん!衣装も曲も振り付けも良かったし、先輩方もキラキラしてて輝いてた!それから、それから・・・!」
「アハハ・・・ありがとね、ルビィちゃん」
興奮状態のルビィちゃんに、苦笑しながらそう返す俺。
ライブが終わってお客さん達のお見送りをしていた俺に、ルビィちゃんがダッシュで駆け寄ってきたのだ。
本当にスクールアイドルが好きなんだなぁ・・・
「お疲れ様、天くん」
ルビィちゃんの後ろでは、花丸が優しく微笑んでいた。
「ライブ、凄く楽しかったずら」
「そう言ってもらえると嬉しいよ。来てくれてありがとね、花丸」
「フフッ、天くんの為ならどこでも行くずら」
「・・・花丸が天使に見えるわぁ」
花丸の頭を撫でる。
「まだ結構雨が降ってるから、気を付けて帰ってね」
「了解ずら!」
「じゃあ、また明日ね!」
手を振って帰っていく二人。さて・・・
「花丸もルビィちゃんも行ったし、そろそろ出てきなよ・・・よっちゃん」
「ぎくっ!?」
扉の陰から、よっちゃんが恐る恐る顔を出す。
「恐るべしリトルデーモン・・・隠していた我が魔力を感知するとは・・・」
「扉の陰からシニヨンだけはみ出してたら、誰だって気付くわ」
「うげっ!?」
「っていうか、マスクとサングラス外したら?完全に不審者だよ?」
「誰が不審者よっ!?」
そうツッコミを入れつつも、マスクとサングラスを外すよっちゃん。素直や・・・
「今日は来てくれてありがとね」
「フッ・・・リトルデーモンの頼みを聞くのも、主である我の役目・・・堕天使ヨハネの慈悲深さに感謝するが良い」
「わー、ヨハネ様慈悲深ーい」
「棒読みっ!」
正直、よっちゃんには本当に感謝している。まだ登校する決心がついていない中で、ライブの為にわざわざ学校まで足を運んでくれたのだから。
「・・・学校に来るの、しんどくなかった?」
「急に心配してんじゃないわよ」
バシッと背中を叩かれる。
「これぐらいどうってことないわよ。まぁ、クラスメイト達と会うのは・・・まだちょっと勇気が出ないけど」
「・・・ゆっくりで良いから。焦らずにやっていこうね」
「・・・うん。ありがと」
小さく笑うよっちゃん。
「天も今日はお疲れ。帰ったらゆっくり休みなさいよ」
「分かったよ、母さん」
「誰が母さんよ!?」
「明日ノートとプリント持って行くから。いつものごとく、夕飯ご馳走になります」
「相変わらずその流れなのね・・・了解。じゃあまた明日」
よっちゃんも手を振りながら帰っていく。と、俺の背中がいつもの衝撃を受けた。
「お疲れ様のハグ!」
「・・・慣れって恐ろしいですね」
最初の頃はあんなにドキドキしてたのに、今はもう完全に平常心だ。
健全な思春期男子として、これはいかがなものだろうか・・・
「次々に美少女と会話しちゃって・・・本命はどの子なの?」
「果南さんってことにしといて下さい」
「おっ、私を美少女の括りに入れてくれるの?」
「誰がどう見たって美少女でしょ。果南さんの可愛さを舐めないで下さい」
「な、何か恥ずかしいんだけど・・・」
顔を赤らめる果南さん。
最近分かったことだが、この人もストレートな言葉に弱い。褒め言葉には特に弱い。
「そういえば、果南さんもありがとうございました。発電機のセットを手伝ってくれて」
「どういたしまして。まぁ大したことはしてないけどね」
笑う果南さん。
「それにしても・・・このタイミングで鞠莉に会うとはね・・・」
表情が暗くなる果南さん。やっぱり二人の間には、何かがあるようだ。
「・・・元気出して、のハグ」
「っ!?」
偶にはこっちから果南さんにハグしてみる。果南さんの顔が真っ赤になっていた。
「そ、天!?」
「いつもハグしてる仲なんですから、そんなに恥ずかしがらなくても良いでしょう」
「そ、そうだけどさぁ・・・男の子からハグされるなんて、経験無いから・・・!」
「よし、果南さんの初めてゲット」
「その言い方は誤解を招くから止めてくんない!?」
「ちょっと何言ってるか分かんないです」
「何でよ!?」
どうやら少しは元気が出たようだ。やっぱり果南さんはこうでなくちゃ。
「さて・・・こんなところをダイヤさんに見られたら『破廉恥ですわ!』って怒られそうなんで、そろそろ離れますね」
「アハハ、確かに・・・」
苦笑する果南さん。
「でも・・・偶には相手の方からハグされるのも、悪くないかもね」
「果南さんは基本的に、自分からハグしに行きますもんね」
「そうなんだよ。だからまぁ・・・偶には、天からハグしてくれても良いよ?」
少し恥ずかしそうに笑う果南さん。
何だか今の果南さんは、『お姉さん』というより『女の子』っていう感じがして新鮮だな・・・
「それじゃ、私も帰るね!」
「えぇ。今日は来てくれてありがとうございました」
帰っていく果南さんを見送る。これでお客さんはほとんど帰ったか・・・
「・・・顔を出しに行くかな」
ライブが終わってから、まだ千歌さん達のところに顔を出せていない。
果たしてどんな様子なのか、少し気になっている俺なのだった。
*****
《千歌視点》
「・・・終わったね」
「・・・うん」
「・・・そうね」
ステージ裏で、私達は椅子に座ってボーっとしていた。
ライブが終わって、ステージ裏に戻ってきて、三人で号泣して・・・ひとしきり泣いたら、何だかドッと疲れが押し寄せてきたのだ。
「満員だったね・・・」
「うん、会場を埋められたね・・・」
「条件クリア、よね・・・」
これでスクールアイドル部の設立が認められる。これからもAqoursとして活動することが出来る。
「これから始まるんだ・・・」
ゆっくりと椅子から立ち上がる。
「始められるんだ・・・スクールアイドル」
また涙ぐんでしまいそうになる。ステージでも泣いたし、さっきも泣いたのに・・・
「・・・千歌ちゃん」
そっと隣に寄り添ってくれる曜ちゃん。
「一緒に頑張ろうね」
「曜ちゃん・・・」
「曲作りは任せて」
梨子ちゃんも隣に立ってくれる。
「絶対に良い曲を作ってみせるから」
「梨子ちゃん・・・」
「だから千歌ちゃん・・・作詞は早めにお願いね?」
「うっ・・・」
「全ては千歌ちゃんにかかってるからね?」
「止めてえええええっ!?プレッシャーかけないでえええええっ!?」
思わず頭を抱えてしまう。そんな私を見て、曜ちゃんと梨子ちゃんが笑っていた。
うぅ、意地悪・・・
「勘違いしないことですわね」
厳しい声がかけられる。振り向くと、ダイヤさんが立っていた。
「今までのスクールアイドルの努力と、街の人達の善意があったからこそライブは成功した・・・それを忘れないように」
「・・・分かってます」
言われなくても分かってる。私達の実力なんてまだまだで、今は他のスクールアイドルには到底及ばない。
そんなことは分かってる。
「でも、ただ見てるだけじゃ始まらないって・・・上手く言えないけど、今しか無い瞬間だから・・・だから、輝きたい」
ダイヤさんを真っ直ぐ見つめる。
「だから全力で、スクールアイドルをやります。普通星人の私がようやく見付けた、心からやりたいことだから」
「・・・そうですか」
ダイヤさんはそれだけ言うと、踵を返して出て行った。
「あんな言い方しなくても良いのに・・・」
口を尖らせる曜ちゃん。
「そんなに私達のことが気に入らないのかな・・・」
「・・・多分、私達の為を思って言ってくれてるんじゃないかな」
最初はただ、スクールアイドルが嫌いなんだと思ってたけど・・・
μ'sのことをあんなによく知ってる人が、スクールアイドルを嫌いなわけがない。
「何か、そんな気がするんだよね」
「千歌さんって、そういう勘だけは無駄に鋭いですよね」
「無駄って酷い・・・って天くん!?」
いつの間にか、すぐ後ろに天くんが立っていた。い、いつの間に・・・
「お疲れ様です」
「いつからいたの!?」
「『夢にときめけ!明日にきらめけ!』からですね」
「そんな場面無かったよねぇ!?完全にルー●ーズじゃん!?川●先生じゃん!?」
「あれ?『あきらめたらそこで試合終了ですよ・・・?』でしたっけ?」
「それはスラ●ダンクの安●先生!野球からバスケになってるよ!?」
「あ、曜さんと梨子さんもお疲れ様でした」
「お疲れ~」
「お疲れ様」
「無視しないでくれる!?」
ホントにこの子は・・・全くもう・・・
「あ、さっき小原理事長とも話したんですけど・・・スクールアイドル部、正式に設立を認めてくれるそうです」
「ホント?良かったぁ・・・」
胸を撫で下ろす梨子ちゃん。
まぁ約束を反故にされることはないとは思ってたけど、改めて聞くとやっぱりホッとする。
「良いライブでしたよ。ファーストライブとしては上々だと思います」
「色々ハプニングもあったけどね」
苦笑する曜ちゃん。あ、ハプニングといえば・・・
「天くんの『スイッチオン!』っていう声と同時に、また照明が点いたんだけど・・・あの時、天くんが何かしてくれたの?」
「あぁ、ちょっと発電機をセットしてもらいまして」
「発電機!?」
「え、まさか停電になることを予測してたの!?」
「えぇ。あくまでも万が一の為に用意してもらったんですけど・・・正解でしたね」
苦笑する天くん。この子、ちょっと有能過ぎない・・・?
「まぁ用意してくれたのもセットしてくれたのも、俺じゃないんですけどね」
「え、じゃあ誰が・・・?」
「あー・・・本人の為にも言わないでおきます」
「えぇっ!?凄く気になるんだけど!?」
何故か言葉を濁す天くん。本人の為ってどういう意味・・・?
「まぁとにかく、何とかなって良かったです。ライブも成功して、スクールアイドル部も設立が認められる・・・最高の結果になりましたね」
「うん、ありがとう・・・天くんのおかげだよ」
「え?」
驚いている天くんの手を、両手でそっと握る。
「ライブの途中、何度も心が折れそうになった。でも折れそうになる度に、天くんの声が聞こえたんだ。だから頑張れた」
「千歌さん・・・」
「今回のライブだって、天くんの支えが無かったら成功してないもん。本当に感謝の気持ちでいっぱいだよ」
練習メニューを考えてくれたり、作詞に悩んでた私にヒントをくれたり・・・
いつだって天くんは、私達に寄り添ってくれた。会場の設営とかだって、誰よりも一生懸命やってくれてたってむっちゃん達から聞いてる。
天くん無しで、今回の成功は有り得なかった。
「支えてくれてありがとう、天くん」
「ホント、天くんにはいつも助けられてるわね」
「曜さん、梨子さん・・・」
天くんと私の手に、曜ちゃんと梨子ちゃんの手が重ねられる。私は天くんを見た。
「これからも、私達のマネージャーでいてくれる?」
「・・・まぁ、そうしろって言われてますからね。あの忌々しい理事長から」
溜め息をつく天くん。
「でも・・・千歌さんや曜さん、梨子さんと一緒にいるのは楽しいですから。もう嫌々マネージャーをやってるわけじゃありませんよ」
「天くん・・・」
「ここからがスタートですから。練習もハードにするんで、覚悟して下さいね」
「っ・・・うん!」
私は笑顔で頷くと、勢いよく天くんの胸に飛び込んだ。
「ちょ、千歌さん!?危ないですって!」
「えへへ、何か無性に抱きつきたくなっちゃった」
「あ、じゃあ私も!ヨーソロー!」
「ちょ、曜さん!?倒れる!倒れるから!」
「だ、だったら私も!えいっ!」
「いや、梨子さんまで来ちゃったら・・・うわっ!?」
三人分の重さに耐え切れなくなった天くんと共に、私達はそのまま床へと倒れ込んだ。
私も曜ちゃんも梨子ちゃんも笑い、天くんはやれやれと言いたげに苦笑している。
仲間達とこうして笑い合えることを、とても幸せに思う私なのだった。
どうも~、ムッティです。
この話で、アニメ一期の第三話まで終了したことになります。
次回からは第四話へと入っていきます。
ここ最近あまり出番のなかった、はなまるびぃの二人を存分に出していく…予定です(笑)
次回もお楽しみに(・∀・)ノ
それではまた次回!以上、ムッティでした!