でも暑いから外に出たくない・・・
「準備は出来ましたか?」
「オッケーだよ!」
新しい衣装に身を包んだ千歌さんが、笑顔で頷く。
俺達は浦の星の屋上で、Aqoursの新しいPVを撮影しようとしていた。
「海未ちゃん、録画開始」
「了解です」
海未ちゃんがビデオカメラの録画ボタンを押す。
「いつきさん、曲を流して下さい」
『ラジャー!』
インカムを通じて、音響担当のいつきさんに指示を出す。流れ始めた曲は、今回の為に作った新曲『夢で夜空を照らしたい』だ。
海開きの日にこの町の魅力を感じた俺は、すぐに千歌さん達に相談した。そしてその魅力を伝える為、新曲を作ることを提案したのだ。
千歌さん達も賛成してくれて、すぐに新曲の製作が始まった。作詞と作曲は千歌さんと梨子さん、衣装は曜さんとルビィ、振り付けは花丸と善子に担当してもらった。
そしてもう一つ・・・このPVには欠かせないものがあった。
「むつさん、よしみさん、お願いします」
『よしきた!』
『皆さーん!お願いしまーす!』
曲がサビに入る前に、インカムを通じてむつさんとよしみさんに合図を出す。
その瞬間・・・たくさんのスカイランタンが、一斉に空へと上っていった。
「わぁ・・・!」
目を輝かせている海未ちゃん。
たくさんのスカイランタンをバックに、Aqoursが歌って踊る・・・この演出をどうしてもやりたかった。
ちなみにこのスカイランタンは、町の人達が浦の星の近くで上げてくれている。『協力してほしい』とお願いしたところ、皆快く引き受けてくれたのだ。
「凄いな・・・」
想像以上の美しさに、俺も思わず見惚れてしまった。
このスカイランタンの演出は、PVを華やかにする為もあるが・・・それ以上に、町の人達の温かさを表現したいという思いで考えたものだ。
海開きの時の提灯が、良いヒントになったんだよな・・・
「・・・綺麗ですね」
「・・・うん」
海未ちゃんと二人、幻想的な景色に見入る。
放課後に撮影していることもあって、既に日は沈んでいる。しかし夕焼けの名残である赤さが残っており、まさに黄昏時だった。
そこにスカイランタンの明りが合わさり、それをバックにAqoursがパフォーマンスをしている・・・これは良いPVになりそうだ。
「『夢で夜空を照らしたい』ですか・・・良い曲が出来ましたね」
「ホントにね。流石は千歌さんと梨子さんだよ」
生まれ育った町に対する郷土愛と、町の人達への尊敬や感謝・・・それをテーマに、千歌さんは想いのこもった素晴らしい歌詞を書いてくれた。
梨子さんもまた、その歌詞を基に心に沁み渡る良い曲を作ってくれた。本当に名曲だと思う。
「フフッ・・・何だか私も、久しぶりに作詞がしたくなってしまいました。今度真姫を誘って、新しい曲でも作ってみましょうか」
「『オコトワリシマス』って言われるんじゃない?」
「じゃあ天も一緒に作詞しましょう。それなら真姫は絶対、『し、仕方ないわね・・・』って言ってくれます」
「そうかなぁ?」
「そうですよ」
笑っている海未ちゃん。
「『START:DASH!!』の時もそうだったじゃないですか。あれが私と天、そして真姫の三人で作った最初の曲でしたよね」
「・・・そうだったね」
「天が考えた『諦めちゃダメなんだ。その日が絶対来る』という歌詞に、当時の私は感銘を受けたものです」
「恥ずかしいから止めて」
口が裂けても千歌さん・曜さん・梨子さん・果南さんには言えない。あの歌詞を書いたのが俺だったなんて・・・
「あ、真姫から『し、仕方ないわね・・・』って返事が来ました」
「もう打診したの!?っていうか返信早くない!?」
思わずツッコミを入れてしまう俺なのだった。
*****
翌日・・・
「Great!良いPVね!」
新しく撮影したPVを見て、グッと親指を立てる小原理事長。
俺達は小原理事長にPVを見せる為、理事長室を訪れていた。
「良かったぁ・・・!」
「お墨付きをもらえたね!」
ホッとした様子の皆。まぁその前のPVを、あれほど酷評されたもんな・・・
「早速Uploadすると良いわ。きっと反響も大きいんじゃないかしら」
「了解です!」
「ありがとうございます!」
部室に向かう為、急いで理事長室を出て行く皆。俺も出て行こうとしたのだが・・・
「天」
小原理事長に呼び止められた。
「・・・海開きの時はありがとう。背中を押してくれて」
「・・・ちゃんと話せたんですか?」
「少しはね・・・まぁ、深い話は出来なかったけど」
苦笑する小原理事長。
「私はね、天・・・果南やダイヤと一緒に、またスクールアイドルがやりたいの。もう一度、あのかけがえのない時間を取り戻したいのよ」
「・・・そうですか」
どうやら小原理事長は、ダイヤさんと同じ気持ちらしい。
しかし果南さんがそれを拒んでおり、ダイヤさんも果南さんの意思を尊重している。果南さんの意思が変わらないかぎり、三人が再びスクールアイドルをやれることはないだろう。
誰か一人でも欠けてしまえば、スクールアイドルをやる意味が無くなってしまうのだから。
「以前のAqoursに何があったのか知りませんが・・・貴女方三人は、肝心な気持ちを言葉にしない傾向があります。スクールアイドルを始める前に、まずは本音をぶつけ合うことから始めるべきだと思いますが」
「・・・ホント、その通りね」
寂しそうに笑う小原理事長。俺は無言で一礼し、理事長室を後にするのだった。
*****
「いやぁ、良いPVが出来て良かった!」
満足そうに笑う千歌さん。
PVのアップロードを終えた俺達は、帰宅の途についていた。
「そういえば天くん、海未先生はどうしたずら?」
「今日は赤城先生と食事に行くんだって。あの二人、すっかり仲良くなったみたい」
花丸の問いに答える俺。今日の夕飯は俺一人かぁ・・・どうしようかなぁ・・・
「だったら天くん、今日はウチで晩御飯食べていったら?お母さん、今日の夕飯はカレーにするって・・・」
「ご相伴に預からせていただきます」
「食い気味できたわね!?」
梨子さんの提案に全力で乗っかる。奈々さんも料理上手なんだよなぁ・・・
「そういえば志満姉が、『最近天くんが夕飯食べに来てくれない・・・』って寂しがってたなぁ・・・」
「すいません梨子さん、未来の嫁が待ってるんで『十千万』行きますね」
「志満さんのこと好き過ぎない!?」
「っていうか、未来の嫁って何!?私は認めないからね!?」
「今度ミカン奢ります」
「よろしくお義兄ちゃん!」
「千歌ちゃんがミカンで買収された!?」
曜さんのツッコミ。いやぁ、軽い義妹で助かったわ。
「天、ウチの母親も待ってるわよ。いつでも大歓迎って言ってたわ」
「マジで?また善恵さんのご飯も食べたいし、今度お邪魔しようかな」
「ルビィもお母さんから、『また天くんを連れてきなさい』って言われてるんだよね。天くんが初めてウチに来て以来、お母さんは天くんのことを気に入ってるから」
「黒澤家の夕飯は豪華だったなぁ・・・『またお邪魔します』って伝えといてくれる?」
「私もママから、『今度はいつ天くんを連れてくるの?』って聞かれるんだよね」
「曜さんの家も行きたいですね。また是非ともお邪魔させていただきます」
「天くん、皆の家族からモテモテずらね」
苦笑している花丸。思い返してみると、果南さんの家を含め色々なところで夕飯をご馳走になってる気がするな・・・
「・・・やっぱり温かいですね、この町の人達は」
改めてそう思う。
東京から来た俺を歓迎してくれて、こうやって優しく受け入れてくれる・・・本当にありがたいことだ。
「・・・私、ここには何も無いって思ってた」
千歌さんがそんなことを呟く。
「でも違った。今回PVを作って、町の人達の温かさに気付いて・・・この町は、こんなにも素敵な場所なんだって思えた」
俺を見て微笑む千歌さん。
「ありがとう。天くんのおかげで気付けたよ」
「千歌さん・・・」
「私達は、この場所から始めよう。スクールアイドルを・・・Aqoursを!」
「うんっ!」
「そうね!」
「ずらっ!」
「ぴぎっ!」
「ギラン!」
千歌さんの言葉に応える皆。良いグループになったもんだ・・・
「よーし!今日は皆で晩御飯食べよう!志満姉に連絡しなくちゃ!」
「えっ、大丈夫?志満さん大変じゃない?」
「平気平気!志満姉なら何とかしてくれるって!」
「おいそこのお気楽オレンジヘッド、志満さんに迷惑かけたらスキンヘッドにすんぞ」
「天くん!?何で志満姉が絡むと人が変わるの!?」
「愛してるの言葉じゃ足りないくらいに志満さんが好きだからです」
「どこのR●keさん!?」
「いつまでも志満さんの横で笑っていたいからです」
「それはG●eeeeN!」
「ほら、早く『十千万』に帰りますよ」
「帰るって何!?天くんの家じゃないよねぇ!?」
俺と千歌さんのやり取りに笑う皆。
この場所から始まったAqoursが、これからどんな軌跡を辿るのか・・・とても楽しみな俺なのだった。
どうも~、ムッティです。
今回の話で、アニメ一期の六話までの話が終了しました。
次回からは七話の話に入っていく予定です。
海未ちゃんは教育実習中なので、引き続き登場しますよ。
さらに他のμ'sのメンバーも登場する・・・かも(笑)
そして後半で明らかになりましたが、既に黒澤家や渡辺家にもお邪魔している天・・・
どんだけ夕飯をご馳走になってるんだって話ですよね(笑)
羨ましいぜ(゜言゜)
それではまた次回!以上、ムッティでした!