絢瀬天と九人の物語   作:ムッティ

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完全に風邪をひいた・・・

まさかこの時期に風邪をひくとは・・・


大切に想うからこそ言えない言葉がある。

 「・・・ハァ」

 

 屋上で寝転がりながら、溜め息をつく俺。

 

 少し一人になりたかったので、こうして屋上に出てきたのだが・・・やはり気分は晴れなかった。

 

 「何で怒鳴っちゃったかなぁ・・・」

 

 「ホントにね。らしくなかったわよ」

 

 独り言を呟くと、思わぬ返事が返ってきた。空しか映っていなかった俺の視界に、よっちゃんの顔が現れる。

 

 「意外だったわ。天でもあんなに怒ったりするのね」

 

 「人間だもの」

 

 「相田み●をかっ!」

 

 ツッコミを入れてくるよっちゃん。相変わらず、良いツッコミではあるんだけど・・・

 

 「よっちゃん」

 

 「何よ?」

 

 「そこに立ってると、スカートの中が丸見えだよ?」

 

 「ッ!?」

 

 慌てて俺から離れるよっちゃん。

 

 俺の顔の横に立っていた為、寝転がっている俺からはよっちゃんのスカートの中が丸見えだったのだ。

 

 「天のスケベっ!変態っ!」

 

 「いや、こっちとしても不可抗力だったんだけど・・・普通スカートで人の顔の横に立ったりしないでしょ」

 

 「うぐっ・・・」

 

 「流石は堕天使ヨハネ、衣装だけじゃなくて下着まで黒とは・・・」

 

 「言わんでいいっ!」

 

 よっちゃんから蹴りが飛んできたので、転がって避ける。そのまま上体だけ起こし、俺はよっちゃんと向き合った。

 

 「よっちゃんこそ、少しは元気出た?」

 

 「っ・・・」

 

 俯くよっちゃん。

 

 ダイヤさんの言葉に一番ショックを受けていたのは、他ならぬよっちゃんだ。堕天使をあそこまで否定されたのだから。

 

 「・・・おいで」

 

 「・・・ん」

 

 隣の地面をポンポン叩くと、よっちゃんが大人しくそこに座った。

 

 「怒っちゃった俺が言うのもどうかと思うけど・・・ダイヤさんのこと、悪く思わないであげてね。よっちゃんのことを否定するつもりは無かっただろうから」

 

 「・・・分かってる。っていうか、あれが一般的な反応よ。むしろ堕天使を受け入れてる天の方がおかしいわ」

 

 「友達のことを『おかしい』っていうの止めてくんない?」

 

 「事実でしょ」

 

 笑うよっちゃん。

 

 「でも・・・嬉しかった。受け入れてくれたことも、私の為に怒ってくれたことも・・・ホント、天には助けられてばかりね」

 

 よっちゃんはそう言うと、俺の肩に頭を乗せてきた。

 

 「・・・私、やっぱり堕天使は卒業する。普通の高校生になる」

 

 「・・・よっちゃんはそれで良いの?」

 

 「勿論。むしろ今回のことでスッキリしたわ。やっぱり高校生にもなって、堕天使なんて通じないもの」

 

 笑顔を見せるよっちゃん。その笑顔は、何だか寂しげなものだった。

 

 「スクールアイドルも止めておくわ。今回迷惑かけちゃったし、また迷惑かけちゃうのも申し訳ないから」

 

 「・・・そっか」

 

 本心ではないことは明らかだった。それでも、これはよっちゃんが選んだこと・・・そこに俺が口を挟むべきではない。

 

 俺はよっちゃんの頭を撫でた。

 

 「よっちゃんが笑顔でいられるなら・・・それが一番だから。堕天使とか関係無しに、俺はよっちゃんの友達だからね」

 

 「・・・うん」

 

 身を寄せてくるよっちゃん。

 

 「天に出会えて良かった・・・ありがとう」

 

 微笑むよっちゃん。

 

 俺達はしばらくの間、お互いに身を寄せ合いながら静かに時間を過ごすのだった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 「先程は見苦しいところをお見せして、申し訳ありませんでした」

 

 部室に戻った俺は、千歌さん達に対して深々と頭を下げていた。

 

 流石に熱くなりすぎたし、千歌さんに対しても失礼なことを言ったしな・・・

 

 「大丈夫だよ」

 

 千歌さんが微笑みながら、俺の頭を撫でてくる。

 

 「天くんが怒ったのは、津島さんの為でしょ?皆ちゃんと分かってるから」

 

 「そうだよ天くん。気にすることないよ」

 

 「だからほら、頭上げて。ねっ?」

 

 曜さんと梨子さんも声をかけてくれる。先輩方の優しさが心に沁みた。

 

 「・・・天くん」

 

 ルビィがおずおずと話しかけてくる。

 

 「その・・・お姉ちゃんのこと、嫌いにならないであげてほしいの。お姉ちゃんも、ちょっと熱くなっちゃっただけっていうか・・・津島さんのことを侮辱するつもりなんて、無かったと思うから」

 

 「・・・うん。分かってる」

 

 俺もさっき、よっちゃんに似たようなこと言ったしな。ダイヤさんに、よっちゃんを傷付ける意図は無かったはずだ。

 

 「ダイヤさんとも、一度ちゃんと話すから。心配かけてゴメンね、ルビィ」

 

 「うんっ!」

 

 ようやくルビィも笑顔を見せてくれた。と、花丸がキョロキョロと辺りを見回す。

 

 「ところで天くん、善子ちゃんはどこへ行ったずら?」

 

 「あぁ、よっちゃんなら帰ったよ」

 

 昨日から色々あって、よっちゃん的にも少し疲れてしまったらしい。気持ちの整理もしたいので、今日はもう帰るとのことだった。

 

 「もう堕天使は卒業するってさ。スクールアイドルもやめとくって」

 

 「えぇっ!?そんな!?」

 

 ショックを受けている千歌さん。一番熱心に誘ってたもんなぁ・・・

 

 「本人がそう言ってるんですから、仕方ないでしょう」

 

 溜め息をつく俺。

 

 「堕天使だって、本当は卒業したくないんだと思います。でも、『普通の高校生になりたい』っていうのも本心でしょうし・・・」

 

 「どうして、堕天使だったのかな・・・?」

 

 ポツリと呟く曜さん。

 

 「どうしてあそこまで、堕天使に拘ってたのかな・・・?」

 

 「・・・マル、分かる気がします」

 

 花丸が口を開く。

 

 「ずっと、普通だったんだと思うんです。マル達と同じで、あまり目立たなくて・・・そういう時、思いませんか?『これが本当の自分なのかな?』って。『元々は天使みたいにキラキラしてて、何かの弾みでこうなっちゃってるんじゃないかな?』って」

 

 「・・・確かにそういう気持ち、あったかもしれない」

 

 梨子さんが呟く。

 

 『どうして自分はこうなのか』、『本当はもっと違う自分なんじゃないか』・・・俺もそう思ったことがたくさんあった。

 

 よっちゃんもそうなのかな・・・

 

 「幼稚園の頃の善子ちゃん、いつも言ってたんです。『私は本当は天使で、いつか羽が生えて天に帰るんだ』って。多分善子ちゃんもマルと一緒で、キラキラしたものに憧れてて・・・善子ちゃんにとっては、それが堕天使だったんだと思います」

 

 「憧れ、か・・・」

 

 自分の憧れたものに情熱を燃やし、全力でそれになりきる・・・俺の頭の中には、ある人の顔が浮かんでいた。

 

 「ホント・・・こっちに来てから、似たような人に出会うもんだな・・・」

 

 「天くん?どうかしたの?」

 

 「何でもないよ。こっちの話」

 

 ルビィの頭を優しく撫でる。今の花丸の話を聞くかぎり、このままではよっちゃんが笑顔でいられなくなってしまうだろう。

 

 さて、どうしたものか・・・

 

 「・・・やっぱり、諦められないよ」

 

 千歌さんが呟く。

 

 「私は津島さんと・・・いや、善子ちゃんと一緒にスクールアイドルがやりたい!」

 

 力強く言い切る千歌さん。全く、この人ときたら・・・

 

 「・・・流石ですね、リーダー」

 

 俺は苦笑しながら、ある決意を固めるのだった。




どうも~、ムッティです。

そろそろアニメ一期の第5話分の話が終わろうとしております。

もうずいぶん書いたような気がしていましたが、まだ一期の折り返しにすら届いていないという事実・・・

そして果南ちゃんが全然出ていないという事実・・・

第6話分の話で出せたら良いなぁ・・・

次話は明日投稿します。

それではまた次回!以上、ムッティでした!

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