つまり『ネギが無いと』ってか・・・
ただの駄洒落やん・・・面白いけども。
「かんぱ~い!」
「「かんぱ~い!」」
長い銀髪の女性の音頭に続き、ビールジョッキを合わせる海未ちゃんと赤城先生。
俺は溜め息をついた。
「ウチは居酒屋じゃないんですけど」
「気にしないで絢瀬くん!居酒屋じゃなくても私達は気にしないわ!」
「人の家であることを気にしてもらえます?」
赤城先生にツッコミを入れる俺。
海未ちゃんと仲良くなった赤城先生は、遂に家にまで呑みに来るようになっていた。
そしてもう一人・・・
「フフッ、良いじゃない。私達と絢瀬くんの仲でしょ?」
「いや、貴女に関しては大して接点も無いんですけど・・・鶴見先生」
柔らかく微笑む銀髪の女性・・・鶴見翔子先生。三年生のクラス担任を務めている先生だ。
一年生である俺は、挨拶程度しか交わしたことが無い。
「酷い!?私とは遊びだったのね!?」
「いや、遊んでるのは貴女でしょ」
「あの夜のことを忘れたっていうの!?」
「脳天かち割りますよ白髪頭」
「白髪じゃないですぅ!銀髪ですぅ!」
「そ、天・・・相手は一応先生ですよ・・・?」
恐る恐る声をかけてくる海未ちゃん。
一方、赤城先生は笑っていた。
「大丈夫よ、海未ちゃん。翔子ちゃんはそういうの気にしない人だから」
「フフッ、まぁね」
クスクス笑っている鶴見先生。
「絢瀬くんは面白いわね。そうやって遠慮なくきてくれる子、私大好きなの」
よく分からないが、どうやら気に入られてしまったらしい。
嬉しいような、嬉しくないような・・・
「私のことは、気軽に『翔子ちゃん』って呼んでね」
「いや、仮にも先生を相手にちゃん付けはマズいでしょう」
「じゃあ『翔子先生』で」
「・・・まぁそれなら」
「あっ、ずるい!絢瀬くん、私のことも『麻衣先生』でいいのよ!?」
「何で張り合ってるんですか貴女は」
「だって私、絢瀬くんの担任なのよ!?翔子ちゃんに先を越されるなんて悔しいじゃない!」
「・・・赤城先生って、案外子供っぽいところあるんですね」
「そうなのよ。いつもは大人の女性って感じなのにね」
「いや、貴女も大概ですけどね」
「酷い!?」
ショックを受けている翔子先生。
まぁ親しみやすくて、俺は好きだけども。
「じゃあ俺のことも天で・・・」
「オッケー天くん!」
「了解よ天くん!」
「順応早っ!?」
な、何だこのノリの軽さは・・・
「こういう人達なんですよ。まぁおかげで、私も親しくなれましたけど」
苦笑している海未ちゃん。
人見知りの海未ちゃんが家に呼ぶほど親しくなっている理由が、ようやく分かった気がした。
「麻衣ちゃんのクラスは良いわねぇ・・・天くんもいるし、本当に明るくて良い子達がたくさんいるもの」
「あら、翔子ちゃんのクラスだってそうじゃない。それに来週から、果南ちゃんも復学するんでしょ?」
「そうなのよ。今から楽しみだわ」
微笑む翔子先生。
そっか・・・果南さん、来週から学校に来るのか・・・
「翔子先生、ちょっと聞きたいんですけど」
「フフッ、何でも聞いてちょうだい!」
胸を張る翔子先生。
おぉ、なかなか立派な・・・じゃなくて。
「小原理事長のことなんですけど」
「あぁ、鞠莉ちゃんね。何?スリーサイズ?」
「違います」
「B87/W60/H84よ」
「違うって言ってるでしょうが!っていうか何で把握してんの!?」
「自分のクラスの子のスリーサイズくらい把握してるわ」
「当たり前みたいに言わないでもらえます!?」
っていうかあの人、B87もあるのか・・・
道理で大きいと思ったら・・・
「・・・むぅ」
「海未ちゃん、痛いんだけど・・・」
海未ちゃんが背後から渾身の力で俺を抱き締めてくる。表情が明らかに不機嫌だ。
「あの女・・・」
「いや、良く思ってないのは知ってるけどさ・・・」
「生意気なんですよ・・・B87だなんて」
「あ、そっち?」
ただ単純に嫉妬しているだけらしい。
俺は再び翔子先生に視線を向けた。
「俺が聞きたいのは留学の件です。小原理事長は二年前、スクールアイドルをやめた後に留学したそうですが・・・前々からそういう話はあったんですか?」
「あったわよ。でもあの子、留学の話が来る度に断っててね・・・」
当時を懐かしむように語る翔子先生。
「『自分はスクールアイドルだから』って、頑として首を縦に振らなかったの。でもスクールアイドルをやめた後は、留学することを決めて・・・まさか理事長になって戻ってくるなんて、あの頃は想像もしてなかったわ」
苦笑する翔子先生。
「果南ちゃんやダイヤちゃんと、上手くいかなくなっちゃったのかしらね・・・留学する直前、三人の仲はギクシャクしてたわ。戻ってきてからも、鞠莉ちゃんとダイヤちゃんは仲が良いって感じじゃないし」
「あの頃はあんなに仲良しだったのにねぇ・・・」
寂しそうに呟く麻衣先生。なるほどねぇ・・・
「ちなみになんですけど・・・東京のイベントがあった頃、小原理事長って怪我とかしてませんでした?」
「あぁ、そういえばしてたわね。何か足を痛めちゃったみたいで、テーピングしてたけど・・・え、何で知ってるの?」
「独自の情報網があるんで」
「何それ怖い」
「翔子先生が合コンで失敗しまくってることも把握済みです」
「嘘でしょ!?どれだけ凄い情報網なの!?」
「まぁ、麻衣先生が酔っ払って暴露してたのを聞いただけなんですけど」
「ちょ、天くん!?その話はダメ・・・」
「麻衣ちゃ~ん?ちょっとお話ししましょうね~?」
「嫌ああああああああああっ!?」
麻衣先生の悲鳴が聞こえる中、俺は頭の中で情報を整理していた。
歌えなかった果南さん、足を怪我していた小原理事長、留学の話を断り続けていた・・・
「・・・何となく見えたな」
「天・・・?」
首を傾げている海未ちゃん。
今朝にこちゃんから聞いた情報も含め、俺の中で全てが繋がったような気がした。
もしこれが事実なら・・・
「・・・千歌さん以上に不器用だな、あの人」
もっと違う方法だってあっただろうに・・・これでは誰も報われない。
「あ、そういえば・・・」
「痛い痛いっ!翔子ちゃんギブ!ギブだからっ!」
麻衣先生にサソリ固めを極めながら、翔子先生が何かを思い出す。
「二年前、あの子達が東京のイベントに出た後だったかな?また留学の話がきたから、鞠莉ちゃんに打診したら案の定断られたんだけど・・・その時の断り方が、いつもとちょっと違ったのよね」
「違った?」
「えぇ。あの時も最初は、『自分はスクールアイドル』だからって言ってたんだけど・・・その後、『親友が心配だから』って」
「っ・・・」
「果南ちゃんかダイヤちゃんのことだと思うんだけど、心配って何の話だろうって思ったのよね。何が心配なんだろうって」
今の翔子先生の言葉で、俺は全てを察してしまった。
つまりこれは・・・
「・・・すれ違い、か」
これは流石にいたたまれないな・・・
「全く・・・本当に誰も報われないな・・・」
深い溜め息を零す俺なのだった。
どうも〜、ムッティです。
さてさて、今回はオリキャラである鶴見翔子先生が登場しました。
モチーフキャラは『艦これ』の翔鶴さんです。
名前も翔鶴さんを基に考えました。
性格はちょっと違うかもしれませんけどね。
っていうか、書いていて気付いたのですが・・・
『麻衣』と『翔子』って、完全に『青ブタ』ですよね(笑)
全く意図してませんでしたけど(笑)
さてさて、何やら天は察したようですが・・・
果たして天はどのような行動をとるのか・・・
これからの展開をお楽しみに(・∀・)ノ
それではまた次回!以上、ムッティでした!