早く涼しくならないかなぁ・・・
《曜視点》
「はい天くん、あ~ん♪」
「あ~ん・・・ん、美味しい!」
「でしょでしょ!?私が考えた新作メニューなの!」
「ホントに美味しいねコレ・・・しかもことりちゃんに食べさせてもらえたおかげで、尚更美味しく感じるよ」
「もう、天くんったら♡」
「・・・どこのバカップル?」
「気にしたら負けよ。この二人はずっとこんな感じだから」
溜め息をつく西木野さん。私達は今、メイドカフェの奥にある従業員用の控え室にお邪魔していた。
南さんも西木野さんもちょうど休憩時間に入るところだったらしく、ここまで案内してくれたのだ。
「ことりは天を溺愛してて、昔からメチャクチャ可愛がってるのよ。天もそんなことりにもの凄く懐いてるから、この二人が一緒にいる時の空間はいつも甘々ってわけ。知らない人が見たら、間違いなく恋人同士だと勘違いされるレベルね」
「な、なるほど・・・」
これで付き合ってないとか嘘でしょ・・・?
今だって南さんと天くんは隣同士で座ってるけど、ピッタリくっついてるよ?ソファのスペースは全然余裕あるのに、お互いがお互いに寄り添い合ってるよ?
これで本当に恋人同士じゃないの・・・?
「何度も言うけど、気にしたら負けよ。この二人に関しては、『こういうものなんだ』って割り切らないと」
諦めたような目をしている西木野さん。
あっ、既に達観してらっしゃる・・・
「いやぁ、それにしてもビックリしたよ」
一通りイチャイチャして落ち着いたのか、天くんが西木野さんに視線を移す。
「まさか真姫ちゃんが、メイドさんに憧れてたなんて」
「違うわよ!?」
慌てて否定する西木野さん。
「人が足りなくて困ってるってことりが言うもんだから、仕方なく手伝ってあげてるだけよ!」
「真姫ちゃんは普通のメイドカフェより、ツンデレカフェの方が向いてると思うよ」
「人の話聞きなさいよ!?っていうかどういう意味よそれ!?」
「だってツンデレって、真姫ちゃんの為にあるような言葉じゃん」
「人をツンデレの代表格みたいに言わないでくれる!?」
「いや、実際代表格でしょ」
「ちょっと表出なさい!」
ツッコミを連発する西木野さん。大変そうだなぁ・・・
「まぁでも・・・新しく入ったもの凄く可愛いメイドさんっていうのが、真姫ちゃんだったことは納得だわ」
笑っている天くん。
「真姫ちゃん可愛いし、メイド服もよく似合ってるもん」
「・・・ありがと」
照れたようにふいっと顔を背ける西木野さん。確かに西木野さんは可愛い・・・というより、とても綺麗な女性だった。
μ'sの写真では肩にかかるくらいだった髪も、今では背中にかかるくらいまで伸びている。
「これだけ可愛いメイドさんなら、『伝説のメイド』がイチオシするのも頷けるよ・・・ねぇ、ミナリンスキーさん?」
「フフッ、でしょ?」
笑う南さん。噂の『伝説のメイド』とは、どうやら南さん・・・もといミナリンスキーさんのことらしい。
まさか『伝説のメイド』がμ'sのメンバーだったなんて、夢にも思わなかったなぁ・・・
「っていうか、こっちこそ驚いたわよ。天がスクールアイドル・・・Aqoursだっけ?そのマネージャーをやってるなんて」
「そうそう!海未ちゃんから聞いた時はビックリしちゃった!」
「・・・まぁ、色々あってね」
天くんの表情に陰りが差した。鞠莉さんのことを思い出してるのかな・・・
「そのAqoursがスクールアイドルのイベントに参加するから、天も東京に戻ってきたんでしょ?そういうことは前もって教えなさいよ」
「そうだよ!それが分かってたら、私達だってちゃんと時間作ったのに・・・」
「ゴメンゴメン」
苦笑しながら謝る天くん。
「スケジュール的に皆と会う時間は無いと思って、あえて何も言わなかったんだよ。だから海未ちゃんにも、『皆には何も言わないで』ってお願いしておいたんだ」
「全く・・・海未は天の言うこと何でも聞いちゃうんだから・・・」
やれやれと言いたげな西木野さん。と、南さんがおずおずと尋ねる。
「『皆に』ってことは・・・その、絵里ちゃんにも・・・?」
「・・・伝えてないよ。一応亜里姉には伝えたから、耳には入ってると思うけど」
「絵里ちゃんから連絡は・・・?」
「何も無いし、俺も会うつもりはないよ。仲裁役の亜里姉も、今週末は東京にいないみたいだしね」
淡々と話す天くん。
南さんの言う『絵里ちゃん』って、μ'sの絢瀬絵里さん・・・つまり天くんのお姉さんだよね?
天くん、お姉さんと仲悪いのかな・・・
「ホントにもう・・・天も絵里も頑固なんだから」
呆れている西木野さん。
「一度腹を割って話し合ってみなさいよ。本音をぶつけ合わなきゃ、理解出来るものも出来やしないわよ」
「残念ながら、話し合った結果がこれなんだよ」
西木野さんの言葉をバッサリ切り捨てる天くん。
「もう一度話し合おうにも、お互いが冷静になれなきゃ同じことの繰り返しになっちゃうでしょ。今はその時じゃないんだよ」
「天くん・・・」
「ゴメンことりちゃん、お手洗い借りたいんだけど」
「え?あぁ、どうぞ。廊下の突き当たりにあるよ」
「ありがと」
天くんは席を立つと、控え室から出て行った。南さんが申し訳なさそうに私を見る。
「ゴメンね、雰囲気悪くしちゃって・・・」
「い、いえ!そんな!」
「もう、真姫ちゃんがあんなこと言うから・・・」
「絵里の話を振ったのはことりでしょ」
溜め息をつく西木野さん。私は思い切って尋ねてみることにした。
「あの、天くんってお姉さん・・・絢瀬絵里さんと仲悪いんですか・・・?」
私の質問に対し、困ったように笑う南さん。
「そんなことないよ。二人はとっても仲の良い姉弟なの。ただ、今はちょっと姉弟喧嘩中で・・・」
「姉弟喧嘩、ですか?」
「うん、色々あってね・・・」
言葉を濁した南さんだったが、そこへ西木野さんが口を挟んだ。
「テスト生の話を受けるか断るかで揉めたのよ」
「真姫ちゃん!?」
「目の前でこんな話しちゃったんだから、今さら隠す必要も無いでしょ。それにこの子は、今の天と最も関わりが深い子の一人なのよ?天のことを知る権利があると思うわ」
「そうかもしれないけど・・・」
躊躇いを見せる南さん。私は西木野さんの言葉が気になっていた。
「天くんとお姉さんとの間で、意見が対立したってことですか?」
「まぁね」
頷く西木野さん。
「天と絵里のご両親は、仕事の関係でロシアに住んでるの。だから天は、絵里ともう一人の姉・・・亜里沙っていうんだけどね。三人で東京に住んでたのよ」
そうだったんだ・・・全然知らなかった・・・
「天が理事長からテスト生の話を打診された時、絵里は猛反対したの。絵里はこっちで就職が決まってたし、亜里沙も大学はこっちにあるから。つまり天がテスト生になって内浦へ行くことになっても、二人はついて行くことが出来ない・・・必然的に、天は一人暮らしをすることになるでしょ?絵里としては、それが嫌だったみたい」
「・・・そうですよね」
その反応が自然だと思う。
ご両親がロシアにいるのなら、今はお姉さんが天くんの保護者みたいなもの・・・心配するのも当然だ。
「それに天って、凄く勉強が出来るのよ。偏差値の高い超難関校でも、あの子だったら十分に合格出来る可能性があった。将来のことを考えたら、そういう高校を選ぶべきだって絵里は主張したんですって」
その主張も間違っていないと思う。
そういった選択肢があったのなら、お姉さんとしてはそっちを選んでほしいだろう。
「それでも天は、テスト生の話を受ける意思を曲げなくて・・・それで絵里と大喧嘩になったのよ」
苦笑する西木野さん。
「その場にいた亜里沙から聞いたけど、かなり激しく言い合ったみたい。二人があんな大喧嘩をしたのは、五年前以来ですって」
「五年前・・・?」
「絵里がμ'sに加入する前に、ちょっと色々あってね・・・まぁそれは置いといて。そんなことがあって、二人は今距離を置いてるのよ」
「そうだったんですね・・・」
天くんが東京に行くことを拒んでいたのは、こういうことだったんだ・・・
お姉さんと顔を合わせたくなかったから・・・
「ウチのお母さん、未だに責任を感じてるんだよねぇ・・・」
溜め息をつく南さん。
「自分が天くんにテスト生の話を打診したせいで、二人の関係を拗れさせちゃったって・・・」
「そういえば、音ノ木坂の理事長さんは南さんのお母さんなんですよね」
「そうだよ。ウチのお母さんも、天くんのことは自分の息子みたいに可愛がってて・・・それだけに、二人が大喧嘩したって知った時はショックを受けてたなぁ・・・」
悲しそうな表情の南さん。どうやら天くんとお姉さんの大喧嘩は、周りの人達に結構な影響を与えているようだ。
そんな天くんにマネージャーをやってもらっている身としては、ちょっと申し訳ないな・・・
「まぁこんな話をしておいて、こういうことを言うのもどうかと思うけど・・・貴女達が責任を感じる必要は無いのよ?」
私の表情から心境を汲み取ってくれたのか、西木野さんが優しげな表情で私を見ていた。
「これはあくまでも天と絵里の問題であって、誰が悪いとかそういう話じゃないの。天には天の意見があって、絵里には絵里の意見があった・・・それがぶつかり合ってこうなってるだけだから、誰にも責任なんて無いのよ」
「真姫ちゃんの言う通りだよ。今は喧嘩中でも、きっとすぐ仲直りしてくれるって信じてる。あの二人の仲の良さは、私達がよく知ってるんだから」
西木野さんと南さんはそう言ってくれたが、私は複雑な気持ちを拭えないのだった。
*****
「ご馳走様。休憩時間中だったのに、何かゴメンね」
「気にしないで。久々に天くんと会えて嬉しかったから」
笑顔でそう言ってくれることりちゃん。
千歌さん達も十分観光を楽しんだようで、『そろそろ合流しよう』と連絡が来たのだ。
こっちはアンタ達を待ってたっていうのに・・・
「内浦へは明日帰るのよね?夏休みにまた東京に戻ってきたりしないの?」
「今のところ、予定は決めてないかな」
真姫ちゃんの質問に、苦笑しながら答える俺。
「逆に内浦に遊びに来なよ。少しは案内出来ると思うから」
「えぇ・・・めんどくさいんだけど・・・」
「そっかぁ・・・また真姫ちゃんと会いたいんだけどなぁ・・・」
「し、仕方ないわね!そこまで言うなら遊びに行ってあげるわよ!」
言葉とは裏腹に、口元が緩んでいる真姫ちゃん。ホント素直じゃないなぁ・・・
「内浦って海が綺麗なんでしょ?私も新しい水着買って、泳ぎに行きたいなぁ」
「露出多めの水着でお願いします」
「欲望丸出し!?」
曜さんのツッコミ。ことりちゃんが面白そうに笑っている。
「もう、天くんのエッチ♡じゃあその時は、天くんがサンオイル塗ってくれる?」
「はい喜んで!」
「・・・西木野さん、この二人って」
「気にしたら負けよ」
曜さんと真姫ちゃんが何やら話している。仲良くなれたようで何よりだ。
「じゃあ曜さん、そろそろ行きましょうか」
「あ、うん」
「天」
真姫ちゃんに名前を呼ばれて振り向くと・・・そのまま優しく抱き締められた。
「真姫ちゃん・・・?」
「・・・また必ず会いに来なさいよ。私だって、天に会えないのは寂しいんだから」
「真姫ちゃん・・・」
「連絡くらい寄越しなさい。いつでも待ってるわ」
「・・・ありがとう、真姫ちゃん」
真姫ちゃんを強く抱き締め返す。
そんな俺達を包み込むように、ことりちゃんが優しく抱き締めてくる。
「私だって、天くんに会えないのは寂しいんだからね。それは皆も一緒だってことを、忘れないで」
「ことりちゃん・・・」
「私や真姫ちゃんは勿論、他の皆にもちゃんと連絡してあげて。皆待ってるから」
「・・・うん、分かった」
ことりちゃんと真姫ちゃんの温もりを感じ、心が温かくなる。
こうやって自分のことを想ってくれる人がいるって、幸せなことだよな・・・
「じゃあ、そろそろ行くね」
「うん、行ってらっしゃい!」
「イベント頑張りなさい。応援してるわ」
「あ、ありがとうございます!」
恐縮しながら頭を下げる曜さん。
笑顔で手を振る二人に見送られ、俺達は千歌さん達との待ち合わせ場所へと歩き出した。
「・・・幸せ者だね、天くんは」
曜さんがそんなことを言う。
「あんなにも大切に想ってくれる人達がいるんだもん。羨ましいな」
「・・・えぇ、俺の自慢です」
他の皆にも連絡しないとな・・・ずいぶん心配かけてるみたいだし。
「・・・ねぇ、天くん」
そんなことを考えていると、曜さんがおずおずと口を開いた。
「何ですか?」
「あのさ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど・・・」
「聞きたいこと?」
首を傾げる俺。
曜さんは口を開きかけたが、思い留まったように開きかけた口を閉じた。
「・・・ううん。やっぱり何でもない!」
笑顔でそう言う曜さん。
どことなく悲しそうな表情をしている曜さんの様子が、少し気になる俺なのだった。
どうも~、ムッティです。
今回はことまきペアとのお喋りタイムでした!
前回の話では、『ことりちゃんの登場は予想してたけど、真姫ちゃんの登場は予想外だった』という感想を多くいただきました。
まぁメイド真姫ちゃんを書きたかったのはあるんですが(笑)
実は天と絵里ちゃんの喧嘩について触れてもらう為でもありました。
ことりちゃんは優しいから気を遣って、天と絵里ちゃんの間にあったことについて触れないだろうなと思ったので。
とはいえ曜ちゃんが天の事情を知るシーンは書きたかったので、μ'sの中の誰がそれを話してくれそうか考えた結果が真姫ちゃんでした。
真姫ちゃんなら天にも曜ちゃんにも気を遣いつつ、事情をきちんと説明してくれるだろうなと。
あとは希ちゃんとにこちゃんも思い浮かびましたが、二人は社会人になっているはずなので。
真姫ちゃんが適任かな、と。
まぁ天と海未ちゃんの会話に真姫ちゃんの名前を出したので、早く登場させたかったというのもありますが(笑)
ちなみに何話か前の話を曜ちゃん視点で書いたのは、この話を書くにあたっての伏線だったりします。
まぁ伏線とはいいましたが、そんな大げさなものでもないですけどね(笑)
長々と説明してしまってすみません。
さて、これからどのような展開になっていくのか・・・
次回もお楽しみに(・∀・)ノ
それではまた次回!以上、ムッティでした!