《曜視点》
「・・・ハァ」
溜め息をつく私。何となく眠れなかった私は、大部屋を抜け出して中庭の縁側に腰掛けていた。
ただぼんやりと空を眺めていると・・・
「フフッ・・・内浦と違って、星はあまり見えないでしょう?」
背後から声がする。慌てて振り向くと、海未先生が微笑みながら立っていた。
「どうしてここに・・・?」
「ふと目が覚めてしまったものですから。少し外の空気を吸おうかと思って出てきたのですが、先客がいて驚きました」
笑う海未先生。
多分、私がいないことに気付いて探しに来てくれたんだろうな・・・
「隣、いいですか?」
「あ、どうぞ・・・」
私の隣に腰を下ろす海未先生。改めて思うけど、本当に綺麗な人だなぁ・・・
「ん?どうかしましたか?」
「あ、いえ・・・海未先生、彼氏とかいないのかなって」
「か、彼氏!?」
顔を赤くする海未先生。
「な、何ですかいきなり!?」
「いや、海未先生って美人じゃないですか。きっとモテるんだろうなって思って」
「ま、真顔で褒めないで下さい・・・天じゃないんですから・・・」
恥ずかしそうな海未先生。
「彼氏なんて、今まで一度もいたことありませんよ・・・」
「えっ、意外ですね・・・スクールアイドルとしても有名になったわけですし、てっきり学生時代からモテモテなのかと・・・」
私が首を傾げていると、海未先生が溜め息をついた。
「・・・正直な話、告白されたことは何度かありましたよ。全てお断りしましたけど」
「どうしてですか?」
「そもそも私、男性と話すことが苦手でして・・・」
「えぇっ!?天くんとあんなに仲良く話してるじゃないですか!?」
抱きついたりとかもしてるのに・・・弟みたいな存在だから大丈夫ってことなのかな?
「・・・実は天とも、初対面の時はまともに話せなかったんですよ」
苦笑する海未先生。
「当時天は小学生で、私は高校生・・・それでも上手く話せなかったんです。どれだけ私が男性を苦手としているか、よく分かるでしょう?」
「・・・確かに」
それはちょっと重症な気がするなぁ・・・
「じゃあ、どうして天くんと話せるようになったんですか?」
「・・・そうですねぇ」
海未先生はゆっくり空を見上げると、何を思い出したのかクスッと笑った。
「・・・天が私に寄り添ってくれたから、ですかね」
「え・・・?」
「上手く話せない私を急かすこともせず、かと言って自分から強引に距離を詰めようとしてくることもない・・・ゆっくり時間をかけて私と向き合い、少しずつ距離を縮めようとしてくれました」
微笑む海未先生。
「私が落ち込んだ時は励ましてくれて、私が不安な気持ちになっている時は勇気づけてくれて・・・そんな天だからこそ、私も心を開くことが出来たんだと思います」
「海未先生・・・」
「前に私は、天のことを『弟みたいなもの』と言いましたが・・・正しくは『弟のようであり、それでいて自分と対等な存在』と言うべきでしょうか」
「対等な存在・・・?」
「年下ではあるけれど、子供だとは思っていないということです。自分と対等・・・信頼の置ける相手として見ているんですよ。これは私だけでなく、μ'sのメンバー全員に言えることですね」
言い切る海未先生。言葉の端々に、天くんへの信頼が窺える。
「曜は今日、ことりと真姫に会ったんでしょう?天への接し方を見て、何か感じませんでしたか?」
「・・・二人とも、天くんのことを大切に想ってるんだなって感じました」
南さんも西木野さんも、天くんに会えて本当に嬉しそうだった。
確かにあの距離の近さは、信頼関係が無いと無理だと思う。
「・・・天くんとμ'sの皆さんの関係って、何なんですか?メンバーの弟っていうだけじゃ、そこまでの信頼関係は築けないですよね?」
「・・・天が話していない以上、私から話すことは出来ません」
首を横に振る海未先生。
「ですが天と貴女達が繋がり続けるかぎり、いずれは明らかになるでしょう。何せ天は、Aqoursのマネージャーなのですから」
「マネージャー、か・・・」
「曜?」
首を傾げる海未先生に、私は自分の気持ちを正直に話すことにした。
「私、ちょっと分からなくなっちゃって・・・このまま天くんに、マネージャーを続けてもらっても良いのか」
「・・・天に不満がある、ということですか?」
「違います!」
慌てて否定する私。
「天くんは本当に良い子です!鞠莉さんに脅されてマネージャーの役目を押し付けられたのに、私達のことを考えてしっかりサポートしてくれて!天くんがいてくれたから、私達はここまでくることが出来たんです!ただ・・・」
「ただ・・・?」
「・・・西木野さんと南さんに聞いたんです。テスト生の話を巡って、天くんがお姉さん・・・絢瀬絵里さんと大喧嘩してしまったこと」
俯く私。
「南さんが言ってました。二人はとっても仲の良い姉弟だって。その二人が、浦の星のテスト生の話で揉めたって知って・・・何だか申し訳ない気持ちになってしまって」
ふいに涙が込み上げてくる。泣くつもりなんて無かったのに・・・
「二人が仲直り出来るのなら・・・天くんは東京に戻って、お姉さんのところに帰った方が良いんじゃないかって。その方が、私達と一緒にいるよりも幸せなんじゃないかって・・・そう思ったんです」
鞠莉さんに脅された時、天くんは言っていた。『この学校に来てしまったことを、心の底から後悔している』と。
お姉さんと喧嘩してまで浦の星に来てくれたのに、あんな目に遭って・・・天くんの幸せを考えたら、私達と一緒にいない方が・・・
「・・・ありがとうございます」
背後から海未先生に優しく抱き締められる。
「天のことを、そんなにも大切に想ってくれて・・・嬉しいです」
「海未先生・・・」
「全く、あの二人ときたら・・・いえ、恐らく話したのは真姫ですね?ことりは止めようとしたんでしょうけど、真姫に押し切られたのではありませんか?」
あまりにも的確な予想に、思わず驚いてしまう私。
そんな私の表情を見て、海未先生が苦笑いを浮かべる。
「どうやら当たりみたいですね」
「ど、どうして・・・」
「長い付き合いですから。何となく分かりますよ」
溜め息をつく海未先生。
「まぁ流石にあの二人も、曜がここまで思い悩むとは思わなかったんでしょうね。気を遣わせてしまってすみません」
「い、いえ!聞いたのは私ですから!」
慌てて首を横に振る。
海未先生は困ったように笑うと、私を抱き締める腕に力を込めた。
「・・・正直、私も天に戻ってきてほしいと思っていました。浦の星での教育実習を希望したのも、天を連れて帰るつもりでいたからなんです」
「そうだったんですか・・・」
「まぁ、拒否されてしまいましたけどね」
苦笑する海未先生。
「『今の俺はAqoursのマネージャーだから』だそうです。今の貴女達を見捨てることは出来ないと、ハッキリ言われてしまいました」
「っ・・・」
天くん・・・私達の為にそこまで・・・
「いくら天でも、義務感でここまで動くことは出来ませんよ。貴女達のことを大切に思っているからこそ、浦の星に残る道を選んでいる・・・そうでなければ、小原理事長に脅された時点で東京に戻ってきているはずです」
それは天くんも言ってくれていた。私達のことが好きだから、脅されたとはいえマネージャーを引き受けたんだって。
「天は自分の意思で浦の星へ行くことを選び、自分の意思で浦の星に残ることを選んだんです。曜が思い悩む必要は無いんですよ」
「で、でも・・・そのせいでお姉さんと喧嘩を・・・」
「大丈夫です。いずれ仲直りしますから」
言い切る海未先生。
「天も絵里も、少し素直じゃないところはありますが・・・お互いのことを大切に想っていますから。亜里沙も含め、あの姉弟の絆は深いですよ。側で見てきた私が言うんですから、間違いありません」
「・・・本当ですか?」
「本当です」
海未先生が優しく微笑む。
「それに・・・貴女達と一緒にいる時の天は、とても楽しそうでしたよ?あれで『一緒にいて幸せじゃない』なんて、そんなバカなことはありません。だからこそ天は、貴女達と一緒にいる道を選んだのではありませんか?」
海未先生の言葉に、私は安堵していた。海未先生の目から見て、天くんが楽しそうに見えているのなら・・・それはきっと間違いじゃない。
私達よりもずっと長く、天くんのことを近くで見てきた人なんだから。
「さて、ずいぶん長く話し込んでしまいましたね・・・明日は朝早いんでしょう?早く寝て備えましょう」
「・・・はいっ!」
海未先生と一緒に立ち上がる。心のモヤモヤが少し晴れたような気がして、今ならよく眠れそうだ。
「そうだ海未先生、同じ布団で一緒に寝ませんか?それならもっと安心して眠れるような気がします」
「そ、それは少し恥ずかしい気が・・・」
「海未先生・・・お願いっ!」
「なっ!?ことりの入れ知恵ですか!?」
「え?何の話ですか?」
「・・・まさかの無自覚ですか。曜、恐ろしい子・・・!」
ブツブツ呟いている海未先生に、首を傾げる私なのだった。
どうも~、ムッティです。
今回は、曜ちゃんと海未ちゃんのお話し回でした。
海未ちゃんのお姉さん感がハンパない(笑)
海未ちゃんがお姉ちゃんだったら、色々口うるさく言いながらも可愛がってくれそうな気がします。
ただ個人的にお姉ちゃんになってほしいのは、ことりちゃんですかね。
ことりちゃんの弟になって、天みたいに溺愛されたい(切実)
天、代われ(゜言゜)
さて、元気が無い人といえば・・・曜ちゃん以外にもう一人いましたね。
そんなわけで、次の話は梨子ちゃん回です。
明日投稿しますので、お楽しみに(・∀・)ノ
それではまた次回!以上、ムッティでした!