センターの花丸ちゃんが可愛すぎてヤバい。
《曜視点》
「よーし!頑張るぞー!」
張り切っている千歌ちゃん。
帰りのバスの中で、私達は東京で行なわれるイベントの話で盛り上がっていた。
「μ'sのメンバーに会えたりして!?」
「東京・・・未来ずらぁ・・・!」
「ククッ・・・堕天使ヨハネ、東京に降臨ッ!」
一年生の三人もテンションが上がっている。
そんな中、梨子ちゃんだけが浮かない表情をしていた。
「梨子ちゃん?どうしたの?」
「・・・天くん、本当に行かないつもりなのかな?」
その言葉に、皆の表情が曇る。
当然天くんも行くものだと思っていた私達は、天くんの『行かない』という発言にショックを受けていた。
「・・・仕方ないと思います。アルバイトも忙しいみたいですし」
ルビィちゃんがそんなことを言う。
天くんは今、土日に果南ちゃんのところのダイビングショップでアルバイトをしている。
事前に『休みたい』と伝えているならともかく、いきなり『休ませてくれ』というのは申し訳ないから無理とのことだった。
「・・・そうだね。果南ちゃんも忙しいだろうし、迷惑かけちゃうもんね」
私がルビィちゃんの言葉に賛同すると、梨子ちゃんがポツリと呟いた。
「・・・それだけなのかな?」
「え・・・?」
「私には、東京に行くことそのものを拒否してるように見えたけど・・・」
「どういうことよ?」
善子ちゃんが尋ねる。首を横に振る梨子ちゃん。
「あくまでも、私がそう感じたっていうだけ・・・根拠があるわけじゃない。でも考えてみたら、私達って天くんについて知らないことが多くない?」
「知らないことって?」
「例えば・・・どうして浦の星に来たのか、とか」
「っ・・・」
そういえば、考えたことなかったな・・・
「ルビィ、お姉ちゃんから聞きました。音ノ木坂の理事長さんの力になりたくて、浦の星のテスト生の話を引き受けたって」
「そうだったずらね・・・」
ルビィちゃんの話に、驚いている花丸ちゃん。
しかし、梨子ちゃんは納得いかないという表情だった。
「理事長の力になりたかったとはいえ、わざわざ東京を離れてまで内浦に来るかしら?高校生で一人暮らしなんて、ご家族も反対されただろうし・・・」
「・・・確かに」
つまり天くんは、その反対を押し切ってまで浦の星に来たということ・・・
何か理由があるのかな・・・
「・・・あれこれ考えても、仕方ないよ」
千歌ちゃんが力なく笑う。
「天くんが、『東京には行かない』って言ってるんだもん。だったらどんな理由があったとしても、私達はそれを強要しちゃいけないんだよ」
「千歌ちゃん・・・」
「だってそうでしょ?天くんが嫌がることを無理矢理やらせるなんて・・・鞠莉さんのやったことと同じだもん」
「っ・・・」
顔を伏せる私達。
そうだった・・・あの時、天くんがどれほど傷付いたか・・・
「天くんはいないけど、海未先生がいてくれるし心配ないよ。東京のイベントで結果を残して、天くんをビックリさせよう」
そう言って笑う千歌ちゃん。
「・・・そうね。それが今、私達に出来ることよね」
「天くんの為に頑張ルビィ!」
「マルも気合い入れるずら!」
「ククッ・・・我がリトルデーモンの為に、一肌脱ごうではないか」
皆の顔に笑顔が戻る。
全く、天くんも罪な男だねぇ・・・こんな美少女達から、こんなにも大切に思われてるんだから。
それにしても・・・
「・・・知らないことが多い、か」
天くんのことを、もっとよく知りたい・・・そう思う私なのだった。
*****
「んー、海未ちゃんの作るご飯は美味しいね」
「フフッ、ありがとうございます」
嬉しそうに笑う海未ちゃん。教育実習で来てからというもの、海未ちゃんはほとんど毎日ご飯を作ってくれていた。
『Aqoursの親御さん達には負けていられません!私も天の胃袋を掴みます!』と、謎の対抗心を燃やしてはいたが・・・
久しぶりに海未ちゃんの作るご飯が食べられて、俺としても嬉しかったりするのだった。
「それより天・・・本当に良いのですか?」
「ん?何が?」
「東京のイベントの件です。Aqoursの皆に付き添ってあげなくて良いのですか?」
「あぁ、そのことね」
苦笑する俺。
「言ったでしょ?土日は果南さんのところのバイトがあるって。いきなり『今週は休ませてほしい』なんて、果南さんに迷惑かけちゃうから無理だよ」
「・・・私には、絵里と顔を合わせるのを避けているように見えるのですが」
「・・・それが分かってるなら、聞かないでほしかったな」
溜め息をつく俺。
果南さんに迷惑をかけるというのも理由の一つではあるが、それ以上に・・・俺は今、絵里姉と顔を合わせたくなかった。
「何故絵里を避けるのですか?確かに喧嘩してしまったかもしれませんが、天が内浦に来てもう三ヶ月も経つんですよ?いい加減、仲直りしても良いのでは?」
「・・・海未ちゃんさ、教育実習に来る前に絵里姉と会った?」
「え?えぇ、会いましたよ。『教育実習で浦の星に行くので、天の様子を見て来ます』と伝えましたけど」
「それに対する反応は?」
「・・・『ふーん』の一言でした」
言い辛そうに顔を背ける海未ちゃん。やっぱり・・・
「こっちに来てから絵里姉とは連絡とってないけど、亜里姉とは定期的に連絡とっててさ。聞いてもいないのに、絵里姉の様子を教えてくれるんだけど・・・俺の話は一切口に出さないみたい。亜里姉の方から俺の話題を振っても、『へぇ』とか『そう』としか言わないんだって」
つまり絵里姉は、未だに俺に対して怒っているということだ。
いや、あるいは見限られたのかもしれないな・・・
「『もう』三ヶ月『も』経つんじゃなくて、『まだ』三ヶ月『しか』経ってないんだよ。絵里姉の怒りの持続時間を舐めちゃいけない。あの人がμ'sを認めて加入するまで、結構な時間がかかったことを忘れてないよね?」
「・・・そういえばそうでしたね」
溜め息をつく海未ちゃん。
「本当に貴方達姉弟は・・・頑固にも程があります」
「一緒にしないでくれる?」
「一緒ですよ。天の頑固さも大概です」
呆れている海未ちゃん。
心外だな・・・絵里姉レベルではないと思うんだけど・・・
「まぁとにかく・・・絵里姉の怒りが収まっていない以上、冷静な話し合いなんて出来ないだろうから。今は顔を合わせない方が良いんだよ」
「・・・そうですか」
残念そうな表情の海未ちゃん。
「それなら絵里と会えなんて言いませんから、東京には一緒に来てもらえませんか?あの子達にとっては慣れない場所ですし、天がいてくれた方が心強いと思います」
「・・・俺に頼ってどうすんの」
首を横に振る俺。
「俺はずっとAqoursのマネージャーを続けるつもりは無いから。小原理事長に脅されたとはいえ、千歌さん達の力にはなりたいから最低限の務めは果たすつもりだけど・・・俺なんかがいなくても、大丈夫なグループになってもらわないと困るんだよ」
「天・・・」
海未ちゃんが悲しそうな顔をする。
「貴方がマネージャーという仕事を、そこまで頑なに拒否するのは・・・やはり私達、μ'sのせい・・・」
「止めなよ」
海未ちゃんの言葉を遮る俺。
「誰のせいとかじゃない。俺が自分で決めたことだから・・・ご馳走様」
俺はそれだけ言うと椅子から立ち上がり、リビングから出て行くのだった。
*****
翌朝・・・
「ふぅ・・・」
淡島神社の階段を登り切り、一息つく俺。
内浦に来てからというもの、毎朝ジョギングをするのが俺の日課になっていた。Aqoursの練習に付き合うにも体力が要るし、この町の風景を見ながら走るのも楽しいしな。
「・・・東京か」
昨日の海未ちゃんとの会話を思い出す。
正直、今はあまり東京に戻りたくない。絵里姉のこともあるしな・・・
そんなことを考えていた時だった。
「おはようのハグっ!」
「おっと」
後ろから果南さんにハグされる。ホントにこの人は・・・
「おはよう天!」
「おはようございます。朝から元気ですね」
「勿論!」
笑顔の果南さん。この時間に淡島神社に来ると、結構な確率で果南さんと遭遇するのだ。
まぁ果南さんもジョギングが日課だし、お互いジョギングコースは決まってるから当然といえば当然なんだけど。
「天は何か考え事?」
「まぁそんなところです」
「ふぅん・・・東京のイベントのこと?」
「っ!?」
思わず驚いてしまう。何で果南さんがそのことを・・・
「当たりみたいだね」
苦笑する果南さん。
「昨日千歌から、『東京のイベントに出ることになった』っていう連絡があったの。今週末なんだって?」
「えぇ。俺は行かないので、バイトのことは大丈夫です」
「・・・そのことなんだけどさ」
いつになく真面目な表情の果南さん。
「ついていってあげてほしいんだ、千歌達に」
「え・・・?」
「今週は予約が入ってるお客さんも多くないし、私一人でも何とか回せるからさ。こっちのことは心配しないで、天は東京に行って来てほしい」
真剣な表情でそう言う果南さん。
「どうして・・・」
「・・・心配なんだよ、千歌達が」
苦笑する果南さん。
「ダイヤから聞いたけど、私達がスクールアイドルやってたこと知ってるんでしょ?二年前、東京のイベントに出たことも」
「えぇ、まぁ・・・」
「私さ・・・歌えなかったんだよね」
果南さんはそう言うと、切なげに空を見上げた。
「他に出てたスクールアイドル達のレベルの高さに、圧倒されちゃってさ・・・会場の空気にも呑まれちゃって、歌えなくて・・・それで打ちのめされて、スクールアイドルは辞めちゃったんだ」
「・・・そうだったんですか」
「情けないよね。『スクールアイドルとして活躍して、浦の星を廃校の危機から救うんだ!』なんて意気込んでたのに・・・このザマだもん」
自嘲気味に笑う果南さん。
「だからこそ、千歌達には同じ思いをしてほしくないの。堂々と胸を張って、自分達のパフォーマンスをして・・・笑顔で帰ってきてほしい」
「果南さん・・・」
「その為には、千歌達の側に天がいないとダメなんだよ。千歌達にとって、天の存在は凄く大きいから。天が側にいるのといないのとじゃ、気持ちが全然違うと思う」
「・・・そうですかね」
「そうだよ」
頷く果南さん。
「だから私からのお願い・・・千歌達と一緒に東京に行ってきてほしい。千歌達のことを、側で支えてあげてほしいの」
果南さんのお願いに、俺は素直に頷くことが出来なかった。
果南さんの顔を見ることが出来ず、俯いていると・・・
「・・・ゴメンね、わがまま言って」
果南さんに抱き寄せられる。
いつもの力強いハグではなく、優しいハグだった。
「千歌から聞いたんだ。天は東京に行きたくないんじゃないかって」
「千歌さんが・・・?」
「正確には、気付いたのは桜内さんみたいだけどね」
梨子さんか・・・鋭いな、あの人・・・
「だから千歌達は、無理に天を東京に連れて行かないって決めたんだって。嫌がることを強要されて傷付く天を、もう見たくないからって」
「っ・・・」
小原理事長の一件か・・・ずいぶん気を遣わせちゃったんだな・・・
「それが分かっててこんなことを頼むなんて、我ながら最低だとは思うけど・・・それでも、これが私からのお願い。ダメかな?」
「・・・ずるいですね、果南さんは」
溜め息をつく俺。
「こんな時だけそんな真剣な顔で、そこまで真摯にお願いされたら・・・断れるわけないじゃないですか」
「天・・・」
「・・・分かりました。今週末のバイトはお休みさせていただいて、Aqoursの皆と一緒に東京のイベントに行ってきます」
「・・・ありがとう」
微笑む果南さん。
「千歌達のこと、よろしくね」
「了解です。その代わりといってはなんですけど・・・」
「何?」
首を傾げる果南さん。俺は果南さんに身体を委ねた。
「もう少しだけで良いので・・・このままでいてもらっても良いですか?」
「・・・フフッ、喜んで」
果南さんは嬉しそうに笑うと、俺を抱き締める腕にギュっと力を込めるのだった。
どうも~、ムッティです。
いやぁ、果南ちゃんハンパねぇ・・・
これが年上の女性の包容力か・・・
というわけで、天も東京に行くことになりました。
果たして天、そしてAqoursの運命やいかに・・・
これからの展開をお楽しみに(・∀・)ノ
それではまた次回!以上、ムッティでした!