これからまだ暑くなるのかと思うと、ホント萎えるわ・・・
「ランキングが上がらないよおおおおおっ!」
部室に置かれたパソコンを前に、頭を抱える千歌さん。
花丸とルビィが加わったのを機に、Aqoursはスクールアイドル専門のサイトに登録した。ここに登録すると、スクールアイドルを応援している人達の評価によってランク付けされるようになるのだ。
このサイトに登録しているスクールアイドルの数は、およそ5000組。現在Aqoursは4768位なので、かなり下の方ということになる。
「昨日が4856位で、今日が4768位・・・」
「落ちてはいないけど・・・」
梨子さんと曜さんも肩を落としている。思うように順位が上がらないことで、もどかしく思っているのだろう。
「確かに人気は大事ですけど、まだ登録したばかりなんですから仕方ないですよ」
俺は苦笑しつつ、お茶の準備を進めていた。
「とりあえず一息つきましょう・・・はい、お茶と和菓子」
「ずらあああああっ!」
真っ先に花丸が和菓子を頬張る。
花丸は美味しい食べ物に目が無い上、無限大の食欲を誇る大食い娘だったりする。その割りにはメッチャ小柄なんだけど、摂取した栄養は一体どこへいっているのだろうか・・・
やっぱりおっp・・・
「・・・天くん?」
「すいませんでした」
女帝の冷たい視線が飛んでくる。何で人の思考が分かるんだ・・・
「ん、美味しい!」
ルビィも目を輝かせながら和菓子を食べている。
「天くんの差し入れてくれる和菓子は凄く美味しいって、お姉ちゃんからも聞いてたけど・・・どこのお店の和菓子なの?」
「東京だよ。向こうに住んでた時、よく通ってた和菓子屋さんがあるんだ。こっちに来てからは、電話で注文して送ってもらってるんだけど」
「えぇっ!?東京の和菓子!?」
「早く食べなきゃ!」
「二人ともがっつかないの!」
急いで食べようとする千歌さんと曜さんを、梨子さんが嗜める。
「でも天くん、よく和菓子を差し入れで振る舞ってくれるけど・・・こういうのって結構高いんじゃない?大丈夫?」
「大丈夫ですよ」
心配してくれる梨子さんに、笑いながら答える俺。
「その和菓子屋の大将と奥さんには、昔からよくお世話になってまして。電話で注文すると、必ず注文した数より多く送ってくれるんですよ。ありがたいことなんですけど、一人じゃ食べ切れなくて・・・」
「じゃあマルが全部食べてあげるずら!」
「あっ、花丸ちゃんズルい!ルビィも食べる!」
「食い意地を張らないの!」
梨子さんに怒られる花丸とルビィ。
「まぁそういうことなんで大丈夫です。大将と奥さんも、『周りから好評だ』って伝えたら凄く喜んでましたから。遠慮なく召し上がって下さい」
「そういうことなら・・・ありがとう。遠慮なくいただくわ」
微笑む梨子さん。一方、千歌さんは再びパソコンと睨めっこしていた。
「むぅ・・・どうしたらランキング上がるかなぁ・・・」
「んー・・・例えば、名前を奇抜なものにしてみるとか?」
「今からでもスリーマーメイドにします?」
「ぶふうううううっ!?」
お茶を飲んでいた梨子さんが盛大に吹き出す。
「ゴホッ、ゴホッ・・・そ、それは忘れてって言ったでしょ!?」
「あ、今はファイブマーメイドですね」
「そういうことじゃないから!」
「じゃあ梨子さんだけ『ピンクマーメイド』を名乗りましょう。苗字が桜内だけに」
「止めてええええええええええっ!?」
顔を真っ赤にしながら俺の胸倉を掴み、盛大に身体を揺らしてくる梨子さん。そんなに恥ずかしいのかな?
「いや違うから。恥ずかしがってるのは見られた時のことだから」
俺の心を読んだであろう千歌さんのツッコミに、首を傾げる俺なのだった。
*****
「リア充に、私はなる!」
「いや、そんな『海賊王に、俺はなる!』みたいに言われても・・・」
堕天使の衣装に身を包んだよっちゃんに、呆れた視線を向ける俺。
いつものごとくノートとプリントを届けに来た俺は、よっちゃんの部屋で突然訳の分からない宣言を聞かされていた。ちなみに善恵さんは夕飯の買出し中である。
「あの悪夢の日から一ヵ月半・・・もう五月の半ばよ。そろそろ学校に行かないと、マジでヤバいわ」
「そうだね。来週から中間試験もあるし」
流石に中間試験を受けないのはちょっとマズい。
赤城先生からも、『中間試験だけでも受けるように、絢瀬くんから津島さんに言ってもらえないかしら?』とお願いされたほどだ。
「そこで私は覚悟を決めたわ・・・明日から学校に行く!」
「・・・熱でもあるの?」
「ちょ、顔が近いわよ!?」
額と額をくっつけてみるが、熱は無いようだ。
ということは、マジで言ってるのか・・・
「よっちゃん、本当に大丈夫?無理はしなくて良いんだよ?」
「・・・いつまでも甘えてちゃダメなのよ」
小さな声で呟くよっちゃん。
「そろそろ一歩踏み出さないと・・・私は変わらなきゃいけないのよ」
「よっちゃん・・・」
どうやらよっちゃんは本気らしい。なら俺も、よっちゃんの背中を押してあげないと。
「・・・分かった。じゃあ明日は一緒に学校に行こう」
「良いの・・・?」
「勿論。よっちゃんのことはちゃんとサポートするから、安心して」
「・・・うん。ありがと」
微笑むよっちゃん。
「フフッ、流石は我がリトルデーモン・・・褒めてつかわすぞ」
「前言撤回。一人で何とかしろバカヨハネ」
「すいませんでしたあああああっ!」
その場で土下座するよっちゃんなのだった。
*****
翌朝。
「フフッ・・・今日も良い天気ね、天」
「ソウダネ、ヨッチャン」
優雅な女子高生として振舞うよっちゃんに、カタコトで返事をする俺。
よっちゃんと俺は、学校へと続く坂道を上っているところだった。
「ちょっと天、返事が不自然よ。それじゃ不審に思われるでしょうが」
「いや、不自然にもなるって。よっちゃんの本性を知ってる身としては、その優雅なキャラが気持ち悪くて仕方ないんだけど」
「酷い!?女の子に『気持ち悪い』とか言うんじゃないわよ!?」
「『初対面で下劣だの下等だの言うような奴は、女子としてカウントされない』って、初めて会った時に言ったじゃん」
「あのルールまだ適用されてたの!?」
小声でひそひそと話し合っていると・・・
「あ、天くん!」
「おはよー!」
クラスの女子達が声をかけてくれる。手を上げて応える俺。
「おはy・・・」
「おはよう♪」
一瞬で優雅キャラの皮を被ったよっちゃんが、にこやかに女子達に笑いかける。
「お、おはよう・・・」
「えーっと、津島さん・・・だよね?」
「えぇ、そうよ」
戸惑う女子達に対し、笑みを浮かべて答えるよっちゃん。
「今までずっと休んでいたんだけど、今日からまた学校に通えることになったの。これからよろしくね」
「う、うん・・・」
「よ、よろしく・・・」
おずおずと答える女子達。
よっちゃんは微笑むと、そのまま優雅な足取りで坂道を上っていく。
「津島さん、雰囲気変わった・・・?」
「あんな子だったっけ・・・?」
「気にしないで。久しぶりの学校に浮かれてるだけだから」
「そ、そうなんだ・・・」
とりあえずそういうことにしておく。
ちなみに言っておくと、クラスメイト達は皆あの自己紹介の時のことを覚えている。あんなにインパクトの強すぎる自己紹介、そうそうお目にかかれないし。
それだけにあの優雅なキャラが逆に違和感バリバリだということに、よっちゃんは未だに気付いていないらしい。
「そのうち素が出ると思うから、今は優しく見守ってあげて。っていうか、素が出ちゃっても温かい目で見守ってあげて」
「わ、分かった・・・」
「何か天くん、津島さんの保護者みたい・・・」
そんな話をしていると、よっちゃんが途中でこちらを振り向いた。
「天、何をしているの?早く行きましょう?」
「はいはい・・・じゃ、よろしくね」
「「り、了解・・・」」
何とか二人の理解を得られたところで、小走りでよっちゃんに追い付く。
「見た!?ねぇ見た!?私メッチャ自然に会話してたわよね!?」
「ウン、ソウダネ」
「いける!いけるわ!この調子なら上手くやれる!リア充になれる!」
「頑張ッテ。応援シテルヨ」
「ありがとう天!私頑張る!」
俺がカタコトで返事をしていることにも気付かず、やる気に満ち溢れているよっちゃん。
自分では自然だと思っているようだが、ここは不自然さを指摘すべきなのか・・・
「さぁ、行くわよ天!私達の教室へ!」
俺の手を掴み、満面の笑みで歩き出すよっちゃん。そんな楽しそうなよっちゃんを見ていたら、俺は何も言えなくなってしまった。
「・・・まぁ良いか」
よっちゃんが笑顔でいられるなら、それに越したことはない。
俺は苦笑しつつ、よっちゃんに引っ張られるがままに歩き出すのだった。
どうも~、ムッティです。
梶裕貴さん、竹達彩奈さん、ご結婚おめでとうございます!
いやぁ、ビックリしました(゜ロ゜)
梶さんと竹達さんといえば、個人的には『ハイスクールD×D』を思い出しますね。
まさかイッセーと小猫ちゃんがねぇ…
本当におめでたいことですね(^^)
末永くお幸せに(・∀・)ノ
あ、次の話は明日投稿します。
それではまた次回!以上、ムッティでした!