忌々しい夏よ、さらば。
《鞠莉視点》
「・・・ふぅ」
天井を見上げ、深く息を吐く私。私はスクールアイドル部の部室で、ダイヤと二人で果南が来るのを待っていた。
千歌っち達が気を遣ってくれて、ここを私達だけにしてくれたのだ。本当に良い後輩に恵まれたと思う。
「果南さんは・・・来るでしょうか?」
「来る」
ダイヤの問いに、ハッキリと答える私。
「私は天を信じるわ」
頭の中に、先ほどの天の優しげな顔が浮かんだ。
『・・・最初からそう言えば良かったのに』
本当にその通りだ。最初から天に事情を説明して協力をお願いしていたら、きっと天は力を貸してくれただろう。
何せ自分を脅した、こんな最低な女の為に動いてくれる優しい人なのだから。
「・・・謝らないとね」
果南と仲直りすることが出来たら、ちゃんと天に謝ろう。
『酷いことをしてごめんなさい』って。『また昔みたいに仲良くしてほしい』って。
都合の良いことを言っている自覚はあるけど、それでも・・・私は天と一緒にいたいから。
そんなことを考えていた時だった。
「っ・・・」
部室のドアが開き、果南が入ってきた。覚悟を決めた表情をしている。
「鞠莉・・・ダイヤもいたんだね」
「果南・・・」
「果南さん・・・」
空気が張り詰める。緊張してしまい、なかなか口を開くことが出来ない。
そんな中、一つ深呼吸をした果南は・・・私達に対して頭を下げた。
「・・・ゴメン」
「え・・・?」
「果南・・・さん・・・?」
呆気にとられてしまう私とダイヤ。
あの果南が、私達に対して頭を下げて謝っている。
「・・・私が悪かった」
ゆっくりと頭を上げた果南は、ポツリポツリと語り始めた。
「もう聞いたと思うけど・・・二年前、私は『歌えなかった』んじゃなくて『歌わなかった』の。鞠莉の足の怪我が悪化しないように、パフォーマンス中にアクシデントが起きないように・・・『歌わない』ことを選んだ」
「果南・・・」
「東京から帰ってきた後、鞠莉が翔子先生と留学の話をしてるのを聞いちゃったの。『自分はスクールアイドルだから』って断る鞠莉を見て・・・申し訳なくなっちゃって」
俯く果南。
「鞠莉は元々、スクールアイドルに興味無かったでしょ?それを私が強引に引き込んでさ・・・怪我させた上に留学まで断らせて、自分が本当に嫌になった。私は鞠莉から、未来の色々な可能性を奪ってるんだって」
「そんなこと・・・」
「だからダイヤに事情を話して、スクールアイドルをやめることにした。Aqoursを解散して、鞠莉を自由にしてあげないといけないって。あの時は、それが正しいんだって信じてた。でも・・・」
果南の目に涙が溜まっていく。
「私は・・・間違ってた。『鞠莉の為』だなんて言いながら、その鞠莉と何も話さずに勝手に動いて・・・結果として鞠莉を傷つけてた。鞠莉の為を思うなら、ちゃんと話をすべきだったのに・・・」
「っ・・・」
私も込み上げてくるものがあった。泣くまいと必死に堪える。
「・・・天から聞いた。鞠莉は私が本当に『歌えなかった』と思って、凄く心配してくれてたんでしょ?それで留学の話を断ろうとしてたんだよね?」
「・・・天の鋭さには敵わないわね」
分かっているんだろうとは思っていたけど・・・本当に脱帽だわ。
「私がちゃんと言葉にしてたら・・・」
「Stop」
なおも反省の言葉を続けようとする果南の口を、手で優しく塞いだ。
「それは私も同じよ。二年前、自分の素直な気持ちを言葉にして伝えていたら・・・こんなことにはなっていなかったでしょうね」
「鞠莉・・・」
「・・・謝るのは私の方よ、果南。貴女に辛い思いをさせて、気を遣わせてしまったのは私のせい。だから・・・ごめんなさい」
果南に対して頭を下げる。
果南は驚いたような表情を見せた後・・・小さく笑った。
「フフッ・・・あの鞠莉が頭を下げるなんてね」
「それは果南も同じでしょう?私だってビックリしたわよ」
「私達、お互いに頭を下げて謝ることなんてなかったもんね」
「フフッ、確かに」
私も笑みを浮かべる。と・・・
「じゃあ、仲直りの証として・・・」
両腕を広げる果南。
「ハグ、しよ・・・?」
笑っている果南。その目には・・・涙が滲んでいた。
「っ・・・!」
限界だった。
勢いよく果南の胸に飛び込んだ私は、堪えきれずに声を上げて泣いた。私を受け止めてくれた果南も、子供のように泣きじゃくっている。
二年の時を経て、ようやく・・・ようやく私達は、仲直りすることが出来たのだ。
「・・・全く」
抱き合いながら号泣する私達を、包み込むように抱き締めてくれるダイヤ。
「お二人とも、子供みたいですわよ」
「・・・そういうダイヤだって泣いてるじゃない」
「・・・これは汗ですわ」
苦しい言い訳だった。明らかに目が真っ赤になっている。
「・・・ダイヤ、ゴメン」
ダイヤにも謝る果南。
「私のせいで、ダイヤにも辛い思いを・・・」
「・・・ブッブー、ですわ」
果南の口を塞ぐダイヤ。
「私も果南さんに協力した身・・・いわば共犯ですわ。ですから、果南さんが謝ることなど無いのです」
「ダイヤ・・・」
「・・・ゴメンなさい、鞠莉さん。私も貴女に謝らなければいけませんわね」
「・・・もう良いのよ、ダイヤ」
首を横に振る私。
「私の方こそゴメンなさい・・・ダイヤの気持ちも知らないで、苦しめるようなことばかりして・・・」
「・・・良いのです」
ダイヤの身体が震えている。
「もう、良いのです・・・お二人が仲直りして下さっただけで・・・私は・・・私は、本当に嬉しいのですから・・・!」
「ダイヤっ・・・」
「っ・・・!」
とめどなく涙が溢れてくる。私も果南もダイヤも、再び声を上げて泣き始めた。
流した涙が、これまでのわだかまりを溶かしてくれるようだった。
「・・・鞠莉、涙で顔がグチャグチャだよ?」
「果南もでしょ。人のこと言えないじゃない」
「おやめなさい。二人とも同じくらい酷い顔ですわよ」
「いや、一番酷い顔してるのダイヤだから」
「確かに」
「ぴぎゃっ!?」
思いっきり泣いて、少しだけスッキリした後・・・お互いのグチャグチャになった顔を見て、私達は笑い合った。
こんなに泣いたのは、いつ以来かしら・・・
「・・・またスクールアイドルやりましょ。失敗したままじゃ終われないもの」
「・・・しょうがないなぁ。リベンジに付き合ってあげるよ」
「そもそも果南さんが歌わなかったから失敗した件について」
「ちょ、ダイヤ!?それを言っちゃう!?」
「仕方ないので私もやりますわ。今こそ果南さんの敵討ちを果たしましょう」
「勝手に殺さないでくれる!?私死んでないんだけど!?」
「フフッ、決まりね♪」
こうして私達は、新たな一歩を踏み出すのだった。
どうも〜、ムッティです。
季節が秋に移り変わりつつある中、早くも食欲が止まりません(笑)
『食欲の秋』とは言いますが、ちょっと早いような気が・・・
太らないように気を付けねば・・・
さて、遂に果南ちゃんと鞠莉ちゃんが仲直りしましたね。
ダイヤさんも含め、再びスクールアイドルをやることを決意しました。
しかし忘れてはならないのが、天の『マネージャーを辞める』発言・・・
果たしてどうなってしまうのか・・・
次の話は明日投稿します。
それではまた次回!以上、ムッティでした!