急激な気温の変化に、身体がついていかないわ・・・
「そ、そうだよねー!」
教室でクラスメイト達と会話している善子。
学校に来るようになり、クラスメイト達と会話することも増えたのだが・・・
「マ、マジムカつく、よねー!」
まだ慣れていないせいか、もの凄くたどたどしい。大丈夫だろうか。
「だよねー!ホント頭にきちゃってさー!」
「いやー、マジないわー!」
そんな善子の様子をクラスメイト達も分かっているので、たどたどしい様子に誰も触れたりはしない。
善子に無理をさせない範囲で親睦を深めようと、こうして善子に話しかけてくれているのだ。
良い人達だなぁ・・・
「善子ちゃん、少しずつ普通に会話が出来るようになってきたずらね」
少し安心した様子の花丸。
「また堕天使キャラで暴走するんじゃないかって、最初は心配してたずら」
「まぁそれで二回やらかしてるからね」
もうやらかすことがないよう、クラスメイト達の前では堕天使キャラを出さないようにしたいらしい。堕天使キャラを捨てるつもりは無いが、普通の高校生にはなりたいんだそうだ。
まぁ善子の今後を考えると、堕天使を抜きにした普通の会話も出来るようになった方が良いよな。
「これからゆっくり慣れていけば良いんじゃないかな。無理に焦る必要も無いでしょ」
「そうずらね」
頷く花丸。と、そこへルビィが息を切らして飛び込んできた。
「た、大変だよっ!」
「ルビィちゃん!?どうしたずら!?」
「学校が・・・学校が・・・!」
「落ち着いて、ルビィ」
ルビィの背中を擦り、ペットボトルの水を差し出す。それをゴクゴク飲んだルビィは、衝撃の一言を口にするのだった。
「学校が・・・学校が無くなっちゃう!」
「「・・・えっ!?」
*****
「説明していただけますか、小原理事長」
放課後に理事長室を訪れた俺は、目の前に座る小原理事長に冷たい視線を向けていた。
「浦の星が廃校になるというのは本当ですか?」
「・・・耳が早いわね」
溜め息をつく小原理事長。
「浦の星女学院は沼津の高校と統合し、廃校となる・・・正式に決まったわけではないけど、そういう方向で話が進んでいるのは事実よ」
「・・・統廃合ですか」
唇を噛む俺。
ルビィは小原理事長とダイヤさんの会話を偶然聞いてしまったらしく、慌ててそれを俺達に伝えに来てくれたらしい。そして今の小原理事長の説明は、ルビィが教えてくれた内容と全く同じものだった。
やっぱり事実だったか・・・
「ずいぶん話が早いですね。共学化を目指す話はどこへいったんですか?」
「・・・運営が水面下で調査した結果、来年浦の星への入学を希望している生徒は今年より少ないみたいなの。最悪の場合、入学する生徒が一人もいない可能性もあるそうよ」
「・・・0ってことですか」
「えぇ。共学化したところで、状況が良くなることはないだろうというのが運営の判断みたい。ただでさえ今年の入学者数は、運営の想定をはるかに下回っている・・・一気に統廃合の話が進んでも、おかしくはないわ」
肩をすくめる小原理事長。
「元々統廃合の話は二年前・・・私達が一年生の時からあったのよ。決して今に始まった話ではないの」
「・・・それでスクールアイドルを始めて、学校の危機を救おうとしたんですか?」
「ッ!?」
驚きのあまり立ち上がる小原理事長。
「ど、どうして天がそれを・・・!?」
「貴女がダイヤさんや果南さんと共に、スクールアイドルをやっていたことは知っています。動機に関してはあくまでも予想でしたけど・・・どうやら当たったみたいですね」
溜め息をつく俺。
「統廃合を阻止する為にスクールアイドルを始めたものの、何らかの理由で挫折して貴女達は解散した。そしてその二年後、今度は後輩達がスクールアイドルを始めた・・・貴女はそれを利用しようとしているんでしょう?統廃合を阻止する為に」
冷ややかな目を向ける俺。
「そして俺を脅し、マネージャーをやらせることにした。俺の過去を知っている貴女にとって、俺はさぞかし利用価値のある駒なんでしょうね」
「天・・・」
悲しげな表情の小原理事長。人を脅しておいて、よくもまぁそんな顔が出来るものだ。
「スクールアイドルとして有名になることで学校をPRし、廃校を阻止する・・・五年前のμ'sは、それを見事に成功させました。貴女はそれをAqoursに求めようとしているようですが・・・そう上手くいくとは思わないことですね」
強い口調で小原理事長に忠告する。
「このまま浦の星が廃校になるのは、俺だって嫌です。ですが俺は、あの時のμ'sの役割をAqoursに求めようとは思いません。そもそもμ'sとAqoursでは、スクールアイドルを始めた動機が違います」
μ'sがスクールアイドルを始めたのは、音ノ木坂の廃校を阻止する為。一方Aqoursがスクールアイドルを始めたのは、輝きたいという思いがあったから。
最初から廃校阻止が目的で動いているならともかく、途中からそんな重荷を背負わせるのはあまりにも酷だ。最悪の場合、責任が重過ぎて潰れてしまうかもしれない。
「貴女がどんな思惑で動こうが、それは貴女の自由です。ですが、それによってAqoursが不利な状況に追い込まれるようなら・・・俺も黙っているつもりはありませんので」
一礼して踵を返し、出口へと足を向ける。
「・・・大事に思っているのね、あの子達のこと」
ドアに手をかけたところで、小原理事長から声をかけられる。
「貴方は昔から不思議な子だったわね、天。人見知りだった私が、貴方に対してはいつもベッタリくっついてて。私のパパやママ、使用人の皆も貴方を気に入っていたわ」
当時を懐かしんでいる小原理事長。
「浦の星でもあの子達は勿論、ダイヤや果南だって貴方を信頼している。貴方なら、きっと・・・」
そこまで言いかけて口を閉ざす小原理事長。俺は無言で理事長室を後にするのだった。
*****
「私達が学校を救うんだよ!そして輝くの!あのμ'sのように!」
「雷●八卦」
「ぐはっ!?」
テンションマックスの千歌さんの後頭部に、ハリセンをフルスイングで叩き込む。
理事長室を後にした俺は、スクールアイドル部の部室へとやってきていた。
「お、女の子を相手に容赦の無い攻撃・・・」
「天くんが鬼・・・っていうか、カ●ドウに見えるのは気のせいかしら・・・」
「ああん・・・?」
「「ヒィッ!?」」
悲鳴を上げる曜さんと梨子さん。俺は千歌さんへと視線を向けた。
「そこで机に突っ伏してるオレンジヘッド、早く起きてもらって良いですか?」
「誰のせいだと思ってるの!?」
涙目でガバッと顔を上げる千歌さん。
「今もの凄い衝撃だったよ!?ツッコミのレベルを超えてたよ!?」
「人の虫の居所が悪い時に、人が望まないセリフ言うの止めてもらえます?さっきまでのシリアスな空気がぶち壊しな上に、小原理事長に食ってかかった俺がバカみたいなんですけど。このいたたまれない気持ちをどうしてくれるんですか」
「知らないよ!?何があったの!?」
全く、この人ときたら・・・
「っていうか、何で浦の星が廃校になるかもしれないのにテンション高いんですか」
「だってμ'sと同じ状況だよ!?これは私達が学校を救うしかないよ!」
「アンタの脳内はお花畑か」
ダメだこの人、何も分かってない。
そんな簡単に学校の廃校危機を救えるなら、誰も苦労したりしないっていうのに・・・
「で、何でそこの胃袋ブラックホール娘まで期待に満ち溢れた顔してんの?」
「ずらぁ・・・!」
目がキラキラしている花丸。ルビィが苦笑している。
「ほら、統合先の学校って沼津でしょ?花丸ちゃん、沼津の学校に通えるのが嬉しいみたいで・・・」
「あぁ、『未来ずら』症候群か・・・」
どんな生活をしているのか知らないが、花丸は機械的・都会的と呼べるものには本当に目がない。
この間も俺・花丸・ルビィの三人で沼津に行ったら、『未来ずら~っ!』を連呼していたし・・・
ホントにどんな生活してんのこの子・・・
「で、逆に何でそこの堕天使は落ち込んでんの?」
「統廃合反対統廃合反対統廃合反対・・・」
呪文のようにぶつぶつ呟いている善子。何か怖いんだけど・・・
「ほら、善子ちゃんの家って沼津にあるでしょ?つまり善子ちゃんが通ってた中学も、沼津にあるわけで・・・」
「あぁ・・・中学時代の黒歴史を知ってる人が、統合先の学校に進学してる可能性があるのね・・・」
俺が納得していると、千歌さんが机をバンッと叩いた。
「とにかく!廃校の危機が学校に迫っていると分かった以上、Aqoursは学校を救う為に行動します!」
「・・・本気ですか?」
千歌さんに尋ねる俺。
「簡単なことじゃないですよ。そもそもただの一生徒に過ぎない俺達では、やれることにも限度があります。それでもやるつもりですか?」
「勿論!」
力強く言い切る千歌さん。
「私、浦の星が好きだもん!やれることはやりたいんだよ!」
「ヨーソロー!賛成であります!」
「このまま何もしないっていうのも嫌だしね」
「統廃合なんてさせるもんですか!私は断固として抗うわよ!」
「まぁ確かに、この学校が無くなっちゃうのは寂しいずらね」
「ルビィもこの学校が大好きだし、無くなってほしくないよ!」
他の皆も同じ意見らしい。やれやれ、人の気も知らないで・・・
「・・・それで?行動って何をするつもりなんですか?」
「いやぁ、まだ何も考えてないんd・・・ごはぁっ!?」
再び千歌さんにハリセンをぶちかます俺なのだった。
*****
「学校を救う、ですか・・・」
複雑そうな表情のダイヤさん。
スクールアイドル部の練習後、俺はダイヤさんに呼ばれて生徒会室へやってきていた。話があるとのことだったが、恐らく統廃合のことだろう。
「μ'sと同じことが、あの子達に出来るのでしょうか・・・」
「・・・今の状態では厳しいでしょうね」
溜め息をつく俺。
「そもそも浦の星は、音ノ木坂と比べて統廃合撤廃のハードルが高いと思います」
「どうしてですの?」
「立地条件が不利なんですよ」
説明する俺。
「音ノ木坂は東京にあるので、交通の便が良く通学しやすい環境にあります。それに対して浦の星がある場所は、沼津の中でも外れの方にある内浦ですから。交通の便はあまり良くないですし、通学しやすい環境とは言えない・・・これは大きなマイナスですよ」
「確かに・・・内浦に住んでいるならともかく、外から来る人にとって良い環境とは言えませんわね・・・」
「えぇ。とはいえ入学者数を増やすには、内浦の外に住んでいる人も呼び込まないといけません。となると・・・」
「多少通学に不便しても、浦の星に入学したいと思わせる何かが無いといけない・・・つまり、浦の星に入学するメリットをPRする必要がありますわね・・・」
「そうなりますね。通学が不便というデメリットを抱えている分、超えるべきハードルは音ノ木坂よりも高いと俺は思います」
「・・・これは難問ですわ」
頭を抱えるダイヤさん。
「勿論、浦の星の良いところはたくさんありますが・・・外から来る人にとって、デメリットを超えるほどのメリットは何かと聞かれると・・・」
「・・・答えに困りますよね」
二人揃って溜め息をついてしまう。メリットかぁ・・・
「まぁ、それはこれから考えるとして・・・もう一つ、別の話をしましょうか」
気持ちを切り替えるように、ダイヤさんがパンッと手を叩く。
「別の話というと?」
「実は明日から、教育実習生の方がいらっしゃる予定なのです。そのことで少し、天さんにお願いしたいことがありまして」
「・・・統廃合の話が進んでる中で、よく教育実習生を受け入れましたね」
呆れる俺。そもそも統廃合の問題でバタバタしている中、やってくる教育実習生の方も可哀想だと思うんだけど・・・
「私もそう思ったのですが・・・鞠莉さんが独断で決めてしまいまして」
溜め息をつくダイヤさん。あの成金理事長・・・
「何でもその教育実習生の方は、自ら浦の星を希望されたそうですよ」
「へぇ・・・浦の星の卒業生の方ですか?」
「いえ、母校は東京の方だそうです」
「・・・何で浦の星を希望してるんですか?」
「さぁ・・・不思議ですわね」
首を傾げるダイヤさん。
教育実習って、通常は母校でやることが多いはずだよな・・・東京に母校がある人が、何でよりによって浦の星での教育実習を希望してるんだ・・・?
「まぁどんな理由があれ、この学校を希望してくださっているんですもの。私としても無下にしたくはありませんし、出来る限り力になって差し上げたいですわ」
微笑むダイヤさん。ダイヤさんは優しいなぁ・・・
「教育実習生の方の指導は赤城先生が担当されるそうですので、実習は一年生のクラスで行なわれることになります。ですので天さんには、教育実習生の方が溶け込みやすい環境を作ってあげてほしいのです」
「つまりクラスの皆と打ち解けられるように、それとなく気を遣ってあげてほしいっていうことですか?」
「そういうことです。赤城先生ともお話しさせていただきましたが、こういった役は天さんが適任だろうと仰っていました。お願い出来ますか?」
「またあの人は・・・」
ウチのクラスはフレンドリーな人がほとんどだし、俺が動かなくても大丈夫な気がするけど・・・
まぁダイヤさんの頼みだし、断る理由も無いか。
「分かりました。やってみます」
頷く俺。
まさか教育実習生があの人だとは・・・この時はまだ知る由も無いのだった。
どうも~、ムッティです。
今回の話から、アニメ一期の第6話の内容へと入っていきます。
本来の内容に、少しオリジナル要素を加える形となります。
最後の方に出てきた、教育実習生の存在がまさにそうなのですが・・・
皆さんご存知の、あの方です。
さらに皆さんも薄々・・・いや、もうガッツリ気付いているとは思いますが(笑)
前回の話で触れた、天のお姉さんについても明らかになります。
今後の展開をお楽しみに(・∀・)ノ
次の話は明日投稿します。
それではまた次回!以上、ムッティでした!