絢瀬天と九人の物語   作:ムッティ

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最近『未来の僕らは知ってるよ』と『MIRAI TICKET』をよく聴いてます。

Aqoursの曲の中でも、五本の指に入るくらい好きな二曲です。


言葉にしなければ分からないことがある。

 「おぉ・・・良い眺めですね」

 

 感嘆の声を上げる俺。

 

 俺達は今、淡島神社へと続く長い階段の途中にいた。少し開けたその場所からは、内浦の海を見渡すことが出来る。

 

 ちょうど夕陽に染まっており、オレンジ色の海がとても綺麗だった。

 

 「でしょう?私のお気に入りスポットですわ」

 

 ダイヤさんはそう言って笑うと、近くのベンチに腰を下ろした。

 

 「それにしても、ルビィは大丈夫でしょうか・・・こんなに長い階段を、ダッシュで上っていきましたが・・・」

 

 ここの階段ダッシュは、Aqoursにとって日々のトレーニングの一環となっている。前に果南さんからこの場所を教えてもらった俺が、トレーニングメニューに追加したのだ。

 

 まぁかなり長いので、途中で一息入れるようにはしているが。果南さんはこれを毎朝、しかも休憩無しでやっているらしい。

 

 小原理事長がおっぱいお化けなら、果南さんは体力お化けといったところだろうか。

 

 「大丈夫ですよ。千歌さん達が無理させないでしょうから」

 

 ダイヤさんの隣に座る俺。

 

 「それにルビィちゃん、意外に体力ありますからね。体育でやった持久走とか、割と良いタイム出してましたよ」

 

 むしろ心配なのは花丸の方だ。運動が苦手と公言するだけあって、体力があまり無い。途中でバテそうな気がする。

 

 「・・・そうですわね」

 

 浮かない表情のダイヤさん。

 

 「・・・ルビィは、本気でスクールアイドルをやるつもりなのでしょうか?」

 

 「もしルビィちゃんが『やりたい』と言ったら・・・ダイヤさんはどうするつもりなんですか?」

 

 「私は・・・」

 

 俯くダイヤさん。

 

 「私は・・・ルビィが本気なら、その気持ちを応援しますわ。あの子がスクールアイドルに憧れているのは、よく知っていますから」

 

 「・・・それはダイヤさんも同じでしょう?」

 

 「っ・・・」

 

 唇を噛むダイヤさん。やっぱりな・・・

 

 「ルビィちゃんが言ってました。高校に入ってしばらくして、ダイヤさんはスクールアイドルが嫌いになってしまったと・・・それを聞いて、何となく想像がつきました」

 

 俺は隣に座るダイヤさんへ視線を向けた。

 

 「ダイヤさん、貴女・・・スクールアイドルをやってましたよね?」

 

 「ッ!?」

 

 ダイヤさんが息を呑む。

 

 「ど、どうして・・・!?」

 

 「ダイヤさんが教えてくれたんじゃないですか」

 

 溜め息をつく俺。

 

 「あの日ダイヤさんが浜辺に書いた、『Aqours』という名前・・・調べたらすぐ分かりましたよ。二年前、東京で行なわれたスクールアイドルのイベントに参加してますよね?出場グループ一覧に、『Aqours』の名前がありました」

 

 『Aqours』という名前には、ダイヤさんにとって思い入れがあるんだろうとは思ってはいたが・・・

 

 まさか自分がやっていたスクールアイドルグループの名前だったとはな・・・

 

 「担任の赤城先生にも聞いてみたんですけど、ちゃんと覚えてましたよ。二年前、浦の星でスクールアイドルをやっていた生徒がいたことを」

 

 「・・・天さんは既にご存知だったのですね」

 

 苦笑するダイヤさん。

 

 「その様子から察するに、他のメンバーが誰なのかも分かっているのでしょう?」

 

 「・・・果南さんと小原理事長ですね」

 

 俺の答えに、力なく頷くダイヤさん。

 

 部室のホワイトボードに書かれていた文字・・・恐らくあれは果南さんの字だ。バイトの時に果南さんが書く字は度々見ているから、すぐに果南さんの字だと分かった。

 

 そして小原理事長が留学したのは二年前・・・恐らくイベントが終わった後に留学したんだろう。スクールアイドル部に何かと目をかけるのも、自身が過去にスクールアイドルをやっていたのであれば説明がつく。

 

 「二年前、ダイヤさん達はスクールアイドルを始めた。でも何らかの理由で辞めざるをえなくなり、Aqoursは解散した。だからダイヤさんは、スクールアイドル関連のものを自分から遠ざけようとしたんでしょう?」

 

 それでも、心の底からスクールアイドルを嫌いになることなど出来なかった・・・μ'sについて楽しそうに語っていたのがその証拠だ。

 

 「スクールアイドルに関わる部の設立を承認してこなかったのは、その人達が傷付かないようにする為・・・スクールアイドルをやっていたからこそ、その大変さがダイヤさんには分かってたんですよね?どんな事情があったにせよ、辞める決断をするというのは・・・とても辛いことですから」

 

 「・・・敵いませんわね。察しが良すぎますわ」

 

 溜め息をつくダイヤさん。

 

 「そこまで分かっているのなら、私が何を心配しているか分かるでしょう?」

 

 「スクールアイドルをやることで、ルビィちゃんが辛い思いをしないか・・・ですね」

 

 「えぇ。あんな思いをするくらいなら、私は・・・」

 

 膝の上で拳を握るダイヤさんが、俺にはとても弱々しく見えた。

 

 誰かが傷付くことを恐れ、自分が嫌われてでも防ごうと必死になる・・・その行動は、ただただ『不器用』の一言に尽きる。いつもスマートに仕事をこなすダイヤさんとは大違いだ。

 

 でも恐らく、その『不器用』な姿こそが本当のダイヤさんなんだろう。人一倍優しいからこそ、人が傷付くのを黙ってみていられない・・・それが『不器用』な行動に繋がっている。

 

 まったく・・・

 

 「千歌さんがあの人に似てると思ったら、ダイヤさんはあの人ですか・・・」

 

 「あの人・・・?」

 

 「いえ、こっちの話です」

 

 まぁそれはさておき・・・俺がダイヤさんにかけられる言葉は一つだ。

 

 「ダイヤさん・・・あまりルビィちゃんを見くびらない方が良いですよ」

 

 「え・・・?」

 

 ポカンとしているダイヤさん。

 

 「それはどういう・・・?」

 

 「そのままの意味です。確かにルビィちゃんは極度の人見知りですし、気の弱いところだってありますけど・・・しっかりとした芯を持ってる子ですよ」

 

 「っ・・・」

 

 「スクールアイドルが大変だってことぐらい、スクールアイドルが大好きなルビィちゃんなら分かってるはずです。それでもルビィちゃんは、『やってみたい気持ちはある』と言いました。この意味が分かりますか?」

 

 それはつまり、『大変だとしてもやる覚悟はある』ということだ。千歌さんがゼロから始めたところを見ているルビィちゃんが、『スクールアイドルは楽だ』なんて思っているはずがないのだから。

 

 「ルビィちゃん、言ってましたよ。『お姉ちゃんが嫌いっていうものを、好きなままじゃいけない』って」

 

 「っ・・・ルビィが・・・?」

 

 「えぇ。それでも、やっぱりスクールアイドルを嫌いにはなれなかったみたいですけどね・・・ダイヤさんと同じで」

 

 こういうところは似てるよな・・・流石は姉妹というべきか。

 

 「要はダイヤさんに遠慮してるんです。ダイヤさんがやってほしくないだろうからやらない・・・それはダイヤさんが望んでいる答えじゃないでしょう?貴女がルビィちゃんに望むものは何ですか?」

 

 「私が・・・ルビィに望むもの・・・」

 

 ダイヤさんの瞳が揺れ動く。俺はダイヤさんを見据えた。

 

 「しっかりしろ、黒澤ダイヤ」

 

 「っ・・・!」

 

 俺に呼び捨て、しかもタメ口をきかれて驚くダイヤさん。先輩を相手に失礼だとは思うが、これだけはハッキリ伝えなくてはいけない。

 

 「妹に伝えたいこと、妹に望むこと・・・それをハッキリ言葉にしろ。言葉にしなくても分かるだなんて、そんなのはただの甘えだ。ルビィが望んでいるのは他の誰でもない、貴女の言葉なんだから」

 

 「天さん・・・」

 

 と、その時・・・

 

 「え、お姉ちゃん!?」

 

 驚く声が聞こえる。振り向くと、ルビィちゃん達が階段を下りてくるところだった。

 

 「ダイヤさん!?それに天くんも!?」

 

 「どうしてここに!?」

 

 千歌さん達も驚いている中、花丸がこちらへ不安げな視線を送ってくる。恐らくダイヤさんを説得できたかどうか、心配しているのだろうが・・・

 

 俺は花丸に笑みを向けると、千歌さん達へと視線を移した。

 

 「ワー、偶然デスネー」

 

 「棒読みっ!絶対偶然じゃないよねぇ!?」

 

 「バアアアアニングゥ!ラアアアアブ!」

 

 「何で艦●れの金●さん!?」

 

 「アレです。内浦に対する愛が溢れてしまったんです・・・メイビー」

 

 「急に!?しかも今メイビーって言ったよねぇ!?」

 

 「落ち着くネ、ブッキー」

 

 「誰がブッキー!?」

 

 ギャーギャーやかましい千歌さんはさておき、俺はルビィちゃんへ目をやった。

 

 「ルビィちゃん、ダイヤさんが話したいことがあるんだって」

 

 「お、お姉ちゃんが・・・?」

 

 恐る恐るダイヤさんを見るルビィちゃん。スクールアイドルをやることについて、反対されると思っているんだろう。

 

 「ルビィ・・・私は・・・」

 

 言葉に詰まるダイヤさん。俺はダイヤさんの背中に手を添えた。

 

 「・・・今ダイヤさんが、一番ルビィちゃんに言いたいことを言ってあげて下さい」

 

 「一番言いたいこと・・・」

 

 逡巡していたダイヤさんだったが、意を決してルビィちゃんを見つめた。

 

 「ルビィ・・・本気でスクールアイドルをやりたいのですか?」

 

 「っ・・・ルビィは・・・」

 

 「ダイヤさん、あの・・・!」

 

 「千歌さん」

 

 慌てて口を挟もうとした千歌さんを、花丸が制する。これはルビィちゃんが答えるべき質問だということを、花丸はよく分かっている。

 

 「ル、ルビィは・・・」

 

 戸惑っているルビィちゃん。仕方ないか・・・

 

 「焦らなくて良いよ・・・ルビィ」

 

 「え・・・?」

 

 俺はルビィに言葉をかけた。初めて呼び捨てにされたせいか、ポカンとしているルビィちゃん。

 

 「ダイヤさんの質問に、きちんと本心で答えてあげて。ダイヤさんが聞きたいのは、ルビィの本当の気持ちなんだよ」

 

 「本当の気持ち・・・」

 

 俯くルビィちゃん。そして、意を決したように顔を上げた。

 

 「お姉ちゃん、ルビィね・・・ルビィ、スクールアイドルがやりたい」

 

 そう言い切るルビィちゃんの表情は、とても真剣なものだった。

 

 「大変なのは分かってる。それでも・・・それでもやってみたい!千歌さん達と一緒に、ルビィも輝きたい!」

 

 「ルビィちゃん・・・」

 

 千歌さん達の目が潤む中、ダイヤさんはじっとルビィちゃんを見つめていた。ルビィちゃんもまた、ダイヤさんをじっと見つめている。

 

 そして・・・

 

 「・・・それなら、頑張りなさい」

 

 「っ・・・!」

 

 微笑むダイヤさん。ルビィちゃんが息を呑む。

 

 「い、良いの・・・?」

 

 「やってみたいのでしょう?ならやってみなさい。ルビィが心からやりたいと思うのであれば、私は応援しますわ」

 

 「っ・・・お姉ちゃん・・・!」

 

 ダイヤさんの胸に飛び込むルビィちゃん。それをダイヤさんが優しく抱き留めた。

 

 「ひっぐ・・・ぐすっ・・・!」

 

 「もう、ルビィったら・・・相変わらず泣き虫ですわね」

 

 「うぅ・・・だって・・・!」

 

 「・・・でも、大きくなりましたわね」

 

 ルビィちゃんの頭を撫でるダイヤさん。俺は二人の側をそっと離れ、花丸の隣へと移動した。

 

 「一件落着・・・ってところかな」

 

 「そうずらね。これでルビィちゃんの気持ちも晴れるずら」

 

 「だね・・・お疲れ、花丸」

 

 「天くんもお疲れ様ずら」

 

 笑みを浮かべ、拳を軽く合わせる俺達なのだった。




どうも~、ムッティです。

梅雨入りしたということで、雨の日が続いております。

梅雨入り前はメッチャ暑かったのに、何故急に寒くなるのか…

いや、個人的に暑い方より寒い方が好きだけども。

こうも急に気温が変わると、身体がついていかないぜ…

皆さんも身体に気を付けて下さい(>_<)

あ、ちなみに明日も投稿しますのでお楽しみに(・∀・)ノ

それではまた次回!以上、ムッティでした!

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