大間のマグロが美味しかった。
「ようこそ沼津へ」
「・・・思ったより遠かったわ」
少し疲れた様子の真姫ちゃん。
花火大会当日、俺は沼津駅まで真姫ちゃんを迎えに来ていた。
「ここから天の家まで、まだ距離があるんでしょ?もう足がクタクタで、歩ける気がしないんだけど・・・」
「うわぁ、昔はあんなに歌って踊ってたのに・・・歳を取るって怖いね」
「人をおばさんみたいに言わないでくれる!?まだ二十一なんだけど!?」
「冗談だよ。お疲れ」
苦笑する俺。
「ちゃんと車を手配しといたから、心配しないで」
「車・・・?」
首を傾げる真姫ちゃんに、俺は後ろに停まっている車を指差した。
運転席の窓から美渡さんが顔を出し、こちらに向かって笑いながら手を振っている。
「・・・誰?」
「Aqoursのリーダー、高海千歌さんのお姉さん。車を出してくれるっていうから、お言葉に甘えてお願いしちゃった」
「相変わらず年上の女に好かれるわね、アンタ・・・」
呆れている真姫ちゃん。
「海未はどうしたの?」
「家で浴衣の準備してるよ。真姫ちゃんも早く行こう?」
俺はそう言うと真姫ちゃんの荷物を持ち、美渡さんの車へと向かった。
俺達が近付いてくるのを見て、美渡さんが車から降りてくる。
「おぉ、この人が天の彼女さん?」
「かのっ・・・!?」
顔を赤くする真姫ちゃん。やれやれ・・・
「はいはい、からかわないの。真姫ちゃんは美渡さんと違って純粋なんですから」
「人が純粋じゃないみたいな言い方しないでくれる!?」
「真姫ちゃんの純粋さを舐めないで下さい。真姫ちゃんは高校生の時まで、サンタクロースの存在を信じていた稀有な子なんですから」
「ちょっと!?その話は止めなさいよ!?」
「・・・自分がいかに汚れた人間なのか、思い知ったわ」
「何で涙ぐみながら頭を撫でるんですかっ!」
ツッコミを連発する真姫ちゃん。
ちなみに真姫ちゃんがサンタクロースの真実を知ったのは、高校三年生の時だ。真姫ちゃんのご両親が『流石にこのままではマズい』と思ったらしく、真実を打ち明けたんだとか。
あの時の真姫ちゃん、見ていられないほど落ち込んでたっけなぁ・・・
「それにしても、本当に美人だねぇ・・・海未ちゃんもそうだけど、何で天の近くには美女か美少女しかいないの?」
「日頃の行いが良いからでしょうね」
「どの口がそんなこと言うわけ!?」
「こんな品行方正な人間、そうそういないでしょ」
「品行方正の意味を辞書で調べてから言ってくれる!?」
「・・・フフッ」
俺と美渡さんのやり取りを見て、真姫ちゃんが笑いを零す。
「真姫ちゃん?どうかした?」
「いや、何て言うか・・・どこへ行っても、天は天なんだなって」
微笑む真姫ちゃん。
「こっちでも上手くやれてるみたいで、ちょっと安心したわ」
「天はもう、すっかり溶け込んでるからねぇ」
笑っている美渡さん。
「四月に来たばかりとは思えないくらい、内浦に馴染んでるもん。何て言うか、昔からの知り合いみたいな感覚だよ」
「失礼な。そんなに歳は取ってないですよ」
「私だってそうだわっ!」
「ダウト」
「しばき倒すわよ!?」
「フフッ・・・本当に変わらないわね」
俺と美渡さんのじゃれあいを、微笑みながら見つめる真姫ちゃんなのだった。
*****
「遅いですよ真姫!早く早く!」
「ちょ、海未!?引っ張らないでよ!?」
奥の部屋から出てきた海未ちゃんが、到着したばかりの真姫ちゃんを引きずって奥の部屋へと入っていく。
どんだけ花火大会が楽しみなんだ・・・
「私達はこれから浴衣に着替えますので、絶対に中を覗かないで下さいね!」
「そして俺に覗かれた海未ちゃんと真姫ちゃんは、鶴になって飛んでいくんだね」
「『鶴の恩返し』じゃないですよ!?とにかくリビングで待ってて下さい!」
「ちょ、少し休みたいんだけど・・・」
真姫ちゃんの訴えも虚しく、ドアを閉める海未ちゃん。
真姫ちゃん、ドンマイ・・・
「美渡さん、上がって下さい」
「いや、放っておいて大丈夫なの・・・?」
「大丈夫ですよ。真姫ちゃんのライフがゼロになるだけなんで」
「全然大丈夫じゃなくない!?」
ツッコミを入れつつ、家に上がる美渡さん。
海未ちゃんと真姫ちゃんが着替えた後、また沼津まで車で送ってもらうことになっているのだ。
「適当に座って下さい。今麦茶出すんで」
「おっ、サンキュー!」
ソファに腰掛ける美渡さん。俺はコップに麦茶を注いだ。
「っていうか、天はこんなにゆっくりしてて大丈夫なの?千歌はもう、とっくに会場に向かったけど?」
「・・・後のことは運営側がやってくれるので、本番で俺に出来ることは無いんです。行っても何もすることが無いので」
「ふぅん・・・そっか」
麦茶の入ったコップを美渡さんに渡す俺。
美渡さんはそれを受け取ると、一気に飲み干した。
「ふぅ・・・ねぇ、天」
「何ですか?」
「千歌達と何かあったでしょ」
「っ・・・」
どうやら気付かれていたらしい。美渡さんが苦笑している。
「この間、千歌のヤツ凄く落ち込んでたんだよ。それでちょっと心配してたんだけど、急に花火大会に向けて頑張り始めてさ。他のAqoursのメンバーもウチに来たりしてたんだけど、天だけは一回も来なかったじゃん?だから何かあったんだろうなって」
「・・・まぁ、気付かないわけないですよね」
今まで度々来ていたのに、急に来なくなったら普通は勘付くか・・・
「実は色々ありまして・・・」
「ストップ」
説明しようとした俺を、美渡さんが遮った。
「何があったかを聞くつもりは無いよ。天と千歌達の問題に、私が出しゃばるべきじゃないと思うから」
「美渡さん・・・」
「まぁ本来であれば、『ウチの妹を凹ませたのはテメェかあああああっ!』って殴り掛かってるところだけどね」
「思いっきり出しゃばってるじゃないですか」
思わずツッコミを入れてしまう。言ってることが違うんだけど・・・
「とはいえ、私だって天のことを少しは知ってるつもりだよ。千歌達を大切に想ってくれてることは、これまでの行動を見てれば分かるしさ」
笑っている美渡さん。
「だからまぁ、一つだけ言わせてほしいんだけど・・・後悔しないようにね」
「っ・・・」
「はいっ!この話はおしまいっ!」
パンッと手を叩き、コップを俺に差し出す美渡さん。
「麦茶もう一杯!」
「・・・はいはい」
苦笑しながらコップを受け取る俺。
普段は子供みたいなノリのくせに、こういう時だけ大人なのはズルいよな・・・
そんなことを思いつつ、麦茶を注いでいる時だった。
「すみません、お待たせしました」
「あぁ、疲れた・・・」
海未ちゃんと真姫ちゃんの声がする。どうやら浴衣に着替え終えたようだ。
「思ったより早かっ・・・たね・・・」
振り向いた俺は、二人の姿を見て固まってしまった。
何故なら・・・
「おぉっ・・・!」
感嘆の声を上げる美渡さん。
青と赤の浴衣に身を包んだ海未ちゃんと真姫ちゃんは・・・目を奪われるほど美しかった。
本当に浴衣がよく似合っている。二人の顔は見慣れているはずなのに、何だかドキドキしてしまっていた。
「天?」
「どうしたの?」
固まっている俺を不思議に思ったのか、海未ちゃんと真姫ちゃんが首を傾げている。
俺は固まった口を必死に動かした。
「いや、その・・・ゴメン、見惚れてた」
「「っ!?」」
ボンッと二人の顔が赤くなる。
その様子を見て、美渡さんがニヤニヤしていた。
「いやぁ、若いねぇ」
「若くない人は黙ってて下さい」
「ちょ、私だってまだ若いんだけど!?」
美渡さんの抗議はスルーして、俺は二人に向き直った。
「えーっと、その・・・二人ともメッチャ綺麗。よく似合ってるよ」
「あ、ありがとうございます・・・」
「な、何か照れるんだけど・・・」
恥ずかしそうに俯く二人。
そういう反応されると、こっちも余計に照れるんだけど・・・
「っていうか、ずいぶん早かったね?」
「慣れてますから。真姫の着付けも私がやりましたし」
「あまりの早技に、全然ついていけなかったわ・・・完全に化け物ね」
「化け物って何ですか!」
「そうだよ真姫ちゃん。せめて怪物って言ってあげないと」
「一緒ですよねぇ!?真姫も天も私を何だと思ってるんですか!?」
「・・・アンタ達、ホント仲良しね」
真姫ちゃんと俺のイジりに、涙目で抗議する海未ちゃん。
それを見て、呆れた様子で苦笑する美渡さんなのだった。
どうも〜、ムッティです。
浴衣って良いですよね(唐突)
特に海未ちゃんの浴衣姿・・・マジで似合いすぎててヤバいです。
何かこの作品では『天のことが好きすぎる残念な子』みたいな扱いになってますけど、作者は海未ちゃん大好きです(・ω・)ノ
浴衣姿の海未ちゃんと一緒に、夏祭りに行きたいだけの人生だった・・・
さてさて、次回はいよいよライブ・・・
果たしてどうなるのか・・・
これからの展開をお楽しみに(・∀・)ノ
次の話は明日投稿します。
それではまた次回!以上、ムッティでした!