思いっきり羽を伸ばしたい・・・
「こ、これで歌うの・・・?」
モノクロの衣装に身を包んだ梨子さんが、しきりにスカートを気にしている。
放課後、俺達は千歌さんの家へとやってきていた。何でも千歌さんが、ランキングを上げる為の良い考えを思いついたらしい。
ホントかなぁ・・・
「この前より短い・・・これでダンスしたら、流石に見えるわ・・・」
「マジですか。じゃあちょっとダンスしてみて下さい」
「話聞いてた!?見えるって言ってるでしょうが!」
「良いじゃないですか。俺はもう見てるんですし」
「あああああっ!?聞こえないっ!何も聞こえないっ!」
しゃがみ込んで耳を塞ぐ梨子さん。やれやれ・・・
「っていうか曜さん、よくこんな衣装ありましたね」
「いやー、色々と試作品を作ってたんだよねー!花丸ちゃんとルビィちゃんも加わったし、次の衣装を考えてたら作業が捗っちゃってさー!」
鏡の前で嬉々として衣装を眺めている曜さん。ホントに衣装が好きだな・・・
「それで千歌さん、良い考えっていうのは・・・」
「よくぞ聞いてくれました!」
腕を組み、ふんぞり返る千歌さん。
「ズバリ!Aqoursは堕天使アイドルでいこうと思います!」
「地獄に堕ちろ、単細胞オレンジヘッド」
「段々と罵倒が酷くなってきてるのは気のせい!?」
「それだけ千歌さんへの信頼が無くなってきてる証拠です」
「酷い!?」
ショックを受けている千歌さん。いや、堕天使アイドルって・・・
「それのどこが良い考えなんですか・・・」
「調べてみたけど、堕天使アイドルっていなかったんだよ。結構インパクトあると思うし、良いんじゃないかな?」
「・・・まぁインパクトはあるでしょうね」
この前まで正統派アイドル路線だったのに、急に大きく路線を外れて堕天使アイドルだもんな・・・
確かに、見てる方からすると衝撃は大きいと思う。
「な、何か恥ずかしい・・・」
「落ち着かないずら・・・」
普段着ない衣装を着ているせいか、モジモジしているルビィと花丸。
っていうか花丸、それ以上スカートを持ち上げないで。見えるから。ワ●メちゃんみたいになるから。
「ほ、本当にこれで良いの・・・?」
堕天使の衣装に身を包んだよっちゃんが、おずおずと尋ねる。
あのよっちゃんでさえそんなことを言う時点で、俺達がいかに迷走しているかが分かるな・・・
「これで良いんだよ!ステージ上で堕天使の魅力を皆で思いっきり振りまくの!」
「堕天使の・・・魅力・・・」
あっ、よっちゃんの心が揺れてる・・・
「ハッ!?ダメダメ!そんなのドン引かれるに決まってるでしょ!?」
おっ、正常な思考を取り戻したようだ。
「大丈夫だよ!きっと大人気だよ!」
「だ、大人気・・・ククッ・・・クククッ・・・」
あぁ、完全に堕ちたな・・・ダメだこりゃ・・・
「ハァ・・・私、ちょっとお手洗いに行ってくるわね」
溜め息をついて、部屋から退出する梨子さん。梨子さん的には、あまり賛成できるアイデアではなかったようだ。
「よーし!堕天使アイドルとして頑張るぞー!」
「「おー!」」
意気込む千歌さんと、ノリノリな曜さんとよっちゃん。花丸とルビィは苦笑しているところを見ると、梨子さん寄りの考えみたいだ。
ここは一言言っておくべきか・・・
「千歌さん、一つ忠告しておきますね」
「忠告?」
首を傾げる千歌さん。何のことか分かっていないらしい。
「本当に堕天使アイドルとしてやっていきたいのなら、別に止めはしません。ですが、ただランキングを上げたいという理由でやろうとしているのなら・・・路線変更はオススメできません」
「え、何で?」
「意味が無いからです」
バッサリ切り捨てる俺。
「Aqoursは美少女揃いですから、堕天使アイドルも最初は人気が出るでしょう。恐らくランキングも上がります」
「ホント!?じゃあ・・・」
「ですが、それは一時的なものですよ。目新しさが無くなってしまえば、また元に戻るのがオチです。そしてまた目新しさを求めて、路線変更を繰り返す・・・そうなってしまったら、相当苦しくなるでしょうね」
「そ、そんな・・・」
「やるんだったら、最後まで貫く必要があります。今の路線を貫くのか、堕天使アイドルを貫くのか・・・目先のことだけ考えて動くと、後々痛い目を見ますよ」
「うっ・・・」
言葉に詰まる千歌さん。と、その時・・・
「嫌ああああああああああっ!?」
廊下から梨子さんの悲鳴が聞こえた。えっ、何事?
「来ないでええええええええええっ!?」
「わんわんっ!」
「ちょ、しいたけ!?」
しいたけから逃げる梨子さんと、しいたけを止めようとする美渡さんの姿が障子越しに映った。
あー、梨子さんって犬が苦手なのか・・・
「梨子ちゃん大丈夫!しいたけは大人s・・・うわっ!?」
部屋の襖をぶち破り、梨子さんが部屋に飛び込んでくる。
そして障子もぶち破り、窓から向かい側にある自分の家のベランダへとジャンプした。
「梨子さん!?」
慌てて窓へ駆け寄ると、梨子さんが空中で一回転しながらベランダに着地するところだった。
何あの人、凄くない?
「「「「「「「おぉ・・・!」」」」」」」
思わず拍手する俺達。流石は女帝、そこに痺れる憧れる。
「いったぁ・・・」
着地の際にお尻を打ったらしく、梨子さんが痛そうにお尻を擦っている。
「梨子さーん、大丈夫ですかー?」
「大丈夫じゃないわよ!?何で私はこんな目に遭ってるの!?」
「日頃の行いが悪いんですね、分かります」
「喧嘩売ってる!?お尻も痛いし最悪よ!」
「いや、お尻もそうですけど・・・もっと気にしなくちゃいけないことがあるでしょ」
「気にしなくちゃいけないこと?」
首を傾げている梨子さん。あー、気付いてないのか・・・
「梨子さん、今どんな格好してます?」
「どんなって・・・さっきの衣装を着てるけど?」
「その衣装ってスカートですよね?」
「そうだけど?」
「さっきその衣装、スカートが短いって言ってましたよね?」
「そうそう。これでダンスしたら、流石に見え・・・る・・・」
梨子さんの顔がどんどん赤くなっていく。ようやく気付いたようだ。
「そ、天くん・・・?」
「何でしょう?」
「ま、まさかとは思うけど・・・み、見てないわよね・・・?」
恐る恐る尋ねてくる梨子さんを安心させるべく、俺はニッコリ笑った。
「大丈夫ですよ。『今日は白かぁ・・・やっぱり梨子さんは清楚だなぁ・・・』なんて思ってませんから」
「嫌ああああああああああっ!?」
窓を開け、家の中に逃げていく梨子さん。耳まで真っ赤になっていた。
「あっ、梨子ちゃんのメンタルがやられた・・・」
「天くん、そこは見てないフリしなくちゃ・・・」
「危ないマネをした梨子さんに対する、ちょっとした罰ですよ」
しいたけを撫でながら答える俺。
「とりあえず、梨子さんを回収してきますね。曜さんは千歌さん達の衣装を合わせてあげて下さい」
「了解。梨子ちゃんは任せたよ」
「任されました」
衣装のことは曜さんに任せ、梨子さんを回収すべく桜内家へと向かう俺なのだった。
*****
「あら天くん、いらっしゃい」
「こんにちは、奈々さん」
『十千万』の隣にある桜内家を訪ねると、梨子さんのお母さんである桜内奈々さんが出迎えてくれる。
桜内家には何度かお邪魔したことがあり、その度に奈々さんには良くしてもらっていた。
「ごめんなさい、梨子は今いないのよ。千歌ちゃんの家に行くんですって」
「その千歌さんの家から脱走したので、捕獲しに来たんです」
「いや、脱走って・・・どこに?」
「ここです。千歌さんの家の窓から、この家のベランダに飛び移ってました」
「何してるのあの子!?」
「いやぁ、信じられませんよね・・・あの跳躍力」
「そこじゃないわよ!?」
とりあえず家に上げてもらう。二階へと上がり、梨子さんの部屋の前に立つと・・・
『うぅ・・・また見られた・・・もう本当にお嫁に行けない・・・』
梨子さんの声が聞こえてくる。あー、ダメージ受けてるなぁ・・・
「何か凄く落ち込んでるんだけど・・・何があったの?」
「聞かないであげて下さい。本人の名誉の為に」
「そこまで!?」
とりあえずドアをノックしてみる。
「ちわー、三河●でーす」
『えぇっ!?天くんっ!?』
部屋の中でドタバタ音がする。
『ど、どうしてここにっ!?』
「犯人に告ぐ。この部屋は完全に包囲されている。大人しく出てきなさい」
『誰が犯人よ!?立てこもり犯みたいな扱いしないでくれる!?』
「こんなことして・・・田舎のお袋さんが泣いてますよ」
『田舎じゃなくてこの家にいるんだけど!?』
「しくしく・・・梨子、罪を償って・・・しくしく・・・」
『お母さん!?何でノッてるの!?』
「ほら、千歌さん達のところに戻りましょう?皆待ってますから」
『うぅ・・・』
ドアがゆっくり開き、赤い顔をした梨子さんが出てきた。
「全く・・・窓からジャンプした時は肝が冷えましたよ」
「うっ・・・ごめんなさい・・・」
「しいたけは大人しい犬ですから、落ち着いて接してあげれば大丈夫ですよ。まぁ身体が大きいんで、犬が苦手な人にとっては怖いかもしれませんけど」
「うぅ・・・」
涙目の梨子さん。よほど犬が怖いらしい。
「とりあえず美渡さんに頼んで、しいたけは繋いでおいてもらいましたから。もう梨子さんを追いかけたり出来ませんよ」
梨子さんの頭を撫でる。
「あっ・・・」
「俺も一緒にいますから、安心して下さい」
「・・・うん」
俯く梨子さん。耳まで赤くなっているのは何故だろう?
「フフッ、梨子ったら照れちゃって♪」
「ちょ、お母さん!?何言ってるの!?」
「はいはい、邪魔者は退散するから。じゃあ天くん、梨子をよろしくね」
「了解です」
ニヤニヤしながら階段を下りていく奈々さん。良いキャラしてるなぁ・・・
「さて、俺達も行きましょうか」
先に階段を下りようとすると、梨子さんが俺の手を掴んだ。
「梨子さん・・・?」
「・・・手、握ってて良い?」
「・・・どうぞ」
梨子さんの手を握り返す。これで梨子さんが安心できるのなら、お安い御用だ。
「あ、それから・・・さっき見たものは忘れなさい。良いわね?」
「アッハイ」
やはり女帝には逆らえない俺なのだった。
どうも~、ムッティです。
この作品、完全に梨子ちゃんがラッキースケベ要員と化しているような・・・
いや、きっと気のせいだと信じたい←
ところで、梨子ちゃんのお母さんの名前ですが・・・
えぇ、そうです。中の声優さんのお名前です。
善子ちゃんのお母さんを『善恵』にしたので、『梨香』とか『梨奈』とか色々と考えたんですけどね。
選ばれたのは『奈々』様でした( ´∀`)
次話は明日投稿したいと思います。
それではまた次回!以上、ムッティでした!