メッチャ良い曲。
「正直に答えて!何か事情があるんでしょ!?」
「だからそんなの無いって!何度も言ってるでしょ!?」
「・・・どうしてこうなった」
目の前で勃発している千歌さんと果南さんの喧嘩を眺めながら、溜め息をつく俺。話し合いをする前に、千歌さん達にも事情を説明したのが裏目に出てしまったようだ。
事情を聞いた千歌さんと曜さんは揃って、『果南ちゃんがたった一度の失敗で諦めるわけが無い』と納得のいかない様子を見せた。そして放課後、スクールアイドル部の部室へとやってきた果南さんを千歌さんが問い詰めたのだ。
その結果がこれである。
「曜さん、貴女の幼馴染は何で二人とも血の気が多いんですか」
「いや、私に言われても・・・」
「もうっ!何で果南ちゃんはそんなに頑固なのっ!」
「千歌に言われたくないよっ!もう私のことは放っておいてっ!」
部室を飛び出していく果南さん。あーあ・・・
「果南ちゃん!?待っt・・・」
「よっ」
「ぐえっ!?」
果南さんを追いかけようとした千歌さんの前に足を出す。
俺の足に引っかかった千歌さんは盛大に転び、勢いよく床に倒れ込んだ。
「ちょ、天くん!?何するの!?」
「アンタが何してくれてるんですか。冷静に話し合おうと思ったのに、これじゃ全部パーでしょうが」
「だってだって!果南ちゃんが意地っ張りなんだもん!」
「アンタも大概だわ」
俺が呆れていると、小原理事長が溜め息をついた。
「・・・本当に果南はもう、スクールアイドルをやらないつもりなのね」
「だから言ったでしょう」
厳しい表情のダイヤさん。
「いくら粘ったところで、果南さんが再びスクールアイドルを始めることは無いと」
そこまで言うと、ダイヤさんは俯いてしまった。
「・・・もう諦めましょう、鞠莉さん。失った時間は戻ってこないのですから」
「ダイヤ・・・」
今にも泣き出しそうな小原理事長。この表情・・・
『うぅ、天ぁ・・・』
『泣かないでよ鞠莉ちゃん・・・』
『だってぇ・・・』
『もう・・・じゃあどうしても助けてほしくなったら、俺を呼んでよ。俺が鞠莉ちゃんを助けに行くから』
『ぐすっ・・・ホント?』
『うん、約束するから。ねっ?』
『っ・・・天ぁっ!』
『うわっ!?もう、鞠莉ちゃんの方がお姉ちゃんでしょ?』
『絵里と亜里沙だって、天に抱きついてるじゃない!』
『あぁ、まぁあの二人はねぇ・・・』
『マリーも天とギューしたいのっ!ダメ?』
『・・・しょうがないなぁ』
『えへへ♪やったぁ♪』
「・・・何で思い出すのかなぁ」
「天くん?」
首を傾げるルビィ。俺は頭を軽く振ると、ダイヤさんに視線を向けた。
「・・・ダイヤさん、いつまで真実を隠し続けるつもりですか?」
「天さん・・・」
「果南さんは歌えなかったんじゃない・・・あえて歌わなかったんでしょう?」
「っ!?」
俺のその言葉に、ダイヤさんが驚愕の表情を浮かべる。
「な、何故それを!?」
「・・・正解ですか」
やっぱりな・・・
と、小原理事長が慌てて間に入ってくる。
「ちょ、ちょっと待って!?一体どういうこと!?歌えなかったんじゃなくて、あえて歌わなかった!?」
「えぇ、そうですよ」
溜め息をつく俺。
「そもそもおかしいと思ったんですよ。果南さんは、ハードルが高ければ高いほど燃えるタイプの人間です。そんな人が、周りのレベルの高さを知って萎縮してしまうはずがありません。ましてや一人ではなく、ダイヤさんと小原理事長が一緒だったんですよ?ステージ上で歌えなくなるわけないじゃないですか」
「じゃ、じゃあっ!何で歌わなかったのっ!?」
「言ったでしょう?『あえて』と」
千歌さんの問いに答えるべく、俺は小原理事長へと視線を移した。
「小原理事長・・・二年前の東京でのイベントの際、貴女は足を痛めていたそうですね」
「っ!?何で知ってるの!?」
「μ'sの矢澤にこちゃん、知ってますよね?彼女はスクールアイドルが大好きで、μ'sが解散した後もスクールアイドルを追いかけ続けてたんですよ。二年前の東京でのイベントも、しっかりチェックしてたようです」
にこちゃんとの電話を思い出す俺。
『にこちゃん、ちょっと聞きたいことがあるんだけどさ・・・今回Aqoursが参加したイベント、二年前にも行ってたりする?』
『あぁ、東京スクールアイドルワールドでしょ?毎年行ってるわよ』
『その時のことって覚えてる?例えば・・・Aqoursっていう名前のスクールアイドルがいた、とか』
『えーっと、ちょっと待って・・・あった、二年前のイベントのパンフレット。Aqoursは・・・あっ、この子達!』
『覚えてるの?』
『覚えてるわよ!ステージに立ったのに歌わなかったんだもの!三人とも凄く可愛かったのに・・・勿体無いわよねぇ』
『その時、何か気になったこととか無かった?』
『・・・そういえばステージから袖にはける時、金髪の子がちょっと足を引きずってたわね。あれは多分、足を痛めてたんじゃないかしら』
『足を・・・?』
『あと、センターの青髪の子だけど・・・ちょっと表情が気になったわね』
『表情?』
『上手く言えないんだけど、何かこう・・・覚悟を決めた、みたいな?』
『・・・緊張した様子だった、とかは?』
『見た感じ、全然そんなこと無さそうだったわ。終始険しい表情ではあったけど、緊張してるっていう感じでは無かったわね』
『・・・覚悟を決めた、か』
「二年前、貴女はイベントの前に足を痛めていた。貴女の性格を考えると、無理してステージに上がろうとしたんでしょう?だから果南さんは、貴女に無理をさせない為にあえて歌わなかったんですよ」
「果南が・・・私の為に・・・?」
信じられないといった表情の小原理事長。
「でも、だったら・・・何でスクールアイドルをやめようだなんて・・・」
「それも貴女の為ですよ」
説明する俺。
「スクールアイドルをやっていた頃から、貴女には留学の話があったんでしょう?でも貴女は、それを断り続けた。『自分はスクールアイドルだから』と言って」
「っ!?どうしてそれを!?」
「翔子先生から聞きました。それを知った果南さんは、スクールアイドル活動より貴女の将来のことを考えたんでしょうね。だからこそスクールアイドル活動を終わらせ、貴女を自由にしようとしたんだと思います」
「そんな・・・」
息を呑む小原理事長。俺は再びダイヤさんへと視線を移した。
「とまぁ、これが俺の推測なんですが・・・違いますか?ダイヤさん?」
「・・・天さんには敵いませんわね」
大きく溜め息をつくダイヤさん。
「仰る通りですわ。果南さんが歌わなかった理由も、スクールアイドルをやめた理由も・・・天さんの推測通りです」
「っ・・・!」
小原理事長が部室を飛び出そうとするが、その前にダイヤさんが立ち塞がった。
「どこへ行くつもりですの?」
「ぶん殴るッ!そんなこと、一言も相談せずに・・・!」
「お止めなさい。果南さんはずっと貴女のことを見てきたのですよ」
小原理事長を諭すダイヤさん。
「果南さんは、誰よりも貴女のことを大切に想っているのです」
「っ・・・」
小原理事長の目から、涙が溢れ出す。
「果南っ・・・」
泣き崩れる小原理事長。
皆が沈痛な面持ちで小原理事長を見つめる中・・・俺は小原理事長の前に立った。
「・・・立って下さい。小原理事長」
「天・・・?」
「果南さんをぶん殴るんでしょう?だったら泣いてる場合じゃありませんよ」
「ちょ、天さん!?」
慌てるダイヤさん。
「何を仰っているのですか!?」
「果南さんが小原理事長を大切に想っていることは、よく分かりました。ですが、果南さんのとった行動が正しかったかどうかは別問題です」
淡々と答える俺。
「部外者である俺には、正しかったかどうかを決める権利はありません。ですが当事者である小原理事長は、果南さんの行動に対して怒りを覚えています。つまり小原理事長にとって、果南さんの行動は正しくなかったということ・・・ステージをパーにされた上にスクールアイドルをやめさせられたわけですから、殴る権利くらいあると思いますけど」
「それはそうかもしれませんが・・・!」
「っていうか、もうまどろっこしいです。殴り合いの喧嘩で決着つけましょう」
「それが本音ですか!?」
「分かりやすくて良いじゃないですか。立っていた者こそ勝者なんですから」
「ボクシングじゃありませんわよ!?」
「天って、割と過激な思考してるわよね・・・」
「ちょっと恐ろしいずら・・・」
善子と花丸がヒソヒソ話している。失敬な、これでも平和主義者なのに。
「まぁ冗談はさておき・・・本音をぶつけ合わないと解決出来そうにないですから、いい加減腹割って話し合いましょうよ」
俺はしゃがみ、小原理事長と目線を合わせた。
「貴女も果南さんも、自分の主張をぶつけ合っているようには見えますけど・・・全ての本音を曝け出してないじゃないですか」
「全ての本音・・・」
「果南さんは小原理事長が大切だということや、スクールアイドルをやめた本当の理由を語ろうとしないし・・・貴女だって、留学を断った本当の理由を隠したままでしょう?」
「っ!?」
息を呑む小原理事長。
「ど、どうして・・・!?」
「さぁ、どうしてでしょうね」
俺は小原理事長の頭にポンッと手を置いた。
「いい加減、お互い素直になりましょうよ。そうじゃなきゃ、貴女達はずっとすれ違ったままになってしまう・・・それで良いんですか?」
「・・・そんなの嫌」
俯く小原理事長。
「私は・・・果南と仲直りがしたい・・・!」
「鞠莉さん・・・」
涙を浮かべているダイヤさん。俺は小原理事長の頭を撫でた。
「全く・・・最初からそう言えば良かったのに」
「天・・・」
「・・・まぁ、約束ですから。ちゃんと果たしますよ」
立ち上がる俺。
「果南さんを連れてきます。待ってて下さい」
それだけ言い残し、俺は部室を出た。
さて、果南さんを探すとしますか・・・
「・・・本当にお人好しですね」
聞き慣れた声がする。
「貴方は昔から、本当に変わりませんね・・・天」
「盗み聞きなんて趣味が悪いよ・・・海未ちゃん」
険しい表情の海未ちゃんが、部室の外に立っていた。恐らく、先程までの会話は全て聞かれていたんだろう。
と、海未ちゃんが溜め息をついた。
「・・・松浦さんでしたら、屋上の方に走っていきましたよ」
「あれ?止めないの?」
「・・・私が止めないことなんて、分かっていたでしょう」
呆れている海未ちゃん。
「あんな話を聞いた後で天を止めるほど、私も薄情ではないつもりですよ」
「・・・五年前の穂乃果ちゃんとことりちゃんを重ねた?」
「・・・本当に人が悪いですね」
「ゴメンゴメン。俺もそうだったから」
苦笑しながら謝る俺。
「あの時は穂乃果ちゃんが素直な気持ちをぶつけたから、ことりちゃんも音ノ木坂に残ってμ'sを続ける道を選んでくれたけど・・・もし穂乃果ちゃんが自分の気持ちを押し殺したままだったら、果南さんと小原理事長みたいになってたかもしれないね」
「ですね。間に挟まれたダイヤの気持ちが、私にはよく分かります」
「当時の海未ちゃんは、ダイヤさんと似たような立ち位置だったもんねぇ・・・」
当時のことをしみじみと振り返る俺達。
「それで?天は三年生三人を、Aqoursに入れようとしているのですか?」
「まぁね。あの三人が入ってくれたら、きっとAqoursは今よりもっと良いグループになれる・・・俺の勘がそう言ってる」
「希ですか貴方は」
「それに・・・」
海未ちゃんのツッコミをスルーし、俺は部室の方へと視線を向けた。
「あの三人が入ってくれたら・・・もう俺は必要無いでしょ」
「っ・・・天、貴方まさか・・・」
「はいそれ以上言わない」
「むぐっ!?」
俺は海未ちゃんの口を塞いだ。
「・・・果南さんのところに行ってくる。居場所を教えてくれてありがとね」
俺はそう言うと海未ちゃんから離れ、屋上へと向かうのだった。
どうも〜、ムッティです。
最近虹ヶ咲にハマってます。ヤバいです。
『TOKIMEKI Runners』のMVが見たくて、CD買っちゃいましたもん。
センターの歩夢ちゃんは勿論のこと、しずくちゃんメチャクチャ可愛くないですか?
あと、果林ちゃんがエロい。
MV見たら、せつ菜ちゃんと彼方ちゃんも気になっちゃうし・・・
恐るべし虹ヶ咲・・・
さてさて、やっと鞠莉ちゃんが真相を知りましたね。
そして天は鞠莉ちゃんとの約束を思い出し、力になることを決意。
果たして天は、果南ちゃんとどのような話をするのか?
そして『もう俺は必要ないでしょ』という発言の真意は?
これからの展開をお楽しみに(・∀・)ノ
次の話は明日投稿します。
それではまた次回!以上、ムッティでした!