勘弁してほしいんだけどなぁ・・・
《鞠莉視点》
「ようこそ、Aqoursへ!」
満面の笑みで私達を迎えてくれる千歌っち。
あの後、私達はAqoursの皆に頭を下げて謝った。私達の喧嘩に巻き込んだ上に、私は皆のことを利用するような形をとってしまったのだ。
怒られることを覚悟していたが、皆は笑って許してくれた。それどころか、『一緒にスクールアイドルをやらないか』と誘ってくれたのだ。
Aqoursへの加入をお願いしようとしていた私達にとって、願ったり叶ったりの提案だった。
「千歌、さっきはゴメンね・・・」
「気にしないで。私の方こそゴメン」
果南の謝罪に対して、苦笑しながら答える千歌っち。
「これから一緒に頑張ろうね、果南ちゃん」
「っ・・・千歌ぁっ!」
「うわぁ!?ちょ、果南ちゃん苦しいよぉ!」
「あっ、ずるい!私もハグするー!」
千歌っちにハグする果南に曜も加わり、楽しそうに笑い合っている。
「ひっぐ・・・ぐすっ・・・!」
「もう、泣き過ぎですわよルビィ」
「だって・・・お姉ちゃんと一緒に、スクールアイドルがやれるなんて・・・!」
「・・・貴女にも色々心配をかけましたわね」
嬉し泣きするルビィを、ダイヤがそっと抱き締める。
「一緒に頑張りましょう」
「っ・・・うんっ!」
「全く、ルビィは泣き虫ね・・・ひっぐ・・・」
「善子ちゃんの方が泣いてるずら・・・ぐすっ・・・」
花丸と善子がもらい泣きしていた。と、梨子が私の方に歩み寄ってくる。
「鞠莉さんも一緒に頑張りましょう、と言いたいところですが・・・」
強い眼差しを私に向ける梨子。
「その前に、言いたいことがあります」
「・・・天のことね」
私の言葉に、梨子が頷く。
「私達を利用しようとしたのは構いません。こうしてスクールアイドルとして活動出来るようになりましたし、統廃合を阻止したい気持ちは同じですから。でも・・・天くんのことは話が別です」
「・・・その通りだわ」
果南やダイヤとの時間を取り戻したい・・・自らの私欲の為に、私は天を脅して傷つけたのだ。
決して許されることではない。
「天くんに謝って下さい。彼の許しが無いかぎり、貴女だけはAqoursに入れることは出来ません」
「梨子ちゃん・・・」
千歌っちも他の皆も、複雑な表情で私と梨子の方を見ていた。
梨子の意見は正しいし、皆も同じ意見のようだ。勿論、私も。
「分かってる。天にはちゃんと謝るつもりよ。簡単には許してくれないかもしれないけど・・・許してくれるまで何度も謝るわ」
それは最初から決めていたことだ。既に覚悟は出来ている。
私の答えに満足したのか、梨子は小さく笑った。
「それが聞ければ十分です。私達からも、鞠莉さんを許してくれるよう天くんにお願いしますから」
「私も一緒に謝るよ。私にも責任あるし」
「私もですわ。天さんには色々とご迷惑をおかけしましたし」
「梨子・・・果南・・・ダイヤ・・・」
周りを見ると、皆も優しく微笑んでいた。
ホント・・・恵まれてるわね、私は。
「・・・ありがとう、皆」
お礼の言葉を口にした時・・・部室のドアが開き、天が中に入ってきた。
「っ・・・天・・・」
「・・・どうやら、仲直りは出来たみたいですね」
笑みを浮かべる天。
「もうすれ違わないで下さいね」
「分かってる」
頷く果南。
「自分の気持ちは、ちゃんと言葉にして伝えるべきだって・・・天に教わったから」
「・・・それなら良かったです」
安心した様子の天。私は緊張しながらも、天の目の前に立った。
「天・・・ごめんなさい」
深々と頭を下げる。
「私は、貴方を傷つけてしまった・・・マネージャーをやりたくないと言った貴方を脅して、自分の為に無理矢理貴方にマネージャーをやらせてしまった・・・何も言い訳出来ないわ」
「小原理事長・・・」
「・・・私は、果南やダイヤと一緒にスクールアイドルがやりたい。千歌っち達と一緒に、Aqoursとして活動したい。それを許してほしいの」
自分の願いを口にする。天の顔を見るのが怖くて、顔を上げることが出来ない。
「都合の良いことを言ってるのは分かってる。それでも私は・・・皆と一緒にスクールアイドルをやりたい」
天は今、どんな気持ちで聞いているのか・・・怖くてたまらなかった。
「・・・お願いします。許して下さい」
「良いですよ」
「・・・え?」
思わず顔を上げてしまう。そこには、穏やかな表情を浮かべている天がいた。
「い、今・・・何て言ったの・・・?」
「良いですよ、って言いましたけど」
「な、何で・・・?」
「いや、何でって・・・貴女が謝ってきたんでしょうが」
呆れている天。
「・・・まぁ確かに、あの時はとてつもなくショックでしたよ。貴女に対して怒りが収まりませんでしたし、だからこそ冷たく接してきました」
苦笑する天。
「でも・・・何だかんだ言いつつ、貴女を嫌いになりきれませんでした。事情も分かって、貴女の行動の理由も知って・・・いつの間にか怒りも収まって、貴女に対して理解を示している自分がいたんです」
「天・・・」
本当にこの子は・・・どこまで優しいのかしら・・・
「小原理事長、果南さん、ダイヤさん・・・貴女達三人がAqoursに入ってくれたら、Aqoursは今よりもっと良いグループになれます。三人の願いも叶うし、千歌さん達もスクールアイドルとして成長出来ますから」
笑みを浮かべる天。
「だからこそ、俺は三人にAqoursに入ってほしいと思ってました」
「じゃ、じゃあ・・・本当に良いの・・・?」
「勿論です」
頷く天。
「とはいえ、それを決めるのは千歌さん達なわけですけど」
「私達はウェルカムだよ!」
満面の笑みで頷く千歌っち。他の皆も笑顔で頷いてくれる。
「良かったね!鞠莉!」
「晴れて再びスクールアイドルですわ!」
果南とダイヤも喜んでくれる。
これで・・・これでようやく・・・
「・・・良かった」
そう呟いた天は・・・何故か寂しそうな顔をしていた。
「これで俺も・・・安心してマネージャーを辞められます」
時が止まった。
天の呟きを聞き、皆が一斉に固まってしまう。私は固まってしまった口を動かし、何とか喉から声を絞り出した。
「い、今・・・な、何て・・・?」
「Aqoursのマネージャーを辞める、と言ったんです」
ハッキリ告げる天。
「どうして、なんて聞かないで下さいね。俺は最初に言ったはずですよ。『マネージャーはやらない』と」
「っ・・・」
「小原理事長に『マネージャーにならないと言うのなら、スクールアイドル部は承認しない』と脅されたので、やむをえず引き受けただけです。千歌さん達の目標を、俺のせいで潰したくなかったですから」
淡々と答える天。
「まぁさっきも言った通り、脅されたことに関してはもう良いです。許しますし、貴女方がAqoursに加わってくれることを嬉しく思います。ですが・・・それとマネージャーの件は別の話です」
天はそう言うと、私の目を真っ直ぐに見た。
「マネージャーとして、最低限の責務は果たしたつもりです。果南さんやダイヤさんと一緒にスクールアイドルをやるという、貴女の目的も果たされた今・・・もう俺に利用価値は無いでしょう?そろそろ自由にしていただきたいのですが?」
そう告げる天の目は、恐ろしく冷たかった。私が天を脅したあの時と、全く同じ目をしている。
私は悟ってしまった。確かに天は、私の愚かな行動を許してくれたのかもしれない。
でも・・・あの時閉じてしまった心を、完全に開いてくれたわけでは無いのだと。
「・・・どうして?」
梨子が呟く。
「どうしてそんなこと言うの?確かに最初は、鞠莉さんに脅されて仕方なく引き受けたのかもしれないけど・・・天くん言ってくれたわよね?『私達と一緒にいるのは楽しい』って。『もう嫌々マネージャーをやってるわけじゃない』って。なのにどうして・・・どうしてそんなこと言うの!?あの時の言葉は嘘だったの!?」
「落ち着いて梨子ちゃん!」
「答えてよ天くんッ!」
天に詰め寄ろうとする梨子を、曜が必死に止める。
「・・・嘘じゃありません。皆と一緒にいるのは楽しいですし、嫌々マネージャーをやっていたつもりもありません」
「だったらッ・・・!」
「だからこそ、ですよ」
力なく笑う天。
「だからこそ俺は・・・Aqoursの一員にはなれないんです」
「え・・・?」
意味が分かっていない様子の梨子。他の皆も同じ様子だった。
「・・・スクールアイドルのマネージャーは、アイドルのことを一番近くで支えなくてはいけない存在です。グループのマネージャーであれば、そのグループの一員として皆を支えていく責任があります」
「・・・それが何だって言うの?」
「俺はAqoursにとって、そういう存在にはなれないと言ってるんですよ」
「そんなことないずらっ!」
花丸が慌てて話に割って入る。
「天くんはいつだってマル達の背中を押してくれたし、寄り添ってくれたずら!」
「そ、そうだよ!天くんがいなかったら、今頃ルビィはここにいなかったよ!?」
ルビィも花丸に同意するが・・・天は首を横に振った。
「違うんだよ、二人とも。そう言ってくれるのは凄く嬉しいんだけど、問題なのは俺の気持ちの方なんだよ」
「気持ち・・・?」
首を傾げるダイヤ。天は一つ息を吐くと、私達にハッキリと告げた。
「俺は・・・Aqoursにとって、そういう存在になるつもりは無いんです」
「ッ!?」
全員絶句してしまう。
あの天が、Aqoursを拒絶している・・・?
「ふざけんじゃないわよッ!」
天の胸ぐらを掴む善子。
「そういう存在になるつもりは無い!?だったら何で私に優しくしたのよ!?何で私をAqoursに引き込んだのよ!?最初から放っておけば良かったじゃない!」
「ちょ、止めなよ!」
「離しなさいよッ!」
激高する善子を抑える果南。その様子を、天は悲しげな表情で見つめていた。
「・・・ゴメン」
「何を・・・謝ってんのよっ・・・!」
善子の目から涙が零れる。辛そうに顔を背ける天。
「・・・俺はこれ以上、Aqoursのマネージャーを続けられない。もうマネージャーはやらないって、あの時決めたから」
天は顔を上げると、再び私に視線を移した。
「・・・そういうわけなので、マネージャーは辞めさせていただきます。もう俺にしか出来ないことはありませんし、スクールアイドル経験のある三人が入るんです。十分にやっていけるでしょう」
「天・・・」
引き止めたかった。『続けてほしい』と言いたかった。
でも・・・そもそもの原因を作ってしまった私に、天を引き止める権利なんて無い。
「・・・今までありがとうございました。短い間でしたけど、楽しかったです」
そう言って部室から出て行こうとする天の前に、梨子が立ち塞がった。
次の瞬間、部室内に乾いた音が響く。
「ちょっと!?」
「何してますの!?」
慌てる果南とダイヤ。梨子が天に思いっきりビンタしたのだ。
「っ・・・」
涙を浮かべながら、何も言わず天を睨みつける梨子。
天は叩かれた頬を押さえると、梨子の方を見て力なく笑った。
「・・・ピアニストなんですから、手は大切にしないと。怪我したらどうするんですか」
「っ・・・天くんの・・・バカっ・・・」
両手で顔を覆い、肩を震わせる梨子。天は何も言わず、黙って梨子の横を通り過ぎた。
その時・・・
「天くん」
ずっと黙っていた千歌っちが、初めて口を開いた。
「私達じゃ、ダメだった?」
天に問いかける千歌っち。
「私達じゃ、天くんにとっての特別にはなれなかった?」
天は何も答えない。背中を向けている為、表情を窺うことも出来なかった。
「私達じゃ・・・ダメだったのかなぁっ・・・!」
「っ・・・」
千歌っちは、ただ静かに涙を流していた。寂しそうに笑みを浮かべながら、目からはとめどなく涙が溢れている。
「・・・俺は、Aqoursの十人目にはなれません」
天の答えは変わらなかった。
「俺にとっての特別は・・・あの人達だけです」
天はそれだけ言い残すと、静かに部室を出て行ったのだった。
どうも〜、ムッティです。
さて、三年生組が仲直りしたのも束の間・・・
再び波乱の展開となりましたね。
果たしてこれからどうなってしまうのか・・・
さてさて、ここでヒロインに関してお話しておこうと思います。
皆様も知っての通り、この作品のヒロインは現在未定です。
話を書いているうちに決まるでしょ、なんて思っていたのですが・・・
皆が可愛すぎて全然決まりません(´・ω・`)
恐らくアニメ一期の内容をやっている間は、決まらないかと思われます。
一期でAqoursのメンバー達との仲を深め、二期で決めていけたらなと・・・
あっ、『問題の先送りじゃん』とか思いました!?
その通りですっ!どーん
いやホント、気長にお待ちいただけると幸いです(土下座)
『もうこのままハーレムエンドな気がする』という感想もいただくのですが、Aqoursのメンバーの中から一人を選ぶという方針は変わっていませんので。
そこは変えずにいきたい・・・多分(ボソッ)
そんなわけで皆様、どうかこれからも『絢瀬天と九人の物語』をよろしくお願い致します。
それではまた次回!以上、ムッティでした!