1日遅れてゴメンね・・・
「さて、そろそろ行くわよ」
「えぇ・・・せっかく天くんと会えたのにぃ・・・」
「文句言わない。これから仕事でしょうが」
不満そうに俺に抱きつくあんじゅちゃんに、溜め息をつくにこちゃん。
どうやらA-RISEはこれから仕事があるらしく、長居は出来ないとのことだった。
芸能人も大変だなぁ・・・
「こっちはマネージャーさんから、時間通りに連れてくるよう厳しく言われてるんだから。これで遅刻なんてしたら、怒られるのは私なのよ」
「じゃあ遅刻しても大丈夫ね。怒られるのはにこなんだから」
「しばくわよハゲ」
「だからハゲじゃないわよ!?」
ツバサちゃんのツッコミ。
A-RISEの熱烈なファンだったにこちゃんが、こんなセリフを吐く日が来るとは・・・
「ほらあんじゅ、気持ちは分かるが仕事に行くぞ」
「うぅ・・・分かったわよぉ・・・」
英玲奈ちゃんに宥められ、渋々従うあんじゅちゃん。
「じゃあ天くん、またね・・・んっ」
「っ!?」
急に頬にキスされ、流石に俺もビックリしてしまう。
「ちょ、あんじゅちゃん!?」
「フフッ♡」
俺から離れたあんじゅちゃんが、悪戯っぽく笑う。
「頬じゃなくて、唇の方が良かったかしら?」
「あんじゅさん!?何してるんですか!?」
慌てて俺を後ろから抱き寄せ、あんじゅちゃんを睨みつける海未ちゃん。
「天は渡しませんからね!?」
「あら、嫉妬?海未ちゃんも可愛いわね」
「あんじゅ、からかうのは止めなさい」
やれやれ、と言いたげなツバサちゃん。
「じゃあ天、また会いましょう」
「今度はゆっくり話そう。お互い積もる話もあるだろうしな」
「寂しくなったら、いつでも連絡ちょうだいね♪」
「ありがとう。仕事頑張ってね」
三人に手を振る俺。
にこちゃんも三人の後に続こうとしたが、ふと足を止めた。
「・・・Aqoursのこと、ちゃんと支えてあげなさいよ。今それが出来るのは、マネージャーである天しかいないんだから」
「分かってる。ほったらかしにしておくつもりは無いよ」
俺の言葉に、にこちゃんが小さく笑みを浮かべた。
「私が認めた男が、『こんなところで終わる人達じゃない』って断言したんだもの。あの子達の成長を楽しみにしてるわ」
それだけ言い残すと、手をひらひらと振って去っていくにこちゃん。
かつてのツインテールではなく、長い黒髪をなびかせながら歩くその背中は・・・とても大きく見えた。
「・・・大人だなぁ」
「ですね」
頷く海未ちゃん。
「絵里や希とは、また違った感じの大人っぽさですよね」
「うん、何と言うか・・・人生の先輩っていう感じがする」
時には優しく、時には厳しく・・・
にこちゃんには昔から、何かと目をかけてもらってたっけなぁ・・・
「全く・・・普段はイジられキャラのくせに、何でこういう時だけ・・・」
「フフッ・・・でも、そこがにこらしいですよね」
二人でそんなことを言いながら苦笑していると・・・
「ねぇ、あの人ってμ'sの・・・」
「嘘!?園田海未!?」
「えっ、じゃあ横にいる男の子って・・・」
「まさか彼氏!?」
周りがメッチャざわついていた。えっ・・・
「・・・そういえば、にこに伊達メガネとマスクを取られたんでした」
冷や汗をダラダラ流しながら呟く海未ちゃん。
よし、にこちゃんはいつか絶対に泣かすとして・・・
「とりあえず退散っ!」
「ラジャーッ!」
全力でその場から走り去る俺と海未ちゃんなのだった。
*****
「ふぅ・・・」
「危なかったですね・・・」
ホッと一息つく俺達。
全力ダッシュで逃走した俺達は、何とか最初にいた場所まで戻って来ることが出来たのだった。
「そろそろ千歌さん達も戻って来ると思うんだけど・・・あっ」
そんな話をしていると、千歌さん達がこちらへ向かってくるのが見えた。どうやら、ちょうど良いタイミングだったらしい。
ただ・・・
「・・・何か、元気無くない?」
「ですね・・・さっきより暗いといいますか・・・」
明らかに落ち込んだ表情の皆。どうしたんだろう?
「お帰りなさい」
「っ・・・」
俺がそう声をかけた瞬間・・・ルビィが勢いよく俺に抱きついてきた。
「おっと・・・ルビィ?」
「・・・ひっぐ・・・うぅっ・・・」
俺の胸に顔を埋めながら、泣きじゃくるルビィ。
俺は戸惑いながらも、ルビィの頭を優しく撫でた。
「何かあったんですか・・・?」
「・・・これです」
問いかける海未ちゃんに、千歌さんが一枚の紙を渡す。
そこには、今回のイベントに参加したグループの名前が順位で並べて書いてあった。右側には得票数も書いてある。
「Saint Snowは9位・・・入賞までもう少しだったのか・・・」
手の届く位置にあったのに、掴むことが出来なかったわけか・・・気の強そうな理亞さんが泣いていたのも納得できる。
それより問題なのは・・・
「Aqoursは・・・最下位。得票数・・・0」
「そんな・・・」
絶句する海未ちゃん。つまりあの会場にいた観客の中で、Aqoursに投票した人はいなかったということか・・・
俺と海未ちゃんはAqoursの身内になるから、あえて誰にも投票しなかったもんな・・・
「0・・・だったの・・・」
泣きながら言うルビィ。
「ルビィ達に・・・ひっぐ・・・投票してくれた人は・・・えぐっ・・・誰もいなかったの・・・うぅっ・・・」
「・・・そっか」
そっとルビィを抱き締める。
「我慢しなくて良いよ・・・気が済むまで泣いて良いから」
「っ・・・うわあああああんっ!」
大声で泣くルビィ。
そんなルビィの様子を、他の皆も沈痛な面持ちで見つめていた。
「・・・Saint Snowさんからも、言われちゃったの。『μ'sのようにラブライブを目指しているのなら、諦めた方が良いかもしれない』って」
「『馬鹿にしないで。ラブライブは遊びじゃない』とも言われちゃったよね・・・」
「っ・・・!」
梨子さんと曜さんの言葉を聞いた海未ちゃんが、唇をぐっと噛む。
「あの二人・・・そんなことを言ったのですか・・・!」
怒りの表情を浮かべる海未ちゃん。
「まだ遠くへは行ってないはず・・・!」
「止めときな」
海未ちゃんがあの二人を追いかける前に、釘を刺しておく。
「天!?何故止めるのですか!?」
「あの二人に対して怒った俺が、こんなことを言える立場じゃ無いのは分かってるけど・・・今はあの二人のことなんてどうでもいいよ」
淡々と答える俺。
「人を傷つける言葉を平気で言えるようなヤツらに、これ以上構っていたくないから。そんなヤツらに怒りをぶつけてる暇があるなら・・・俺は皆の側にいたい」
「っ・・・天・・・」
「・・・とりあえず、海未ちゃんの家に戻ろっか。荷物をまとめて内浦に帰ろう。早くしないと、帰るのが遅くなっちゃうから」
「・・・分かりました」
力なく頷く海未ちゃんなのだった。
*****
「すぅ・・・すぅ・・・」
「ようやく落ち着いたか・・・」
俺の肩に寄りかかって眠るルビィを見て、ホッと一息つく俺。
園田家を出た俺達は、電車に乗って内浦へと向かっていた。
「ルビィちゃん、安心したような顔で眠ってるわね」
通路を挟んで俺の隣に座っている梨子さんが、笑みを浮かべながら言う。
「きっと天くんが側にいるからね」
「そうですかね?」
「そうよ。花丸ちゃんと善子ちゃんだって、さっきまで落ち込んでたのに今は穏やかな顔で眠ってるじゃない。天くんと一緒だから安心してるのよ」
俺の向かいの席で身を寄せ合って眠る花丸と善子を見て、微笑む梨子さん。
安心してる、か・・・
「・・・それなら嬉しいですね」
ルビィによって握られている手を、そっと握り返す。
「一緒にいるだけで、人を安心させることが出来る・・・そんな存在になりたいって、ずっと思ってましたから」
「え・・・?」
「・・・フフッ」
首を傾げる梨子さんに対し、俺の言葉を聞いていた海未ちゃんが小さく笑った。
「それはひょっとして、希の影響ですか?」
「・・・まぁね」
照れ臭くなり、海未ちゃんから視線を外す俺。
「天は希に懐いてましたもんね。ことり以上に」
「み、南さん以上・・・?」
「ちょっと曜さん、何でそんなにげんなりしてるんですか?」
「いや、あの甘々な感じを見せつけられてるからさぁ・・・あれ以上ってことは、胸焼けどころじゃ済まないなぁと思って・・・」
「大丈夫ですよ、曜」
胸を押さえる曜さんに、海未ちゃんが苦笑しながら言う。
「あそこまでの甘々空間になることはありませんから。安心して下さい」
「でも、天くんが南さん以上に懐いてるんですよね?」
「そうですが、天と希はああいう感じではないんですよ。会えば分かります」
「は、はぁ・・・」
よく分かっていない様子の曜さん。
全く、海未ちゃんときたら・・・
「東條希さんか・・・会ってみたいわね、千歌ちゃん」
「・・・・・」
「千歌ちゃん?」
「・・・えっ?」
梨子さんに話を振られたことに気付かない千歌さん。ようやく気付いたようで、バツの悪そうな顔をする。
「ゴメン、聞いてなかった・・・」
「千歌ちゃん・・・」
心配そうな表情の梨子さん。
「やっぱり千歌ちゃん、イベントの結果を気にして・・・」
「ち、違うって!そんなんじゃないから!」
慌てて笑みを浮かべ、取り繕おうとする千歌さん。
と、ここで曜さんが真剣な表情で千歌さんに尋ねた。
「じゃあ千歌ちゃんは・・・悔しくないの?」
「「「っ・・・!」」」
息を呑む俺・梨子さん・海未ちゃん。その質問は・・・
「そ、そりゃあちょっとはね・・・でも、皆であそこに立てたんだもん!私は満足だよ!」
無理矢理作ったような笑顔を見せる千歌さん。ホント、この人は・・・
「千歌ちゃん・・・スクールアイドル、やめる?」
「っ・・・」
続けられた曜さんの問いに、答えられなくなってしまった千歌さん。
いつもなら、勢いよく『やめない!』と答えているところだが・・・
「・・・そこまでにしましょう、曜さん。これ以上はダメです」
「・・・ゴメン」
素直に引き下がる曜さん。
重苦しい雰囲気に包まれ、電車に揺られる俺達なのだった。
どうも〜、ムッティです。
昨日9月12日は、ことりちゃんの誕生日でしたね!
改めておめでとう!
誕生日記念とかで、一話のみの特別編とか書いてみるのも面白そうですよね。
まぁそういうのを書くのは、もう少し話が進んでからになると思いますが・・・
鞠莉ちゃんとか未だに和解してませんし、まだ登場してないμ'sのメンバーもいますし・・・
とりあえず、早く三年生編に入りたいところです(>_<)
引き続きマイペースに投稿していきますので、これからもよろしくお願い致します。
それではまた次回!以上、ムッティでした!