早く夏なんて終わってしまえ(゜言゜)
「・・・ん」
夜中、ふと目が覚めてしまう俺。何やら右腕が重いような・・・
「ずらぁ・・・」
花丸が俺の右腕に抱きつき、幸せそうに眠っていた。そういえば寝る場所をじゃんけんで決めた結果、花丸と梨子さんの間になったんだっけ・・・
っていうか、俺の右腕が花丸の胸の谷間に挟み込まれてるんだけど。メッチャ柔らかい感触に包まれてるんだけど。
「ムニャムニャ・・・もう食べられないずらぁ・・・」
「・・・無防備だなぁ」
思わず苦笑してしまう。一応俺も思春期の男子だということを、理解してもらいたいんだけど・・・
花丸を起こさないよう、そっと右腕を抜いた時だった。
「天くん・・・?」
花丸とは反対側から声がした。
そちらに顔を向けると、俺の方に顔を向けている梨子さんと目が合った。
「梨子さん?起きてたんですか?」
「うん、少し前に目が覚めちゃってね・・・それから眠れないの」
苦笑する梨子さん。
「しかも私が寝てる間に、あんなことになってるし。驚いちゃった」
「あんなこと・・・?」
首を傾げる俺。
梨子さんが視線を向けた先を見ると・・・別々の布団で寝ていたはずの海未ちゃんと曜さんが、同じ布団で身を寄せ合って眠っていた。
マジか・・・
「千歌さんならともかく、曜さんはちょっと意外ですね・・・」
「そうよね・・・あの二人、あんなに仲良かったかしら・・・?」
梨子さんも首を傾げている。
まぁ、仲が良いに越したことはないから良いけど。
「海未ちゃんは人見知りですし、仲の良い人が増えるのは良いことです。梨子さんも海未ちゃんと仲良くしてあげて下さいね」
「・・・何か天くん、海未先生の保護者みたいになってるわよ」
「昔から海未ちゃんを知ってる身として、心配してるだけですよ」
お互い布団に身を横たえながら向かい合い、他愛も無い話をする。
気分転換も兼ねて少し話せば、梨子さんもまた眠れるかもしれないし。
「大切に想ってるのね、海未先生のこと」
「・・・そりゃあそうですよ」
何となく照れ臭くなってしまう。
「海未ちゃんも、ことりちゃんも、真姫ちゃんも・・・μ'sのメンバー全員が、俺にとってかけがえのない人達ですから」
「フフッ・・・海未先生が聞いたら号泣しそうなセリフね」
「オフレコでお願いします」
こんなセリフ、なかなか面と向かって言えないからな・・・
「・・・凄いわね、天くんは。そうやって言い切れるくらい、大切な人達と出会えたんだもの。きっと音ノ木坂で、良い時間を過ごしたのね」
「梨子さん・・・?」
梨子さんの表情が暗くなる。どうしたんだろう・・・?
「・・・私、中学の頃にピアノの全国大会に行ったことがあってね。だから高校から入った音ノ木坂では、結構期待されてたの」
「そうだったんですか・・・」
音ノ木坂は、伝統的に音楽で有名な学校だ。
その方面で腕を鳴らした学生が入ってくることも多く、梨子さんもその内の一人だったんだろう。
「だから期待に応えなきゃって、いつも練習ばかりしてて・・・でも結局、大会では上手くいかなくてね。そのせいか、音ノ木坂に行くことに対して気が引けちゃって・・・」
「・・・なるほど」
それでさっき、千歌さんの提案を断ったのか・・・
音ノ木坂にいた頃、苦しい思いをしたことを思い出してしまうから・・・
「音ノ木坂が嫌いなわけじゃないのよ?ただ・・・期待に応えられなかった自分が情けないし、期待してくれた人達に申し訳ない・・・そんな気持ちになっちゃって」
「梨子さん・・・」
「だから、海未先生やμ'sの人達は凄いと思う。周りからの期待に応えて、廃校を阻止したんだもの。それどころか、スクールアイドルブームまで巻き起こしちゃって・・・千歌ちゃんや天くんに出会うまで知らなかったけど、本当に偉大な人達だと思うわ」
微笑む梨子さん。
「そして・・・その偉大な人達を、『かけがえのない人達』って言い切れる天くんもね」
「いや、俺は別に・・・」
「曜ちゃんが言ってたわよ?『南さんと西木野さんは、本当に天くんと仲が良かった』って。海未先生も天くんに心を許してるし、μ'sの人達にとって天くんの存在は大きいんでしょうね。偉大な人達の支えになっている天くんも、私から見たら凄い人よ」
梨子さんはそう言うと、悲しげに目を伏せた。
「私も期待に応えられてたら・・・もっと練習して、大会で上手くいってたら・・・少しは音ノ木坂の役に立てたのかな・・・」
「・・・もしそうなっていたら、俺達が出会うことはなかったでしょうね」
「え・・・?」
驚く梨子さん。俺は梨子さんに微笑みかけた。
「もし梨子さんが、音ノ木坂で順調にいっていたら・・・環境を変えてみようなんて思わなかったでしょう?浦の星に来ることもなく、俺達と出会うこともなかったはずです。少し言い方は悪いですが・・・梨子さんが音ノ木坂で上手くいかなかったから、俺達は出会えたんだと思います」
「天くん・・・」
「それとも・・・梨子さんは、俺達に出会わなければ良かったと思いますか?」
「なっ!?そんなわけないじゃない!」
「しーっ、皆が起きちゃいます」
「あっ・・・」
慌てて口を押さえる梨子さん。俺は思わず笑ってしまった。
「・・・俺が言いたいのは、たらればの話をしても仕方ないってことです。過去のことは変えられないんですから」
「それはそうだけど・・・」
「それに苦しい思いをしたからこそ、今の梨子さん・・・Aqoursの桜内梨子がいるんじゃないですか。スクールアイドル、やってみてどうですか?」
「・・・凄く楽しいわ。心からやりがいを感じてる」
「そう思えるなら、梨子さんの歩んできた道は間違いじゃないですよ。期待に応えられずに苦しんだことも、何かを変えようとしてもがいたことも・・・無駄なことなんて何一つありません。全てが梨子さんの礎になってます」
俺は梨子さんへと手を伸ばした。
「梨子さんのしてきた努力が全て分かるだなんて、そんなおこがましいことは言えませんけど・・・その様子を見ていれば、一生懸命やってきたってことくらいは分かります。周囲の期待に応えようとして、必死に頑張ったんだろうなってことも・・・」
梨子さんの頭を、優しく撫でる。
「前にも言いましたけど、梨子さんはもっと胸を張っていいと思います。引け目とか、情けなさとか、申し訳なさとか・・・そういったものを感じるなとは言いません。ただ、もっと自分のことを褒めてあげて下さい。自分で思っている以上に、梨子さんは凄い人なんですよ。俺が保証します」
「っ・・・」
梨子さんの目から、一筋の涙が伝う。
それを機に次々に涙が滴り落ち、梨子さんの枕を濡らしていった。
「本当に・・・ずるいわね、天くんは・・・」
ボロボロと涙を零す梨子さん。
「あの時も、今も・・・私を泣かせにくるんだから・・・」
「良いじゃないですか。嬉し涙なんですから」
笑みを浮かべる俺。
「俺には、梨子さんの心に寄り添うことしか出来ませんから・・・それで梨子さんが、少しでも元気になってくれるなら嬉しいです」
「・・・十分すぎるくらいよ」
泣きながら微笑む梨子さん。
「なるほどね・・・だからμ'sの人達は、天くんのことを・・・」
「梨子さん?」
「フフッ・・・何でもないわ」
梨子さんはそう言うと、おもむろに俺の布団に入ってきた。
「ちょ、どうしたんですか!?」
動揺する俺に何も言わず、抱きついてくる梨子さん。
「お願いだから・・・少しだけ、このままでいさせて・・・」
俺の胸に顔を埋める梨子さん。その肩は震えており、まだ泣いているのが分かった。
「・・・俺で良ければ、喜んで」
梨子さんの身体を、優しく抱き締める俺なのだった。
どうも~、ムッティです。
今回は梨子ちゃん回となりました。
アニメでは千歌ちゃんと梨子ちゃんが話していましたが、この作品では千歌ちゃんに代わり天が梨子ちゃんと話しています。
何だか二人が良い感じになっていますが・・・
本当にヒロイン未定でお送りしております(笑)
果たしてヒロインは誰になるのか・・・
そろそろ絞った方が良いのかなぁとも思うのですが、これが決められないんですよねぇ・・・
どうか長い目で見ていただけると幸いです(笑)
これからの展開をお楽しみに(・∀・)ノ
それではまた次回!以上、ムッティでした!