UR果南ちゃんが出ないよおおおおおっ!
「ぐすっ・・・うぅ・・・」
「いつまで泣いてんのよ・・・」
「ひっぐ・・・だってぇ・・・」
泣きじゃくる海未ちゃんの背中を、呆れながらも擦ってあげている真姫ちゃん。
ライブも花火も終わり、周りのお客さん達は立ち上がって帰宅の途につこうとしていた。
「・・・良いステージだったわね、翔子ちゃん」
「えぇ・・・ぐすっ」
涙ぐむ翔子先生の頭を、優しく撫でている麻衣先生。
二年前のAqoursを知っている二人としては、今日のライブは感慨深いものがあったんだろう。
「今は帰る人が多いし、動かない方が良さそうね」
辺りを見回す真姫ちゃん。
「周りがもう少し落ち着いてから帰りましょう、天・・・天?」
俺の様子に気付き、首を傾げる真姫ちゃん。俺はステージの方をじっと見つめていた。
今は誰も立っていないし、暗闇に包まれているが・・・先ほどまでのライブを思い出していたのだ。
本当に良いライブだった。初めてとは思えないほど、九人の息がピッタリ合っていて・・・
何より、皆の想いが伝わってくるライブだった。
「・・・全く」
小さく呟く俺。
「ホント・・・勘弁してほしいよ」
「天、貴方・・・」
驚いている真姫ちゃん。俺の目からは、涙が溢れていた。
「こんなライブ見せられたら・・・決心が鈍っちゃうじゃん」
俯く俺。涙が滴り落ちる。
「こんなことなら、曲なんて作らなきゃ良かった・・・」
「・・・天」
海未ちゃんにそっと抱き寄せられる。
「もしAqoursの一員になることが、μ'sに対する裏切りだと考えているのなら・・・それは違いますよ」
優しく頭を撫でられる。
「たとえ貴方が、Aqoursの一員になろうとも・・・貴方がμ'sの一員であることに、何も変わりないのですから」
「海未ちゃん・・・」
「全く・・・海未から事情は聞いていたけど、そんなに悩んでたのね」
俺達を包み込むように、優しく抱き締める真姫ちゃん。
「天は間違いなく、μ'sの・・・私達の大事な仲間よ。どんなことがあっても、それは絶対に変わらない。私達の絆は永遠だもの」
「真姫ちゃん・・・」
「もし天の中に、『Aqoursの皆と一緒に頑張りたい』っていう気持ちがあるなら・・・素直にその気持ちに従いなさい。じゃないと、後で絶対に後悔するわよ」
「おぉ、素直じゃない人が言うと説得力がありますね」
「何ですって!?ラブアローシューターに言われたくないんだけど!?」
「ちょ、人の黒歴史を持ち出すの止めてくれます!?このツンデレメイド!」
「アンタもそれを持ち出すの止めなさいよ!?」
「・・・ハハッ」
思わず笑ってしまう。
本当に・・・変わらないな、二人とも。
「海未ちゃん、真姫ちゃん・・・ありがと。大好き」
「っ!?」
「ま、またそういうことを照れもせずにっ・・・!」
顔を真っ赤にする二人。
こういうところも変わらないなぁ・・・
「ちょっと行ってくるよ・・・皆のところに」
「えぇ、行ってらっしゃい」
「ちゃんと話してきなさい」
笑顔で送り出してくれる二人。
「天くん、皆によろしくね」
「良いライブだったって伝えといてね」
「了解です」
翔子先生と麻衣先生の言葉に頷く。
「じゃ、行ってきます!」
俺はそう言うと、Aqoursの皆のところへと向かうのだった。
*****
《梨子視点》
「・・・終わったね、ライブ」
「・・・うん」
千歌ちゃんの言葉に頷く私。
ライブ終了後、私達はステージ裏の待機スペースにいた。衣装も着たまま、皆それぞれ椅子に座ってぐったりしている。
「き、緊張したぁ・・・」
「いっぱい人がいたずらぁ・・・」
「しばらく立ち上がれないかも・・・」
緊張状態が解け、椅子にもたれかかるルビィちゃん・花丸ちゃん・善子ちゃん。
「ライブなんて久しぶりだったねぇ・・・」
「何だか懐かしかったですわね・・・」
感慨深そうな果南さんとダイヤさん。一方、鞠莉さんは俯いていた。
「鞠莉さん、大丈夫ですか?」
「平気よ。ありがとう」
気遣って声をかける曜ちゃんに、笑みを浮かべる鞠莉さん。
「ライブは本当に楽しかったんだけど・・・私達の想い、天に届いたのかなって」
「っ・・・」
そう、そこが一番の問題だ。
私達なりに精一杯、想いを込めたつもりだけど・・・天くん、ちゃんと見てくれたかな・・・
「・・・会いに行きましょう」
「え・・・?」
立ち上がる私を、千歌ちゃんが驚いたように見つめる。
「ライブにも想いは込めたけど・・・本人に会って、ちゃんと言葉にして伝えたいの。天くんが学校に来るのを待つより、私達の方から行った方が良いと思う」
「梨子ちゃん・・・」
あの日以来、天くんは学校を休んでいる。私達もライブの準備に追われていて、天くんに会うことが出来なかった。
そのライブが終わった今・・・ちゃんと天くんに会いに行くべきだと思う。
「・・・そうだね。よし、会いに行こう!」
勢いよく立ち上がる千歌ちゃん。
「天くんのところへ!全速前進、ヨーソロー!」
「クックックッ・・・このヨハネが特別に、我がリトルデーモンの下へ召喚されてやろうではないか」
「しばらく立ち上がれないって言ってたくせに、もう立ち上がってるずら」
「やっぱり善子ちゃん、天くん大好きっ子だよね」
「う、うるさいっ!」
「待つのは性に合わないからね。こっちから行ってやろうじゃん」
「ほら鞠莉さん、行きますわよ」
「・・・えぇ、行きましょう!」
「行くぜ、東北」
次々と皆が立ち上がって・・・ん?
「ちょっと待って。何か最後の人おかしくなかった?」
「最後の人?」
「そういえば、『行くぜ、東北』って・・・」
「ちょっと、誰よそんなセリフ言ったの?」
「今はボケるタイミングじゃなかったずら」
「そうだよ。割と真面目な雰囲気だったのに」
「まぁまぁ。今はそれを気にしてる場合じゃないでしょ?」
「そうですわ。唐突なボケに惑わされてはいけません」
「早く天のところへ行きましょう」
「そうだ。京都、行こう」
「ちょ、また!?いい加減に・・・」
思わず声のした方を振り向いた私は、固まってしまった。他の皆もその方向を見て驚いている。
そこには・・・
「んー、美味い」
椅子に座ってチョコバナナを食べている天くんがいた。
「な・・・」
「な・・・?」
「何でいるのよおおおおおおおおおおっ!?」
「うおっ!?ビックリしたぁ・・・」
「ビックリしたいのこっちだから!何やってるの!?」
「チョコバナナ食べてます」
「そういうことじゃなくて!そもそもいつからいたの!?」
「『・・・終わったね、ライブ』からです」
「最初からじゃない!?何で声かけてくれなかったの!?」
「チョコバナナ食べてたんで」
「私達よりチョコバナナを優先したの!?」
「当然でしょうが!暑さでチョコが溶けて垂れたらどうしてくれるんですか!」
「何で私が怒られてるの!?」
マズい!?完全に天くんワールドに引きずりこまれてる!?
「あ、そうだ。ライブお疲れ様でした」
「何その『ついでに言っておこう』みたいな感じ!?」
「差し入れでたこ焼き買ってきたんで、良かったら食べて下さい」
「えっ!?ホント!?」
「お腹空いたずら!」
「千歌ちゃんと花丸ちゃんは食いつかないのっ!」
「とまぁ、おふざけはこの辺にして・・・」
チョコバナナを食べ終えた天くんは椅子から立ち上がり、私達を見回した。
「九人での初ステージ・・・良かったですよ」
「っ・・・」
どうやら、ちゃんと見ていてくれたらしい。
「やっぱり三年生の三人が加わって、グループとして安定しましたね。Aqoursはこの形でいくのが、一番良いんじゃないでしょうか」
笑みを浮かべる天くん。
「細かいところはともかく、全体的に良かったと思います。大成功と言って良いです」
「・・・ありがとう」
微笑む千歌ちゃん。
「天くんがプレゼントしてくれた曲のおかげだよ。本当に感謝してる」
「真姫ちゃんが作曲してくれたおかげですよ。俺の想像以上に良い曲を作ってくれたので、歌詞が生きました」
「勿論、曲自体も凄く良かったけど・・・あの歌詞が、凄く心に刺さったんだ。特に三年生の皆には、ね」
「本当にね」
笑っている果南さん。
「あの歌詞の題材、どう考えても私達だよね?」
「えぇ、その通りです」
頷く天くん。
「三人のすれ違いを題材にするのも、どうかと思ったんですが・・・もう一度Aqoursとしてやっていく以上、向き合う必要があるかと思いまして」
「えぇ、感謝していますわ」
ダイヤさんが穏やかな笑みを浮かべる。
「あのような素晴らしい曲になったんですもの。私達のすれ違いが、無駄なものにならずに済みましたわ」
「そう言っていただけるとありがたいです」
笑う天くん。
「ありがたいと言えば・・・嬉しかったですよ、ライブが始まる前の言葉」
「・・・ちゃんと聞いてくれた?」
「勿論。っていうか善子、俺ボケまくってるつもり無いんだけど」
「どの口がそんなこと言うの!?」
「あと果南さん、『ちょっとエッチ』ってどういうことですか。まるで人が常日頃からセクハラしてるみたいじゃないですか」
「いや、普通にセクハラ発言してるよねぇ!?」
「記憶にございません」
「政治家!?」
「全く、これだからおっぱいが大きい人は・・・」
「それだよ!?それがセクハラ発言なんだよ!?」
「ちょっと何言ってるか分かんないです」
「何でよ!?」
「っていうか、現在進行形でボケまくってるでしょうが!」
果南さんと善子ちゃんのツッコミ。大変そうだなぁ・・・
「・・・まぁとにかく、嬉しかったです。ありがとうございました」
一礼する天くん。私は一歩前に進み出た。
「この間は・・・叩いちゃってゴメンなさい」
謝る私。
「私達はこれからも、天くんにマネージャーをやってほしいと思ってる。天くんにとって、μ'sが特別な存在であるように・・・私達にとって、天くんは特別な存在だから」
私は天くんに頭を下げた。
「お願いします。これからも、私達のマネージャーをやって下さい」
「梨子さん・・・」
複雑そうな表情の天くん。
と、花丸ちゃんとルビィちゃんが側にやって来る。
「天くんがいてくれないと、ルビィ寂しいよ・・・」
「マルもずら。天くんに側にいてほしいずら」
「ルビィ・・・花丸・・・」
「・・・私だって同じよ」
俯く善子ちゃん。
「天がいないなんて・・・そんなの嫌。これからも支えてよ・・・」
「善子・・・」
「・・・皆同じ気持ちなんだよ」
切ない表情で訴えかける果南さん。
「皆、天のおかげで今ここにいるんだもん。本当に感謝してる・・・だからこそ、天がいないなんて考えられないの」
「その通りですわ」
泣きそうな表情のダイヤさん。
「天さんのおかげで、もう一度果南さんや鞠莉さんとスクールアイドルをやれることになったのです。素晴らしい後輩達と一緒に、スクールアイドルをやれることになったのです。そこに天さんがいないなんて・・・私は絶対に嫌ですわ」
「果南さん・・・ダイヤさん・・・」
「お願いだよ、天くんっ・・・」
目に涙を浮かべている曜ちゃん。
「これからも・・・一緒に頑張ろうよっ・・・」
「曜さん・・・」
「ゴメンなさい、天・・・」
涙を流している鞠莉さん。
「貴方の過去を知りながら、私は貴方を利用しようとした・・・本当にゴメンなさい」
「小原理事長・・・」
「その私が、こんなワガママを言えた義理じゃないのは分かってる。それでも・・・」
深々と頭を下げる鞠莉さん。
「私はっ・・・天と一緒にいたいっ・・・!」
「・・・これが、私達の心からの気持ち」
真剣な表情の千歌ちゃん。
「『μ'sの一員として終わりたい』っていう天くんの気持ちを、無視するような形になっちゃって本当に申し訳ないんだけど・・・それでも、これが私達の本心なんだ」
「千歌さん・・・」
「皆、天くんのことが大好きなの。かけがえのない人だと思ってるの。だからっ・・・」
千歌ちゃんの目から、涙が溢れ出す。
「これからもっ・・・一緒にいてよっ・・・!」
「っ・・・」
天くんの頬を、一筋の涙が伝った。
千歌ちゃんも曜ちゃんも、花丸ちゃんもルビィちゃんも、善子ちゃんも果南さんも、ダイヤさんも鞠莉さんも、そして私も・・・涙が止まらなかった。
やがて少し落ち着いた頃・・・天くんがポツリと呟いた。
「・・・良いんですか?」
「え・・・?」
「・・・本当に、俺で良いんですか?」
震える声で問う天くん。
「当たり前じゃん。天くんじゃなきゃダメなんだよ」
「・・・Aqoursの十人目になる覚悟、出来てませんよ?」
「それでも良いよ」
「・・・μ'sの十人目だと思ってますよ?」
「それでも大丈夫ずら」
「・・・Aqoursより、μ'sの方が特別だと思ってますよ?」
「過ごした時間が違うもん。ちゃんと分かってるよ」
「・・・ボケ倒しますよ?」
「じゃあツッコミ倒してやるわよ」
「・・・セクハラ発言しますよ?」
「本当に嫌だったら、ツッコミ入れたりしないよ」
「・・・またブチギレるかもしれませんよ?」
「意味も無く怒ったりしない人だということは、よく分かっているつもりですわ」
「・・・利用価値なんてありませんよ?」
「一緒にいられるだけで、天は十分に価値のある人よ」
「天くん」
呼びかける私。
「私達のマネージャーとして、仲間として・・・一緒にいてくれる?」
「っ・・・はいっ」
涙を流しながら、微笑んで頷く天くん。
「マネージャー・・・やらせてもらいます」
「っ・・・」
我慢の限界だった。
涙腺が崩壊した私は、勢いよく天くんの胸に飛び込んだ。
「うわああああああああああんっ!」
「梨子さん、泣き過ぎですって・・・」
苦笑しながら頭を撫でてくれる天くん。
と、そこへ・・・
「天くううううううううううんっ!」
「ヨーソロおおおおおおおおおおっ!」
「ずらああああああああああっ!」
「ぴぎいいいいいいいいいいっ!」
「天ああああああああああっ!」
「ハグううううううううううっ!」
「ぴぎゃああああああああああっ!」
「シャイニいいいいいいいいいいっ!」
「ちょ、全員来たら潰れるからああああああああああっ!?」
号泣しながら抱きついてくる九人の重みに潰され、悲鳴を上げる天くんなのだった。
どうも〜、ムッティです。
相変わらずスクスタにハマってます(・ω・)ノ
現在のセンターはことりちゃんで、両脇を梨子ちゃんと花陽ちゃんが固める形です。
ことりちゃん可愛すぎヤバい( ´∀`)
果たしてどこまで進められるのか・・・
さてさて、本編では天がAqoursのマネージャーを続けることを決めました。
これでアニメ一期の第九話は終了・・・と思いきや、もう一話くらい挟んで第十話の内容に入りたいと思います。
早く合宿編に入りたいなぁ・・・
それではまた次回!以上、ムッティでした!